後から合流して来たタケル達の力もあり、何とか無事に暴れ回る野生のデジモン達を全てデジタルワールドに追い返す事が出来た僕達は、これからもこういった事が起きるかも知れないから警戒するようにと警告する光子郎の言葉に同意し、それぞれパートナーを連れて帰って行った。
タケル達はともかく、太一達は久々に家でパートナーとじっくり過ごすのだろう。
……ならその時間を邪魔する訳にはいかないだろう。
僕達も一度家に帰り、少しの食糧と飲み物、念の為のトマトジュースと厚い素材の上着、世界地図、そして3年前におじいちゃんに買って貰ったノートパソコンをリュックに入れ、窓から空を見上げた。
その隣にはブイモンと、時空を歪ませてこっちの世界に来たブラックウォーグレイモンの姿もあった。
「……ブイモン、ブラックウォーグレイモン。これからこの世界は、アルケニモン達のせいで大変な事が起こる」
「大変なこと?」
「うん。さっき起きたような事をアルケニモン達は世界中で起こすつもりなんだ」
「……ほう。だとしたらなぜお前がそれを知っているんだ?」
「……それは秘密です」
ブラックウォーグレイモンにごまかす様にそう返しながら僕は、リュックから世界地図を取り出し、
「……恐らく既にこの場所にダークタワーが建てられていて、そのせいでゲートが開いた場所にはさっきみたいに野生のデジモン達が迷い込むでしょう……」
「……本当にこの場所にダークタワーがあるのか?」
ブラックウォーグレイモンが疑うような視線でそう尋ねてきた。
……当然だろう、ブラックウォーグレイモンには僕が適当に世界地図に目印を付けたようにしか見えなかったのだろうから。
……ハッキリ言って僕自身もこの力はあまり把握できては無いが、この力が本物だという事は今までの経験で理解していた。
「……ハッキリ言って僕にも詳しい事は分かりませんが、僕には特殊な力があります」
「特殊な力?」
「はい、簡単に言えば僕には探し物の場所が何となく分かる力があるんですよ」
……まずこの力の存在に気付いたのは、ヒカリが迷い込んだ暗黒の海へのゲートを探す時だった。あの時は、何故か僕は暗黒の海へつながるゲートを一瞬で見つける事が出来た。
その次はダークタワーを生み出す要塞を破壊した後、その跡地でホーリーリングを探そうとした時だった。あの時は何故かまだ探していないと言うのに試しに念じてみたら、ホーリーリングはここにはないと直感が騒がしく反応した。
……そんな中途半端な反応を信じ切れず念の為僕達は何日も跡地でホーリーリングを探したが結局見つける事は出来なかった。
最後にその力が発揮されたのはホーリーストーンを探している時だった。
探し始めて間もないと言うのに、念じると何となく全てのホーリーストーンの場所が分かったのだ。
「……そんな力が実在するのか?」
「証明は出来ませんが。
……恐らくこの力は特殊な選ばれし子供に与えらえる力だと僕は思っています。
選ばれし子供達の中には限定的に聖なる力を操ったりすることが出来る子もいるみたいなので」
……それか、もしかしたからこれこそがボクを転生させた神がいっていた転生特典なのかもしれない。
だが今はどちらでも構わない。
「だとしても……いや、どうやら満更出鱈目という訳ではない様だな……」
僕の力を疑っていたブラックウォーグレイモンだったが、突然180度意見を変えて来た。
何故かと考えていると、ブイモンが僕の名前を呼びながらティッシュ箱を渡してきた。
……そういう事か。
僕は鼻から垂れている鼻血をふいてティッシュを詰め込んだ。
「……ご覧の通りこの力にはデメリットがあって、広範囲で小さいモノを探そうとするとどういう原理かわかりませんが鼻血が出てしまいます。……この感じ、もしもダークタワーでは無く、ホーリーリングと言った小さいモノだったら色々と不味かったかもしれませんね」
体に走る疲労感からそんな事を思いながらも僕は真剣な眼差しで二体を見た。
「とにかく、これからやる事を説明します。
まずはブラックウォーグレイモン。貴方は、先にデジタルワールドに戻って開いたゲートの場所を回って、出来る限り、デジモンが入らない様に行動してください。後から僕が合流するのでそれまでお願いします」
「出来る限りやってやろう」
「お願いします。次にブイモンは、僕と一緒に世界中を回って取りあえずダークタワーだけでも破壊しよう。
終ったらここに戻って明日に備えて休んでほしい。本番はあくまで明日だからね」
「……アマキは休まないの?」
「僕はブイモン達とは違って戦わないし、夜にも強いからね。
ほら、よく夜遅くまで起きてるでしょ?」
「…………分かった。あまり無茶しないでね」
ブイモンに勿論と返した僕はD3を取り出す。それを見たブイモンは、流れるように窓から飛び出した。そして僕はブイモンをウイングドラモンに進化させ、背中に飛び乗った。
それを見たブラックウォーグレイモンも窓から飛び出し、僕達の隣に浮かぶ。
そして僕達は同時にそれぞれ向かう場所へと飛んだ。
side光子郎
昨日の事件から一日経った翌日の朝、久々にテントモンと一緒に眠れ快適な朝を迎えられたが、何気なく付けたテレビを見て僕達は驚愕を隠せなかった。
一言で言うと、日本……いや世界中が大変な事になって居た。
――――謎の黒いタワーと怪獣が世界中に出現。どの番組でもそのニュースが流れていた。
「まさか世界中で昨日の様なことが起きるなんて……!」
「どないします? コウシロウはん……」
「……とにかく一度全員で集まりましょう。今後の動きについて話し合う必要あります」
そう考えた僕は急いでディータミナルで皆にメールを送った。今後の行動を話し合いたいので急いで僕の家に集まって欲しいと。
送ったのは言うまでも無く、太一さん、ヤマトさん、空さん、丈さん、タケル君、ヒカリさん、京くん、伊織君、……そして守谷君。
その後、ただ待っているだけでは時間が勿体ないと考えた僕は、パソコンでダークタワーの位置とゲートの出現状況を確認しながらゲンナイさんと連絡を取るべくメールを送っていると、ディーターミナルにメールが届いた。
宛先は……さっきメールを送った皆からだった。
どうやら全員起きていたようだ。メールを流し読みしてみるとそこにはすぐにそっちに向かうと言った文章が書かれていた。……よかった。予想よりは早く集まれそうだ。
そう思いながら最後……いや、最初に届いたメールである守谷君のメールを開いてみるとそこには他の人達とは少し違った文章が書かれていた。
内容は「全員が集まったら再度連絡お願いします」……と言ったものだった。
理由は分からないが、今はこちらに来れないようだ。
……気になるが今はそれを気にしている暇はない。
僕は、先程の作業に加え、更にインターネットの掲示板などを調べ、更にダークタワーやデジモンの目撃情報を調べようとした。
……そして僕は偶然にもそこで守谷君がすぐに来ないと言った理由を知る事になった。
「……黒いタワーと怪獣を消し去る、青い怪獣と子供……そんな存在が色んな国で目撃されているみたいですね」
「……それってもしかしてモリヤはん等のことでっか?」
言葉では疑問を浮かべてはいるが、目は間違いなくそうだと確信しているテントモンの言葉に僕は無言で首を横に振って分からないと伝えた。
テントモンと同じくほぼ間違いなくと確信を持ちながら。
メールを送ってから約一時間で太一さんとヒカリさんが僕の家に来た。
……これで守谷君以外のメールで呼び出したメンバーが揃った。
僕は密かに守谷君に全員揃ったと言うメールを送りながら僕が調べた範囲で判明している現状を話す事にした。
「もう皆さんもご存知かもしれませんが、昨日ヤマトさん達のコンサート会場周辺で起きた事件が世界中で発生しています」
「当然知ってる。ダークタワーと野生のデジモンが世界中で現れて大パニックになってるようだな」
「はい。そしてこれを見てください」
僕はそう言ってパソコンの画面を全員に見えるように向ける。
「ゲートセンサーでゲートの開いた場所をマッピングしたデータです」
画面には世界地図が表示されていて、そこの至る所に赤い点が記されていた。
……これが意味する事は言うまでも無い。
「じゃ、じゃあこの印のところ全部にデジモンが現れてるっていうんですか!?」
伊織君の疑問に僕は小さく頷く。
「現在はゲートは閉じてしまっています。デジモン達をデジタルワールドに戻すには直接現地に行ってもう一度ゲートを開くしかありません」
「えぇ!? こんなにたくさんの場所に?」
あまりにも非現実的な手立てしか無い事に京君が驚愕の声を上げる。
それに対して太一さんは何とか現実的な手段が無いかヒカリさんに尋ねた。
「デジタルワールドからは行けないのか?」
「私達の開けるゲートは1つのエリアに1つだけだし、世界中に行くとなるととても時間がかかるわ……」
「世界中のダークタワーが位相の歪みを起こしてるんだ。何とかしてダークタワーだけでも破壊しないともっと大変な事になるかも知れない……」
タケル君の言葉に自分達が想像していたよりも不味い事になって居ると思った皆さんが小さく俯くなか、僕は今ゲンナイさんから届いたメールを見て、行動を起こした。
「……わかりました、やってみます。
――皆さん、ちょっと離れてください」
僕の言葉を聞いて全員が距離を取ったのを確認し、僕は自分のノートパソコンと、デスクトップパソコンを向い合せに設置し、ゲンナイさんから来たメールの文章欄のURLをクリックした。
するとノートパソコンから光が飛び出し、デスクトップ画面と光で繋がった。
そしてそれと同時に画面の中心から人影――フードの男が現れた。
「成功です。ゲンナイさん」
突然の謎の存在に皆さんが混乱の声を上げたので、僕はそれを抑えるべくゲンナイさんの名前を呼んだ。
すると皆さんもこの人がゲンナイさんだと理解出来たのか、騒ぎは収まった。
ゲンナイさんは騒ぎが収まったのを確認すると、フードを取った。
「久しぶりだな。選ばれし子供達よ」
「うそー? ゲンナイさんってすっごいお爺ちゃんって聞いてたのにチョーかっこいいじゃない!」
ゲンナイさんの顔を見てテンションの上がった声でそう話す京くんは取りあえず置いておき僕は本題に入る事にした。
「ゲンナイさん……世界中が大変な事に……」
「状況は大体彼から聞いている。現実世界にダークタワーとデジモンが現れたんだろう?」
「……彼?」
彼という言葉に丈さんは疑問下にそう返した。
だけど僕は……いや、僕以外の何人かもその言葉が誰を指すのかを察した。
確認を含めて僕はその彼の名前を尋ねた。
「……それは守谷君の事ですか?」
「そうだ」
そして答えは残念ながら予想を覆す事は無かった。
「守谷君が……」
「……彼がいち早く異変に気付き、行動したお蔭で何とかデジタルワールドの位相が歪む事態は避けられた。だから取りあえずはデジタルワールドの事を気に掛ける必要は無い。今はキミ達の世界の方が問題だ」
「ま、待ってください! 位相が歪む事態が避けられたってどういう事なんですか?」
「始めにこちらの世界に建てられたダークタワーの内、半分が既に彼等によって破壊されている。
残りの半数程度なら何とかデジタルワールドの位相が歪む程では無いという事だ」
ゲンナイさんの言葉に僕達は驚愕の声を上げた。
……ダークタワーの正確な数は分かっていないが、少なくとも世界中に建てられている事はテレビを通じて知っていた。だからこそその内の半分が既に破壊されているという事実に驚かない筈が無かった。
……一体いつから行動していたんでしょうか?
「……ゲンナイさん、守谷達がいつから行動してるか知ってる?」
「正確には分からないが、私が事態に気付き、選ばれし子供達の誰かに知らせようとした時には既に彼等は動いていた。彼と初めに連絡を取った時間は……大体3時ごろだった」
「3時頃……どうして守谷が俺達にこの事を知らせなかったか分かる?」
「彼の言い分では、選ばれし子供達の住所も電話番号も知らず、連絡を取るとしてもディーターミナルで数人しか取れない状況だった。
仮に取れたとしても選ばれし子供達は昨晩の戦いで消耗してるから今起こしても戦力になるか分からない不安定な状態だから今は自分達だけで動きます……と言っていた。
……私も一応君達を起こしてでも状況を伝えるべきだと意見したが、その結果選ばれし子供達に何か起きたら責任を取れるかと言われてしまっては何も言い返せなかった」
「……ふざけやがって」
そう言って太一さんは右手を胸の前位まで上げ握り拳を作った。
……正直に言って太一さんの気持ちは痛いほどわかるが、守谷君の行動は決して間違いでは無い。
「……太一さん。守谷君の行動はもしかすれば最善では無かったかもしれませんが、決して悪い行動ではありません」
「……どういう事ですか? 光子郎さん」
「守谷君の行動はある意味最善に近いって事ですよ、伊織君。
……昨晩の時点では確かに僕達は消耗していた。
そんな状態で夜中に起こされていきなり世界中に行く事になったら、冷静に頭が働かずに大きなミスを冒していたかもしれません。
それにテレビの映像で確認したんですが、紛れ込んだ野生のデジモンの中には完全体も含まれていました……」
完全体という言葉と同時に全員の視線が下を向いた。
……そう、結局僕達は守谷君の無謀な行動を止めきる事は出来ない。
何故なら完全体が居る以上、守谷君達が戦わなければ結局はどうにもならない問題だからだ。
「……選ばれし子供達よ。君達に渡したいものがある」
いつの間にか僕自身も俯いてしまっていたが、ゲンナイさんの声でふと我に返り、顔を上げ、ゲンナイさんの方を向いた。
するとそこには青い球を此方に向けているゲンナイさんの姿があった。
「なんですかそれは?」
「――これはチンロンモン様が持つ12個のデジコアの一つだ。選ばれし子供達の危機を救う為、選ばれし子供――守谷天城との約束を守る為、この球を使えとチンロンモン様から授かってきた」