デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 前の話にタケル達の話を追加しました。



033 爆誕、漆黒の竜戦士

 僕達がチンロンモンの封印を解いてから数日後、

ダークタワーが多く立つ平原で普段の様にブイモンを進化させてダークタワーを壊して回っている時だった。

突如エンジン音の様な音が近づいているのが聞こえて来た。

この音はまさか――――

 

 

 音の聞こえる方を見てみると、そこには遠くから近づいて来る大きな影が見えた。

その影――車を更に見てみると、二つの影が車に乗っているのが分かった。

この距離ではまだ二つの影が誰なのかは分からないが、僕には判断出来た。

恐らくアルケニモンと……マミーモンだろう。

 

 

「アマキ……何か嫌な感じがする」

 

 

 その二つの影を見てブイモンが小さくそう呟いた。

……そう思うのも無理はない。

 

 僕達がダークタワーを破壊している時、

アルケニモン達がダークタワーデジモンをけしかけて来る事は何度もあったが、

態々アルケニモン達が姿を現す事は無かった。

だと言うのに今回アルケニモン達は、その前例を覆し姿を見せている。

……ついにこの日が来てしまったという事か。

 

 

「ブイモン。多分今日のアルケニモンは何時もと違う。

―――――本気だ。本気で僕達を潰しに来てる」

 

 

「って事は…………究極体?」

 

 

 ブイモンの言葉に僕は無言で頷く。

その反応を見たブイモンは先程までよりも気持ちを入れなおしたのか、

グッと力強い目付きでアルケニモン達の方を睨みつけた。

そしてそんな警戒心丸出しの僕達に構う事なくアルケニモン達は堂々と僕達の前に車を止めた。

 

 

「やあ、元気そう……いや、ちょっとやつれたかい?」

 

「……お蔭様で」

 

 

 車から降りながらそう話しかけてくるアルケニモン。そして…………

 

 

「……そっちの方は初めて見る顔ですね。お仲間ですか?」

 

「ああ! オレはアルケニモンのボ、ボーイ、フレ……仲間のマミーモンだ!」

 

「――――!! アンタなに正体をばらしてるんだい!!」

 

 

 今まで隠していた正体を突然仲間であるマミーモンにばらされたアルケニモンは本気の拳をマミーモンにぶつけた。

そんなアルケニモンにマミーモンは、まだ隠していたとは知らなかったと言い訳をしながら謝罪する。

 

……まさか敵前でそんな漫才を見せて来るとは思わなかった。

これ以上この空気が続くのを恐れた僕は、マミーモンに助け船を出す。

 

 

「貴方達が人間では無くデジモンだという事は前々から分かってましたよ。

……まあ何モンまでかは知りませんでしたが」

 

「そうなのかい? へぇー、流石はアタシのダークタワーデジモンを何度も倒すだけあるね」

 

「オレ達の、だろ? アルケニモン」

 

「……このバカは放っておいて、本題を話す前に一つ。

前々からアンタに聞きたい事があったんだよ」

 

「聞きたい事ですか?」

 

「ああ。他の選ばれし子供達はどうしたんだい?

ギガドラモンとの戦い以来見かけないんだけど……もしかして逃げたのかい?」

 

「逃げては無いですが……ハッキリ言って、居ても足手纏いになるだけなので前線には来るなと言ってます」

 

「成る程……だから最近アンタしかダークタワーを壊さないんだね。

そうかいそうかい――――お互い無能な仲間を持つと苦労するね」

 

「…………」

 

 

 アルケニモンの言葉に答えずジッとアルケニモンの方を見る。

今の質問でアルケニモンの聞きたい事は聞き終わった筈だ。

だとしたら――――ここからが本番だ。

僕はアルケニモンの方を見ながらポケットからD3を取り出す。

 

 

「なら――――ここでアンタを倒しても他の選ばれし子供達は現れないって事だね?」

 

「……どういう事ですか?」

 

「いや、こっちの話さ。

とにかく今日は、アタシのダークタワーデジモンを散々倒したアンタに特別なプレゼントがあるんだよ」

 

 

 アルケニモンは口元をニヤつかせながらそう言うと、両手で自分の髪を掴んで引き抜いた。

そしてその髪を辺りのダークタワーに向かって投げつける。

それぞれの髪は真っ直ぐダークタワーの方へ飛んで行き、ダークタワーに刺さると、まるで引き寄せれる様に空に向かって浮かび上がり、集まって行く。

その塊は少しずつ萎んでいき、デジモンの姿へと変わっていった。

そのデジモンの姿は、例えるなら――――漆黒の竜戦士そのものだった。

 

 

「アタシの最高傑作で遊んであげるよ!!」

 

「ウァァァァッァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

 

 アルケニモンが言い終わると同時に漆黒の竜戦士――ブラックウォーグレイモンの雄叫びが辺りに響き渡る。

……どうやら原作と同じくダークタワー100本で作られたのはブラックウォーグレイモンの様だ。

現時点でこのブラックウォーグレイモンに心が有るかは分からないが、どちらにしても厄介な事には変わりない。

僕は初めて直面する究極体デジモンの敵意に押されながらブイモンをウイングドラモンへ進化させる。

するとブラックウォーグレイモンは目の前にウイングドラモンが現れるや否、襲い掛かってきた。

それが戦いの幕開けとなった。

 

ウイングドラモンは飛びかかってきたブラックウォーグレイモンを飛び上がって躱すと、

その反動で回転し真下に来たブラックウォーグレイモンに全力の尻尾攻撃を振るう。

死角からの攻撃にブラックウォーグレイモンは、それを躱す事が出来ずに地面に叩きつけられる。

と、思いきや、ブラックウォーグレイモンはウイングドラモンの攻撃を喰らいながらも地面に叩きつけられずギリギリで空中で踏みとどまると飛び上がり、今度はウイングドラモンの尻尾を掴んだ。

 

 

「ッッッッ!!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンはそのままグルグルと尻尾を掴んだまま回転し、地面に投げつけた。

ウイングドラモンは先程のブラックウォーグレイモンの様に寸前で踏みとどまる事が出来ず地面に叩きつけられるが、

すぐさま起き上がり、ブラックウォーグレイモンの元へ舞い戻った。

 

 

「いいよ、ブラックウォーグレイモン!! そのままやっちまいな!」

 

「あ、アルケニモン!! ここに居ちゃオレ達も巻き込まれる!」

 

 

 今までとは違い、今回は明らかな手応えを感じているのかアルケニモンは声を大にしながらブラックウォーグレイモンを応援していた。

そんなアルケニモンをマミーモンは必死に車に乗せ、この場から離れていく。

……これからもっと戦いが激化するのを感じ取ったのだろう。

そんなマミーモン達の様に僕もウイングドラモン達から少し距離を取った。

 

 そんな僕達に対しブラックウォーグレイモンは、舞い戻ったウイングドラモンに再び飛びかかってくるが、

ウイングドラモンは今度は尻尾を掴まれないよう余裕を持って飛び上がり回避する。

そして中距離から灼熱のブレスをブラックウォーグレイモンに対し何発か放つ。

が、ブラックウォーグレイモンはそれらを回避、もしくは背中のブレイブシールドで防ぎながら右手のドラモンキラーを突き立てながら迫ってくる。

……まずい!

 

 

「ウイングドラモン! その爪は前に言った様に竜型のデジモンに対し絶大な効果を持つ爪だ! 絶対にまともに受けるな!」

 

 

 ウイングドラモンは両手に持った宝玉を一時的に消し去ると、目前に迫ったドラモンキラーを装備した腕元を掴むことで何とか抑え込む。

掴むと同時にもう片方のドラモンキラーも振るわれそうになるが、そちらも同じように抑え込んだ。

 

 

「……ウォォォォ!!!」

 

「ッッ! ダメだ」

 

 

 が、純粋な力でブラックウォーグレイモンの方が上回っていたせいか、ブラックウォーグレイモンは両腕を掴まれたままウイングドラモンを地面に叩きつけ、そのまま何メートルも引きずって行く。

 

 

「……!!」

 

 

 このままでは一方的にダメージを喰らい続けると判断したウイングドラモンは、自分もダメージを受ける覚悟を決め、目前のブラックウォーグレイモンに灼熱のブレスを放った。

殆ど予備動作なく放ったブレスにブラックウォーグレイモンは反応出来ずにまともに命中しその時に発生した爆発で後方に吹き飛ばされる。

同じ様にすぐ近くに居たウイングドラモンも爆発のダメージを負ったが、予めダメージを受ける心構えをしていた為、ブラックウォーグレイモンよりはダメージは少なかった。

すぐさま起き上がり、僕の所へと飛び戻った。

 

 

「……アマキ、アイツかなり強いよ」

 

「確かに……予想以上だ」

 

 

 だが決して予想外と言う程では無いというのが僕が今の攻防で抱いたイメージだった。

確かにブラックウォーグレイモンは強い。

その強さは確実にあの瞬間のキメラモンを超えている。

だがウイングドラモンが喰らいつけない程では無い。十分倒せる可能性が有る差だ。

……少なくともウイングドラモンがもう少し心があるデジモンと戦って経験を積んでいたのならもう少し善戦出来る戦いだっただろう。

 

 

「そしてどうやらあのブラックウォーグレイモンには心が有るようだね。

立ち回りが今までのダークタワーデジモンと違いすぎる。

……とにかく倒せるかは置いておいて、この場でブラックウォーグレイモンと決着をつける訳にはいかない。

だから……」

 

「……分かった。じゃあアレをすれば良いんだね?」

 

 

 ウイングドラモンの問いに僕は無言で頷くと、ウイングドラモンは了解と一言返し、先程消し去った両手の宝玉を再び両手に戻すと、此方の様子を窺うように空に浮かび上がっていたブラックウォーグレイモンの方に全力で飛びかかった。

ブラックウォーグレイモンは自分に向かって来るウイングドラモンを返り討ちにしようと構えを取っていたが、

全デジモンの中でも上位に匹敵するウイングドラモンの全力の飛行速度に驚愕したような反応を見せ、

殆ど反応出来ずに接近をゆるし、そのままアッパー攻撃を喰らい上へ吹き飛んだ。

 

 

「……クッ!」

 

 

 そんなブラックウォーグレイモンをウイングドラモンは見上げながら自身の口の前にエネルギーを集める。

 

 

『ブレイズソニックブレス!!』

 

 

 

 限界以上にエネルギーを圧縮したウイングドラモンのブレスがブラックウォーグレイモンを襲う。

だが、エネルギーを込め過ぎた為か速さはそれ程では無くその結果ブラックウォーグレイモンはそれを余裕を持って躱した。

――――が、ブラックウォーグレイモンが躱してから数瞬後、そのブレスは独りでに大爆発を巻き起こした。

 

 

「なんだと!?」

 

 

 限界以上にブレスが圧縮されたゆえの結果だった。

突然の後方からの衝撃にブラックウォーグレイモンは初めてまともな言葉を漏らしながら、

驚愕の表情のまま黒煙と共に発生した爆風を背中のブレイブシールドを両手に装備して防いだ。

 

この行動は爆風を防ぐという意味では間違った行動ではなかったが、完全にウイングドラモンを無視してまで取るべき行動では無かった。

ウイングドラモンは、爆風に気を取られたブラックウォーグレイモンの背後に回り込み容赦ない全力の右ストレートを叩きこんだ。

完全な意識外からの攻撃にブラックウォーグレイモンは対処できずにまともに喰らい、後ろへ吹き飛んだ。

――――が、流石は究極体というべきか、殆どダメージを喰らった様子を見せないまま空中で受け身を取り、

反撃すべく唸り声を上げながらウイングドラモンに向かってきた。

 

……意識外からの攻撃を受けてもダメージを見せないか。

 

 その後、何度かウイングドラモンは向かってきたブラックウォーグレイモンを躱して攻撃を加えようとするが、

その度にその隙を狙われ反撃を喰らってしまう為、最終的には大きな隙が生まれた時以外は一方的に攻撃を耐え続ける戦いになってしまった。

 ……ウイングドラモンが最高速度を出せれば、いくらブラックウォーグレイモンといえ対処するのは厳しいだろう。

だが、ウイングドラモンがブラックウォーグレイモンの対処出来ない速さに到達するには多少の溜めが必要だった。

そしてそんな隙をブラックウォーグレイモンが簡単に見せてくれる筈が無かった。

 

 

「オラオラ! さっきまでの威勢はどうしたぁ!!」

 

「……っく!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは、声を上げながらウイングドラモンにとっての天敵であるドラモンキラーを何度も振り下ろす。ウイングドラモンは大半のそれを躱すが、全ては躱しきれない。

十数回に一回程度にはカスってしまい、その度に少しずつ動きに支障が出てしまう。

戦況は完全にブラックウォーグレイモンが優勢だった。

 

 そんな戦いの様子にアルケニモンとマミーモンは応援の声を上げながら歓喜の笑みを浮かべていた。

……恐らくこのまま戦いが続けばブラックウォーグレイモンの勝利は揺るがないと確信しているのだろう。

確かに今戦況を支配しているのはブラックウォーグレイモンだ。

だが、決してウイングドラモンが一方的にやられている訳では無い。

だがこれ以上戦いが続くのは…………

 

 そんな事を考えていると、突如後ろから服を引っ張られる感触がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」 

 

 

 先程まで同じ様な戦いが続いていた戦況に変化が起きた事をブラックウォーグレイモンは気付いた。

先程まで攻撃を躱す事を優先した動きをしていたウイングドラモンが突然ブラックウォーグレイモンに真っ向から挑むような立ち回りになったのだ。

 

 その事に僅かながら違和感を覚えたがブラックウォーグレイモンはその違和感を無視し、正面から向かって来るウイングドラモンに意識を集中させた。

ウイングドラモンに隙を見せない事こそが現状最も有効な手段だと考えたからだ。

接近して攻撃を繰り出すウイングドラモンにブラックウォーグレイモンは、距離を取る所か自身も攻撃の数を増やして真正面から対抗する。

両者ともに傷付きながらそんな攻防が続くと、突如ウイングドラモンは一度大きく羽を羽ばたかせブラックウォーグレイモンから10mに満たない程度の距離を取ると、その場で口元にエネルギーを集め出した。

ウイングドラモンの突然の敵前であまりに隙だらけの行動にブラックウォーグレイモンは驚愕で一瞬動きが止まったが、

その隙すらも無視してウイングドラモンは更にエネルギーを溜める。

そこでブラックウォーグレイモンは、ウイングドラモンが先程の大爆発するブレスを放とうとしていると理解出来た。

 

 

「焦ったか! そんな攻撃撃たせる筈があるか!!」

 

 

 ブラックウォーグレイモンは速さで勝るウイングドラモンが動きを止め、決して有効とは思えないタイミングで大技を繰り出そうとしている事に怒りを覚え、全力でウイングドラモンに向かって行こうとした

――――時だった。

 

 

『フラウカノン!!』

 

 

 突如何者かの叫び声と共に、背中に衝撃が伝わった。

突然の出来事に驚愕しながらブラックウォーグレイモンが後ろを振り向いてみると、

そこにはピンク色の花びらの姿を模したデジモンがこちらに向かって砲撃を向けていた。

花びらを模したデジモン――リリモンは、ブラックウォーグレイモンが自分の方を見ていると気が付くと、

砲撃をしまい、右手で手を振って見せた。

 

 

「はぁ~い、こんにちは」

 

 

「――! 雑魚が俺達の戦いに水を差すなぁ!!」

 

 

 自分達の戦いに水を差されたことに怒りを覚えたブラックウォーグレイモンは、攻撃目標をリリモンに変更し、全力で向かって行こうとした時だった。背後に強烈な熱気を感じた。

 

 

「しま――――」

 

 

 ウイングドラモンが放った全力を超えたブレイズソニックブレスをブラックウォーグレイモンは避けれずに受ける。

が、流石はブラックウォーグレイモン。隙を突かれた攻撃だったのにも関わらずその攻撃をなんとかブレイブシールドで防いだ。

ブラックウォーグレイモンに命中すると共に発生した黒煙。

それが晴れると、その場にはこの攻撃を放ったウイングドラモンも、戦いに水を差したリリモンも、そのパートナーも居なかった。

 


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