この話は普通に新作です。
6/26 8:15 話が色々と足りてなかったので少しだけ修正しました
「――――心の命じたままだと?」
ブラックウォーグレイモンは意味が分からないといった表情を浮かべていた。
……確かにこれは自分の心そのものに疑問を感じているブラックウォーグレイモンには難しい話かもしれない。
僕は言葉の真意を伝える為に再び口を開く。
「要するに自分の心の思うまま好きに生きるって事ですよ」
「心の思うまま……」
「貴方は僕達と同じように心を持っているんですから可能な筈です。……それとも今更それを否定したりしませんよね?」
僕の問いにブラックウォーグレイモンはフンと、鼻を鳴らす事で返事を返した。
……否定はしないって意思表示だろう。なら――――
「……心を持っているという事は、既に貴方には貴方だけの思いや感情、自分にとって良し悪しの基準といったモノが芽生えている筈です。
心当たりは有りませんか? 例えば貴方にとって何の価値も無いモノを壊した時に胸の辺りが痛くなったりとか」
「…………心当たりは無いな」
「……そうですか。
とにかく仮にそんな時に胸が痛くなった場合は、その人にとってはその無価値なモノを壊す事は悪い事という事になります」
「……無価値なモノを壊す事がか? ふん、馬鹿馬鹿しい」
「そうかも知れませんね。ですがいくら僕達がそれを馬鹿馬鹿しいと思っても、世界にとっても間違いであるルールだったとしても、その人の心にとってはそれは悪い事なんですよ。……本人も自覚してないかもしれませんが」
世界には正しい事と間違った事が無数に存在する。
……だがその正しさや間違いは自分では無く自分の暮らす世界に定められていて、人はそんな世界で正しい事や間違った事を知りながら成長していく。きっとデジモンも同じだ。
だから同じ世界で暮らす人同士やデジモン同士の良し悪しの判断は殆ど同じになる――――筈だ。
……だが実際は同じ世界で暮らして居るにも関わらず人々の善悪の基準や考え方は大きく違っている。
それは育った環境や、頭の良し悪しでも違って来るが、もっとも大きな理由は、皆それぞれ唯一無二の心を持っているからだ。
「世界には心を持った存在がそれこそ数えきれない程に存在していますが、同じ心を持った存在は誰一人として居ません。例え同じ知識や価値観を与えられたとしても一人一人の心が全く同じような思いを抱く事は無いです。
何故なら皆それぞれが唯一無二の心を持っているから。
……ですがさっきも言った様に心は見えるモノではありません。だから自分でも気付かないバカみたいな価値観や、やりたい事を持ってたりすることもあるんですよ」
「……自分ですら気付けないやりたい事……」
「……ブラックウォーグレイモン。僕はさっき貴方に3つの選択肢を出した。その選択肢はどれも誰かにとって都合のよくなる選択肢。
だけどこの4つ目の選択肢は、他の誰でもない貴方の為。貴方の心の為の選択肢です。
…………以上の4つが僕の思いついた貴方に対しての選択肢です。
別にこの中から選ぶ必要もありませんし、今すぐ答えを出す必要もありません。
…………ただこれだけは覚えておいてください。僕は貴方に4つの選択肢を話しましたが、この選択肢全てに賛成するつもりは全くありません。
いくら貴方にとって、貴方の心にとってその選択肢が正しいものだったとしても、それが僕にとって……僕の心にとって間違ったモノだったとしたら僕は自分の為に貴方を止めます。貴方を殺してでも」
……確かに僕はブラックウォーグレイモンに思う所がある。原作視聴時にもブラックウォーグレイモンは可哀そうな存在だなと思ったほどには思い入れはある。
だが、だからといって何でもかんでもブラックウォーグレイモンの好きにさせるつもりは欠片も無い。
もしもブラックウォーグレイモンが何の力も持たない取るに足らない存在だったのなら好きにさせても良かったかもしれないが、残念ながらブラックウォーグレイモンは強力な力を持った存在だ。その力は世界を歪めるほどに。
……そんな存在を好き勝手にさせる訳にはいかない。
「……お前がオレを殺してでも止めるだと? ふん、昨日あれ程劣勢だった事を忘れたのか?」
馬鹿にするような表情で僕を見つめるブラックウォ―グレイモン。
確かに僕達は昨日ブラックウォーグレイモンに対して劣勢と言える状況だった。
だが今ならまだ勝機はある。
「……違うんだブラックウォーグレイモン」
だが、ブラックウォーグレイモンの言葉に一か所だけ訂正しなければならない場所があった。
劣勢だった、勝機はある。そんな事は後の話。
僕達は……いや僕は―――――
「貴方が選ばれし子供達に――――デジタルワールドに仇なすというなら僕は貴方を止めなければならない。
そこに勝機は関係ないんです」
勝てる勝てないかじゃない。勝たないといけない。
原作に悪影響を与える存在を僕は見逃すわけにはいかない。それこそどんな手をどんな無茶をしてでも止めて見せる。
それが僕のやるべき事。唯一この世界で無茶を許された存在の役目だ。
「……だったら何故こんな話し合いの場を設けた?
お前がそんなにもこの世界の為を思うならこんな事をせずに不意打ちで攻撃すれば良かっただろう。
それなのにお前はパートナー達を追いやってまでこんな事をした。何故だ?」
……ブラックウォーグレイモンの言う通りだろう。
本当にデジタルワールドだけの事を思うなら、こんな話し合いをせず不意打ちで攻撃する方が正しい行動と言える。
原作でブラックウォーグレイモンが半分仲間状態になって、最後にデジタルワールドの為に命を使った事だけを考えるなら仲良くした方が良いが、現状では原作の様に再現するのはほぼ不可能だろう。
……ブラックウォーグレイモンと和解する程の力を発揮するにはたった一度しか使えないチンロンモンの力を使うぐらいしかないから。
話し合いをするとしても4つの選択肢など話さずに、僕と共にデジタルワールドの為に戦ってほしい。その為に君は生まれてきた等と話すべきだった。
……原作知識があり、ブラックウォーグレイモンが求めるモノがなんとなくわかる僕なら騙す事も可能だったかもしれない。
だが僕はそんな事をせずにブラックウォーグレイモンに4つも選択肢を話した。それもその内の3つは僕にとって不都合な選択肢だ。
ブラックウォーグレイモンが疑問を覚えるのも無理はないだろう。
でも……
「正直に言ってしまうと僕にも分からないんだ……どうしてこんな話を貴方にしたのか。
でもあえて言うなら僕の心がそれを望んだからかもしれないですね」
「心が望んだからか……」
僕たちの間を少しだけ沈黙が支配した。
その後僕はこの沈黙を終わらせるために再び口を開いた。
「……もうあなた自身の事に対しての質問はいいんですか?」
「ああ。とりあえずは片付いた。今オレが知りたいのはお前についてだ」
「……分かりました答えましょう」
僕は少しの間だけ目を閉じて色々と思考を巡らせる。少し悲しくなりながらも話す覚悟が出来た僕は目を開け、この世界に生まれ自分が転生者として自覚した瞬間からずっと抱えている事を少しだけ話すことにした。
「それは似ていると思ったからですよ。僕と貴方が」
「オレとお前が似ている、だと? ふん、笑わせるな! 一体どこが似ているというんだ。
……そもそもオレは存在そのものが世界を歪ませる暗黒の存在なんだぞ。
そんなオレと何処が…………」
「そこですよ。僕が貴方と似ていると思った所は」
「…………どういう事だ?」
「生まれた瞬間から世界にとってマイナスの存在。世界を歪ませる暗黒の存在。
そんな点が似ていると思いました。
……だからこそ、唯一この世界で似ていると思った貴方だからこそ色々と話したんでしょうね僕は」
……ブラックウォーグレイモンには申し訳ないが、僕はそう思ってしまっている。
自分の方が遥かに悪なる存在だというのに。
「……一体何者なんだお前は?」
「申し訳ないですがそれは話せません。何があっても。誰であっても」
「……ならいい。だが、これは答えろ。
お前はオレにあんなことを話して何がしたかったんだ?」
「……自分に似ていると思った貴方に対してのせめてばかりの贈り物。もしくは、自分に似ているのに決して届かない場所に居る貴方に対しての嫉妬心から、少し意地悪をしたかったのかもしれません。
「……お前がオレに嫉妬する点があるのか?」
「たくさんありますが特に……貴方はマイナスの存在ですが、プラスになり得るという点が憎しみを覚える程羨ましいですね。……こんな気持ちを抱く権利も僕にはないんですがね」
ブラックウォーグレイモンと僕はマイナスの存在だ。お互いに世界にとって暗黒の存在だ。
だが僕達には一つだけ決定的な違いがあった。それがブラックウォーグレイモンがプラスの存在になれるかも知れないという点だ。
……少なくともブラックウォーグレイモンは原作では最後に自身の命を使ってゲートを封印するという偉業を成し遂げた。この行動はどう考えても今までのマイナスを覆す行動だろう。
……それに対して僕は転生者だ。本来この世界に居てはならない異物だ。例えどんな行動をしたとしてもプラスに傾くわけがない。いや、プラスに傾くなんて許されない。
それにブラックウォーグレイモンは
だがそれに対し僕は
「……そのプラスになるという行動が、封印に命を使う事なのか?」
「……少なくとも今の僕の視点から見える展開の中ではそうですね。
さっきも言いましたが、僕が貴方に示せる選択肢がこの4つだけなんです。だけどそれだけが貴方の選択肢の全てだとは思わないで下さい。
世界は広いですからきっと僕の想像も出来ないような選択肢もあるでしょうから」
「…………」
「……それでもう質問は良いんですか?」
僕の問いにブラックウォーグレイモンは答えなかった。何かを考えるように地面をジッと見つめている。
……とにかく質問はここまでみたいだ。
そう判断した僕は少しブラックウォーグレイモンから距離を取ると、ブイモン達が隠れている方に向かって手を振った。
するとブイモンとアグモンが物陰から飛び出してきて全速力で僕達の方へ走ってきた。
「……もう話は終わったの?」
僕の元に一番に辿り着いたブイモンは後ろのブラックウォーグレイモンをチラチラ見ながら小声でそう尋ねてきた。
僕はブイモンとアグモンに伝えたい事は伝えたよと返事を返し、ブラックウォーグレイモンに背を向けながら歩き出した。
その行動にブイモン達も驚いたのか、僕の隣に来るまでに多少の間があった。
「……それで結局どうなったの? ブラックウォーグレイモンは仲間になってくれるって?」
「……とにかくさっきも言った様に伝えたい事は伝えた。
でもブラックウォーグレイモンが僕の言葉を聞いてどうするのかは分からない。
それに今すぐはその答えを出さなくていいって言っちゃったし、今日の所はここまでにしよう」
アグモンにそう返事を返すと僕は歩きながらD3を取り出し、ブイモンを進化させようとした。
……少なくとも今この場ではブラックウォーグレイモンを放置する事にしたが、それがこの四聖獣の力が弱まった世界でどれ位の影響があるかが心配だった。
だから今から僕はチンロンモンの元に行こうと考えていた。
今のこのデジタルワールドでブラックウォーグレイモンというダークタワー100本で出来ている暗黒の存在がどれ位の悪影響があるのかを尋ねる為に。
……もしも今すぐ何とかしないといけない状況だったとしたら、ブラックウォーグレイモンには悪いがチンロンモンに会った後にもう一度会いに行って答えを聞こうと思っている。
ブラックウォーグレイモンに考える時間を与えたい気持ちはあるが、僕はあくまでデジタルワールド側の存在。状況が状況である場合はそうせざるをえない。
…………そんなことになってしまう可能性があるなら、初めからあんな話をブラックウォーグレイモンにしなければ良かったかもね。
少し自分の行いに後悔しながらブイモンをエクスブイモンに進化させようとした時――――
「――――待て」
予想外にもブラックウォーグレイモンに声を掛けられた。
「……どうしたんですか? もう僕に聞きたい事は無いと思うんですか?」
ブラックウォーグレイモンの予想外の行動に僕は少しだけ警戒しながらそう尋ねた。
……まさかもうブラックウォーグレイモンの中で答えが出たんだろうか?
そんな事を考えているとブラックウォーグレイモンはアグモンの方を睨んだ。
「……おい、オマエ」
「え、ボク?」
「そうだお前だ。
お前はさっき進化したらウォーグレイモンになれると言っていたな? それは今この場でなれるのか?」
「え、えっと…………」
アグモンは困った様な反応を見せながら僕の方をちらっと見た。
……恐らく僕が前にキメラモンの時に話した、四聖獣の力を使えば一時的に究極体になれるという話を覚えていたからだろう。
……確かにその力を使えばアグモンはウォーグレイモンに進化出来る。が、その力をこんな所で使う訳にはいかない。
僕はアグモンの視線に首を横に振る事で答えた。
それを見たアグモンは少しだけ肩を落としてブラックウォーグレイモンの方を見た。
「……ごめん。今はなれないんだ」
「そうか」
アグモンの言葉にブラックウォーグレイモンは興味無さそうにそう返事を返すと、今度は僕とブイモンの方を睨んできた。……右腕のドラモンキラーを向けるという明らかな敵意を見せながら。
「ならお前、オレと戦え。昨日の決着をつけるぞ」
「……つまり貴方は僕達と敵対するという選択肢を選んだという事でしょうか?」
ブラックウォーグレイモンにそんな事を尋ねながら僕は僅かに肩を落とした。
……確かにブラックウォーグレイモンがこちら側についてくれる可能性は初めから低かったが、無いわけでは無かった。
……こうなってしまったらブラックウォーグレイモンが原作の様な行動をしてくれる可能性は0になったと判断していいだろう。
僕はブイモンとアグモンに視線を向けた。二体とも僕が言いたい事を理解したのか無言で頷いた。
……こうなってしまった以上仕方が無い。僕はブイモンとアグモンを完全体に――――
「――――待て!
再びブラックウォーグレイモンに呼び止めれた。
「……なんですか?」
「オレは
「……それはつまりブイモンだけで戦えって事ですか?」
「当然だ」
ブラックウォーグレイモンの言葉を僕は鼻で笑った。
「何言っているんですか? どうして僕達が敵対するデジモンの言う通り正々堂々戦わなくてはいけないんですか?
貴方がどの選択をしたかは分かりませんが、ここで僕達を戦うという行動を取ったという事はそういう事なんですよね? ならそんな相手にかける情けはありません。こっちは文字通り全力で貴方を倒しましょう」
卑怯者と言って貰っても構いませんよと付け加え僕はブラックウォーグレイモンの目を見た。
……が、ブラックウォーグレイモンは僕の言葉に怒った様な反応は見せず、予想外にも僕達に向けたドラモンキラーを下ろした。
「……オレはお前達と敵対する事を選んだわけでは無い。いや正確にはまだどうするべきか答えが出ていない」
「……ならどうして僕達と戦おうと?」
「……オレは自分が分からない。お前に色々と答えて貰ったが、結局オレ自身が何をすればいいのかが分からない。
――――だが、そんなオレでもたった一つだけやりたい事があった。
それがお前と一対一で決着をつける事! それが、それだけが今のオレの心が唯一望む答えだ!!」
ブラックウォーグレイモンが今日一番
……成る程、それが今のブラックウォーグレイモンが望む事か。……だが、そうだとしても……
「それがブラックウォーグレイモンの心からやりたい事だったとしても僕は貴方との試合を受けるつもりは無いですよ。
……こっちも色々と忙しいのに、貴方と一対一の真剣勝負をしている余裕はないんです。申し訳ないですけど。
それにそっちが究極体一体に対し、こっちは完全体一体で戦うというのはあまりにアンフェアだとは思わないですか?」
……それにブラックウォーグレイモンは時間が経つ毎に、戦う毎に強くなってしまう。そんな相手に経験を積ませるような勝負をするなんてもっての外だ。
ブラックウォーグレイモンが味方になる可能性が高いと言えない現状では特に。
「だから貴方の心を満たすための戦いをするつもりはな―――――
「――――ならこういうのはどうだ?」
僕が改めてブラックウォーグレイモンの願いを断ろうとした時、ブラックウォーグレイモンが言葉を重ねてきた。
「もしもお前がこの条件でオレに勝てたら――――オレの結末を――オレの死にざまをお前に決めさせてやると言ったら?」