デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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044 クリスマス

 チンロンモンから話を聞いてから数週間経った朝、僕はベッドから起き上がりカレンダーで今日の日付を確認した。

 ……ついにこの日が来てしまった。今日は――――12月24日。

原作でアルケニモン達が現実世界にデジモンを大量に出現させる日であり、それに加え、日本中……いや、世界中にダークタワーが建てられた日だ。

 

 原作で及川達がそれを行った理由は、まず選ばれし子供達のすぐ近くにデジモンを出現させ、現実世界でデジモンが暴れると言う事がどういう事かを実感させた後、その次に日本中……世界中にダークタワーとデジモンを出現させ、選ばれし子供達の注意を逸らす。

そして選ばれし子供達が日本を離れた隙に、ヴァンデモンが復活する為に必要な暗黒の種を埋め込める子供達を大量に集める。それが原作での及川達の目的だった。

……この世界は既に原作とはかなり違ってしまっていて、原作でヴァンデモンが集めていた暗黒の種のエネルギーは存在しないが、それの代わりとなるエネルギーは存在する。

それは人間の血だ。

…………及川達が原作同様今日事件を起こしたとすればそれは大量の人間を攫う為の囮という事だだろう。

始めにヴァンデモンが事件を起こしてから今まで、同様の事件はテレビで放送されていなかったが、それとは別に原因不明の行方不明者が十数人出ている。

……テレビではこの行方不明者と不可解な死体の事件は関連性は無いと言われているが、実際はそうではない。

何故そう言いきれるかというとそれは……この目で見たからだ。及川達が隠れ家に人間を連れ込んでいる姿を。

 

 

「…………もしも今日、事件が起きるんだとしたら、僕にとって今日と明日が勝負の日となる。

……本当なら今日までにどうにか3体の完全体進化に慣れたかったけど出来なかったのなら仕方が無い」

 

 

 僕はそのまま自分の机へ向かい、机の上のチケットを見つめた。

これは今日開かれるヤマトのバンドクラブが出演するコンサートのチケット。

数日前、暇だったら来てくれと言いながら渡されたモノだ。

 

 

「……ヤマトさん。すいません」

 

 

 僕はそれに対して小さく頭を下げ、手に取った。

コンサートがめちゃくちゃになる可能性があると知っているのに行動を起こさない自分を咎めるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼頃、原作通り海岸でタケル達が太一達二代目選ばれし子供達にクリスマスプレゼントという名のサプライズでアグモン達を渡しているのを遠くで確認した僕は、夜行われるヤマトのコンサートまでチビモンと共に適当な所で時間を潰し、開始2時間前位にコンサートが行われる会場へ向かった。

会場に着いた僕は、ここで戦闘になった場合の下見も兼ね辺りを見回って居ると、ふと太一とアグモン、ピヨモンと、プレゼントの様な物を持った空の姿が見えた。

どうやら僕は知らない内にヤマト達のバンドクラブの控室の近くまで来ていた様だ。

 

 ……そこで僕はこのシーンが原作であったあるシーンだと悟った。

あるシーンとは、太一が空を諦めた……ある意味原作でも大きなターニングポイントになったシーンだ。

 

 僕は足を止め、太一と空達のやり取りを見ていると、原作通り、空は太一達に押されるような形でヤマトの控室に入って行った。

その後ろ姿を太一は少し悲しそうに見つめていた。

…………

 

 

「あれ? そこに居るのってモリヤ!?」

 

 

 少し考え込んでいると僕の姿に気が付いたのか、アグモンが大声でそう言って来た。

……見つかる気は無かったんだけど、少し気が抜けていた様だ。

アグモンとの信頼関係をここで崩す訳にもいかなかったので僕はアグモンの言葉に答えるようにアグモン達の方へ向かった。

 

「……八神先輩、アグモン、お久しぶりです」

 

「守谷……お前もヤマトに何か用か?」

 

「いえ、ただコンサート開始まで暇だったのでこの辺りをぶらついていただけです」

 

「そ、そうか……」

 

 

 太一がそう言うと誰も口を開かず沈黙が辺りを支配した。

そしてしばらくすると太一が言い難そうに口を開いた。

 

 

「なあ守谷……い、今の、見てたのか?」

 

 

 太一の言葉に僕は少し視線を外してはいと答えた。

すると太一は両肩をガクリと落とし、大きな溜息を吐いた。

……やっぱりこのシーンは誰にも見られたくなかった様だ。

 

 

「かっこわるい所見せちまったな。悪いが今見た事は皆に秘密にしてくれないか?」

 

 

 この通りだと両手を合わせて頼み込む太一。

その言葉に僕は勿論だと――――返さず、太一の目を見たまま黙り込んだ。

その行動に自分が驚いた。

何故僕は直ぐにはいと答えなかったのか?

ここではいと言えば、恐らく原作通り、太一は空を諦め、空はヤマトと結婚する事になるだろう。

なのに僕は、はいと言わなかったか。

……恐らく数か月前の僕なら……いや、数週間前の僕ならきっと即答できたはずなのに。

…………でもこの程度の改変は……今更か。

 

 

「……本当にそれでいいんですか?」

 

「えっ?」

 

 

 僕の突然の言葉に太一は勿論アグモン、そしてチビモンも驚いたような反応を見せた。

その反応を見てはっと我に返った僕は、チビモンを引きつれ、足早にその場を後にしようとした。

……何をやってるんだ僕は。

諦めるな。考える事を止めるな。自暴自棄になるな。まだこの世界が無事原作の様に終れる可能性は十分ある。だから原作を辿る事を諦めるな!

そう自分に言い聞かせながらここから立ち去ろうとしたが、太一に呼び止められた。

 

 

「……待てよ」

 

 

 太一の呼びかけに僕は足を止めた。

……正直に言って呼び止められる可能性は低いだろうと高をくくっていた。

精々、お前には関係ないだろうといった100%の正論を言われるだけだと思っていた。

……自分から太一に話しかけておいてここで無視するのは最終決戦の事を考えてもやるべきでは無いだろう。

僕はつい言葉を漏らしてしまった事を後悔しながら顔を上げ、太一の方を振り向いた。

 

 

「……なんですか?」

 

「…………」

 

 

 太一は僕の言葉に答えず、無言で僕を見つめた。その目は少し怒りが混ざって居る様な感じがしてさらに何かを観察しているような目だった。

僕はとんでもなく居づらい気持ちを内に抱えながらも太一の目を無言で見ていると太一が突然大きな溜息を吐いた。

 

 

「……悪い。お前の言葉に思い当たる所が合ってな。少し当たっちまった」

 

「……いえ、こちらこそ部外者なのに口を挟んでしまってすいません」

 

「…………いや、お前は俺達と同じ選ばれし子供で、後輩で、仲間だ。

まるっきり部外者と言う訳じゃないだろう」

 

「……そう言って貰えると光栄です」

 

 

 その後二人とも言葉が続かず黙り込んでしまった。

が、会話が止まったと思った瞬間、太一が言葉を続けるように質問して来た。

 

 

「なぁ、さっきお前はどうして俺にそれでいいのかって聞いたんだ?」

 

「……あの状況なら恐らく僕以外の選ばれし子供でも同じように聞いたと思いますよ」

 

「そう……だな。多分お前以外の奴がここに居たらきっと同じような事を聞いた可能性が高いだろう。

……だが、お前は別だろ?

お前との付き合いはまだそんなに経っていないが、お前はこう言った事に口を挟みたがらないって事はなんとなくわかってるつもりだ。だがお前は俺にそう言った。……いや、言ってくれた。

――――どうしてなんだ?」

 

 

 ……ここまで来て誤魔化すのは得策では無いと判断した僕は純粋に本音を伝えた。

 

 

「……僕はただ――――八神先輩のあんな顔を見たくないと思っただけです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太一に言葉を漏らしてしまった訳を話した後、アグモンにあまりこっちの世界で目立つ行動は止めた方が良いと警告し太一達の元を去った。

その後、行く宛も無い僕達はコンサート会場内で開始を待つことにした。

会場で待ち始めてから数十分後、会場の中に中学生グループのコンサート会場とは思えない程人が入り始めた。

その中には太一と空、フードを深く被って子供の振りをしているガブモン、光子郎、丈達とそれぞれのパートナーデジモンの姿もあった。

その様子を端の席で見ていると、こちらに気付いた太一達が態々僕達の隣まで来て席に着いた。

……まだ中央辺りに空きがあるのにこんな端に座るのは勿体ない。

僕は遠まわしにその事を伝えたが、丈や光子郎達にヤマトの声量なら何処に座っても聞こえるから一緒だと言われてしまい、何も言い返せなかった。

先程の件があるのに僕の隣に座った太一に内心緊張する中、コンサートは開始された。

 

 ――――そして何組目かの演奏が終わり、会場は演奏者達を拍手で称えた。

音楽の事は正直あまり分からないが、上手だという事は僕にも伝わった。

……さて、次はヤマト達のグループの番か。

原作ではヤマト達が演奏中のタイミングにアルケニモン達が、デジモンを出現させた。

……恐らくこの世界でも同じタイミングだろう。僕は密かに拳を強く握った。

 

 

「なぁ守谷」

 

 

 

 色んな意味で緊張しながらヤマト達のグループの入場を待っていると、突然隣の太一に話しかけられた。

突然の予想外の出来事に僕はビクッと反応しながらも太一の方を向いた。

 

 

「……なんでしょうか?」

 

「お前、今日のヒカリ達の誘いを断ってこっちに来たんだろ? 良かったのか?」

 

 

 太一の質問に僕は一瞬俯いた。

……そう、太一の言う通り僕は今日、八神家で行われるタケル、ヒカリ、京、伊織とそのパートナーのクリスマスパーティーに招待されていたが、それを断っていた。

断った理由は今更言うまでもない、が、太一にそう返すわけにもいかない。

 

 

「……八神さん達には悪いですが、先に石田さんのコンサートに来る予定があったので」

 

「お前がヤマトにチケットを貰ったのは先週だろ? ヒカリ達はそれよりも前にお前を誘っていたみたいだが……」

 

 

 太一の追求に動揺しない様に注意しながら僕はポケットから二枚のチケットを取り出した。

 

 

「……先週、石田さんからチケットを貰った時には伝えられなかったんですが、実はもともとチケットを購入してました」

 

 

 そう言ってチケットを見せると太一や、隣で話を聞いていた空達が少し驚いた様な反応を見せた。

そして同時に来たかったのなら先にヤマトに言っておけば良かったのにと言っていたが、そんな低い可能性にかける程僕は、楽観視は出来なかった。

……原作的に僕自身が会場に居なければならないという訳ではないが、いざと言う時の為、出来る限り太一達の近くには居たかったからね。

 

 そんなやり取りをしていると突然耳を塞ぎたくなるほどの歓声が会場を支配した。

何事かと思って近くに居た人の視線の先を見てみると、そこにはヤマト達のバンドグループの姿があり、

メンバーのそれぞれが歓声に答えるように手を振っていた。

……流石はヤマトが率いるバンドグループ。凄い人気だ。

歓声はメンバー達が手を振り終わっても収まる事は無かったが、ヤマトがギターに手を掛けると同時にピタリとやんだ。

そしてヤマトの掛け声とともに演奏が始まった。

 

 ――――その演奏は中学生とは思えない程の素晴らしいモノだった。

正直に言って僕はヤマトの歌は普通に上手い位だと思っていたが、その評価は誤りだった。

その歌のレベルは、それこそライブ終わりにCDを買わなくてはと思うほどのものだった。

ハッキリ言って僕は歌を聞きに来た訳では無いと言うのに。歌に意識を向けたくなる自分を抑えていると、近くのファンのエールの声が聞こえて来た。

……ある意味音楽を聞きに来たわけじゃない僕よりも迷惑な人だなと思いながらそのファンの方を見てみると、そこには――――。

 

 …………僕は歌に意識を向けるのを止め、それ以外の音を拾えるように神経を集中させた。

少しすると遠くの方で地鳴りのような音が聞こえた。……やはりこのタイミングか。

そう思っていると、突然ヤマト達の楽器の音がおかしくなり、急遽演奏が止まった。

その事に会場に居る全員が困惑していると、突如ヤマト達の立っているステージの裏の壁が壊れた。

そしてそこから――ダークティラノモンとバケモン達が現れた。

突然の出来事に会場にいる人達は悲鳴を上げながら、ダークティラノモン達に背を向け出口に走り出した。

 

 

「――ブイモン!」

 

「おうー!」

 

 

 言葉と共に一瞬で進化したブイモンに僕はD3を向けフレイドラモンにアーマー進化させると、逃げた人の方に向かおうとするバケモン達を撃ち落とさせ、そしてこれ以上会場を壊されない様にダークティラノモンを外に吹き飛ばすように命令した。

 

 

「今の内にいったん外に避難しましょう!」

 

 

 ヤマトも合流したので、振り返って太一達にそう言おうとしたが先に光子郎が言ってくれたので、それに僕自身もそれに従うように出口に走り出した。

――――が、次の瞬間、少し離れたところから女性の悲鳴が聞こえて来た。

咄嗟にその声の方を見てみるとそこには、先程ヤマト達の演奏中もエールの声を送っていたヤマトのファン――――本宮ジュンに壁片が迫っている光景があった。

……本宮ジュンは、本宮大輔(本当の主人公)の姉だ。

 

 

「――フレイドラモン!!!」

 

「――任せろ!」

 

 

 僕の声に一瞬でそう返したフレイドラモンは、ダークティラノモンと戦いながら手から火炎を複数飛ばして本宮ジュンに迫る壁片を破壊し、本宮ジュンを守る事に成功した。

……何とか間に合った。

が、未だ現状が理解出来ないのか、その場に立ち尽くす本宮ジュンに僕は駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

sideヤマト

 

 演奏中に、楽器の調子がおかしくなったと思っていると突然背後の壁が壊れ、そこからダークティラノモンとバケモン達が現れた。俺達は急いでステージの上から降りた。

理解出来なかった。何故またデジモン達が現実世界に現れたんだ?

……いや、今はそんな事を考えている場合では無い。

走りながら一瞬でそう判断した俺は取り合えずガブモン達と合流しようと、ガブモン達の席の方へ向かっていると、フレイドラモンが隣を横切り、後ろのダークティラノモンに攻撃を仕掛けた。

 

 

(……どうしてアーマー進化なんだ? フレイドラモンの方が状況に徹していたのか?)

 

 

 その光景を見ながら僅かにそんな疑問を覚えたが、その疑問は一先ず置いておき、ガブモン達の元へと急いだ。

ガブモン達の元に着くと、光子郎の提案で一度外に逃げる事になった。

……確かに何時までもここに居たら危険だ。

そして全員で出口の方に向かっていると、突然遠くから女性の悲鳴が聞こえて来た。

くそ! まだ逃げてない奴がいたのか!

声の聞こえた方を見てみるとそこには……俺の熱狂的なファンに壁片が迫っている光景があった。

このままじゃ危ない!!

 

 

「ガ――――

 

「――フレイドラモン!!!」

 

 

 ガブモンに声を掛けるより早く守谷がフレイドラモンの名を呼んだ。

そしてその声を聞いたフレイドラモンのお蔭で何とか俺のファン……本宮ジュン?さんは助かった。

助かったと言うのに未だにその場に座り込んでいる本宮さんに守谷は駆け寄って行った。

 

 

「…………」

 

 

 今一人の命が助かったと言うのに、俺は今生まれた違和感のせいで心からはそれを喜べなかった。

別に本宮ジュンさんが助かった事が嫌だったわけでは無い。……確かに少し熱狂的なファン過ぎる事は否定できないが、それでも俺の大事なファンだ。助かった事に対しては一切の曇りなく嬉しいと言い切れる。

……俺が違和感を覚えたのは守谷に対してだ。何と言うからしくない? 必死過ぎる?気がした。

 

 自分に芽生えた違和感の正体を考えていると、守谷が本宮さんを連れてこっちに向かって来た。

改めて本宮ジュンさんに怪我が無い事が分かった俺達は今度こそ出口へ向かった。

 

 

 外に出るとそこには沢山のデジモン達の姿と、ダークタワーがあった。

他のデジモンはともかくどうしてダークタワーが? とにかく早く壊さなくては。

俺はデジヴァイスを取り出し、ガブモンを進化させようとした。

――――が、出来なかった。

 

 

「な――どういう事だ!?」

 

「俺達の方も駄目だ!」

 

「私の方も!」

 

「僕の方もだ!」

 

「……恐らくこのダークタワーのせいです。何故かは分かりませんが、再び進化抑制機能が復活している様です!」

 

 

 光子郎の言葉に俺達は驚愕の声を上げた。

……ダークタワーの進化抑制機能は要塞を破壊してから一度も発揮されなかった事から、要塞の力で発生していたものだと俺達は思っていた。だが、今進化出来ないという事はそれは間違いだったのか? それともまた要塞が建てられたのか?

 

 そんな事を考えていると、後ろから合流して来た守谷がフレイドラモンにダークタワーを壊させ、

一度ブイモンに退化させた後、エクスブイモンに進化させた。

 

 

「……泉さん、このままでは現実世界に大きな被害が出てしまうのでその前に野生のデジモンをデジタルワールドに返しましょう」

 

「返す? ――成る程、そういう事ですか。分かりました直ぐに準備します!」

 

 

 守谷の言葉に光子郎はそう返すと、ノートパソコンと取り出し、操作し始めた。

それに対して守谷は、D3を手にとって待っていた。

……成る程、D3で光子郎のパソコンにゲートを開いてデジモン達を送り込むという事か。

その考えは合っていたようで、守谷は光子郎のパソコンにゲートを開いた。

 

 

「皆さん、この辺りの成熟期以下のデジモンの回収をお願いします。完全体は僕達に任せてください」

 

 

 守谷はそう言うと、俺達の返事を聞かないままエクスブイモンをウイングドラモンに進化させ、その背中に乗って飛び去った。

 

 

「……俺達も行くぞ!」

 

「僕達はここでパソコンを持って待機してます。この辺りのデジモンの回収と、京さん達への連絡は僕に任せてください」

 

 

 完全体を守谷一人に任せるという事に太一は躊躇うような反応をしていたが、現状ではそれ以外の手段が無いという事は分かっているのかそれを口にはしなかった。

 

 空も丈もそれぞれパートナーを進化させ、それぞれの得意な場所のデジモンの回収へ向かって行った。

……俺達もこうしちゃいられない!

 

 俺はガブモンをガルルモンに進化させ、その背中に乗ろうとしたが、突然後ろから何者かに抱きつかれた。

 

 

「キャー! ヤマト君ーー!! 怖かったよー♡」

 

「も、本宮さん?」

 

「……ヤマトさん達はまず彼女を安全な場所へ」

 

 

 光子郎の言葉に仕方なく俺は本宮さんの手を引いて安全な場所に向かって走り出した。

 

 

「はぁ~。今日は怖い目にもあったけどこうしてヤマト君と逃げれるなんてサイコ~」

 

 

 死にそうな目にあったと言うのに笑顔で走っている本宮さんに乾いた笑い声を返しながら、話題を変える為ふと思いついたことを尋ねた。

 

 

「そ、そう言えば本宮さんって守谷と知り合いなんですか?」

 

「守谷? それって私を助けてくれた子? それだったら初対面よ」

 

「初対面、ですか……」

 

 

 ……少なくとも守谷は本宮さんの事を知って居る様な気がしたんだが、気のせいだったのか?

そう思っていると本宮さんがあっと思い出したかのような声を上げた。

 

 

「そう言えばその子、助けてくれたお礼を言った時に小声で、これ以上彼の人生をめちゃくちゃにするわけにはいきませんから……的な事言ってたわ」

 

「彼? 守谷が言っていた彼に心当たりは有りますか? 例えば本宮さんの彼氏だったり弟だったり……」

 

「私、彼氏は居ないフリーでーす! でも好きな人は居ます! それはヤ・マ・ト君♡ キャ! 言っちゃった!」

 

「は、ははっ、アリガトウ」

 

「それで守谷くん?のいう彼の心当たりだけど……う~ん、正直に言ってないわ。私、男子の友達居ないし、一人っ子だし。もしかしたら私を誰かと勘違いしたのかもしれないわ」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 もしかしたら守谷の事が少し分かるかと思ったんだが、知らないなら仕方が無い。

俺は本宮さんを安全な場所に連れて行った後、再び野生のデジモン達が暴れる場所へ向かった。


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