この話から第1節の最後の章?に入ります。
……ここからは展開が色んな意味で酷くなると思います。
ブラックウォーグレイモンとの戦いから二ヶ月後の12月上旬の休日の朝、僕は自宅のテレビを無言で見つめていた。
2002年の12月。それは原作で特に大きな動きがあった時期だ。
例に出すと、現実世界にダークタワーおよび野良デジモンの出現、デーモン軍団の出現、別の世界に旅立っていたブラックウォーグレイモンの登場、ブラックウォーグレイモンの命を使ってのゲートの封印、ヴァンデモンとの最終決戦。
……選ばれし子供達の動きを抜いてもこれ程の出来事があったまさに最終章に相応しい月だった。
そして僕自身12月は色々忙しくなると選ばれし子供として戦うと決めた時から覚悟していたが、ブラックウォーグレイモンとの戦いの翌日の久々の休息の際、ふとこんな考えが浮かんだ。
――――どうして原作でヴァンデモンはデーモンが現れたのに計画を続けたのか?
デーモンは原作で登場したデジモンの中でも最強のデジモンだ。
そうだと言うのにどうしてヴァンデモンはそんな存在が自分の計画を阻もうとしているのにそれに逆らってまで行動したのか改めて考えると分からなくなった。
「……ヴァンデモン……いや、及川ですらデーモンの存在を知っていた」
ヴァンデモンやアルケニモン達は勿論のこと、ヴァンデモンに乗り移られている只の人間である及川ですらその存在を知っていた。
及川がデーモンの存在を知ったのはほぼ間違いなく取りつかれているヴァンデモンから聞いたのだろうが、そもそもヴァンデモンがその事を話したという事はその情報は話すべきだと判断したからだろう。
そう思う理由は簡単で、重要じゃなければ話す必要が無いからだ。
ならヴァンデモンが態々名前を教える程の存在が現れたと言うのにどうして及川は刃向うような行動を起こしたのか?
少し考えた結果、3つの考えが思いついた。
1つは、ヴァンデモンがデーモンを舐めていたから。
現時点では敵わないかもしれないが、原作の様に力を蓄える事が出来たら超えられる存在だと思ったからこそ計画を優先したと言う考えだ。
……最初に思い付いた考えだが、劇中でのヴァンデモン達がデーモンに対し取った言動から考えるとこの考えである可能性が一番高い。
2つ目は、ヴァンデモンとデーモンが何らかの形で手を組んでいたから。
手を組んでいたからこそ、ヴァンデモンはデーモンに怯えることなく行動できたと言う考えだ。
……劇中でデーモンはアルケニモン、マミーモンに対し初対面のような反応を見せていたが、それはデーモンがヴァンデモンとのみ手を組んでいたとしたら考えられる僅かな可能性だ。
……が、正直に言ってデーモン側に対して利点が全く見えない上、敵対するような反応を互いに見せていた事から恐らくこの考えは間違っているだろう。
そして3つ目は。ヴァンデモン達に時間制限があったから。
計画を急がなければならない何らかの理由があったからこそ、デーモンという強大な存在が現れたとしても行動せざるをえなかったと言う考えだ。
それを証明するようにヴァンデモン達は終盤につれ計画が大掛かりで目立つものになっている。
特に世界中にダークタワーと野良デジモンを出現させ、選ばれし子供達がそれに対応している間に一般の子供達を集団誘拐し、暗黒の種を植えこむと言う行動はあまりにデメリットがあり過ぎる。
安全にいくなら集団誘拐など行わずに少人数ずつ誘拐し、暗黒の種を植え付け、すぐさま子供達を返していれば選ばれし子供達に気付かれる可能性など殆ど無かった筈なのにヴァンデモンはそうはしなかった。
ヴァンデモンは作中でも頭が良い敵デジモンとして扱われるレベルだった筈なのに。
……もしもこの3つ目の考えが正しいとしたらヴァンデモン達には計画を急ぐ何らかの理由があったのだろう。
考えられる限りの理由は――――ヴァンデモンが我慢の限界だった、ヴァンデモンが憑りついている及川自身が我慢の限界だった、ヴァンデモンまたは及川の肉体または心のタイムリミットが近かった、デーモンとの契約等といった何らかの期限があった……くらいか。
「……このどれかが合っているか、それともそもそもどれも合っていないかは分からない」
考えても答えなんてでないかもしれない。
だが、ハッキリ言ってしまえば理由なんてどうでも良かった。
――――今何よりも大事なのは、この世界でもヴァンデモンは12月頃に行動を起こすかどうかという事だ。
もしも12月に入っても行動を起こさなければ原作はほぼ崩壊と考えていいだろう。
そうなった場合、僕は及川達を出来る限り監視して、行動を見張らなければならない。
……転生者として、デジタルワールドと選ばれし子供達を守ると決めた僕的にはこの展開は何よりも避けたい。
こうなってしまった場合、ヴァンデモンを確実に消滅させられる可能性が低くなってしまうから。
――――だけど、だけどもしも原作通りにヴァンデモンが12月に行動を起こすとしたらそれはそれで僕は覚悟をしなければならない。
暗黒の種というヴァンデモンの明確なエネルギーが無い世界でヴァンデモンが復活すると言う事はどういう事かという事を……僕は改めて覚悟しなければならない。
……今までは毎日が大変で漠然としか考えられて居なかったが、この瞬間の僕には考える余裕があった。行動を起こす時間もある。
だけど僕は…………行動は起こさなかった。
『――――昨日から行方不明になって居た子供達数名が今日未明死体で発見されました。
死因は全身の血を何らかの方法で抜かれた事が原因の様で、警察は殺人事件として調査を始め――――』
目の前のテレビからそんなニュースが速報で流れてきた。僕はそのニュースを見た瞬間体が震えるのを感じた。
この世界には暗黒の種というヴァンデモンの復活に利用出来るエネルギーは存在しない。
だとしたらヴァンデモンは一体どのような手段で復活しようとするのか?
それはヴァンデモンがどのようなデジモンかを考えれば一目瞭然だった。
「……ヴァンデモンは吸血鬼をモデルにしたアンデット型デジモン。なら何がヴァンデモンの餌になるかなんてずっと前から分かっていた」
それは人間の血だ。
原作でもヴァンデモンは人間の血を吸って力を蓄えているようなシーンがあった。
その時に血を吸われた人間は死には至って居なかったが、本気で吸われていれば死んでいただろう。
……とにかくヴァンデモンにはそのような力の蓄え方があった。そして現状ではそれ以外にエネルギーを蓄える手段が無いのだろう。
……こんな大掛かりな行動をしていれば、原作知識のない太一達にも存在を知られてしまう可能性が高いのだから。
「――――ーおはようアマキ~今日は休みなのに早いね」
ふと後ろからチビモンにそんな風に話しかけられた。が、僕はテレビから視線を外す事が出来ず、言葉も返せなかった。
「? どうしたのアマキ……って大丈夫!? 酷い顔してる上、顔が真っ青だよ!?」
「……チビモン、今の僕はそんなにひどい顔をしているの?」
「今まで見た中でも一番しんどそうな顔をしてるよ! 早く病院に行った方が良いよ!!」
「……そうか」
僕はリモコンでテレビの電源を切って、立ち上がり、洗面台に向かって歩き出した。
「アマキそんな急に動いちゃ「チビモン」
僕はチビモンに背中を向けながら出来る限り冷静な声で呟いた。
「もしも僕の顔が酷い顔になって居るのならそれはこの世界で最も醜い存在の顔だ」
「……どういう事?」
「…………何でもない。ちょっと気分が悪いから顔を洗ってからもう一度寝る事にするよ」
命を救う事が出来る立ち位置に居ながらそれをせず、結果出てしまった犠牲を嘆いているのだとしたらそれは考えられる限り最悪の行動だ。
……だけど、そうだとしても僕は優先した。ヴァンデモンを確実に倒せる機会を。
転生者として……いや、一つの存在として僕は選ばれし子供達とデジタルワールドの為に行動すると決めたのだ。
だから…………その為に必要な犠牲なら僕は払おう。払わせてみせよう。
これからどんどん生まれるであろう被害も犠牲者も…………分かりあえたブラックウォーグレイモンの命を利用してでも辿り着いて見せよう。選ばれし子供達とデジタルワールドが平和に過ごせる世界に。