デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 今回は話ばかりで展開が殆ど進みません。

 ブラックウォーグレイモンが登場するのは次回の予定です


036 転生者としての使命

「あ、伊織! さっきぶりね」

 

「こんばんは京さん! ……もしかして待たせちゃいましたか?」

 

 

 伊織の心配そうな表情に京は今来た所よと笑顔で返した。

現在の時刻は午後11時頃。京達がこんな時間にデジタルワールドに来ている理由は言うまでもない。

超進化の修行をする為だ。

 

 

「さて、じゃあ早速修行を始めましょうか!」

 

 

 そう言うと京はポケットからD3を取り出した。

 

 

「いくわよ! ホーク「待ってください!」――へ?」

 

 

 手始めにホークモンを成熟期へ進化させようとした京と伊織が慌てて止めた。

 

 

「ここで特訓をするのは止めておきましょう」

 

「なんで? ここならいざという時にゲートまでの距離も近いからいい場所だと思うんだけど」

 

「確かにゲートまでの距離は近いですが、ここは空が開けすぎています。

こんな場所で特訓なんてしていたら空からアルケニモン達に発見される可能性がありますから」

 

「あー確かに」

 

「特訓場所ならあらかじめ良い場所を見つけていますからそこでやりましょう。

そこなら周りの木々が僕達の姿を隠してくれますし、近くにデジモンが暮らしている様子は有りませんでした。今までダークタワーも建ったことが無い場所ですし、ここからの距離もそこまで遠くないですから特訓にはうってつけかと」

 

「予めそんな場所を見つけてるなんて流石伊織ね。分かったわ、そこに向かいましょ。

案内お願い」

 

 

 京の言葉に伊織はわかりましたと返すと、その場所へ向かうべく先導して歩き始めた。

その後を京達は付いて歩く。

 

 お互い話す話題が無いので無言で歩いていると、目的地まで半分来た辺りでふと先頭を歩いている伊織が前を向いたまま京に話しかけてきた。

 

 

「……京さん、すいません僕に付き合って頂いて」

 

「どうしたの突然?」

 

「……京さんは僕が一人で特訓するのが心配だから付いて来てくれたんですよね?」

 

「え、えっと、それは……」

 

「あのタイミングであんなことを話せば、京さんが僕を放っておくわけないと考えれば分かるはずなのに、あの時の僕はそんな事も考えられずに京さんにあんなお願いをしてしまいました。

……すいません。僕の我儘に巻き込んでしまって」

 

 

 数時間前の自分の行動に伊織は俯きながら謝罪した。

……京が今ここに居るのは自分のせいだと思っているから。

 

 

「――――それは違うわ、伊織」

 

 

 だがそれを京は力強く否定した。

突然の反論に伊織は驚いて歩みを止め、京の方を向いた。

 

 

 

「確かにあたしがここに来たのは伊織が一人じゃ心配だからって理由もあるわ。

だけどそれだけじゃないの。

あたしも伊織と同じようにタケルくん達に……守谷君に追いつきたいと思ってるのよ」

 

「京さん…………」

 

「だって悔しいじゃない。同じ選ばれし子供なのにヒカリちゃん達にあんな風に気を使われるなんて!」

 

「……そうですね。僕もあの時はただ純粋に悔しかったです」

 

 

 京と伊織の脳裏に映るのはギガドラモンとの戦い。

勝機が全く見えず、ただやられない為に必死に耐えるしかなかった時の記憶だ。

 

 

「あの時、タケルくんとヒカリちゃんは自分達が囮になるって言ってあたし達を逃がそうとした。

タケル君達は多分……うんん、絶対悪気は無かったと思うんだけど、あの時あたし達だけ逃げろって言われた時、足手纏いって言われてるみたいで悔しかった」

 

「僕もです。

……そしてあの時、タケルさん達にとって僕達は、選ばれし子供としては対等とは思われてないという事もわかりました」

 

「……まあタケルくん達はあたし達よりも選ばれし子供としては三年も先輩だからそう思われるのはしょうがない事かもしれないけど……だからといってはいそうですかって納得は出来ないわ!」

 

 

 京はそう言うと、ポケットからD3を取り出して伊織の前にかざした。

 

 

「だからあたしはもっと強くなりたいの!

ヒカリちゃん達と本当の意味で仲間になる為に!

ホークモン達の世界をあたし達の手で守る為に!

そして――守谷君達にもうこれ以上無理をさせない為に!

――――これがあたしの想い。

ただ伊織が心配だっただけじゃないの。

……分かって貰えた?」

 

「――――はい、充分に!」

 

「良かった。じゃあさっそく伊織の言ってた修行場所へ向かいましょ!

あたし、どうせならぱぱっと完全体に進化出来るようになってヒカリちゃん達をビックリさせたいのよね!」

 

 ヒカリ達が自分がホークモンを完全体に進化させ驚いている光景を想像してゲヘゲヘ笑う京にホークモンとアルマジモンは小声でツッコミを入れた。

 

 

「……そう上手いけばいいんですが、仮に上手く行ったとしても勝手に夜特訓してるのがばれて怒られそうですね」

 

「だぎゃ。特にタイチとヤマトにはこってり絞られそうだがや」

 

「言い訳も今の内に少しは考えておいた方が良いかもしれませんね」

 

 

 ホークモンとアルマジモンの言葉を聞いて伊織はクスリと笑いながら京にそう言葉を投げかけると、京は目に見えてガクリと肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――アンキロモン! もう一度です!」

 

「アクィラモンも、もう一回行くわよ!」

 

 

 そう言って二人はD3を握る手に力を込める。

……が、アンキロモン達の姿に変化は無かった。

 

 

「……ダメですか」

 

「ねぇ、アクィラモン。なんか体の奥底がボァーって燃える感じとかしないの?

何でもいいからさっきと比べてちょっとでも体に違和感を感じたりしない!?」

 

「…………そう言えばそんな感じがしたような」

 

「「本当!?」ですか!?」 

 

「すいませんちょっとしたジョークです。…………すいません」

 

 

 アクィラモンの言葉に京と伊織は隠す気の全くない大きな溜息を吐くと、アクィラモン達を退化させその場に座り込んだ。

 

 

「……やっぱり超進化の特訓は結構胸に来るわね」

 

 

京達はこの場所についてからかれこれ数時間もこの特訓を繰り返したが、結局今まで通り何の成果もあげる事は出来なかった。

その事を含めガクッと肩を落とす京に伊織も続いた。

 

 

「はい……成功か失敗かのほぼ二択しかないので、失敗し続けている限り現状自分達がどれ位超進化に近づいているのかが全く分からないのがかなり来ますね」

 

「コンピューターのプログラムと一緒ね。

いくらプログラムがほぼ完璧でも少しでも違ってる所があったら起動しない所とかそっくりだわ。

……まあ色々とかみ合えばプログラムがダメでも起動する場合があるけど、そんな時は直ぐに駄目な所が分かるし」

 

「超進化の修業も剣道の様に少しずつ上達していくものだったら良かったんですけどね……」

 

 

 京と伊織はそれぞれ特訓が上手く進まない事に愚痴を吐いていた。

――――が、その表情は意外と暗いものでは無かった。

 

 

「……なんかいいわねこの感じ」

 

「どういうことですか?」

 

「なんか皆より修行してる自分達がいいなって思ったの」

 

「……練習する事自体に満足してはいけませんよ? 僕達の目的はあくまで完全体に……」 

 

「分かってるって。でも少しくらいいいじゃん。

ようやくタケルくん達に追いつけるかもしれないって状況まで来れたんだから」

 

「……まあ確かにそうですね。僕達はようやくこの状況を用意する事が出来ました。

これでタケルさん達にもっと近づける可能性が……守谷さんと一緒に戦える可能性が高まりましたね」

 

 

 最低でもこれを毎日続ければの話ですが、と呟く伊織に京はその場から立ち上がって答えた。

 

 

「勿論今日出来なかった位であたしは諦めない! これから毎日昼と夜の特訓を続けてぱぱっと完全体に進化出来るように頑張るわ!」

 

 

 京の宣言に伊織は小さく笑うと、京と同じように立ち上がった。

 

 

「はい!

京さん、ホークモン。そしてアルマジモン。

明日からもよろしくお願いします!」

 

 

 伊織の言葉に京達は満点の返事を返した。

 

 この日の特訓で京達が掴んだものは無かったが、京達はそれに対して落ち込んでいる様子は無かった。

寧ろここ最近で一番陽気な雰囲気かもしれないと言える程明るいものだった。

 

――――が、

 

 

「―――――いえ、この時間の特訓に関しては今日までにしてください」

 

 

 たった一言背後からある者に話しかけられただけで、その陽気な雰囲気は壊れる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――も、守谷――くん?」

 

 

 僕の言葉に初めに返事を返したのは京だった。

今日の23時頃、明日の戦いの事を考え早めに何時もの場所で眠っていた僕達だったが、突然D3が反応し、僕は飛び起きた。

D3を確認してみると、どうやら選ばれし子供の誰か二人がデジタルワールドに来ていて、何処かに向かっている様だった。

僕はその事に疑問を覚えながらも、隣でぐっすり眠っているブイモンを起こし、ウイングドラモンに進化させ、その場所へと向かった。

 

 選ばれし子供達の近くまで来た僕達は念の為、ウイングドラモンの進化を解き、地上からこっそり選ばれし子供達の元へと向かってみると、そこには京と伊織。ホークモンとアルマジモンの姿があった。

京達の様子から、何か嫌な事が起きたわけでは無いという事が分かり、安堵の溜息を吐きながら京達の後を付けていると森のなかでも少し広い場所へと辿り着いた。

その場所についてしばらくすると、京と伊織は自身のパートナーを成熟期へと進化させ、何かを始め出した。

 

 その様子と、時折僅かに聞こえてくる京の声から、京達が完全体への進化の特訓をしているのだと気付いた僕は、小さく息を吐きながらその場に座り込んだ。

 

 ……取り敢えず今回京達がこの時間にデジタルワールドに来た理由は分かったが、この展開は予想外だった。

京達にとってデジタルワールドは、ホークモンやアルマジモン達が暮らす大切な世界ではあるが、まさかここまでするとは思わなかった。

……それ程までに追い詰められていたのか? それか伊織辺りが、自分達はタケル達よりもずっと遅れてるのに同じ修行をしててはダメだとか言い出したのか? それとも他に理由があるのか……?

 

 ……とにかくこんな無茶を明日以降も続けると言うなら止めなければならないと判断した僕は、取り敢えず京達の特訓が終わるまでこの場所で見張る事にした。

 

 それから約二時間程経過すると、京達はパートナーの進化を解いてその場に座り込んだ。

……ここまでか?

 そう判断した僕は、そろそろ姿を現そうと飛び出すタイミングを伺っていると、離れた場所に居る僕にすら聞こえる大声で京が宣言し出した。

 

 

「――――勿論今日出来なかった位であたしは諦めない! これから毎日昼と夜の特訓を続けてぱぱっと完全体に進化出来るように頑張るわ!」

 

 

 その宣言に伊織達も同意するように声を上げていた。

……やっぱりこの特訓を明日からも続けるようだ。

 僕はそれを辞めさせるべく、その場から立ち上がり、京達の方に向かいながら話しかけた。

 

 

「いえ、この時間の特訓に関しては今日までにしてください」

 

 

 僕の言葉に京達は驚きながら僕の方を振り向いた。

そして僕の姿を認識すると、それ以上に驚愕した表情を見せた。

 

 

「――――も、守谷――くん?」

 

 

 暫く硬直した空気が続いたが、そんな中、僕の言葉に初めにそう返事を返したのは京だった。

京達にとって今僕がこの場所に居るのは本当に予想外だったようだ。

取りあえず僕は返事を返す事にした。

 

 

「はい。お久しぶりです」

 

「え、あ、う、うんそうね。久しぶり……」

 

「……さっきの僕の言葉、聞こえましたか?」

 

「う、うん……」

 

「それなら良かったです。

……夜のデジタルワールドは危険です。どこに謎の女達が潜んでいるか分かりませんから。

それに、石田さんや泉さん達にはじまりの町以外へ行くなと言われている筈です。

……どうして井ノ上さん達が今日ここに居るのか理由は聞きませんし、誰にも言いません。

だからこの時間の特訓は今回までにしてください。

焦る気持ちは分かりますが大丈夫です。井ノ上さん達ならいつか必ず完全体へ進化させる事が「――どうして守谷さんがここに居るんですか!?」

 

 

 この場でただ一人僕の言葉に反応を返してくれる京と話していると、突然伊織がそう言って言葉を挟んできた。

……その表情には恐らくだが怒りが含まれていた。

 

 

「……僕の事はどうでもいい。とにかく火田君達はもう家に帰った方が良い。

今はもう一時過ぎだ。これ以上無理をしたら明日の学業にも影響が出「そんな事はどうでもいいから質問に答えてください!!」

 

「……そんな事を一々君達に話すつもりは無い」

 

「なら僕は守谷さんが話してくれるまで家には帰りません!!」

 

 

 両手を強く握りながら僕を睨みつける様な目でそう宣言する伊織。

……伊織はこういった嘘を付かない人間だという事は知っている。

そして伊織はこうだと決めた事は絶対に曲げない一面がある事も知っている。

原作でもブラックウォーグレイモンからホーリーストーンを守るべく立ちふさがった際、退けと言われてもその場を動かなかった。

その後ブラックウォーグレイモンが突撃して来た際も伊織は動かなかった。

……あの時エンジェモンが助けに入って居なければ伊織は…………

 

 ……とにかく伊織がこう言っている以上、僕が話さなければ本当に帰らないつもりだろう。それなら……

 

 

「……話せば帰るんだな?」

 

 

 僕の問いに伊織は無言で頷いた。

 

 

「……分かった。

僕がここに居るのは君達がデジタルワールドに来たとD3が反応したから様子を見に来た。ただそれだけだ」

 

「D3にそう言った機能がある事は知ってます。

ですがそれが適用されるのはお互いがデジタルワールドに居る時だけの筈です!」

 

「…………ああそうだ。僕は君達がデジタルワールドに来る前からデジタルワールドに居た。

だから火田君達が来た事を知れた」

 

「どうしてこんな時間までデジタルワールドに居たんですか!?」

 

「……質問にはもう答えたはずだ。だからもう帰れ」

 

「質問が一つだけなんて言ってません!!!」

 

 

 僕の言葉に食い掛かるように伊織がそう言った。

……確かに質問が一つとは言っていないが……伊織はそんな屁理屈みたいなことを言うような人間だっただろうか?

いや、本来の伊織ならそんな事はしないだろう。

という事はこの場での質問は伊織にとってそれ程に重要なものだという事なのか?

……仕方が無い。心配を掛けてしまう事になるだろうからあまり言いたくなかったのだが、伊織がこんな状態である以上言うしかない。

僕は溜息を吐いて、話し出した。

 

 

「……ここ最近の謎の女達の行動が個人的に不可解でね。あまり放置するわけにもいかないと考え、

――――今は殆どデジタルワールドから出ていない」

 

「…………」

 

「…………え?」

 

 

 僕の言葉に言葉を返したのは伊織では無く隣に居た京だった。

 

 

「それってどういう事? はは、それじゃまるでデジタルワールドで暮らしてるって言ってるみたいじゃない」

 

 

 引きつった顔で笑う京に僕は言葉を返した。

 

 

「……その通りです。僕は今デジタルワールドで寝泊まりしています」

 

 

 僕の言葉に京は一瞬意味が分からないと言った表情を見せた。

が、すぐさま表情を怒りを含んだものに変えゆっくりと話し出した。

 

 

「守谷君……貴方馬鹿じゃないの?」

 

「僕が馬鹿、ですか?」

 

「ええそうよ! 大馬鹿野郎よ!! 何が殆どデジタルワールドから出てないよ!

そんなんじゃ守谷君の現実世界での生活はどうなるのよ!?」

 

「……僕の生活なんてどうでもいいんですよ。元々学校もサボり気味でしたし、趣味もやりたいことも無いですし」

 

「そう言う問題じゃないの!

――っていうか守谷君、殆ど家に帰ってないって言ったけどその理由を両親は知ってるの?」

 

「両親がですか? …………話してないですね」

 

「話してないって馬鹿馬鹿し過ぎて話にならないわ! こんな事をするなら最低でも親に話を「――――居ないんですよ」

 

 

 京の言葉に今度は僕が言葉を重ねた。

 

 

「僕は幼いころに両親に捨てられていますから親は居ないんですよ」

 

 

 これは紛れもない事実だ。

僕が前世の記憶を理解し始めた二歳頃の時には既に僕は捨てられていて、おじいちゃんに育てられていた。

……前世の記憶を持っている僕としたらこの事実は正直どうでもいい事だ。

正直捨てられた理由すらも興味が無いからおじいちゃんに理由を尋ね無い程に僕には関心が無かった。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

 そんな僕の本音とは裏腹に京は聞いてはいけない事を尋ねてしまったと、先程までの怒りを一瞬で仕舞い込み申し訳なさそうに謝罪して来た。

……こうなる事は分かっていたからこそ今までこの事は誰にも話さなかったんだけどね。

……だが今はある意味チャンスだった。上手く行けばこのまま京達を元の世界へ返す事が出来る。

 

 

「……という事情もあるので元の世界には僕の帰りを待つ人は居ないんですよ」

 

 

 学校の先生も同級生も誰一人僕の事を心配していないだろう。

……只一人僕の事を心配してくれる存在だろうおじいちゃんは、何故か数か月前から殆ど僕の前に姿を現さなくなった。

これに関しては全く理由に心当たりが無かったが、少なくともそんな現状は僕にとっては好都合だった。

 

 

「因みに僕は別に現実世界が嫌だからデジタルワールドに逃げている訳ではありませんよ?

ただ今はどうしてもデジタルワールドから目を離したくないから居るだけです。

事が落ち着けばちゃんと普段通りの生活に戻します。約束します。

だから今は、僕の事は放っておいてください。これはデジタルワールドを守る為でもあるんです。どうかお願いします」

 

 

 こんな生活をするのは今だけと伝え、何とか納得して貰えるように頭を下げる。

……京達には頭がおかしい奴だと思われるかもしれないが、本当に今のデジタルワールドは危険な状態だった。

何故か原作よりも弱体化している四聖獣の力に加え、更に今この世界にはダークタワー100本で作られたブラックウォーグレイモンが存在する。

もしもブラックウォーグレイモンが原作通りホーリーストーンを壊し始めたら本当に不味い事になってしまう。

だから今は本当にデジタルワールドから目を離せる状況では無いのだ。

……目を離したら今回の京達の様に選ばれし子供達が夜に来てしまう可能性がある事も今回でハッキリしたしね。

原作と違い、アルケニモン達に全く対処できない選ばれし子供達を無防備にデジタルワールドを歩かせるのは避けるべきだろう。

 

 

「……だったら最後に一つだけ答えてください」

 

 

 頭を下げて京の返事を待っていると、伊織からそんな言葉を投げかけられた。

頭を上げ、伊織に視線を向けてみると――――伊織は様々な感情が入り混じった表情をしていた。

 

 

「……前に僕が守谷さんにどうして戦うのかと質問した際、守谷さんは、デジタルワールドを救う事が使命だと思っているからだとおっしゃいました。

……だけどこの言葉は本音なんですか!? 本当に『そんな』事の為に守谷さんは身を削って戦ってるんですか!?」 

 

 

 ……今日の伊織はやはり普段とは何か違う感じがする気がするが、それが何かを読み取れるほど僕は人の心を読めないし、伊織との交流関係も長くない。

だからこそなのかこの質問には僕の思いを包み隠さずに伝える事にした。

 

 

「――――ああ、そうだ。デジタルワールドを救う事、それが僕の使命であり、やるべきこと。そして何をしてでもやらなければならない事なんだ」

 

「……………………そうですか」

 

 

 僕の言葉に俯いてそう返事を返した伊織は、俯いたまま現実世界へのゲートの方へと歩いて行った。

その後ろを京達も無言で付いて行く。

 ……その後ろをいつの間にか木陰で眠っていたブイモンを背負ってこっそり追いかけ、伊織達が約束通り現実世界に戻ったのを確認した僕は、ぐっすり眠っているブイモンを起こすのは忍びないと思ったのでそのまま背負った状態で寝泊まりしている場所へと向かった。

 


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