デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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037 心

 翌朝、目覚めた僕はブイモンを起こし、朝食を普段より多めにとってから徒歩ではじまりの町へ向かった。

 

 はじまりの町へ着くとその前には既にアグモン達前回のパートナーデジモン達が待っていた。

……もしかして待たせてしまっていたのだろうか?

 

 密かにそんな事を考えていると、ブイモンが僕の代わりに尋ねてくれた。

 

 

「みんな早いな。もしかして待った?」

 

「ううん。オレ達もちょうど今来たところだよ」

 

「そっか~それなら良かった」

 

 

 ガブモンの言葉にホッと胸をなで下ろすブイモンと同じく僕も心の中でホッと息を付いた。

それと同時にここにアグモン以外が居る事に少しだけ疑問を覚えた。

……もしかすると自分達も付いて行くって言い出すんじゃ……

 

 そんな事を考えていると、そんな僕の考えを察したのかゴマモンが話しかけてきた。

 

 

「後、オイラ達がここに居るのはただの見送りだよ」

 

「一緒に付いて行こうなんて思ってないから安心して」

 

「ワテ等が付いて行ったところで邪魔になるのは分かってますやさかいに」

 

 

 ゴマモンの言葉にピヨモン、テントモンがそう悲しそうな表情で続いた。

……そんな彼等に何か言葉を掛けたかったがいい言葉が出て来なかった。

僕は取りあえず見送りに来てくれたことにお礼を返し、アグモンの方を向く。

 

 

「一応確認だが……昨日の言葉に変わりは無いんだな?」

 

 

 僕の問いにアグモンは無言で強く頷いた。

気持ちは変わって居ない様だ。

 

 

「……分かった。じゃあ行こうか」

 

 

 僕はブイモンをエクスブイモンに進化させ、アグモンと共にその背中に乗り込む。

そして最後にパルモン達に行ってくると伝えそうとした時、それよりも早くピヨモンが話しかけてきた。

 

 

「も、モリヤ君!」

 

「うん? どうした?」

 

「あの……昨日モリヤ君が帰った後、ミヤコとイオリ達が忘れ物を取りにはじまりの町に来たの。

その時に昨日モリヤ君が話してくれた事を全部話したんだけど……駄目だった?」

 

「井ノ上さん達が?」

 

 

 僕はピヨモンの言葉に驚いたが、同時に納得した。

……成る程、昨日京達があんな行動をしたのもピヨモン達から僕の話を聞いていたからだったのか。

確かに完全体すら手に余る現状なのにその上の究極体が作られたと知ったらそりゃ慌ててしまうのも無理はない。

特に一番年齢が幼く、タケルやヒカリよりも選ばれし子供としての歴が短く、正義感の強い伊織からしたらそうなるのは必然だったかもしれない。

昨日の時点では僕達ですら究極体ダークタワーデジモンは倒せなかったという事になって居るのだから。

……ダメだな、こんな事すら考え付けないなんて。

僕の考えでは京達がその情報を知るのが今日の学校終わりで、その結果を知るのも今日になる予定だった。

だがらその事に対してあまり深く考えていなかった。

……もっと柔軟に考えられるようにならないと。

 

 

「……うん、話して貰ってもよかったよ。どの情報も選ばれし子供たち同士で共有すべきモノだと思うしね」

 

 

 僕がピヨモンの質問にそう返すと、ピヨモン達はホッとした表情を浮かべていた。

……どうやらみんな話して良かったのか多少の不安を覚えていたようだ。

僕の言葉をそんな風に真剣に取り扱っていてくれた皆に感謝の思いを密かに抱いた。

 

 

「じゃあそろそろ行って来る」

 

 

 僕の言葉にそれぞれ色んな応援の言葉を投げかけてくれた。

……最初から暗い顔をして黙って居るパルモンを除いて。

 

 ……パルモンが今何を考えているのかなんとなくは理解している。が、あまり出発を遅らせるのも避けたかった僕は、そんなパルモンに声を掛けずにエ

 

クスブイモンに指示を出して空へと飛び上がった。

 

 

「――――絶対無茶はしないでね!!」

 

 

 はじまりの町を飛び去る直前、大声でそう言ってきたパルモンに僕は軽く手を振り、はじまりの町から飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はじまりの町を出た僕達はブラックウォーグレイモンを見つけ出すため、空から探し回っていた。

ブラックウォーグレイモンが荒らしたと思われる僅かな痕跡や目撃情報を頼りに。

 

 そんな風に数時間探し回っているとようやくブラックウォーグレイモンを見つけ出す事が出来た。

 

 

「アマキ、アレ!」

 

「……確かにブラックウォーグレイモンだね。しかも目撃情報通り一人。

どうやら予想通りアルケニモン達の元から離れているみたいだね」

 

 

 ……もしも未だにアルケニモン達の元に居たのなら不味い事になって居た。原作通りの性格でよかった。

 

 

「どうするのアマキ?」

 

「……ブラックウォーグレイモンはまだ僕達に気付いていない。

だからまずは先回りしてアグモンだけで話して貰おうと思う。

……それでいいかな?」

 

「ボクはそれで構わないけどモリヤ達はどうするの?」

 

「……僕は取りあえず他にやる事があるからそこに向かう。

それが終わったらアグモンの所に戻るよ。

戻ったらアグモンの話が終わるか、話し合いが不成立しそうになるまでは隠れておく」

 

「他に用事があるの?」

 

「……まあね」

 

「そっか、分かった!」

 

 

 アグモンの承諾を取れたので僕達はブラックウォーグレイモンが通るであろう場所に先回りしてアグモンをそこに下ろした。

その後、取りあえずブラックウォーグレイモンがアグモンと戦おうとせずに話し合いに応じてくれるかだけは確認する為そこに留まろうとしたが、アグモンが自分の方は大丈夫と力強く言うのでそれを確認せずに僕達はその場から離れた。

別の目的を果たす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はブイモンをウイングドラモンに進化させある場所に向かっていた。

向かっているのは僕が初めてチンロンモンと会った場所。

破壊すればデジタルワールドに災いが起きると言われているホーリーストーンが建てられている場所の一つだ。

ここに向かう理由は只一つ。アルケニモン達にホーリーストーンを触らせない為だ。

 

 原作でアルケニモン達がホーリーストーンを壊そうとしたのは、マミーモンが何処からかホーリーストーンを壊せば面白い事になると言う情報を手に入れ、興味半分で壊してみようという話になったからだ。しかもそれをマミーモンが話した切っ掛けが、自分の元を離れたブラックウォーグレイモンにアルケニモンが腹を立ててイライラしている時、その空気を換える為に言ったのかきっかけだった筈だ。

―――――つまりこの世界でいう今のタイミングだ。

 

 ……この世界が原作と違う世界だという事は流石に百も承知だ。

だが似ている世界であるのは間違いない。ならば行動してみる価値はあるだろう。

ホーリーストーンの近くにアルケニモン達が居なくても僕達が無駄足を運ぶだけだしね。

 

 そんな事を考えながらホーリーストーンの場所に辿り着くとそこにはホーリーストーンを見上げるアルケニモン達の姿があった。

……どうやら原作通りこのタイミングでホーリーストーンに興味を持ったようだ。

 

 僕達はアルケニモン達を脅かす様アルケニモン達の後ろに音を立てて着陸した。

 

 

「あ、アンタ達は!!」

 

「昨日ぶりですね」

 

 

 まさかこんな場所で後ろを取られるとは思っていなかったのか驚愕の表情を見せるアルケニモン達。

そんな彼女達に僕は敵意は無いを言わんばかりに両手を軽く上げた。

 

 

「そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。少なくとも現時点(・・・)では貴方達と戦おうとは思っていませんから」

 

「減らず口を!! 見ててくれアルケニモン! こんな奴オレが――――

 

「――よしなマミーモン!」

 

 

 先制攻撃を言わんばかりに銃を取り出し銃口を僕達に向けたマミーモンをアルケニモンは止めた。

まさか止められると思っていなかったマミーモンは驚愕の表情を浮かべていた。

 

「ど、どうしてだよアルケニモン」

 

「……こいつはあのキメラモンを倒したんだ。それに昨日ブラックウォーグレイモンに勝てずともあそこまで戦った。

ワタシ達二人じゃ相手にならないよ」

 

「ぐっ!!」

 

「それに相手は現時点では敵意は無いって言ってるじゃないか。ここは大人しく話し合いに応じようじゃないか」

 

「……本当に戦うつもりじゃないんだな?」

 

「はい、現時点ではですが」

 

 

 マミーモンの疑いながらの問いに僕は正直にそう答える。

するとマミーモンは取りあえずは納得したのか銃口を下げてくれた。

……銃は仕舞わずに持ったままだが。

 

 

「ありがとうございます」

 

「ふん……それで一体何の用だい? 敵意が無いのにワタシ達の前に現れたって事は何かあるんだろ?」

 

「はい。とりあえずは貴方達に質問なんですが……貴方達はこの石に一体何をしようとしてましたか?」

 

「……こんなデカい石ころどうしようと私達の勝手じゃないか? それともなんだい?

この石がそんなに壊されたら困る物なのかい?」

 

「――――えぇ。この石はホーリーストーンと言って壊されたらデジタルワールドがとんでもない事になってしまう代物なんですよ」

 

 

 情報を引き出そうと質問を投げかけるアルケニモンの策に僕はあえて乗り、アルケニモンの望む答えを返した。

すると自分の望む答えが返ってきたと言うにもアルケニモンは憎たらしいと言わんばかりの表情を一瞬見せた。

 

 

「……アンタ。そんな事ワタシ達に話してもいいのかい?」

 

「ダメかもしれませんね。でも貴方達もなんとなくは知ってるんじゃないですか?」

 

「……さあね」

 

「……とにかくこのホーリーストーンが壊されるのは不味いので今回はその警告に来ました。

もしもこの警告を無視すると言うなら――――僕達はここで貴方達を倒さなければなりません。

逆にもしもこれから先ホーリーストーンを壊さないと約束してくれるならこの場では見逃します」

 

 

 どうしますかという僕の問いにアルケニモンは考え込んだ。

……現状アルケニモン達は詰みに近いと言える状況だ。

なんせこちらには今まで散々完全体ダークタワーデジモンを倒し続けたウイングドラモンが居る上、この辺りにはダークタワーが建てられていない為、新しくダークタワーデジモンを作ることも出来ない。

その上逃げようにもこの辺りはかなり開けた場所になって居る為アルケニモン達の足じゃウイングドラモンからは逃げられない。

普段使っている乗り物もウイングドラモンの近くにある為使う事も出来ない。

 

 アルケニモンも改めて現状を理解したのかイライラするように指を噛んでいた。

……アルケニモン自身もこの警告通りにするしかないと分かっているのだろうが、恐らく僕の思惑通りに話が進むのが忌々しいのだろう。

だがここは警告に乗って貰いたい。

 

 

「なぁ、ホーリーストーンが壊されたらとんでもない事が起きるっていうのは知ってるんだが、実際は何が起きるんだ?」

 

「……デジタルワールドが消滅します」

 

「「えぇぇぇ!!」」

 

 

 僕の言葉にマミーモンとウイングドラモンが驚愕の声を上げた。

アルケニモン自身も声自体は上げなかったが驚愕の表情を浮かべていた。

まさかそこまでの事が起きるとは思っていなかったのだろう。

 

 

「ホーリーストーンは本来なら普通のデジモンが破壊できる代物ではありません。

だからこそこうして無防備に放置されているんですが、貴方達ならもしかすると破壊出来る可能性があると僕は睨んでます。

だから貴方達にホーリーストーンの事を話しました」

 

「……どういう事だい?」

 

「……貴方達の目的が一体何なのかは検討も付きませんが少なくともデジタルワールドの消滅では無いと僕は考えています。

もしもそれが目的なら態々デジタルワールドの至る所にダークタワーを立てて目立つような行動はしないと思うので。

それにこの世界で生まれたであろう存在が自分達の住む世界を壊そうなどと思わないだろうと言う考えもあります。

もしも本当にデジタルワールドの消滅が目的だと言うなら貴方達にはこの世界以外の拠点が……例えば別のデジタルワールドとか現実世界とかにあるか。それともそもそもこの世界で生まれた存在では無いとか…………色々考えなければならなくなるのでその線は避けたいですね」

 

「…………」

 

 

 アルケニモンは指をさらに強く噛みながら僕の方を睨む。

……恐らく僕の例えが当たっている部分があるからそれを悟られない様に色々考えているのだろう。

もしもここでそれがバレて、その事をアルケニモンの親玉である及川が知ったらアルケニモン自身がどんな目にあるか分からないと考えているのだろう。

……まあ原作知識がある僕には全くの無駄な労力だけどね。

そんな事を密かに考えているとアルケニモンが質問して来た。

 

 

「……ねぇ、一つ聞いていいかい?」

 

「? はい、答えられる範囲であれば」

 

「……ワタシ達はあんた達の敵だろ? それなのにどうして見逃すような事をするんだい?

今はワタシ達を倒すにはこれ以上ないくらい絶好のチャンスじゃないかい」

 

「……それはあの時の借りを返すためですね」

 

 

 アルケニモンの問いに僕はあらかじめその事を尋ねられた時にと考えていた返事を返した。

 

 

「借り?」

 

「はい。貴方は以前僕にダークタワーの要塞とキメラモンの状況を教えてくれた事がありました。

恐らく貴方にも何らかの理由があったんでしょうが、少なくともその情報のお蔭で色々と助かりました」

 

「……それが今回ワタシ達を見逃す理由?」

 

「はい」

 

「……ふん、律儀な奴だね。

――――わかったよ。ホーリーストーンには何もしない。約束して上げるよ」

 

「……本当ですか?」

 

「ホーリーストーンを壊そうとしたのは面白い事が起きるって聞いたからだよ。

まさかデジタルワールドそのものを壊す代物とは思ってなかった。

……この世界はワタシ達にとっても大事なモノだ。知った以上そんな真似はしないよ」

 

「アルケニモンがそう言うならオレも約束する」

 

「……ありがとうございます。では僕達は用事があるのでこれで」

 

 

 アルケニモン達に軽く頭を下げると、僕はウイングドラモンの背に乗ってアグモンの元へ戻った。

 

 

「――――忌ま忌ましいガキだね」

 

 

 最後にそんな捨て台詞が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アグモンが居る場所の近くに戻った僕は、ブイモンの進化を解いて、こっそりアグモンが居るであろう場所へ近づく。

するとそこにはアグモンと、そのアグモンの話を真剣に聞いているであろうブラックウォーグレイモンの姿があった。

……どうやらブラックウォーグレイモンはアグモンの話し合いに乗ってくれたようだ。

僕はその事に安堵の息を付くと耳を研ぎ澄ませ彼等の会話を聞こうとした。

会話の殆どは聞こえなかったが、まれにブラックウォーグレイモンが放つ思いのこもった叫びだけは何とか拾う事が出来た。

……どうやらこのブラックウォーグレイモンも原作通りの悩みを抱えている様だ。

それなら原作と違い、アルケニモン達の邪魔が入らない今ならアグモンだけで説得する事が出来るかも知れない!

そんな希望を持ちながら上手く行くように手を合わせて祈っていると、アグモンがブラックウォーグレイモンに手を差し出した。

ブラックウォーグレイモンはその手を――――――――振り払った。

 

 

「―――――の場で答えを出せないと言うなら――――だ。オレは心が何なのか、本当に――――――、オレのやるべきことを理由を今すぐ知りたい!

だがそれ以外にもやりた―――――――

 

 

 ……所々しか聞こえてこないが、少なくともアグモンの話し合いは失敗したようだ。

 

 

「……どうするのアマキ?」

 

 

 ブイモンも話し合いが失敗したことを悟ったのかそんな事を尋ねてきた。

が、

 

 

「――――」

 

 

 

 僕は無言でブラックウォーグレイモン達の元へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ブラックウォーグレイモン。君は自分の事が知りたいのかい?」

 

「――! お前等はあの時の――――」

 

 

 突然話しかけられたブラックウォーグレイモンは驚いた反応を見せながら僕達の方を向きそんな事を呟いた。

 

 

「……モリヤごめん。ボクじゃブラックウォーグレイモンの質問には全然答えられなくて……」

 

「……いいんだアグモン。それに謝る必要は全然ないよ。

――――今こうして僕達がブラックウォーグレイモンの前に居れるのはアグモンのお蔭なんだから」

 

 

 謝罪して来たアグモンにそう言ってブラックウォーグレイモンの方を向くと、ブラックウォーグレイモンは言葉の意味が分からないと言わんばかりの表情を見せながら戦闘態勢に入った。

 

 

「訳のわからない事を!――――だがちょうどいい、今お前達の話をしていた所だ。

答えが出ない以上オレはお前達との決着を――――

 

「――――僕なら君の望む答えを出す事が出来るかも知れないとしてもかい?」

 

「…………出まかせを。オレと同じウォーグレイモンになれるコイツですら分からない事をお前なら分かると言うのか?」

 

「僕自身君の全てを理解出来るとは思っていない

……だけど少なくともこの世界で一番君の事を理解出来ると思ってるよ」

 

「デジモンですらないお前がか?」

 

 

 その言葉と共にブラックウォーグレイモンは腹を抱える程の大笑いをした。

僕はそんなブラックウォーグレイモンの態度に怒りなど覚えずただ真っ直ぐ見つめていた。

すると笑いが収まったのかブラックウォーグレイモンが笑うのを止め、僕の目を真っ直ぐ見つめた。

 

 

「……いいだろう。少しだけお前の話に付き合ってやろう」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――さて、待たせてしまって申し訳ないです」

 

 

  心配そうに時折こちらを振り返りながらも僕とブラックウォーグレイモンから離れていくブイモンとアグモン。その背中を見ながら僕はブラックウォーグレイモンにそう謝罪した。

ブイモンとアグモンにはブラックウォーグレイモンと二人っきりで話をしたいから席を外して欲しいとお願いした。

……恐らくブラックウォーグレイモンとの話し合いの中には他の誰にも聞かれたくないような事も話す事になるだろうからね。

流石に現時点では敵であるブラックウォーグレイモンと二人っきりになる事はブイモン達に止められたが、必死に頼み込んで何とか席を外して貰えることになった。

……ブイモン達には色々と心配をかけてしまっている自分に少し苛立ち、溜息を吐いた。

すると突然ブラックウォーグレイモンが話しかけてきた。

 

 

「……おい」

 

「はい? ああ早速質問ですか。いいですよ。僕の答えられる範囲でお答えしましょう。

貴方は自分の何を知りたいんですか?」

 

「……オレ自身のことを聞く前に一つ質問だ。どうしてお前はアイツ等を向こうへ行かせた?

オレを舐めているのか?」

 

 

 返答によってはっと言いながらブラックウォーグレイモンは右手のドラモンキラーを僕の方に向けた。

その様子を遠くで見ていたであろうブイモンとアグモンがこっちに向かって走ってきたが、僕はそれを手で制した。

 

 

「……今は答えるつもりはありません。

ですが、もしあなたが自分の事を質問し終わった後にまだそれを知りたいと思っているのならその時に質問してください。その時ならちゃんと答えます」

 

「………………ふん」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは一言そう漏らすと、ゆっくりと右腕を下ろした。

その光景を目撃したであろうブイモン達も渋々僕達からは見えず、声もほぼ届かない位置まで戻って行った。

……ふぅ、取り敢えずはこれで話し合いが開始できそうだ。

 

 

「ではそろそろ始めましょうか。それで貴方はどんなことを聞きたいんですか?」

 

「……じゃあアイツに質問したことをお前にも答えて貰おう。

まず一つ目だ。――――心は何処にあるんだ?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの質問に僕は小さく溜息を吐いた。

……そう言えば原作でも最初そんな事を聞いてたね。

そんな事を思っているといきなり溜息を吐いた僕が不服だったのかムスッとした声色で何のつもりだと尋ねてきた。

……しまった。少し機嫌を損ねてしまった様だ。

 

 

「すいません。いきなり答えづらい質問だったので……」

 

「それはお前も分からないという事か?」

 

「正確には心が何処にあるかなんて分かる人は居ませんよ。何故なら心は目に見えないモノですから。

ただどうしても答えを出すとしたら……少なくとも僕はここにあると思います」

 

 

 僕は心臓辺りに手を当てる。

 

 

「……そこに心が有るというのか? 心は目に見えないモノなのにどうしてそんな事を言い切れる?

そもそも心と言うモノは本当に存在しているのか? もしかするとそれは錯覚ではないのか?」

 

「錯覚ですか……確かにその可能性もありますね」

 

 

 心というモノは今なお人類が研究しているテーマであり、永遠に答えが出ないモノかもしれないと言われているモノだ。

とある人は心とは脳の記憶が生み出した信号だとか、人間を支配しているものだとか、そもそも存在しないモノだとか色々な説がある。

それなら錯覚と言う考え方も間違いでは無いだろう。

 

 そう思ってブラックウォーグレイモンの答えに肯定したのだが、ブラックウォーグレイモン自身は肯定されると思っていなかったのか驚いた表情を浮かべていた。

 

 

「……お前は否定しないのか?」

 

「否定しようにも証明出来ませんからね。心が有るという事を。

それに僕は最悪心というモノが錯覚でもいいと思ってるんですよ」

 

「……どういう事だ?」

 

「例え心が錯覚だとしても……今抱いている想いが心ではなく記憶が生み出した何らかの反応だとしても何も変わりませんから。

今までも、今も、そしてこれからも」

 

 

 今更実は心なんて存在しません。全部錯覚ですって事になってもきっと世の中は殆ど変わらないだろう。

ただこれからもその錯覚と共に生きていくだけだ。……まあ心が無いからと理由を付けて悪い事をするモノ達は居るかも知れないが、それはまた別の話だろう。

 

 

「……だが、少なくともお前は心は胸の辺りに存在する物だと思っているのだろう?」

 

「まあそうですね」

 

「どうしてそう思う」

 

「どうしてですか。そうですね……僕の場合だと何かを守りたいと思う時胸の辺りが熱くなって力が湧いて来るからです。

それ以外にも…………悪い事をしたら胸の辺りが痛むからですね」

 

「悪い事?」

 

「正確には自分で悪いと思っている事をした時です。

どんなに周りにとって正しい事をしても。自分でも最善の事をしたとしてもそう言った時は胸が痛くなるんです。

そうなるのはきっと心がそれを間違いだと思っているからだと僕は考えています」

 

「……では心とは自分の間違いを知らせる為に存在しているのか?」

 

「ある意味そうとも言えるんですが……正確に言うなら心とは、持ち主が持ち主らしく生きる為に存在しているモノだと思います」

 

「……デジモンがデジモンらしく。人間が人間らしくとは意味は違うのか?」

 

「少なくとも僕は、らしく生きるだけなら心なんて無くても問題は無いと考えています。

ただそれだと、その者がどれだけデジモンらしく、人間らしく生きたとしてもそれ以上(・・・・)にはなれません」

 

「それ以上?」

 

「心を持たない者は自分を超える事は出来ません。そもそも『自分』がありませんから。ですが、心を持っている者は『自分』の思いを生きざまを貫き通そうとする時、自分の限界以上の力を発揮出来たりします」

 

 

 

 ……まあ逆に弱くなってしまう事もあるけどね。でも、それでも僕は心が不要だとは思わない。

 

 

「……とにかく心はあるのなら大事にすべきものだと思いますよ。お互い」

 

「……オレは命の無い只の物体だ。そんな俺にどうして心が有るのかお前は説明出来るか?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンが今まで以上に真剣な表情でそう尋ねてきた。

恐らくこれがブラックウォーグレイモンが最も知りたい事なんだろう。

……この質問に関しては僕も原作でブラックウォーグレイモンが悩んでいた事を覚えていたから聞かれると思っていたのだが……

僕は思わず今日一番の溜息を吐きながら答えた。

 

 

「ダークタワーデジモンが只の物体だとしても、生きていて、尚且つその辺の電子器具と違って命令を聞き分ける程の知能があるんなら、心を持つこともそれ程あり得ない話ではないと僕は思いますよ」

 

「ダークタワーデジモンは心を持たないただの人形だ! 心を持つなどあり得ない!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは声を荒げながら僕の考えを否定した。

……どうやら余程自分が心を持っている事を何かの間違いだと思いたいらしい。

だがそう思わせる訳にはいかない。

僕は自分の考えをぶつける事にした。

 

 

「……そのあり得ないと言い切る根拠はあるんですか?」

 

「根拠、だと?」

 

「はい。貴方がダークタワーデジモンは心を持たないと言い切る根拠ですよ。

まさか自分を作ったアルケニモン達がそう思ってるからとは言いませんよね?」

 

「……仮にそうだと言ったら」

 

「話にならないです。確かに今まで戦ってきたダークタワーデジモンは心を持っていませんでした。

それにダークタワーデジモンはそもそもダークタワーという無機物から作られているんですから、心を持って生まれないと思い込むのも無理はないかもしれません。

……ですがアルケニモン達はそもそもダークタワーが何なのかを正確に理解していません。その上アルケニモン達がダークタワーデジモンを作ったのはたかが15体程度です。

たったそれだけの検証回数で、ダークタワーデジモンは心を持って生まれないと判断する事自体間違いだと思いませんか?」

 

「…………」

 

「……それに今回は前提も違います。

今までとは違い、貴方と言うダークタワーデジモンは100本のダークタワーによって作られた今までにないパターンの生まれです。今までは精々多くて10本ですからね。

そう考えるのなら他のダークタワー1~10本の時よりも心を持って生まれる可能性が高いと思いませんか?」

 

 

 少なくとも僕はそう思う。

……それに原作でもアルケニモン達はブラックウォーグレイモンが心を持って生まれた事に驚いてはいたが、少なくとも心を持った理由は、作られた際にデータのカスが流れ込んだからと理由付け出来る程度には頭が回っていた。

……その事から恐らくアルケニモン達も何らかの不手際でダークタワーデジモンにも異常が起きる事があるという考えを持ち合わせていた可能性すらある。

 

 そんな事を考えているとブラックウォーグレイモンは真剣な眼差しで尋ねてきた。

 

 

「……だとしたら仮に奴らがもう一度ダークタワー100本使ってダークタワーデジモンを作り出したとしたらそいつは心を持っているのか?」

 

「……その可能性は低くないと思います。それか、心を持たずに生まれたとしても、自分の力を使いきれずに持て余すかのどちらかだと思います。

僕は心を持たない存在には究極体クラスの力は扱えないという考えを持っていますので」

 

「……そうか」

 

「……貴方は自分と同じように心を持ったダークタワーデジモンに会いたいんですか?」

 

 

 僕は思わずそんな事を聞いてしまった。

……もしもブラックウォーグレイモンがそれを望んでいるのなら流石にそれは止めなければならない。

僕は緊張しながらブラックウォーグレイモンの返答を待っていると、帰ってきたのは否定だった。

 

 

「いや、そう言うわけでは無い。ただ気になっただけだ」

 

「…………そうですか」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはそう言ったが、本当にそう思っているのかは読み取れなかった。

……仮にそう思っていなかったとしてもそれを叶えさせるわけにはいかないけどね。

僕は取りあえずこの空気を変える為、こちらから一つ質問する事にした。

 

 

「……と、ここまで色々話をしてきましたが、僕の答えは貴方にとって満足出来るモノでしたか?」

 

「……最後にオレ自身の事で一つ聞きたい事がある。答えられるならな」

 

「最後、ですか。分かりました。言って下さい」

 

「お前には――――オレがこの世界で何をすればいいのか、いや、何をすべきなのか分かるか?」

 

「……何をすべきか、ですか?」

 

「そうだ! もしもそれが強い奴等と戦う事だというならそれでいい。オレは戦って倒す事に専念する。

……万が一心がある事が戦いの邪魔になるというのならオレは心を捨てよう」

 

「……心を捨てて不完全なダークタワーデジモンから、本当の意味で完全なるダークタワーデジモンになるという事ですか?」

 

「そうなっても構わない。心が邪魔になるのならな」

 

「……ちなみにアグモンはこの質問に何て答えましたか?」

 

「……オレが心を持ったのはお前達と友達になる為だとほざいていた」

 

「その答えに納得は……」

 

「…………答えるまでも無いだろう」

 

 

 その返答にそうですかと僕は小さく返した。

……原作ではかなりいい感じだったのに…………いや、ここで原作との違いを嘆いても何の意味は無いだろう。今はブラックウォーグレイモンの質問に答えるのが先だ。

だがこの質問に関しては僕は今までの質問よりもはっきりと答える事が出来る。

……何故なら僕は原作でブラックウォーグレイモンがどういう存在なのかを知っているからだ。決していい存在では無いという事を。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン一度だけ警告しておきます。貴方はこの答えを聞かない方が良いかもしれません」

 

「……どういう事だ? つまりお前はオレがこの世界で何をすべきか知っているのか!?」

 

「……………」

 

「いいから答えろ! オレはいったい何をすべきかを!!」

 

 

 必死の形相でそう迫るブラックウォーグレイモンに僕は右手を差し出し、四本の指を立てた。

 

 

「……現状僕の思いつく範囲で貴方には4つの選択肢があります。

1つはこの世界にとって悪なる行動。つまり貴方を作ったアルケニモン達の元に戻るという選択肢です。……言うまでも無いかもしれませんが、貴方が作られた元々の理由はアルケニモン達の力になる為です。そう考えるとこの選択肢がある意味一番正しいんですが……」

 

「オレはオレより弱い奴の指図を受けるつもりは無い」

 

 

 僕の言葉に重ねるようにブラックウォーグレイモンは否定の言葉を言った。

どうやらアルケニモン達の元に戻るつもりは無い様だ。良かった。

……だが、ここからが。本当にここからが問題だった。

 

 

「……2つ目はこの世界にとって正しき行動です」

 

「……オレがこの世界の為に出来る事があるのか?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの問いに僕は答えず、しばらく黙り込んだが、ようやくいう覚悟が出来た僕はゆっくりと口を開いた。

 

 

「――――この世界の為に今すぐ自害する事です」

 

「――――」

 

 

 僕の言い放った言葉にブラックウォーグレイモンは驚愕の表情を浮かべた。まさかそんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。

僕はブラックウォーグレイモンが変に勘違いする前にその理由を話し出した。

 

 

「……貴方と言うダークタワー100本で作られた暗黒の存在は、存在そのものがこの世界に悪影響を与え、調和を乱しています」

 

「……存在そのものが?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの確認の言葉に僕は無言で頷く事で返した。

……この真実はブラックウォーグレイモンにとってかなり辛いものだろう。

まさか自分の存在そのものが否定されているなんて誰も普通は思わない。

……だが残念ながらそれは真実だった。

 

 

「…………取り敢えず先に残りの2つもいいますね」

 

 

 このままでは話が続けられないと判断した僕はそうブラックウォーグレイモンに提案した。

するとブラックウォーグレイモンは小さくあぁと返事を返してくれた。

……どうやらまだ僕の話を聞くつもりはあるみたいだ。

 

 

「……3つ目のは、貴方が僕と共にデジタルワールドの為に力を尽くすという選択肢です」

 

「お前と共にデジタルワールドに尽くすだと? だがオレの存在は――――」

 

「分かっています。貴方の存在はデジタルワールドにとっては暗黒の存在と言えるモノです。

……だからこそ僕も隠し事をせずに答えます。

貴方の存在は確かにデジタルワールドに悪影響を及ぼす存在ですが、だからといってデジタルワールドの為に出来る事が無いわけではありません。

……例えば場合によっては貴方よりも上位の暗黒の存在を倒す存在としての地位を築けるかもしれません。

ダークタワーの負なるエネルギーを抑える術を見つけ出したら存在を世界に認められるかもしれません。

そして…………いくら暗黒の存在だとしてもその命は世界の為に使える場合があります。……例えば大いなるモノの封印とかにですね」

 

「……オレの命を封印に使うという事か?」

 

「僕と共にデジタルワールドの為に力を尽くすという選択肢を貴方が選んだとしたらその可能性は否定出来ませんね。

…………僕はあくまでデジタルワールド側の存在なので」

 

 

 ……そう僕はあくまで選ばれし子供であり、転生者だ。

選ばれし子供達やデジタルワールドの為に戦うと決めている以上、いくらブラックウォーグレイモンが味方になったとしても、世界に悪影響を与え続ける存在である以上いつまでも放置する事は出来ない。

……それに原作の様にこの世界のラスボスであるヴァンデモンに対して有利な世界で戦うにはブラックウォーグレイモンの犠牲は必須なのだ。

……こっちにはチンロンモンの力でアグモンとガブモンを一度だけ究極体に進化させる事が出来るという切り札があるが、出来るならより有利な条件で戦いたい。

例えそれがいまこうして話しているブラックウォーグレイモンを犠牲にしたとしても。

 

 

「……それで最後の選択肢は何なんだ?」

 

 

 少し黙り込んでいたブラックウォーグレイモンがそう尋ねてきた。

取り敢えず僕が提示できる選択肢を全て知ってから考える事にしたのだろう。

……ある意味これまでの3つよりも酷い選択肢である4つ目の選択肢をブラックウォーグレイモンに言い放った。

 

 

「4つ目は……ブラックウォーグレイモン。貴方の心の命じたままに行動するという選択肢です」

 


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