デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 遅くなって申し訳ございません


035 伊織の思い

 守谷達がはじまりの町を出た頃、はじまりの町へと向かう4つの影があった。

 

 

「――――伊織がこんなミスするなんて珍しいわね」

 

 

 その影の一つ――京がどうしたの? と歩きながら少し心配そうにもう一つの影――伊織を見つめる。

そんな京に顔を合わせないまま伊織は俯きながら言葉を返した。

 

 

「……はい。

すいません京さん。わざわざ付いて来てもらって……」

 

「いいのよいいのよ。同じマンションに住んでる仲じゃない」

 

 

 申し訳なさそうに言葉を返した伊織に京はそう返した。

 

 そもそもこんな事になった経緯は、今日の修業を終え、皆と共に現実世界に戻ろうとゲートの前に立った時に伊織が忘れ物をしていることに気が付いた事が切っ掛けだった。

始めは忘れた物が剣道関連だという事もあり、明日取りに来ようという話になって居たのだが、伊織が大事な剣道道具を置いて帰る事は出来ないと言うので、最終的に伊織と京、アルマジモンとホークモンが一緒に取りに戻る事になった。

二人と二匹だけで行動する事にタケルとヒカリ達は反対していたが、

通る場所が謎の女はおろか、ダークタワーでさえ一本も建ったことない場所だという事と、

直ぐに戻るという言葉もあって最終的にはタケル達も伊織達だけの行動を認めた。

 

 自分のミスのせいで京にも迷惑をかけてしまっていると落ち込んでいる伊織の姿を見たホークモンは、伊織を元気づけるべく言葉を投げかける。

 

 

「気にする事ないですよ。どうせミヤコさんは早めに家に帰っても勉強とかしないので気にする事なんてな……」

 

 

 そう言い切ろうとしたホークモンだったが、ハッと京に睨まれている事に気が付き、両手で口を押え言葉を止めた。

そんな二人の行動に少し笑ったアルマジモンだったが、直ぐに緩んだ口元を戻すと、心配そうな表情を伊織に向けた。

 

 

「それんしてもミヤコの言う通りイオリが忘れもんするなんてめずらしいだぎゃ」

 

 

 何かあったのか? と尋ねる言葉に伊織は更に下を向いた。

その様子から察しがついた京は小さく溜息を付いた。

 

 

「……あんたまだ特訓時間が足りない事を悩んでるの?」

 

「…………はい」

 

「はぁ……。確かにあたしと伊織はタケルくん達と比べて色々遅れてる。

けど、それはしょうがない事でしょ? だってタケルくん達は3年前に先に選ばれし子供に選ばれてデジタルワールドに来てるんだから」

 

「……それはわかってます」

 

「それにあたし達だって努力してない訳じゃないでしょ? 今日だって時間の限り特訓したじゃない」

 

「でも……」

 

「さっきも言った通り、あたしも伊織の気持ちは分かる。

ただでさえ遅れてるあたし達がタケル君達と同じ特訓してちゃ、タケルくん達ですら出来ない超進化なんて出来る気がしないって事も……!

だけど仕方ないじゃない! 時間も場所も無いんだから!」

 

「…………すいません。そうですよね」

 

 

 京の言葉に伊織は小さく謝罪した。

 

 京の言う通り、京達には特訓する時間も場所も無かった。

何故ならヤマト達にはじまりの町以外での特訓を禁止されているからだ。

はじまりの町には特殊な結界が貼ってあり、正確に場所を把握できない限り悪の存在はこの場所に辿り着く事は出来ない仕組みになって居る。

だからこそ京達は今まで謎の女達の襲撃に怯えることなくのんびりと特訓に集中する事が出来ていた。

……だがはじまりの町には赤ちゃんデジモン達が暮らしているので遅くまでは使う事が出来ない。

それに加え、京達にも現実世界での生活がある為、結局平日は放課後から夕食の時間位までしか居られないのだ。

伊織もそれを理解しているからこそ、京にそこを突かれたらそれ以上言葉は出なかった。

 

 

 その後、気まずい空気になり、誰も一言も発する事無くはじまりの町へ着いた京達だったが、

そんな彼女達の目に町の中心で意味ありげに集まっているアグモン達の姿が映った。

 

 

「……何かあったんでしょうか?」

 

「行ってみましょ!」

 

 

 そう言ってアグモン達の方へ走り出す京。

その後を伊織達も付いて行く。

 

 

「おーい、アグモン、皆! 何かあったの?」

 

 

 京の声にアグモン達は一瞬驚きながら京達の方を向いた。

京達が現れるのはアグモン達にとって相当予想外だったらしく少し硬直していた。

そんな中、京の言葉に初めに反応したのはテントモンだった。

 

 

「み、ミヤコはん!? それにイオリはん等も。今日はもう帰られたんとちゃいましたか?」

 

「それが伊織が忘れ物しちゃってね。急いで取りに来たの」

 

「はい。大事な剣道の道具を忘れてしまって」

 

「な、成る程」

 

「ねぇねぇ、それより皆なんか集まってたみたいだけど何かあったの?」

 

 

 京の言葉にうっと、一歩後ずさるテントモン達だったが、突然円を組んで何かを話し合い始めた。

そんな彼等の姿を見て、京達は顔を見合わせ、首を傾げた。

 

 

「……何してるのかしら?」

 

「……詳しい話はわかりませんが、何やら僕達に話すべきかを話し合ってるみたいですね」

 

 

 取りあえずテントモン達の話し合いが終わるまで待っていようという事になり静かに待っていると、話し合いが終わったのか全員がよって来た。

 

 

「……もしかすると聞かん方がええ話かもしれまへんが、それでも聞きたいでっか?」

 

 

 テントモンの意味ありげな問いに内心首を傾げながらも京達は無言で頷いた。

その反応を見たテントモンは一瞬俯き、顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……ほな、話しますわ。実はさっきモリヤはんが――――

 

 

 そう言ってテントモンは京達に先程あったことを話した。

京達が帰った後に守谷がはじまりの町に来た事。

謎の女がデジモンだったという事。

謎の女の目的がデジタルワールドにダークタワーを建てるという事だった事。

完全体よりも強力な究極体ダークタワーデジモンが作られたという事。

そいつは守谷達でも倒しきれない程強く、その上時間が経てば強くなる最悪なデジモンだという事。

だがそいつには他のダークタワーデジモンと違い心が有ったという事。

明日、そのデジモンが敵か味方かを見極める為に守谷達とアグモンがそのデジモンに接触するという事。

守谷が話した全ての内容を京達に伝えた。

 

 その話を聞いた京達は、思った以上の話の濃さに少し頭が痛くなったが、

驚愕以上に完全体より上の存在、『究極体』が作られたという事に恐怖した。

 

 

「そ、そんな……まだあたし達完全体にもなれないってのに更にその上が現れるなんて……」

 

「……モリヤはもう究極体ダークタワーデジモンは作られないと思うと言ってたけど、

そもそもダークタワーで究極体まで作れるって事にオイラ驚いたよ」

 

「えぇ、ワタシもよ。

……もしもアルケニモン達の目的が選ばれし子供達を倒す事だったなら……」

 

 

 ゴマモンに続きピヨモンがぼそりと呟いた言葉に京達は下を向かざるおえなかった。

そんな場の雰囲気を変えるべく、ホークモンは先程の様に話題を変えるべく立ち上がった。

 

「そ、それよりどうしてテントモン達はこの話を話すか迷っていたんですか?

モリヤさんに口止めでもされていたんですか?」

 

「いや、そういう訳やありまへんが……」

 

 

 頭をかきながらそう曖昧な言葉を返すテントモン。

回りを見てみると、ゴマモンもピヨモンも似たような反応をしていた。

 

 

「……うーん、確かにオイラ達はモリヤに口止めなんてされてないけど、

何て言うか……今日のモリヤを見てると、なんだかあまり話さない方が良いのかなって思ったんだ」

 

「ワタシもおんなじ事思った。

……ワタシ今までモリヤくんがどんな子で何考えてるか全然分からなかったんだけど、

今日は少しだけ分かった気がするの」

 

 

 ピヨモンはそう言うと、悲しそうに俯いた。

 

 

「……モリヤ君は多分、私達が思ってる以上にデジタルワールドの為に戦ってる。

どうしてそこまでデジタルワールドの為に戦うのかわからないけどワタシはそう感じたわ。

…………それに…………」

 

「……それに?」

 

 

 アルマジモンの問いにハッとなったピヨモンは、何でもないわと誤魔化す様に言葉を返した。

 

 

「とにかくワタシ達は、モリヤ君が思っている以上にデジタルワールドの為に戦ってくれてるって事が分かったの。でもそんなモリヤ君の行動を皆に話したら、明日のモリヤくんの作戦とか行動に支障がでちゃうかもしれないと思ったら……」

 

「話すか話さないか迷っちゃったんだ。みんなごめんね……」

 

 

 そう言ってアグモンは申し訳なさそうに謝罪した。

後ろのテントモン達も申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

 未だ完全体より強いダークタワーデジモンが作られたという現実に気持ちが落ち込んでいた京だったが、そんなテントモン達の姿を見て、これ以上こんな顔をさせてはいけないと思い、元気そうな声でテントモン達に言葉を返した。

 

 

「みんなそんな顔しないでよ! あたし達全然怒ってないから!

そうよね伊織?」

 

 

 京の問いに伊織は小声ではい、と答えながら頷く。

 

 

「ほら、伊織も怒ってないって!

だからそんな顔しないでよ。そんな顔されちゃこっちが悪いことした気分になっちゃうから……」

 

「……そうだね。ごめ……いや、ありがとうミヤコ」

 

「いいのよいいのよ。

……それで守谷君は明日、アグモンとそのブラック、ウォーグレイモン?ってダークタワーデジモンに会いに行くんだよね?」

 

「うん」

 

「その…………ブラックウォーグレイモンとは話し合いだけで済みそうなの?」

 

「……それは分からない。ボクはまだブラックウォーグレイモンと会った事が無いからどうなるか全く分からないんだ」

 

「そうなんだ。

……じゃあもしも――――もしもよ? もしも話し合いで解決出来ずに戦いになったら……アグモン達は無事に帰って来れるの?」

 

 

 これが京が、守谷達がブラックウォーグレイモンに会いに行くと聞いた時から頭に浮かんでいた疑問だった。

自分達がまだ成熟期クラスの力しかないのに、完全体以上の力を持ったダークタワーデジモンが現れたのは京にとってはかなりの恐怖だった。

だけどそれ以上に守谷達がそんな存在と戦う事になるかも知れないと知った時、それ以上に恐怖した。

もしもそんな事になってしまったら……守谷達が帰って来れるのかと。

もしかしたら死んでしまうのでは……そう思ってしまった。

――――そしてそんな事になってしまったら残された自分達は……

 

 

「――――きっと大丈夫さ」

 

 

 いつの間にか少しだけ視線を下げてしまっていた京に、アグモンは心強く答えた。

 

 

「例え明日の話し合いが失敗しても……戦う事になったとしても、絶対にボク達は帰って来るよ!」

 

「ど、どうしてそう言いきれるの?」

 

「――――ボクがそうしてみせるから! ……じゃダメかな?」

 

 

 前半の強い思いのこもった言葉に対し、後半はかなり小さな声だった。

 

 

「皆も知ってると思うけど、モリヤはミヤコ達と同じ選ばれし子供なのにみんなとはちょっと違う。

何て言うか、何でも一人で戦おうとしてるんだ。

モリヤがボク達を頼るのは、本当にどうしようもない状況の時だけ。

それ以外は、どんなに辛い事があっても一人で抱え込んじゃうんだ」

 

「……そうね」

 

「前のキメラモンの時は、偶然ボクが居たからボクを頼ってくれた。

だけど今回は違う。今回はモリヤが『ボク』を頼って来てくれた。

それが本当に嬉しかった! だからボクは絶対に明日の作戦を成功させてみせる!

……どっちの結果に転んでもね。

ま、まあ明日はボクもブイモンも居るし、戦いになっても何とかなると思うよ?

元々モリヤ達だけでも倒せたかもしれないとか言ってた―――「どうしてそこまで守谷さん達の為に戦えるんですか?」

 

 

 アグモンの言葉を遮るように伊織が訪ねた。

伊織にとっては先程のアグモンの言葉は少し疑問だった。

別に伊織が守谷の事を嫌いなわけでは無い。アグモンが守谷達の為に全力で戦うのを否定している訳でも無い。ただ、何となく漠然とした直感だが、アグモンは伊織や京、それ以外の選ばれし子供達よりも守谷達の事を気にかけている気がしたのだ。

伊織にとってそれが疑問だった。どうしてそこまで守谷達の事を気にしているのかが。

 

 

 伊織の質問にアグモンは一瞬ポカンとした表情になったが、質問の意味を理解すると、少し照れくさそうに頭をかきながら答えを返した。

 

 

「――――だってモリヤ達は、勇気のデジメンタルを引き継いだボクや太一の…………ううん。ボクにとって初めて出来た『後輩』だからだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アグモン達の話が終わった後、伊織の忘れ物を回収した京達は、現実世界に帰るべく来た道を戻っていた。

……正直に言って京達はまだ守谷達が究極体の元へ行く事に完全には賛成していなかったが、アグモンのあの表情を見ているとそれ以上言葉を挟むことが出来なかった。

 

 

「……ねぇホークモン。明日、守谷君達ちゃんとブラックウォーグレイモンとの話し合いを成功させて無事に帰って来るわよね?」

 

 

 京の問いにホークモンはそれは……と、言いづらそうに視線を下げながら答えた。

 

 

「……ワタシもブラックウォーグレイモンとは会った事が無いので断言は出来ませんが……ハッキリ言って話し合いで解決するのは難しいと思います。

直接ブラックウォーグレイモンを見たパルモンの話を聞く限りではハッキリ言って話し合いが通じる相手とは到底思えません。

……いくら心が有ると言っても、だからと言って誰とでも仲良くなれるものじゃないですからね」

 

「…………やっぱりホークモンもそう思うのね」

 

「はい……。ですが、同時にアグモンの強い思いを聞いてワタシは戦いになっても大丈夫だと思いました!

ミヤコさん、心配しすぎないでください。モリヤさん達は無事に帰ってきますよ」

 

「――――そうね。守谷君達はあたしたちよりもずっと強いもんね!」

 

 

 ホークモンの言葉を聞いてようやく心が落ち着いた京は、さっきまでの自分の様にずっと下を向きながら歩いている伊織を励ますべく言葉をかけた。

 

 

「伊織、ホークモンも言った通り守谷君達なら大丈夫よ!

例え話し合いが失敗しても無事に帰って来るわよ」

 

「…………」

 

「いや、もしかしたら本当に話し合いが成功しちゃったりするかも!」

 

「そうですね! まだそうならないと決まった訳じゃないですしそうなる可能性も十分あり得ますね!」

 

「…………」

 

「……イオリぃ?」

 

 

 京とホークモンの言葉に一切反応を見せない伊織をアルマジモンは心配そうに覗き込む。

すると突然伊織が歩みを止めた。

 

 

「……どうして京さん達はそんな風に気楽に考えられるんですか?」

 

「――――え?」

 

「京さん達だけじゃないです……アグモン達も、どうして皆この現状に危機感を覚えてないんですか!」

 

 

 顔を上げてそう訴える伊織の表情は……様々な感情が込められた顔をしていた。

 

 

「確かに守谷さんは僕達と違って、パートナーは勿論、アグモンやパルモンをも完全体に進化させる事が出来る凄い人です。

ですが今回現れた敵は、完全体より上の段階の究極体なんですよ!?

なのにどうして皆こんな呑気に構えられるんですか!」

 

「そ、それは……アグモンが凄いやる気だったのと、守谷君が勝てない相手じゃないとか言ってたらしい「そうじゃないんです!!! そうじゃ、ないんですよ…………」

 

 

 京の言葉を伊織は大声で遮った後、今度は小さな声でその言葉を繰り返した。

その後、しばらく無言で俯いていた伊織だったが、多少落ち着いたのか俯いたまま話し出した。

 

 

「……僕が言っているのはそういう事じゃないんです。

僕が言いたいのは、究極体という敵が現れたのに特に対策を講じない現状に関してなんです」

 

「それは…………」

 

「……確かに究極体が現れたと言うのに何もしないワタシ達は呑気すぎるかも知れませんが、あまりミヤコさん達を責めてあげないでください。何故なら……」

 

「……わかってます。

僕達が考えた所で解決しない問題かもしれない事だという事はわかっています」

 

「そうですか。

……それにイオリさんも聞いていたと思いますが、モリヤさんはもう究極体は作られないと言ってたそうです。

ですからあまり深く考えない方が良いかもしれませんよ?

イオリさんがおっしゃる通り、考えても答えは出無さそうですし」

 

「…………そこなんです」

 

 

 ホークモンの言葉に引っかかる事があったのか、伊織はそう言うと顔を上げた。

 

 

「どうして皆さんは守谷さんが言ったからと言ってもう究極体が作られないと思えるんですか?

守谷さんは僕達に散々嘘を付いてきた人ですよ? それなのにどうして今回は嘘じゃないと疑わないんですか!」

 

「い、伊織、落ち着いて!

確かに守谷君は色々あたしたちに嘘を付いたけど、決してあたし達を騙して貶めようとした訳じゃないと思うの!

寧ろあたし達を危ない事から遠ざけ…………!」

 

「そうです。守谷さんは確かに僕達に色々嘘を付いてきました。いえ、現在進行形で様々な嘘を付いているんでしょうね。

……ですが今まで付いた嘘は殆どが僕達から危険を遠ざけるものだったと思います。

だとしたら――――」

 

「……守谷君はあたし達に心配を掛けない為にもう究極体が作られないって嘘を付いたかもしれないって事?」

 

「少なくとも僕はそうじゃないかと考えています。

……いくら究極体ダークタワーデジモンを作るのにダークタワーが100本必要だとしても、……心を持つというイレギュラーが発生したとしても、だからといって絶対にもう究極体が作られないと断言できる筈が無いと思うので」

 

 

 伊織の言葉にそんな……と京は絶望の入り混じった表情で呟いた。

 

 

「……仮に、仮に本当にもう究極体が作られないとしても僕はこの現状が嫌なんですよ。

戦える選ばれし子供が一人しかいないのに誰もその事に気を留めないこの現状が……」

 

「……どういう事?」

 

「……明日、守谷さんは、ブイモンとアグモンと連れてブラックウォーグレイモンに会いに行きます。

一応話し合いをすると言う名目らしいですが、僕も先程京さん達が言った様に戦いになると思います」

 

「……そうね」

 

「そして戦いになったとしたら…………ここはアグモンの言葉を信じて勝ったとしましょう。

ですが勝ったとしてもきっとブイモン達にとっても、守谷さんにとっても消耗の激しいギリギリの勝利になると思います。敵は今までと同じ進化形だった完全体では無く究極体なんですから」

 

「……そうね。それにヤマトさん曰く、守谷君の紋章無しの超進化は体力的なモノを使うって言ってたしね」

 

「はい。……そしてここからです。

その後、仮に完全体ダークタワーデジモンがデジタルワールドで暴れたらどうなると思いますか?」

 

「完全体はあたし達じゃ相手にならないから守谷く………!!」

 

「……ただの完全体ダークタワーデジモンだったらまだいいです。

仮に暴れるのがダークタワーデジモンを作っているアルケニモン達だったなら?

過去にヒカリさんを攫おうとした暗黒の海に住む謎のデジモン達だったとしたら?

再びキメラモンの様なデジモンが作られたとしたら?

……さっきは無しと言いましたが、仮にまた究極体ダークタワーデジモンが作られたら、誰が戦う事になるでしょうか?」

 

 

 伊織の言葉に京達は俯くことしか出来なかった。

もしも本当にそんな事態になった場合、そのデジモンを止められる選ばれし子供は守谷だけだった。

 

 

「このままでは僕達は、力不足だと言うのを理由に、この先あるかも知れない……いえ、きっとあるだろう命の危険がある戦いを全て守谷さんに押し付ける事になってしまいます!

皆さんは本当にそれがわかってるんですか!?」

 

「…………」

 

「……守谷さんはどう思っているか分かりませんが、守谷さんは僕達と同じタイミングで選ばれた選ばれし子供です。

仮に何らかの事情が絡んでいて、僕達より前に選ばれし子供に選ばれていたとしても僕は守谷さんの事を僕達と全く同じ選ばれし子供だと思っています。

そんな仲間に僕は危険な部分を全て押し付けるなんて嫌なんです……」

 

「伊織…………」

 

「……正直に言ってしまうと僕だって怖いです。仮に守谷さんと同じ領域に足を踏み込んだとしてもそんな相手達と戦うなんて。

ですが怖くても、僕は知ってしまった以上知らない振りは出来ません。……そんな卑怯な行為は天国のお父さんに顔向けできなくなりますしね。

――――それに僕は守谷さんだって怖がってるんだと思うんですよ」

 

「守谷君が?」

 

「はい。

だって守谷さんは選ばれし子供という事を除けば、タケルさん達と同じ只の10歳の小学生なんです。

そんな普通の子供が……いえ、『普通の人間が』そんな状況で恐怖を覚えない筈が無いんですよ」

 

「……確かにそうね。ハッキリ言って忘れてた。守谷君あたしの一個下だったわね」

 

 

 伊織の言葉で守谷の年齢を思い出した京は、今まで年下に頼りっきりだったという真実と、守谷が今まで抱えていたであろう恐怖に対して罪悪感を覚えた。

だからこそ、その後の伊織の提案を京が否定する事は出来なかった。

 

 

「僕はこれ以上守谷さんだけが戦力のこの現状を放っておくことなんて出来ません。

これ以上……守谷さんだけに怖い思いをさせたくないんです!

…………ですが、守谷さんの力になろうにも僕が現状足手まといにしかならない事は分かっています。

だから僕は今日の夜から密かに修行しようと思います。

タケルさん達に近づくためにも――守谷さんと一緒に戦えるようになるためにも」

 

「伊織…………」

 

「なので京さんにはこの事を黙っててもらいたいんですよ。

……ヤマトさんや光子郎さん達との約束を破る事になってしまいますが、僕にはもうこれ以外の方法が思いつきませんから。

遅れてる僕が皆さんに追いつくためにはタケルさん達よりも……守谷さんよりも長くデジタルワールドに滞在して修行するしかないと思うので」

 

 

 お願いしますと深く頭を下げる伊織。

その姿を見たアルマジモンも深く頭を下げた。

 

 

「オレェからもお願いだぎゃミヤコ。イオリのお願いを聞いてくれんか?」

 

「……どうするんですかミヤコさん?」

 

 

 ホークモンの問いに京はそうねと少し考えるような素振りを見せながら話し出した。

 

 

「……いいわ。もしも二人があたしの出す条件を呑んでくれのならこの事は皆には黙っててあげる」

 

「条件、ですか?」

 

「どんな条件だぎゃ?」

 

「――――その修行にあたしも付き合わせてくれるならってのはどうかしら?」


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