デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 自分でもブラックウォーグレイモン関連の話が長引きすぎていると思ったので、話を進ませるべく投稿する事にしました。


040 たった一度のチャンス

「――――うぉー!!」

 

 

 戦いが始まると同時に仕掛けて来たのはブラックウォーグレイモンだった。自分よりも素早いウイングドラモンが動き出す前に一撃与える為だろう。昨日戦った時よりも僅かに早く感じる両腕のドラモンキラーがウイングドラモンに迫る。

……この攻撃自体はいくら先手を取られたと言ってウイングドラモンのスピードなら躱す事が出来るだろう。だがそこまでだ。一度そこまで接近されたらブラックウォーグレイモンを再び引き離すのは困難だ。それこそいくらかダメージを受けてようやくと言った所だろう。

――――昨日のウイングドラモンのスピードなら。

 

 

「――――」

 

 

 ウイングドラモンは真っ直ぐ自分にドラモンキラーを突き立てて迫ってくるブラックウォーグレイモンを一瞬で空に飛びあがって躱した。

 

 

「――な、なんだと!?」

 

 

 昨日戦った時よりも速いウイングドラモンに驚愕し、先程までウイングドラモンが居た場所で止まったブラックウォーグレイモンに、ウイングドラモンは容赦なく上空から音速を超えた速度で小さな灼熱のブレスを放った。

ブラックウォーグレイモンはそれを咄嗟に背中のブレイブシールドで防ぐ。

 

 

「―――くっ!」

 

 

 ブレイブシールドで何とか灼熱のブレスを防ぎ切ったブラックウォーグレイモン。

不意を突かれたことに苛立ちながらブレイブシールドでの防御を解き、上空を見上げてみると、そこには既にウイングドラモンの姿は無かった。

 

 

「――――こっちだ!」

 

「――――!!」

 

 

 声が聞こえた方を見てみると、そこには見た事も無いスピードで弾丸のように真っ直ぐ飛んでくるウイングドラモンの姿が目に映り、ブラックウォーグレイモンは無意識にそれを体を捻りギリギリの所で躱した。――筈だった。

次の瞬間、目に見えない衝撃波がブラックウォーグレイモンを襲った。

 

 

「――――ッチ!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはその衝撃波を咄嗟に後ろに飛ぶことで幾分かダメージを減らした。

そのお蔭もあってダメージはそれ程なかったが、右手のドラモンキラーに小さくないヒビが入ってしまった。

 

 

「……片方も折れなかったか」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの姿を見て悔しそうに呟くウイングドラモン。その姿でブラックウォーグレイモンは今までの攻撃が両手のドラモンキラーを折る為の行動だったと察した。

 

 

「成る程。さっきまでの攻撃は全部コイツを折る為のものか」

 

「……それはボクにとってかなり相性が悪い武器だからね。出来れば今ので片方は折りたかった」

 

「フン、昨日までとは大違いだ。スピードも戦い方も。どうやら思っていた以上に楽しめそうだ……!」

 

「…………」

 

 

 歓喜の表情を浮かべながら先程までよりもどす黒い殺気を放つブラックウォーグレイモン。

そんなブラックウォーグレイモンに少しばかり飲まれながらもウイングドラモンは後ろに居るパートナー(守谷)の方を振り向いた。

 

 守谷からの言葉は無い。戦いに関する戦術などの話は戦う前に済んでいるし覚えている。だからウイングドラモンもそれを求めて振り向いたわけでは無い。

ウイングドラモンはただ守谷の目を見ていた。

その目には今まで自分に向けられたことのない何らかの強い思いが籠っていた。

この目を見るのは二度目だ。一度目はキメラモンを倒す為、アグモンをメタルグレイモンに進化させ、背中に乗って指示していた時。故に自分にこの目を向けられたのは今回が初めてだ。

そして二度目とはいえウイングドラモンには守谷がこの目をする理由がなんとなく理解出来ていた。

 

 守谷がこの目をする時は――――絶対に勝たなければならない戦いの時!

 

 ウイングドラモンはブラックウォーグレイモンの方を向いて先程ブラックウォーグレイモンがしたように全力の殺気をぶつけた。

ブラックウォーグレイモンはそれを歓喜の表情で受け取ると、再び攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――何度ぶつかり合っただろうか。

二体が戦い始めてから数時間は経過しているがまだ戦いは続いていた。

二体ともそれ程出来る事が多くない為、やって居る事は殆ど変わらない。

ウイングドラモンが優勢の時は、その速さでブラックウォーグレイモンをかく乱し、少しずつダメージを稼いでいく。

ブラックウォーグレイモンが優勢の時は、ウイングドラモンを逃がさない様にピッタリと張り付き、得意の接近攻撃とウイングドラモンに絶大な効果を持つドラモンキラーで大ダメージを狙う。引き出しの多くない二体の戦いは殆どがこのような戦いだった。

 

……正直に言ってしまうと、全力を出したウイングドラモンならもっと優勢に立てると思っていた。いや、昨日までのブラックウォーグレイモンなら立てていたのかもしれない。数値で測れない以上勘の話になってしまうが、ブラックウォーグレイモンが昨日よりも強くなってしまっている気がする。

……やはり心を持った対戦相手と言うのは厄介すぎる。

……このまま戦いが続けばブラックウォーグレイモンがもっともっと強くなってしまう可能性すら感じるのが正直怖くなる。

が、少なくともこの戦いが終わるのも時間の問題だろう。

 ……ウイングドラモンは既に両手の宝玉を破壊されていて総エネルギーがガクッと落ちている。体中に相性最悪のドラモンキラーで付けられた傷が見られ、翼にもそれが見られるせいかスピードもかなり落ちている。正直に言ってかなり不味い状態だ。

僕自身も込めれるだけの思いを込めているせいか体がかなり怠い。仮に今からアグモンを参戦させようとしても完全体に進化させるのは厳しいと言わざるを得ない。

 

 ――――が、ブラックウォーグレイモンはそれ以上のダメージを受けていると思う。

既に両手のドラモンキラーは根元から折れていて、背中のブレイブシールドもボロボロ。両手も基本的にだらんと下がってる。

……恐らくブラックウォーグレイモンの必殺技であるブラックトルネードをウイングドラモンの背中の槍で弾き返した際のダメージが残っているのだろう。

そして両腕がそんな状態だからウイングドラモンの攻撃をさっきから防ぎきれてない。誰がどう見てもチャンスだろう。

……が、

 

 ウイングドラモンとブラックウォーグレイモンが再び正面からぶつかり合う。

ウイングドラモンは宝玉を無くしたことで空いた両手を握り何度も振るう。

ブラックウォーグレイモンは、避けれる範囲の攻撃は上手く体を逸らして躱し、避けきれない分は体の固い部分に上手く当ててダメージを軽減し、今なお健在の両足でウイングドラモンに攻撃を仕掛ける。

蹴り攻撃を受けたウイングドラモンは少し後方に下がった。

……正直に言ってこの状態でも接近戦に関しては相手の方が上手と判断せざるをえない。

 

 

「……まだブラックウォーグレイモンの両手が健在だった時の方が戦えてた。両手が不自由になった分頭が冷えたのか?」

 

 

 だとしたらこのまま接近戦を続けるのは不味い。

が、だからと言ってそれ以外の戦い方が出来るかと言われたらそうではない。

ウイングドラモンは元々自分の速さを上手く使って自分のペースに相手を巻き込んで近・中・遠距離に囚われず動き回る戦いを得意としている。

だからスピードを出せなくなってしまったらウイングドラモンは距離を自由に切り替える戦いが出来なくなってしまう。

必殺技を放とうにも速さの出せない状態では3つある内の一つしか使えない上、その必殺技は昨日も含めて何度もブラックウォーグレイモンに見せてしまっている。

何も考えずに放ってもまともな効力は期待出来ないだろう。

 

 そんな事を考えていると戦いに少し変化が起きた。

ウイングドラモンが大きく拳を振り下ろしてブラックウォーグレイモンを攻撃しようとした際、ブラックウォーグレイモンは大振りになったその攻撃を難なく躱したがそれは実は囮で、ウイングドラモンは拳を振り下ろした際の反動で体を縦回転させ、本命の尻尾をブラックウォーグレイモンに振り下ろした。

戦いが本格的になるに連れ、全く使わなくなった尻尾で今更攻撃されるとは思っていなかったのかブラックウォーグレイモンはそれをまともに受け、地面に強く叩きつけられた。

……戦闘経験が足りないせいで今まであまり尻尾を生かせなかったけど、だからこそこのタイミングでブラックウォーグレイモンの虚を付けた。

――――チャンスか?

 

 僕がそんな事を考えるよりも早くウイングドラモンは全力でブラックウォーグレイモン目がけて急降下した。

敵が真下に居る今なら背中の槍を突きつける『エクスプロードソニックランス』を使える。

……が、ブラックウォーグレイモンの消耗具合から見て下手をすればこの攻撃でブラックウォーグレイモンが消滅してしまう可能性もある。

僕はブラックウォーグレイモンが負けを認めて降参してくれることを密かに期待しながらその結末を見届けるべく目を凝らした。

結果は――――ブラックウォーグレイモンが寸前の所で攻撃を躱してすれ違いざまにウイングドラモンの右翼に拳を叩きこんでよろけながら上空に上がると言う想定外の結果だった。

 

 戦いを終わらせられなかった事に僕とウイングドラモンはそれぞれ舌打ちすると、ウイングドラモンはまだダメージが抜けきれずよろけているブラックウォーグレイモンに追撃すべく上空へ飛び上がった。

――――いや、飛び上がれなかった。

 

 

「くっ、これは!」

 

 

 ウイングドラモンの右翼を見てみるとそこには鋭利に尖ったドラモンキラーの大きな破片が突き刺さっていた。

……どうやら運悪くもブラックウォーグレイモンの倒れた近くに落ちていた様だ。

 

 

「――――これで少なくとも直ぐには飛べまい。つまり次の攻撃をお前は躱せないという事だ」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは片腕を庇いながらゆっくりと上へ上へと上がって行く。

……どうやらドラモンキラーの破片を掴むことは龍族であるブラックウォーグレイモンにとっても無理のある行動だったようだ。

 

 

「これで決めるぞ。オレとお前のどっちが強いのかを!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはそう宣言すると、両手を上げて大きく広げた。

ただそれだけで暗黒のエネルギーがその中心に渦を巻いて集まって行く。本日最初で最後の『ガイアフォース』を放つつもりだろう。

……今のウイングドラモンではこの攻撃はかわせない。絶体絶命のピンチだ。

 

――――だがこの時を僕達は待っていた!

 

 ブラックウォーグレイモンは更に、更に暗黒のエネルギーを頭上に集めていく。最終的にその大きさはブラックウォーグレイモンの何倍もの大きさになっていた。

 

 

「……何をたくらんでるか知らんが、この攻撃で全て吹き飛ばしてやろう!!『ガイア…………

 

 

 自分の必殺技に対して動きを見せない僕達にそんな言葉を投げかけながらブラックウォーグレイモンは頭上の超エネルギー体を僕達に投げつけるべく体を大きく沿って一瞬僕達から視線を外した。

 

 

「――――今だ!!」

 

 

 僕の言葉と同時、いや少し早くウイングドラモンの口から灼熱のブレスが放たれた。

 

 

「――な――――」

 

 

 僕の言葉に反応したのか、ブラックウォーグレイモンが頭上の超エネルギー体を早く投げつける為に動きを早くしたが、ブラックウォーグレイモンが視線を僕達に向けたその瞬間には既にその灼熱のブレスは目前まで来ていた。

 

――――ブラックウォーグレイモンは警戒していた。ガイアフォースを放つ際、それよりも早く攻撃を放たれ、受ける事を。

――――ブラックウォーグレイモンは把握していた。ウイングドラモンが現状使える必殺技が灼熱のブレス攻撃だけだという事を。

――――ブラックウォーグレイモンは知っていた。そのブレスがどれ位の速さで飛んでくるのか。どれ位の対応力があるのかを。戦いの中で何度もそれを目にしていた。

――――だがブラックウォーグレイモンは一つだけ知らなかった。その灼熱のブレスがただの一度も本当の意味で全力で自分に使われたことが無いという事を。

ブラックウォーグレイモンが見た灼熱のブレスは、遅い代わりに広範囲のモノと、目にも止まらない速さで放て、更に連射できるタイプのものだ。

ブラックウォーグレイモンはその二つの効果の後の方が本来のモノで前の者が応用物だと判断していたんだろう。

だが実際は違った。遅いブレスも、早い上連射できるブレスも応用物だったのだ。

今ウイングドラモンが放ったブレスこそ、とんでもなく早いが連射も爆発時間も調整できない本来の『ブレイズソニックブレス』だ。

 

 ブレイズソニックブレスがブラックウォーグレイモンの頭上のガイアフォースに直撃し、そしてガイアフォースはブラックウォーグレイモンの真上で爆発音を上げながら弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 人型のブラックウォーグレイモンにも苦戦しましたが、モンスター型のウイングドラモンの戦闘描写には本当に苦労しました……

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