デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 4月7日に新しくこの回を追加しました。
追加した理由は、タケル達がいまどうしているかタケル達目線で伝えたかったからです。


032 はじまりの町での特訓 side選ばれし子供

 はじまりの町の広い平原に二つの影があった。タケルとエンジェモンのものだ。

 

 

「もう一度行くよ! エンジェモン!!」

 

「ああ!!」

 

 

 エンジェモンの返答を聞いたタケルは右手で握っているD3に更なる力を込める。

……が、D3は何の変化も見せなかった。

 

 

「……もう一度だ!」

 

 

 タケルは両手を使ってD3を唸り声を上げながら更なる力で握る。

……が、D3は何の変化も見せなかった。

 

 

「……どう、エンジェモン? 何か力を感じたりしない?」

 

「…………何も感じないな」

 

 

 エンジェモンの返答にタケルは大きな溜息を付きながらその場に座り込んだ。

それを見たエンジェモンも進化を解き、パタモンの姿でタケルの胸に飛び込んできた。

 

 

「……タケル、ボク達本当に紋章とタグ無しに進化出来るのかな?」

 

「…………まだ特訓を始めてから半月だろ? 諦めるのは早いよ」

 

 

 完全体ダークタワーデジモンに完全敗北した翌日から今日までの約半月の間毎日様々な特訓に取り組んだが、結果が出る事は無かった。

その事から考えが後ろ向きになって居るパタモンを宥めながら頭を撫でるタケルだったが、その心情はパタモンと同じだった。

……今まで道具有りで行っていた完全体への進化を道具無しで成功させる。それが途方も無く難しく、時間がかかる事だろうという事はタケル自身も分かっている。

だが、だからといって何の手応えも無い現状に思う事は無いかと言われればそれは違う。

 

 

(……本当にこんなやり方で超進化出来るようになるのかな?)

 

 

 声には出さなかったがタケルもパタモンと同じような疑問を覚えていた。

本当に今のやり方を続ければ超進化出来るようになるのかと。

 

 そして気が付けば思考は更に悪い方へと傾いてしまっていた。

……本当に紋章とタグ無しで超進化出来るのか?と。

 

 

(……守谷君は紋章もタグも無しで超進化出来るって言ってたけど、

それって本当に僕達にも出来るんだろうか?

もしかして守谷君が超進化出来たのは、僕達とは違う何か特別な選ばれし子供だったからじゃ?

……いや、実は僕達に内緒で紋章やタグを作って貰って居たんじゃ……)

 

 

 そこまで考えるとタケルはハッと我に返り、頭をぶんぶん横に振ってその考えを否定した。

 

 

(何考えてるんだ僕は! 守谷君を疑うなんて……!

守谷君は僕達の友達だ、友達がこんな事で嘘を吐く筈が…………)

 

 

 そう考え、先程の悪い思考を完全否定しようとしたが、それを完全に否定する事は出来なかった。

つい先日ヤマトから聞いてしまっていたからだ。

守谷がゴールデンウィークの時点で超進化させる事が出来た事。

それがバレない様にタケル達を要塞の方に追い出していたという真実を。

 

 ヤマトは守谷にも考えがあった筈だと言っていたが、それに関してはタケルは完全には同意出来なかった。

タケルには理解出来なかったからだ。そこまでして超進化出来る事を隠した理由が。

 

 

「おーい! タケル君! パタモン!」

 

 

 タケルが考えに浸って居ると、ふと遠くからタケルを呼ぶ声が聞こえた。

その声は――――京のものだ。

タケルがその声の方を見てみると、そこには予想通り京の姿と、京のパートナーデジモンのホークモン、伊織、アルマジモンの姿があった。

 

 

「そろそろ交代の時間なのにタケル君達が来ないから迎えに来ちゃった。

……あれ? ヒカリちゃんとテイルモンは?」

 

「今日は別々に特訓してたんだ。多分あっちの方に居ると思うよ」

 

「そうなんだ」

 

「……って交代の時間って事は急がなきゃね! エレキモン達が待ってるんでしょ?」

 

「え、えぇまぁね」

 

 

 タケル達ははじまりの町で特訓させて貰う代わりにベイビー達……この町で生まれたデジモンの赤ちゃんたちの面倒を見るとエレキモンと約束していた。

この約束は、ベビーデジモン達の遊び場を借りる手間賃と言う意味もあったが、

純粋にこの特訓を昼から夕方まで続けても効率が悪いからその気分転換と言う意味もあった。

 

 

「ヒカリちゃん達も多分交代の時間だってことに気が付いてないと思うから今から伝えに行くよ。

二人ともごめんね。手間かけさせちゃって」

 

 

 そう言ってヒカリ達の方へ走り出そうとしたタケルを伊織は呼び止めた。

 

 

「タケルさん、ま、待って下さい!」

 

「ん? どうしたの伊織君?」

 

「あの……もう一度だけタケルさんがパタモンを初めて完全体に進化させた時の事教えて頂いても構いませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 とある小部屋で様々な音が部屋全体に響き渡る。

ここはお台場中学校のとあるバンド―――ヤマトが率いるバンド部の部室だ。

彼等は近い内に開催されるコンサートに向けての練習をしていた。

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 彼等の奏でる音楽は中学生バンドとは思えない程レベルが高く、もしここに第三者が居れば確実にこの音に聞き惚れる程のものだった。

―――――が、

 

 

「―――――――ギィ――!!」

 

 

 そんな音楽に第三者でも気付くだろう異音が混じった。

と、同時にこの音楽を奏でているヤマト達が一斉に演奏を止めた。

 

 

「……おいおいヤマト、ここは簡単な所だろ? こんな所で失敗しないでくれよ」

 

「………わりぃ」

 

 

 少し怒った表情で小言を言ってきたバンドメンバーにヤマトは素直に謝罪した。

 

 

「まあまあ、ヤマトは演奏以外にも作曲とか頑張ってるんだし、

普段は難しい所だってノーミスで出来るんだから通しでもない練習の時くらい大目に見ようぜ……」

 

「そりゃそうだけどさ……だとしても最近凡ミスが多いじゃんか」

 

 

 その言葉にヤマトを庇っていたバンドメンバーはうっと言葉を詰まらせた。

そのバンドメンバーの言う通り、最近のヤマトは明らかに凡ミスが多かった。

難しい所ならまだしも、最近の彼は今のミスの様に簡単な所をよくミスしていた。

その事からバンドメンバーはヤマトが何か大きな問題に悩んでいる事に気が付き、何度か相談に乗ろうとしたが、ヤマトが何も話さなかった為、結局は問題が解決するまで話題に触れないようにするしかなかった。

が、だからといって凡ミスをスルーするほどには彼等も大人じゃない。

 

 

「……ちぃ、今日はもう上がるわ」

 

 

 ヤマトの失敗を指摘した者はそう言って荷物を担いで部屋から出て行った。

 

 

「……じゃ、じゃあ僕も今日はもう上がろうかな!」

 

 

 今のヤマトと二人きりになるのは気まずいと判断したもう一人のバンドメンバーは、そう言うと先程の者を追うように足早に部屋から出て行った。

その結果、先程まで音楽が響き渡っていたこの部室にヤマト只一人となった。

 

 

(……俺、何やってるんだろうな)

 

 

 突然一人になったヤマトは、椅子に腰かけ、ボーっと天井を見上げながらふとそう思った。

 

 

(選ばれし子供なのにデジタルワールドを優先せず、だからといって優先して取り組んでる自分の夢に対して集中して取り組めない……俺はいったい何がしたいんだ――――クソォ!)

 

 

 ヤマトは両手を強く握りながら自分の太ももに強く叩きつけた。

ヤマトは半月前に守谷から届いたメールを見てからずっとこの調子だった。

 

 

(……半月前、ついにアイツが恐れてた完全体が必要な時が来てしまった。

だというのに現状、完全体に進化出来るのはアイツだけだ。

しかももうジョグレス進化は期待出来ないらしい)

 

 

 半月前の練習終わり、突然守谷からヤマトと空宛にこんなメールが届いた。

 

 

『今日、謎の女がダークタワーを使って完全体ダークタワーデジモンを作り出しました。

そのデジモンは僕達で倒しましたが、その過程で高石君達に僕が完全体に進化出来るという事を知られてしまいました。その後考えた末、高石君達に紋章やタグ無しで進化出来る事、それを高石君達も出来る可能性が有るという事を伝えました。

 

なのでもうキメラモンの時の事を話して頂いて構いません。判断は任せます。ですが、四聖獣とジョグレスの事は黙っておいてください。四聖獣について黙っておくのは前と同じような理由です。ジョグレス進化について黙っておくのは、もうジョグレス進化という手段には期待できないからです。なのでこの二つについては話さないでください。どうかよろしくお願いします。

 

PS 高石君達に進化の特訓をするならはじまりの町で行うように伝えてください。

後、泉先輩にこのメールを見られると不味いので、このメールを見終わったら削除しておいてください。

よろしくお願いします』

……という内容のメールが届いたのだ。

 

このメールを見たヤマトは、急いでタケルに電話してこの日の事を詳しく尋ねた。

その後、タケルにどうして今日そういう事があったと言う事を知っているかと聞かれたので、

ヤマトは考えた結果、守谷のメールの内容を話した。

……勿論四聖獣や、ジョグレス進化については話さずに。

 

すると、翌日光子郎の家に呼ばれ、タケルを含んだその日に来れた選ばれし子供達ににキメラモンの時の事を話す事になった。

 

 

(キメラモンの時の事を話したのは後悔していない。この行動は少なからず悪い方には転ばないと思ってる。

……だけど今の俺の行動は本当に正しいんだろうか?)

 

 

 光子郎達にキメラモンの日の事を話し終わった後、一緒にデジタルワールドに行き、はじまりの町で特訓したがガブモンをワーガルルモンに進化させる事は出来なかった。

俺は現状を重く捉え、明日からバンド活動を休んでデジタルワールドに行こうと思っていた時にまたもや守谷からメールが届いた。

内容は、

 

 

『もし、明日以降もバンド活動を休んでデジタルワールドで特訓しようと考えているなら絶対に止めてください。

石田さんにはそっちの世界でやるべきことがある筈です。それを優先してください』

 

 

という内容だった。

自分の考えを見透かされている様で少し苛立ったヤマトは、それを否定するようにメールを返した。

 

 

『何言ってんだよ。

俺は……俺達は選ばれし子供だ。ならデジタルワールドを何より優先して、デジタルワールドの為に行動すべきだろうが』

 

 

 その後、先程の時とは違いしばらく返事は帰って来なかったが、十数分後くらいに返事が返ってきた。

 

 

『心の底から思っていない事を言わないでください。

石田さんは選ばれし子供だと言ってもリアルワールドを生きる存在です。

自分の夢を後回しにして行動する義務なんてありません。

石田さん達は中学生で色々と忙しい筈です。それに対して僕達は小学生です。時間は有り余ってます。

――――それに――――』

 

 

 その後に続いていた内容を読んだヤマトは思わず驚愕でそれ以上メールを返す事は出来なかった。

 

 

 

『それに――――石田さん達はあくまで前回選ばれた選ばれし子供です。

今回選ばれた訳ではありません。

デジタルワールドがこの世界を救うのは旧選ばれし子供では無く新しい選ばれし子供だと判断し、

新しく選び直した後、新しいデジヴァイスを僕や高石君達に与えました。

つまりデジヴァイスがD3に変化しなかった石田さん達はデジタルワールドを救う存在として選ばれなかったんですよ。

そんな前回の選ばれし子供の貴方達が出しゃばって高石君達の成長を邪魔するような行動は止めてください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――以上が僕がパタモンをホーリーエンジェモンに進化させた時の話だよ」

 

「……ありがとうございました。すいません、前聞いたばかりなのにまた話して頂いて……」

 

「うんん、全然構わないよ。寧ろ伊織君が真剣に頑張ってるって伝わって嬉しいよ!

じゃあヒカリちゃんに交代の時間過ぎてるって伝えて来るね」

 

 

 タケルはそう言うと足早にヒカリの元へ向かって行った。

そんなタケル達の姿が見えなくなった辺りで京が伊織に話しかけた。

 

 

「伊織、タケル君にまた超進化の時の事話して貰ってたけど、あなた前にタケル君に話して貰った時の内容忘れてないでしょ?」

 

「……はい」

 

「……だったらどうしてまたタケル君に聞いたりしたの?

結構長い話なんだし、覚えてるのに何度も聞いちゃ駄目だとアタシ思うんだけど」

 

「……僕もそう思います」

 

「だったらどうして……?」

 

「…………京さんは不安じゃないんですか?」

 

 

 不安? と京は伊織の発した言葉に疑問下に返した。

 

 

「はい。僕達は今アルマジモン達を完全体に進化させるべく特訓をしています。

……タケルさんとヒカリさんは紋章とタグがあったと言っても昔、完全体に進化させた経験があります。

……ですが僕達は一度だって完全体に進化させた事がありません。

デジモンが完全体に進化する瞬間ですら先日の一件以来見た事がありません。

……そんな僕達が何度も完全体に進化したことがあるタケルさん達ですら出来ない超進化を出来るんようになるんでしょうか?」

 

「そりゃ難しいかも知れないけど……根性で頑張るしかないでしょ。

ほら、タケル君も言ってたじゃない!

パタモンを初めて進化させた時、最後まで絶対諦めないって強く思ってたって。

要は気の持ちようよ!」

 

「……なら今の僕が超進化出来る可能性は0なんでしょうね」

 

「え、なんで?」

 

 

 京の問いに伊織は言い難そうにしながらも話した。

 

 

「僕は……いえ、僕と京さんは一度も完全体へ進化させたことがありません」

 

「そうね」

 

「それなのに……僕達はタケルさん達と同じくらいにしか特訓していません。

ただでさえ僕達は超進化の経験が無く遅れているのに、タケルさん達と同じ量特訓しても……!」

 

「あー成る程。

確かにあたし達は遅れている以上、本来タケル君達に追いつくために何倍も特訓しないといけないのに同じ時間しか特訓してないもんね。

剣道習ってる伊織からしたら遅れてるのに追いつこうと努力出来ないから気持ちが入らないかもしれないわね」

 

「……はい。ですが、夜間はデジタルワールドに来ないと石田さん達と約束しています」

 

「理由は確か、単独で行動したらあの女に襲われた時に対処出来ないからだったわね?

あの女が入って来れない結界の張ってるこの場所で特訓しようにも、夜は赤ちゃんデジモン達が寝てて起こしたら悪いから特訓出来ないしね」

 

 

 うーんと京は腕を組みながらどうやって伊織の悩みを解決しようか考えたが、結局何の案も出なかった。


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