太一達にD3とディーターミナルを失った事を謝罪した僕は、光子郎に言われるがままその時の状況を嘘を交えながら説明した。話した内容は……
・ブラックウォーグレイモンと別れ、集合場所に向かっている時、運悪くトラックに乗っていたアルケニモンとマミーモンと遭遇してしまった。
・二体の姿を見て直ぐに逃げ出しはしたが、今回の騒動の疲れもあって簡単に捕まった。
・その後、デジモンを連れていない事もあり手こそは出されなかったが、D3とディーターミナルを奪われてしまった。
……以上の話を僕は疲れた顔と申し訳なさそうな表情を浮かべながら話した。嘘がばれない様にする為に。この話はアルケニモン達に見つかってしまった話以外は全部嘘だという事もあり、僕はそれがばれない様に時折顔を俯けながら必死に隠した。
その結果、僕の嘘はばれる事無く全員を納得させる事が出来た。
その後は、今日の疲れもあるからと先にブイモンと共に帰らせてもらえる事になった。
僕は色んな思いから、再び選ばれし子供達に深く頭を下げるとブイモンと共に自宅へと向かった。
……自分の家の場所が把握されない様に真逆の方に歩く事も忘れずに。
家に帰る最中何度もブイモンに怪我は無いか、変な事をされてないかと心配されながらようやく家に着いた僕は、今日の疲れもあり、一目散にベッドに倒れ込んだ。
……本当は家に着いたら先程ヴァンデモンに話した会話の内容をブイモンに伝えようと思っていたが……どうやら無理そうだ。
僕はブイモンに一言疲れたから先に寝るよと伝えると、そのまま眠りに落ちた。
sideヴァンデモン
その日の深夜、ヴァンデモンはアルケニモンとマミーモンをいつも通り部屋から遠ざけ、ソファーに腰を下ろしていた。今日手に入れた餌を全て食べ尽くし、かなりのエネルギーを手に入れたヴァンデモンだったが、その表情には一切笑みはこぼれていなかった。
(……奴は本当に何者なんだ?)
奴――守谷天城の正体を暴くべくヴァンデモンは何度も考えを巡らせたが、それらしい答えは全く出なかった。
(それに奴の目的もそうだ。アレはその場しのぎで言った言葉なのか? それとも――本当に嘘偽り無い言葉だったのか? ……だとしたら相当頭がイカレてやがる)
ヴァンデモンは少なくともあの時の守谷天城の発言をそう評価した。
――――――――「なら―――――お前の目的は何だ?」
ヴァンデモンが守谷天城に目的を尋ねると、彼はこう返した。
「―――――僕の目的は…………支配者を見つける事、ですね」
「支配者、だと?」
「はい。僕は、世界を――この世界とデジタルワールドを好き勝手に荒らせる存在を待ち望んでいます。
……3年前、一時的とはいえ、貴方がこの東京を支配する姿を見て僕は恐怖どころか感動を覚えました。
だからこそ、貴方が及川という人間に憑依して生き延びている事を誰にも話しませんでした。
僕にとっては貴方はその候補者の一人だったので」
あの時は良かったと、懐かしそうな表情を浮かべる守谷天城をヴァンデモンは観察し、結果、
ヴァンデモンには心を読む様な力は無かったが、言葉の感情を読み取れる力があった。
その力がヴァンデモンに伝えた。『守谷天城は、本当に3年前の出来事を羨む様な、懐かしむ様な感情で思い返していると』
支配を望むヴァンデモンには、支配されるのを望む守谷天城の言葉が理解出来なかった。
……いや、理解しようとも思わなかった。
が、想像とは全く違ったとはいえ、守谷天城が自分に敵対するつもりは無いといった理由が分かったヴァンデモンは純粋に疑問に思った事を尋ねた。
「オマエがオレの復活を望んでいる事は分かった。
……だがそれならオレ達は同じ目的を持つ同志の筈だ。それなのにオマエは、自分をオレ達側の勢力では無く、オレ達側に近い存在と言った。それはどういう事だ?」
「……癇に障ってしまったらすいません。
確かに僕は、貴方が復活し、再び世界を支配しようとする支配者になる事を望んでいます」
「…………」
「……ですがそれは、あくまで今、貴方が現時点で一番それに近い存在だと思っているからです」
「……さっき言ってた候補者の一人がどうやらって話か」
ヴァンデモンの言葉に守谷天城はえぇと短く返すと、ポケットからD3を取り出した。
「貴方にとっては並べられるだけで不愉快かもしれませんが、次点で、選ばれし子供達側の勢力も支配者候補と判断しています」
「アイツ等が支配者候補、だと?」
「はい。確かに選ばれし子供達には貴方と並べる様なカリスマ性はありません。
……ですが彼等は振れ幅こそありますが、純粋に勢力として強いです。
現に一度、究極体となった貴方を倒していますしね」
「…………ふん」
「だからこそ僕は貴方の復活を待ちながらも、選ばれし子供達側にも敵と思われない様に行動してきました。
どちらが支配者として相応しいかまだ決めかねていますので」
「……仮にオレよりもアイツらの方が支配者として相応しいと判断したら?」
「――僕よりも頭のいい貴方にそれを口にする必要はありますか?」
それ以上は言わせないでくれといった表情で守谷天城はそう返した。
まるでその気になれば自分を簡単に消せると言われたような気がしたヴァンデモンは一歩身を乗り出した。
「あまりオレを怒らせるなよ? 状況を良く見ろ。
いくらオマエがオレ達の事を把握してようが今のオマエは只の奇妙なガキ一人。
例え切り札を持っていたとしても今なら簡単に殺せるぞ?」
全力の殺意を守谷天城に向けながらもヴァンデモンはすぐさま手を出すのではなくまず言葉で意思を示した。
……ヴァンデモン自身まだ決めかねていた。ここで守谷天城を殺すべきか否かを。
選ばれし子供として行動する守谷天城は選ばれし子供達の中でも最大戦力であり、同時に唯一自分に届く刃を持っている可能性がある存在だ。ここで殺してしまえば、選ばれし子供達の中で自分に敵う者は居なくなり、当初の予定通り何の心配もなく力を蓄えられるようになる。
パートナーを連れていない今が最大のチャンスだと言える。
……が、ここで守谷天城を殺せば、最初から自分の計画を知っていながらも知らない顔で選ばれし子供達側で暗躍していたこちら側の存在が居なくなり、もしかすれば計画に支障が出るかも知れない可能性があった。
……ヴァンデモン自身、もはや守谷天城がどの時点から自分達の計画に手を貸しているか見当もつかない。
だからこそ今ここで簡単に殺してしまっていいのかと悩んでいた。
―――――が、どう考えようともヴァンデモンにとって守谷天城は不安要素だった。
ここから先どれだけ上手く話が進もうが、復活する寸前までに裏切られてしまえば計画は水の泡になってしまう。
それなら例え計画に支障が出ようとも、守谷天城はここで殺しておくべきなのでは――――
「ヴァンデモン。貴方が考えている事は何となくですが分かっています。唯一復活前の貴方の喉先に届く刃を持つ僕を殺すべきか否かを考えているんですよね?」
ヴァンデモンが無言で思考を走らせていると、突然守谷天城からそんな言葉を投げかけられた。
自分の考えを当てられたことに少し苛立ちを覚えたヴァンデモンだったが、この状況なら当てられて当然かとすぐさま気持ちを切り替えた。
「だったらどうした?」
「僕はやりたい事が、やらなければならない事が沢山あります。なので死ぬわけにはいきません」
「……そんな命乞いが通用するとでも思っ――――?」
ヴァンデモンがそう言い終わろうとしたその時、突然守谷天城から何かを二つ軽い速度で投げられた。
突然の行動に驚きながらもヴァンデモンは、冷静にその二つを両手でキャッチし、確認してみると――――そこには選ばれし子供達の力の証ともいえるデジヴァイスのD3とディーターミナルがあった。
「僕が貴方を裏切らないかと疑っているなら、それを渡しておきます。
それがなければ僕はデジモン達を進化させる事が出来ません。
これで仮に僕が貴方を裏切っても問題なくなったと判断して貰えませんか?」
「――――こ、このデジヴァイスが本物だという保証が何処にある?」
「デジタルワールドで生まれたデジモンなら……特に暗黒の存在である貴方ならそれが本物かどうかは一目で分かる筈ですが」
守谷天城の素早い返しに苛立ちながらもヴァンデモンは、再度手元のD3を確認した。
それは先程も感じたように間違いなく本物のデジヴァイスだということが分かった。
「これで僕は選ばれし子供としての力を失いました。……一応貴方達が作ったブラックウォーグレイモンが此方側に居ますが、只の子供になった僕のいう事を聞いてくれるか分からない上、仮に聞いたとしても所詮は貴方達が作った出来損ないです。貴方の相手にはならないでしょう」
「……お前は自分が今何をしたか分かっているのか?」
「選ばれし子供が暗黒のデジモンにデジヴァイスを渡した事を言っているんですか?
……分かっているつもりですよ。これが選ばれし子供達側にとってどれほど罪深い事か。
――――ですが、ハッキリ言って今更ですよ。僕は既に様々な罪を抱えています。
それに現在進行形で僕は貴方達が攫って殺している人間達を見殺しにしています。
――――だからこそ――――」
守谷天城はヴァンデモンに背を向け、上を見上げながら話した。
「今まで犠牲になった人達の為にも、これから犠牲になる人達の為にも、必ず計画を成功させてください。
……貴方が力を完全に蓄え終え、小細工無しに選ばれし子供達を圧倒するその時が来ることを僕も心から願ってます」
守谷天城はそう言い残し、その場から去って行った。
ヴァンデモンが読み取った限り、守谷の言葉に嘘は含まれていなかった。
昨晩の出来事を思い出しながらヴァンデモンは再度、守谷天城の真の目的が何かを考えたが、結局それらしい答えが出る事は無かった。
(……まあいい。仮に奴が裏切ったとしてもデジヴァイスは此方にある以上、どうとでもなろう)
ヴァンデモンは守谷天城から受け取ったデジヴァイスとディーターミナルを手に持ちながらそう結論を出した。
そして、現状唯一の壁であった守谷天城が戦力外になった事を改めて実感し、不敵に笑みを零しながら体の主導権を本来の持ち主である及川に返し眠りについた。
side out
side光子郎
守谷が先に帰った後、光子郎達も解散する事になったが、光子郎としてはこのまま解散するのは避けたかった。
……が、先程まで世界中を回って全員が疲れている事を光子郎自身も理解していたので、それを口にする事は出来なかった。
何も言い出せないまま選ばれし子供達が帰って行く姿を見送っていると、突然後ろから太一に話しかけられた。
「――――光子郎、……それにヤマト、この後予定あるか?」
その後、太一に言われるがまま光子郎と、その時呼び止められたヤマトと、お兄ちゃんが行くならと着いてきたタケルの三人とそれぞれのパートナーデジモンは八神家に招待され、そこで晩御飯を食べた。
突然の三人と三匹の訪問に太一とヒカリの母は驚きながらも快く出迎えてくれた。
食後、三人はそれぞれの保護者に遅くなると連絡を入れると、太一の部屋に集まった。
その後、ヒカリとテイルモンも太一の部屋にやって来た。
それぞれ和気藹々と先程のご飯について話していたが、頃合いと思ったのか、ヤマトが話を切り出した。
「――で、俺達を集めた理由は何なんだ? 飯を皆で食べる事が目的じゃないんだろ?」
ヤマトの言葉を聞いて、場の空気を察したのか、全員が話を止め、太一の方を見つめた。
そんな全員の反応に対し、太一は視線を光子郎の方に向けた。
「それについては俺からよりも光子郎の口から聞いた方が良い」
「僕ですか?」
「ああ。あの時話しにくそうにみんなが帰って行くのを見ていただろ? 何か俺達に言いたい事が合ったんじゃないか?」
太一の言葉を聞いて、光子郎は驚愕の表情を浮かべた。
そして同時に、今回のこの集まりは自分の為に用意してくれたものだと察した。
「そうなんですか光子郎さん?」
タケルの確認の言葉に光子郎は驚きを抑えられないまま右手でつむじ辺りを掻きながら言葉を返した。
「……はい。実は皆さんと話し合いたい事があったんですが、疲れていると思って口に出せないでいました。
……よくわかりましたね」
「お前とは長い付き合いだからな」
「――そうですね。ではあの時話し合いたかった内容をお話しします」
光子郎は言って話し出した。
今現在自分達がかなり危うい状況だという事を。
守谷天城という唯一の戦力が力を失い、尚且つ敵もそれを知っているという事は、これから先今まで以上に敵の行動が過激化する可能性が低くないという事を。
「……確かにそうですね。僕、今日の世界中のデジモン騒動を食い止められて少し気が抜けていてそこまで考えていませんでした」
「今回の騒動は、ある意味今までで一番のものでしたから仕方が無いですよ。
……それに今タケル君が言った、今日の騒動に関してですが、改めて考えると分からない事があります」
「わからへんコト? それってなんのコトでっか?」
「アルケニモン達の目的ですよ。
今回のアルケニモン達は、世界中にダークタワーとデジモンを出現させるという大きな行動を起こしました。
……ですが、僕にはその明確な目的がわかりません」
「純粋に、私達の世界を混乱させようとしたんじゃないんですか?」
「確かにヒカリさんの言う通りその可能性もあります。ですが僕はそうじゃないと考えています。
今回アルケニモン達は、かなりの行動を起こしたにもかかわらず、結果的にはそれ程この世界にも僕達にも被害を出させる事は出来ませんでした。
……ですがそれは、僕達が頑張ったからなんでしょうか?」
「……どういう事だ光子郎?」
嫌な予感を感じながら太一はそう尋ねた。
光子郎はゆっくりと太一の方を向きながら真剣な表情を浮かべながら口を開いた。
「……アルケニモン達は、僕達が被害を抑えられると判断した上で行動を起こした可能性があります」
光子郎の言葉にヤマト達は驚愕の表情を浮かべた。
だがそれも当然だろう。自分達が必死に行動して食い止めたと思っていた騒動が、実は初めからそう仕組まれていたと言われたのだから。
そんなヤマト達にそう考えた理由を話すべく光子郎は人差し指を一本立て、言葉を繋げた。
「僕がそう考えた理由はいくつかあります。
一つは、アルケニモン達がダークタワーデジモンを作らなかった事です。
その気になればアルケニモン達は、デジタルワールドでダークタワーデジモンを大量に作って、こちらの世界に送るという事が出来たはずなのにそれを行いませんでした」
「……確かにな。
奴らが一体でもダークタワーデジモンを作って居れば、野生の理性のあるデジモン達とは比べ物にならない程の被害が出ていただろうな」
「えぇ。アルケニモン達のいう事を忠実に聞く分、その凶悪性は段違いです」
ヤマトの言葉にそう返しながら光子郎は、二本目の指を立てた。
「二つ目は、アルケニモン達の妨害が一切なかった事です。
忘れていないとは思いますが、アルケニモン達は完全体のデジモンです。
特に今回の様な騒動の中なら、僕達を攻撃するチャンスだって、被害を拡大する機会だって何度もあった筈です。それなのにアルケニモン達は只の一度も僕達の前に現れず、見える範囲で破壊行動をした訳でも無かった。
……まるで僕達の行動に興味が無いと言わんばかりに」
「…………それで三つ目は?」
目を細めながら光子郎にそう尋ねる太一。
太一は察していた。この三つ目こそが光子郎がこの考えに至った大部分の理由なのだと。
太一の言葉に答えるように光子郎は三本目の指を立てて話し出した。
「三つ目は……アルケニモン達が日本に居た事です。
皆さんも聞いていたと思いますが、守谷君は昨晩トラックに乗っていたアルケニモン達と運悪く遭遇してしまい、最終的にD3とディーターミナルを奪われたと言っていました。
……この話を聞いて引っかかりませんか?」
「……悪いがピンとこない。
…………何かアイツが矛盾した事でも言ってるのか?」
「いえ、今回はそういった話では無いです。純粋に守谷君と遭遇したアルケニモン達に関してです。
説明させて頂くと、アルケニモン達は、世界中にダークタワーとデジモンを出現させておきながら、僕達の行動を妨害する訳でも無く、日本でトラックに乗っていました。
そして日本は――僕達が世界へ飛び立った地であり、尚且つ始めに騒動を食い止めた場所です」
「――――つまり昨日の騒動は――――!」
「……日本で何らかの行動をする為の囮と考えるのが妥当かと」
side out
騒動から夜が明けた翌日の昼、僕は外に出る訳でも無く家に居た。
……理由は、選ばれし子供達と遭遇しない為だ。
昨日は全員疲れている事もあり、何とかチンロンモンのデジコアについて聞かれなかったが、夜が明けて、頭がさえている今なら確実に没収されてしまうだろう。
……選ばれし子供達目線で言うならその行動は間違いなく正しいのだが、僕としてはそれは絶対に避けなければならない。
……このデジコアさえあれば、選ばれし子供達はアルケニモン達に対抗できるようになってしまうのだから。
ヴァンデモンの計画をほぼ進める必要がある僕としてはそれは絶対に避けなければならなかった。
……だが、だからと言ってこのまま何も考えずに家に引きこもるわけにもいかない。
一応ヴァンデモンにも、力が戻る前に選ばれし子供達を倒さない様にプライドを煽る様な言葉で煽ってはおいたが、だからと言って選ばれし子供達の安全が完全に保証される訳でも無いのだから。
僕は顔が隠れるくらいの深めのフードのコートを身に付けながら、チビモンにリュックに入って貰い、さらに最悪のケースを考え、アレも一緒に入れ、――デジヴァイスを無くしても付いて来てくれると言ってくれたブラックウォーグレイモンにも姿を隠せる服を着て貰って、家を出た。
行く宛も無かったので、取り敢えず及川が拠点としている場所に向かって移動していると――――その途中、こちらに向かって逃げてくる人達とすれ違った。
もしやと思い、急いでその場所に向かってみるとそこには――――選ばれし子供達と、アルケニモン達の姿があった。
選ばれし子供達の姿を見た瞬間、僕達は急いで物陰に隠れたお蔭で、どちらにもばれる事は無かった。
……取り敢えずバレずには済んだが、一体どういう状況なんだ?
そう思いながら改めて状況を確認していると、タケルが攫った人を~……っと言っているのが僅かに耳に入った。
……どうやら運が悪い事に、アルケニモン達が人を攫っている瞬間を選ばれし子供達が目撃してしまったようだ。
……これがただ運が良かったのか、それとも選ばれし子供達側での何らかの推理の結果辿り着いた必然かは判断できないが、そんな事はどうでもいい。今は選ばれし子供達がアルケニモン達と遭遇してしまった事が問題だ。
「……どうするんだ?」
「……今、選ばれし子供達を含めても、アルケニモン達と戦えるのは貴方しか居ません。
…………もしも、アルケニモン達が過剰に攻撃してくるような事があったら出て貰ってもいいですか?」
「――つまり、多少傷付く程度なら?」
「…………ここで選ばれし子供達を必要以上に傷つける気は無い筈です」
ブラックウォーグレイモンの問いに僕はそう返してブラックウォーグレイモンから視線を外し、選ばれし子供達の方を見た。
……恐らくだが、あのトラックには及川も乗っているだろうから、むやみに選ばれし子供達が傷つくような命令は出さない筈だ。
及川は、思考こそは多少は歪んでしまっているが、あくまで只の人間だ。
それに親友である伊織の父が、正義感が強かった事から、原作同様多少はその影響を受けていると考えて間違いないだろう。
…………もう少し、もう少しなんだ。もう少しで及川の、ヴァンデモンの目的が達成される。
その為にこれまで……これから犠牲になる人達の為にも僕は必ずそれを成し遂げなければならない。
不死身と言われるヴァンデモンを確実に消し去る為に……!
これからアルケニモン達に一方的にやられる選ばれし子供達とそのパートナーデジモンに僕は、何度も心の中で謝罪しながら、様子を伺っていると、次の瞬間、予想外の光景を目にした。
横並びになってアルケニモン達に向かって立っていた選ばれし子供達だったが、突然タケルとヒカリ、テイルモンとパタモンを置いて二、三歩後ろに下がったのだ。
どういう事だと内心疑問を浮かべていると、ヒカリが何かを叫んだ瞬間、テイルモンの尻尾が光出した。
いや、違う、テイルモンの尻尾なんかじゃない。アレは――――ホーリーリング!?
僕がその正体に気が付いたと同時に、ホーリーリングから大きな光が二つ飛び出し、パタモンとテイルモンを包み込んだ。
そして光が晴れたその場所には――ホーリーエンジェモンと、エンジェウーモンの姿があった。