割と重要な回以外は今迄みたいにテンポよく書けるように努力します。
――――意味が分からなかった。
理解出来なかった。理解したくなかった。
何故僕の手元にD3かあるのか。どうして僕が選ばれし子供に選ばれたのか。
何故『大輔が使うはずのD3』が僕のデジヴァイスなのか。
「……まさかデジモンを目撃しすぎた事が原因なのか?」
ふと考え付いた可能性を口にした。
選ばれし子供は資格がある者が選ばれるが、
それ以前に、デジモンと多少なりとも関わりを持ったことがあるのが条件だ。
太一達8人の選ばれし子供は、光が丘爆弾テロ事件でグレイモン達を目撃。
大輔は、かつてヴァンデモン達に連れ去られた人間達の一人であり、
伊織はヴァンデモン達の攻撃で墜落しそうになった飛行機に乗っていて、
そこをガルダモンに助けられていた。
京は、二年前のディアボロモンの戦いをネットで観戦していた。
なら僕はどうだろう。
光が丘爆弾テロ事件の際、デジモン達を直接は見ていないが、存在は感じていた。
ヴァンデモンの事件の時は、大輔と同じようにヴァンデモンに捕まっていた。
二年前のディアボロモンとの戦いも目にしていた。
考え得る限り全ての機会で僕はデジモンと関わってしまっていた。
「……何が原作に影響を与えたくないだ。
……何が原作に影響を与えない様に行動している、だ」
ふざけるな――――!
僕はD3を思いっきり地面に投げつけ、その場にへたり込んだ。
「……11年間僕は一体何の為にこんな生き方をしてきたんだ。
太一達に……選ばれし子供達に……デジタルワールドに迷惑を掛けたくないからだろ!
それがなんだ! オメガモンの件なんて比べ物にならない程の原作崩壊を自分で起こして!」
僕の目から一筋の涙が投げれ出た。
それは11年間の努力が無駄になった悲しさなのか、
綺麗に完結した原作を崩壊させた罪に対してのものなのか、
本来選ばれるはずだった大輔に対する申し訳なさから来たものなのかは分からない。
このまま泣いて居たかった。
何も考えずただこの場所で一人泣いて居たかった。
だが僕の原作知識がそれをさせてくれなかった。
「……原作ではこのD3を手にした大輔は太一を助けに行った。
仮に、僕が大輔の代わりに新たな選ばれし子供として選ばれたとして、
もしもここで僕が太一を助けに行かなかったらどうなるんだ?」
原作では、今のデジタルワールドにはダークタワーが複数存在している。
ダークタワーがある所では通常進化は行えない。
そして、大輔が仮に選ばれていないとしても、太一の危機を知るヒカリとタケルは、
二人だけでも太一を助けに向かうはずだ。
そうなったらどうなる?
進化の出来ない太一達でイービルリングに操られたデジモンと戦う事が出来るだろうか?
「……こんな所でぐずぐずしている場合じゃない」
涙を腕で拭いながら足元のD3を拾い上げ、その場を立ち上がった。
「泣く事は後からでも出来る。
今は……太一達を助けに行くことが最優先だ」
誰もいない廊下を全速力で駆けまわり、この学校のパソコンルームへと向かう。
辿り着いたパソコンルームの扉を手を掛けると、運よく鍵がかかっておらずに
開く事が出来た。
その上、中は誰も居なかった。
僕は電源が付きっぱなしのパソコンの前に行くと、片手でD3を掲げた。
すると突如パソコンの画面は切り替わり、デジタルワールドのゲートの画面が表示された。
「……デジタルゲート,オープン!」
もう一度D3を勢いよくモニターに掲げるとモニターは光を出しながら僕の体を吸い込んでいった。
ゲートを潜った先は東京では考えられない程の自然が広がっていた。
「――――ここがデジタルワールド」
憧れの場所に来たことに一瞬ここに来た目的を忘れかけたがすぐさま気持ちを切り替えた。
「太一達は多分勇気のデジメンタルの洞穴に居る筈だ。
……確かD3にはデジメンタルの場所を表示する機能があった筈だ」
適当にD3をポチポチ弄るとそれらしい画面が表示された。
が、その場所はここから少し離れた場所にあった。
これは下手をすれば間に合わない。
瞬時にそう判断した僕は全速力でその場所に向かって走り出した。
そのスピードは、日頃から走りこんでいるだけあり、小学5年生とは思えない速さだった。
そして走りながらではあるがある事に気が付いた。
それは僕の服装が、この世界に来る前と変わっていない私服だったと言う事だ。
……そもそも原作でどうして大輔、京、伊織の服装が変わったかは明かされていない。
そして、大輔と同じ新たな選ばれし子供である僕の服装が変化しなかったことに疑問を覚えたが、それ程深く考える事ではないと言う考えと、現状が急がなければならない状態と言う事からその事に関しては考えるのを止めることにした。
十数分程走り続けると、目的地まで辿り着けた。
そこまで来ると僕はいったん近くの草むらに隠れた。
「……洞穴が無傷という事は、どうやらまだ太一達は襲われていないようだ
……原作と同じならね」
ここに僕が隠れた理由は、まだ一つ決めかねている事があるからだ。
それは、僕が太一達と接触するべきなのかどうかだ。
既に原作と大きく違う展開にはなってはいるが、まだ修正が効くレベルかもしれない。
……本当なら僕が大輔の代わりに太一達に加わり、大輔の様に物語を動かすのが一番いいのだが、それは僕の性格からして無理だろう。
上辺だけの付き合いのクラスメートを欺く事は出来ても、太一達を欺く事など出来ないと僕は確信していたからだ。
ならどうするべきか?
僕には一つだけ案があった。それは太一達に正体を隠したまま出来る限り接触を控え、
その上で原作通りになるように彼らを導くという案だ。
確かに大輔の存在は02の物語には必要不可欠と言えるかもしれない。
だが選ばれし子供として選ばれていない以上、彼の存在無しで物語を進めるしかない。
そう覚悟を決めたその時、突如地面が揺れ出した。
まさかと思い洞穴の上の方を見てみると、
そこには上から洞穴に入ろうと体当たりするモノクロモンの姿があった。
モノクロモンが上から洞穴に侵入してからしばらくすると、
洞穴の入口から複数の影が飛び出してきた。
「あれは……太一、ヒカリ、タケル、アグモン、テイルモン、パタモン。
……やっぱり大輔の姿は無いか」
太一達が洞穴から逃げ出してから直ぐ、モノクロモンもそれを追いかける様に飛び出てきた。
腹に黒いリング『イービルリング』を付けられモノクロモンは逃げ出した太一達の姿を見つけると、再び走り出した。
モノクロモンが前方にしか注意がいっていないと判断すると僕は洞穴の中へと入って行った。
洞穴の中は狭く、直ぐに目的のモノの場所まで辿り着けた。
「――――『勇気のデジメンタル』。僕にその資格があるかなんて分からない。
八神太一の勇気を受け継ぐ器があるかなんて分からない。
だけど今僕にはこの力が必要なんだ!」
その言葉と共に僕は地面に封印されている勇気のデジメンタルを引き上げようとした。
初めはビクともしなかったが、諦めずに続けていると急にその重さが無くなり、
スポンと引き抜く事が出来た。
するとデジメンタルが引き抜かれてすっぽりと空いてしまった穴から光が飛び出した。
光は少しずつ形になっていき、最終的に青い体を持つデジモンの姿となった。
――――ブイモンだ。
ブイモンは封印が解けた事と自分のパートナーが出来た事に喜びながら僕に飛びつき、
自己紹介をし始めたが、僕はそれを止めた。
その事にブイモンは疑問を感じていたが、僕が外に居る人間がデジモンに襲われているから助けて欲しいと言うと、疑問が解けたのか、力強く首を縦に振った。
ブイモンを引きつれながら洞穴を出てみると、遠くの方でモノクロモンが太一達に向かって全速力で突進していた。あれを人間が喰らったら只では済まないだろう。
「ブイモン! 奴を止めれるか?」
「ああ!君が勇気を出してデジメンタルアップと言ってくれたらオレは進化出来る。
進化出来たならアイツだって倒せるぜ!」
「分かった。
……だが、あのモノクロモンは操られているだけだから倒す必要は無い。
進化したら奴の背中の黒いリングを狙うんだ。それさえ壊せばアイツは元に戻る」
ブイモンのオッケーという言葉を聞いた僕はD3を正面にかざし、叫んだ。
――――デジメンタルアップ
すると左手に持っていた勇気のデジメンタルが光を放ち、ブイモンを包み込んだ。
光が消えるとその場所にはブイモンがアーマー進化したデジモン『フレイドラモン』の
姿があった。
「フレイドラモン!
モノクロモンの黒いリングを破壊出来たら、進化を解かないまますぐあの木の辺りに来てほしいんだ。僕はその辺に隠れているから」
飛び立とうとしたフレイドラモンにそう呼びかけると、
フレイドラモンはその言葉を疑問に思いながらもわかったと返しながら
モノクロモンの方へ全速力で飛んで行った。
太一達は突然襲い掛かってきたモノクロモンから必死に逃げていた。
が、その途中モノクロモンが突然炎の球を自分達に向かって放ってきた。
それを間一髪で全員避けたが、その際前方のヒカリが足を挫いてしまいそこから動けなくなってしまった。
それを知ってか知らずか、モノクロモンは全速力のスピードのまま飛び上がった。
その着地地点にはヒカリとテイルモンが居た。
アグモンとパタモンはそれを止めるべく、必死に必殺技をモノクロモンに放つが、
効果は無く、モノクロモンの着地地点をずらす事も叶わなかった。
このままでは不味いと太一はヒカリに大声で逃げろと叫び続けるがヒカリは動けなかった。
足を挫いていて動けないのもあったが、目の前の迫る死に対して恐怖で動けなかったのだ。
そうしている間にもモノクロモンは徐々にヒカリに近づいており、
もう数秒も立たない内に激突するであろうという程に迫っていた。
その状況にテイルモンは、せめてヒカリだけはと、ヒカリの前に両手を広げ、
仁王立ちをするがそんなことをしてもヒカリは守れないであろうという事はテイルモン自身も無意識にではあるが分かっていた。
そしてモノクロモンがヒカリとテイルモンの目前まで迫ったその時、
突如炎を身に纏った何かがモノクロモンに横から体当たりをしてその着地地点をずらした。
「なんだあれは?」
太一の疑問の言葉はこの場に居る全ての者が抱く疑問だった。
故にその質問に答えられる者はおらずただ呆気に取られたままその炎を身に纏ったデジモンを見ていた。
「何してるんだ! 早くその子を!」
自分の姿を見て呆気に取られている太一達に謎のデジモン『フレイドラモン』はヒカリを逃がす様にと太一とタケルに伝えた。
その言葉にハッとなった二人は急いでヒカリの元に駆け寄り、ヒカリをモノクロモンから引き離した。
その間、モノクロモンは動かずに突然現れたフレイドラモンを観察するようにジッと見つめていた。
そんなモノクロモンに対しフレイドラモンは先手必勝と言わんばかりに突撃した。
二体の激しい戦闘の幕が切って落とされた瞬間だった。
フレイドラモンとモノクロモンの実力はほぼ互角で、互いに攻めたり守ったりという接戦の戦いが続いていた。
「……あのデジモン、モノクロモンの黒いリングばかりを攻撃している」
テイルモンは、フレイドラモンが黒いリングしか狙わない事に疑問を感じていた。
先程から何度もモノクロモンの弱点であろう腹部を狙うチャンスがあったのにあのデジモンはそこを狙わずにあえて黒いリングのみを攻撃している。
まるでそうする事が正しいと言わんばかりに。
「もしかするとあの黒いリングを破壊すれば洗脳が解けるのか?」
テイルモン自身も、もしかすればあの黒いリングを破壊すれば洗脳が解けるかも知れないと言う考えは持っていた。
だがそれは、あくまで、かも知れないと言う可能性の話だ。確証は全くない。
だからこそ、初めから黒いリングのみを攻撃しているフレイドラモンの存在に疑問を覚えずにはいられなかった。
テイルモンがそんな事を考えている中、フレイドラモンはモノクロモンによって空中に突き上げられた。
だがフレイドラモンはその状況を逆に利用し、炎を纏いながらモノクロモンの黒いリングに向
かって、急落下した。
モノクロモンはフレイドラモンに追撃する為、空を見上げ、炎の球を放とうとした。
だが、モノクロモンがフレイドラモンの姿を捉える事は出来なかった。
フレイドラモンがデジタルワールドの太陽に背を向けながら急落下して来たからである。
太陽の光によってモノクロモンは正確にフレイドラモンの姿を捉えられなかったのだ。
フレイドラモンはそんな隙を逃さず、その勢いのまま黒いリングへ渾身の体当たりを叩きこんだ。
フレイドラモンの攻撃によって黒いリングは破壊された。
それと同時にモノクロモンも正気に戻った。
元に戻ったモノクロモンはひそひそとその場を立ち去って行った。
「……どうやらあの黒いリングを破壊すればデジモンの洗脳は解けるようだな」
先程の戦いを見てそう確信した太一は、緊張が解けたのかその場に座り込んだ。
「――――そうだ、お前も助けてくれてありが……」
一息ついて思い出したのか、太一は、自分達を救ってくれた炎のデジモンにお礼を言おうとしたが、既にその姿は無かった。
「……あのデジモンは何者なんだろう?」
タケルの漏らした疑問にそこに居る誰も答える事は出来なかった。