デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 投稿感覚が大幅に空いてしまって本当に申し訳ございません。
遅れた理由は、リアルが忙しかったというのもありますが、純粋にこの回の話が何度書いても全然面白くなく、投稿する気になれなかったというのが一番の理由です。

 一応読める分にはなったとは思いますが……

 後、後半の空白後の文は、一応本編外の話なので飛ばして頂いて構いません。


031 聖獣チンロンモン

「――――そろそろいいだろう。止めだメタルグレイモン!」

 

「オーケー! 『ギガデストロイヤー!!』」

 

 

 僕の止めの宣告と共にメタルグレイモンが目の前に居る完全体ダークタワーデジモンに必殺技を放つ。

弱り切った相手はその攻撃を避ける事が出来ず、そのまま命中して消滅した。

 敵の消滅を確認した僕はメタルグレイモンの進化を解き、アグモンの元へ歩み寄った。

 

 

「お疲れ、アグモン。怪我は無い?」

 

 

 僕の質問にアグモンは大丈夫だよと返事を返した。

そんなアグモンの返答に僕は良かったと安堵の溜息を吐くと、ふと夕暮れに染まった空を見上げた。

 

 ギガドラモンを倒してから既に二週間ほど経ったが、

見た感じ、タケル達が完全体に進化出来る兆しは正直に言って全くなかった。

……まあそれも無理は無いのかもしれない。

そもそも僕が、紋章無しで進化させる事が出来たのは現状原作知識があるという事が関係している可能性が高いのだから。

 

……とにかく僕は、タケル達が完全体へ進化する為に頑張っている間、

ブイモン、アグモン、パルモンと、デジモンを交互に変えながら、

アルケニモン達が作り出す完全体相手に戦いを繰り広げる日々を続けていた。

交代しながら戦えばデジモン達の負担は三分割できるからね。

因みにパルモンはニューヨークに旅行に行ってから本格的に話すようになった。

ミミの友人と言うことで仲良くなり、今は仮のパートナーデジモンとして協力して貰っている。

そして、どうやら僕が前にした予想は正しかったようで、僕はパルモンも完全体に進化させる事が出来た。

 

 そして現状だが……今の所は、

アルケニモン達が完全体のダークタワーデジモンを送り出すだけの状況で済んでいる。

その程度で済んでいる理由は、恐らく僕達を倒すのには完全体で十分だと思わせられているからだろう。

……本来は、僕が進化させるブイモン、アグモン、パルモンの完全体は、

何故かは分からないが完全体ダークタワーデジモンを上回る力を持っている。

だがそれを相手に知られてしまったら不味い事になってしまう。

だからブイモン達にはダークタワーデジモンと戦う時は

出来る限り互角に見えるように戦ってほしいとお願いしている。

もしもそうしなかったら、すぐさまアルケニモン達が完全体では敵わないと判断し、

究極体を作り出し、状況は一気に悪くなってしまうだろうから。

 

 

「……だけど、それもそろそろ限界だろうね」

 

 

 いくら、ほぼ互角と思わせられているとはいえ、アルケニモン達は既に二週間連続で敗北しているのだ。

そろそろ堪忍袋の緒が切れてもおかしくない。

 

 ……そろそろこの世界に転生してから何度目かの決断をするべきだろう。

アルケニモンが究極体のダークタワーデジモンを生み出すのを阻止する方向で行動するのか、

もしくは、原作の様に生み出す方向で行動するのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の平日の朝。僕はブイモンを連れ、ある場所に来ていた。

その場所とは、原作でホーリーストーンが初めて登場し、破壊された場所だ。

この場所に決めた理由は、6つあるホーリーストーンの場所の中でもここが一番人目に付きにくく、好都合だったから。

 

 ……僕は悩んだ末、アルケニモンが究極体のダークタワーデジモンを生み出すのを一度は止めない事にした。

いくら僕が現状ほぼ全ての時間をデジタルワールドで過ごしているとはいえ、流石にアルケニモンが究極体のダークタワーデジモンを作り出す機会を全て止めるのは不可能だろう。

だから、一度はアルケニモンの思うがままに究極体ダークタワーデジモンを作らせ、

そこで究極体ダークタワーデジモンは自分達の言う事を一切聞かないじゃじゃ馬だと判断して貰うのが一番だと判断を下した。

 

 ……もしも、もしもアルケニモンが作り出した究極体ダークタワーデジモンが、

原作のブラックウォーグレイモンと違い、心を持ち合わせておらず、

その上、究極体の力をしっかり持ち合わせていてアルケニモンに忠実なしもべだったのなら……状況は一気に悪くなるだろう。

だけどその可能性は低いかもしれないという考えが少なから僕にはあった。

……原作では、アルケニモン達は、ブラックウォーグレイモンに心があるのは完全な偶然だと言っていた。

だけど、僕はそうでは無いと考えている。

何故なら、強さは心があってこそ初めて生きてくるモノだと思っているからだ。

 

 どんな強力な力を持っていても、心が無ければそれを生かす事は出来ない。

心があるからこそ生き物は強くなれるし、強くいられる。

心こそが強者に分類される生き物が最低限に持ち合わせているモノなのだから。

……まあ、あまりに想定外の存在に対してはこの理論は適用されないかもしれないが、

少なくともダークタワー100本使った程度の存在では

心を持たずに究極体クラスの力を持つ筈はないという直感はあった。

……そんな確証もない直感を信じるのは不味いかもしれないが、そうも言ってられない。

今は原作で言う最終章。

究極体ダークタワーデジモンの出現、リアルワールドでのダークタワー出現、

デーモン軍団の襲来、ヴァンデモン復活と最終章に相応しい問題が原作で起きた章なのだ。

多少危険を承知で動かなければあっという間に取り返しのつかない事になってしまうだろう。

 

 

「着いたね」

 

「……うん」

 

 

 ホーリーストーンの目の前に辿り着いた僕達はそれを見上げた。

……遠目で直接見た事は有ったけど、

こう近くで見てみると改めてホーリーストーンの大きさと、神秘さを感じた。

僕はその神秘さに若干呑まれながらも覚悟を決め、D3を取り出し、ホーリーストーンに掲げた。

するとD3から一筋の光が飛び出し、ホーリーストーンに吸い込まれていき、

暫くすると今度は目の前のホーリーストーンから光が空に向けて飛び出した。

その後、光は空の中へ消えたが、消えると同時に空を雲が覆い始めた。

――――そして、その雲から神々しい光が見えたと感じた瞬間、

光と共に一体の龍が空から姿を現した。

 

 

「……チンロンモン」

 

 

 あまりに神々しい光景にブイモンは呆気に取られていたが、

原作知識でチンロンモンの姿を知る僕は、そういった態度は取らずに済んでいた。

……だが、脳内では、これからこんな神々しい威光を放つデジモンと話すという事に対し

緊張でいっぱいだった。

……僕はこんな存在相手に、嘘を隠し通せるのだろうか?

 

 

『お前が噂の謎多き選ばれし子供だな?』

 

「……! はい! 恐らく僕がそう呼ばれている選ばれし子供、

守谷天城です!」

 

 チンロンモン様、と最後に付け足して出来る限り言葉使いで不快させない様に取り繕ったが、

そんな浅はかな考えはチンロンモンに見破られていた。

 

 

「そう言葉を選ばなくてもよい。普段の言葉使いで話すがいい。

そしてワタシの事はチンロンモンと呼べ。様付など不要だ」

 

「で、ですが……」

 

「確かにワタシは世界を守護する聖獣デジモンとして祭られているがそれだけだ。

お前の隣に居るパートナーデジモンと何の違いも無い。……そう何の違いも無いのだ。

それにワタシは格下相手に二度も封印される無様なデジモンだ。

――――さて、お前が折れない限りワタシは自分の不名誉な黒歴史とやらを語り続ける事になるのだが…………」

 

「……分かり……いや、分かったよ、チンロンモン」

 

 

 予想していたよりも遥かに寛大なチンロンモンに僕は少し驚きながらも敬語を崩した。

……僕の性格上、出来れば敬語だけでも続けたかったが、

そんな意見を押し通すような場面では全くないので自重した。

敬語を止めた僕にチンロンモンは満足気な頷きを見せると、

今までは和らげていたのであろう、自身の放つ威光に更なる威圧感を加えた。

……ここから先は本題に入ろうと言う意志表示だろう。

 

 

「さて――――お前には色々聞きたい事があるのだが……まずはお前の要件を聞こう。

ワタシの封印を解いたのには明確な理由があるのだろ?」

 

 

 取り繕う事なく話せと付け加えたチンロンモンに僕は頷きを返し、話し出す。

 

 

「僕がチンロンモンの封印を解いたのは……これから先の戦いで、

僕達だけじゃ敵わないであろう戦いがあるからで……いや、なんだ」

 

「敵わない戦い?」

 

 

 チンロンモンの言葉に僕は深く頷く。

 

 

「現状は、敵は完全体以上の戦力を見せていないが、僕は少なくとも相手側に一体は究極体が居ると思ってる。

それも超究極体クラスじゃないにしてもそれに近いレベルの相手が……

…………完全体に進化させる事が出来るのが僕だけの現状では、

黒幕には絶対に勝てない。だから……」

 

「――――成る程、だからお前はワタシの封印を解いたのだな?

ワタシが持つデジコアの力を借りる為に」

 

「……チンロンモンのデジコアを借りる事が出来れば、二代目選ばれし子供の8人は、

完全体に――二人は究極体になれる」

 

「その通りだ。ワタシのデジコアは確かにそう言う使い方も出来るだろう」

 

 

 ふむ、とチンロンモンは言葉を漏らすと、突然考え込むように目をつむった。

僕はチンロンモンがすぐ目を開けないか警戒しながらも密かに息をついた。

……僕がチンロンモンに最低限頼みたい事は話し終えたが、まだまだ会話は続くだろう。

……それにしても敬語、取り繕い禁止がここまで辛いとは。

それら無しで話すと、どうしても言葉が刺々しくなりすぎてしまう。

特にさっき僕が言った言葉なんて、

お前の力を利用したいから封印を解いたと、堂々と言っている様なモノだ。

……さっき、チンロンモンが敬語を禁止したのは、

僕が恐縮しないよう気を使ったからだと思っていたが、

こうやって僕の言葉の意味を真に理解するのが本当の理由なんだろう。

……流石は四聖獣と呼ばれるデジモン。こういう所も手強いね。

 

 僕がそんな事を考えていると、目をつむって考え込んでいたチンロンモンの目が開き、

再びこちらに視線を向けると、尋ねてきた。

 

 

「ちなみにお前は、ワタシから何度デジコアの力を借りるつもりだ?」

 

「出来れば二回。最低でも一回は借りたい」

 

「成る程。

……悪いが、ワタシが仮にお前にデジコアを貸すとしても、一度しか貸す事は出来ないだろう」

 

「一度……。そのデジコアで選ばれし子供達8人はエネルギーを使い果すまでは、

紋章を持っていた時の状態まで進化出来る?」

 

「完全体までなら可能だ。

だが、究極体までと言うなら話は変わってくる。

……恐らくワタシのデジコアの力を持ってしても、二人分の究極体のエネルギーを用意するには、

他の6人分のエネルギーを使ってようやくと言った所だろう」

 

 

 ……という事は、やっぱりチンロンモンの力を使う機会は、

デーモンが現れなければ最後のヴァンデモンとの戦いがベストだろう。

……この世界には原作でデーモンが望んだモノは無いから現れないとは思うが、

最後まで警戒だけは怠らないでいよう。

 

 僕は脳裏でそんな決意をしていると、チンロンモンが先程よりも僅かに目を鋭くしながら話しかけてきた。

 

 

「お前がこのタイミングでワタシの封印を解いた理由は分かった。

成る程、安定を望む者達が騒ぐだけの事はある。

で、お前の話は取りあえずは一段落ついただろう。

――――では、次はワタシからの質問だ。構わぬか?」

 

 

 チンロンモンの問いに僕は嫌な予感がしたが、

この状況でチンロンモンの質問を断れるはずも無く、ためらいながらも頷いた。

 

 

「では率直に聞こう。

――――お前はどうしてワタシの封印の解き方を知っていた?」

 

「――――――――」

 

 

 いきなり聞かれたくない事を聞かれてしまった。

 

 

「安定を望む者ですら知り得なかった情報を、お前は何処で手に入れた?

ワタシ自身ですら、封印の解き方は想像の範囲を出なかった程度のモノだった。

だがお前はワタシの封印を解く際、何の躊躇いも無くそれを実行した。

まるでそれが正しいと知っているかのように。何故だ?」

 

 

 ……チンロンモンの物言いからして、恐らく僕がここでチンロンモンの封印を解いた際、

その光景がチンロンモンに見えていたんだろう。

なら体が勝手に動いたなんて誤魔化しは効かないだろう。

……確か僕はその瞬間、覚悟を決めた顔で封印を解いたと思うから。

…………だけど、だからと言ってチンロンモンに全てを話す訳には行かない。

チンロンモンはあくまで四聖獣。デジタルワールド側の存在だ。

いくら秘密にして欲しいと約束しても、デジタルワールドにとって不利な場面が来てしまったら、

きっとチンロンモンはたかが選ばれし子供の一人である僕程度との約束なんて簡単に破るだろう。

それは有ってはならない。

僕は選ばれし子供達に、自分達が創作の存在として存在し、

その物語が放送されていた世界があるなんて事を、知られたくない。

……僕は彼等に、原作だからという理由では無く、

自分で考え、自分で行動して未来を歩んで行って欲しいのだ。

……例え、僕が原作の話を選ばれし子供達にする事が一番正しい事だとしても、

僕はこの考えだけは覆したくない。

 

 ……だが、ここでチンロンモンに何も話さずに済ませるのは不可能だろう。

――――なら、チンロンモンを騙すしかない。

 

 

「……チンロンモン、僕が今からする話は、嘘偽り無い真実だと思った上で聞いて欲しい」

 

 

 僕の言葉にチンロンモンは、無言で頷く。

ただ、その両眼は、嘘は見抜くと言わんばかりのモノだ。

……下手な嘘は簡単に見抜かれるだろう。

なら、嘘を吐かずに嘘を吐くしかない。

 

 

「まず、チンロンモンも気付いていると思うけど……僕には協力者と呼べる存在が居る」

 

「協力者?」

 

 

 そう僕には協力者がいる。

その正体は僕をこの世界に転生させた神だ。

……色んな意味で考えれば僕と神との関係は協力者とも言えなくはないだろう。

 

 

「うん。本来なら僕は、こんな場所に居るべき人間では無いんだ。

だけど、そんな協力者との出会いも有って、今僕はここに立っている。

この世界を守る為に」

 

 

 本来なら僕の様な部外者がデジタルワールドに、この世界に存在するべきでは無い。

……神の転生が強制で無ければ僕はここには居なかっただろう。断言出来る。

だけど、今はこの世界の為に戦う覚悟は出来ている。

 

 

「……確かにお前は知り得ない情報を色々と知ってるようだ。

ワタシの封印の解き方、デジタルワールドでの行動を見るだけでもな。

それでその協力者とは?」

 

「……申し訳ないけど、名前は分からない」

 

「名前が……分からない?」

 

「……その存在と会って話をしたのは一度だけだからね。名前を聞いている暇も無かった。

でもその存在には、この世界の事をもう覚えてない位色々話して貰った。

 

「その者はデジモンか? それとも…………」

 

「多分どっちでもないと思う。確証はないけど。

……でもチンロンモン達に似た存在だったとは思う」

 

 

 何かに祭られた存在という意味ではチンロンモン達とあの神は似ているだろう。

 

 

「では……お前はその存在とたった一度会って話をしただけで、

選ばれし子供としてデジタルワールドの為に戦っているのか?」

 

「それも理由の一つだけど……僕には純粋にこの世界の為に戦う理由があるんだ」

 

「戦う理由? それはどんな理由だ?」

 

「……申し訳ないけど――――『それだけは話せない』」

 

 

 僕は絶対に話さないという思いを込めた眼差しをチンロンモンに向けた。

そんな眼差しを向けられたチンロンモンは、自分の質問に答えなかった僕に対して

ただ純粋に疑問を感じたのか、何故だと? 一言尋ねてきた。

 

 ……チンロンモンがそう疑問に思うのも無理も無いだろう。

チンロンモンからしてみたら僕は、特殊な存在に会っているとはいえ只の人間の子供。

そんな存在の戦う理由なんて大したモノの筈が無いのに、

それに対する質問にそれだけは話せないと返されたのだから。

……もしもチンロンモンが嘘で騙せそうな存在だったのなら、

チンロンモンが想像しているだろう、正義感、自己主張、または背徳感等から生まれた戦う理由を適当に言ったのだが、生憎チンロンモンには僕の嘘など通じないだろう。

だから僕がここでチンロンモンに転生者と知られない為には、嘘を吐くのではなく話さないという選択肢しかないのだ。

 

 

「話さない理由は……多少は誰かの為という理由が含まれてるけど、きっと殆どは自分の為なんだろうね。

そう、話せば自分が辛い思いをするから話せない。僕はこの秘密だけは墓まで持って行くつもりなんだ」

 

「……お前はその秘密を『一生』背負うつもりなのか?」

 

 

 チンロンモンの質問に僕は無言で頷く。

そんな僕に対してチンロンモンは理解出来ないと言わんばかりに首を横に振った。

 

 

「私には分からない。何故普通の人間の子供であるお前がそこまで戦う理由を隠すのかが。

……だが、きっとお前は私の知り得ない特別な存在なんだろう。

分かった。これ以上はこの質問を追求しないと約束しよう」

 

「ありがとう」

 

「ただ一つだけ言わせてくれ。

何かを隠すと言うのは、想像以上位に辛い事だ。隠すモノの大きさや、隠す期間が長ければ尚の事な。

お前はそれを一生続けるつもりなのか?

何かを隠し続ける人生を一生続けるつもりなのか?」

 

 

 険しい表情でチンロンモンはそう僕に尋ねた。

……チンロンモンの表情を見る限り、きっとチンロンモンは僕を心配してくれてるのだろう。

 

 

「ありがとうチンロンモン。僕の事を心配してくれて。

だけど、僕はもう決めてるんだ。戦うと決意したその時から」

 

 

 大輔が手にする筈だったD3を使ってデジタルワールドに行ったその瞬間、僕はそう心に誓った。

……確かに何かを隠すのは辛い事かもしれない。こんな大きな謎を誰にも漏らさずに背負ったままじゃ楽しい人生を過ごす事は出来ないかもしれない。

だけど、そうだとしても僕はそれを貫かなければならない。

いや、違う。僕はそれを貫きたいんだ。それこそがこの世界にとって――――選ばれし子供達にとっての幸せにつながる事だと信じてるから。

 

 

「お前は――――いや、これ以上は止めておこう。

お前の覚悟は伝わった。

これから先は、私とこの世界の安定を望む者達がお前に力を貸すと約束しよう。

何かあれば私の管理する町に来るがよい。安定を望む者達に話せば連れて行って貰えるはずだ。

力になれる事は余りないかもしれないが相談程度なら乗れるだろう」

 

「ありがとうございま……ありがとう」

 

「ふっ、敬語の方が楽と言うならこれからは敬語で話すがいい。

少なくとも今は、これ以上お前の言葉を疑ってかかるつもりはない」

 

「……そう言って貰えると本当に助かります」

 

 

 チンロンモンの言葉に甘え、僕はすぐさま言葉使いを敬語に戻した。

ああ、やっぱりこういう腰が低くなる存在と話す時は敬語が一番楽だ。

 

 

「そろそろお互いに話す内容は終えたと思うんですが、どうですか?」

 

「そうだな……何かお前に尋ねたい事があった筈なのだが……悪いが思い出せない。

まあそれは次の機会としよう」

 

「わかりました。では、僕達はこれで」

 

「ああ、あまり使命を抱え込まないようにな」

 

 

 チンロンモンとの会話を終えた僕達は、チンロンモンに対して深々と一礼すると、

ブイモンをエクスブイモンに進化させ、その背中に乗りその場を去った。

……しまった、何故デジタルワールドそのモノの治癒力が原作よりも遥かに劣っているのか原因を聞こうと思っていたけど

 

忘れてた。

……まあ絶対に聞かなければならない情報でもないし次の機会にするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謎多き選ばれし子供の姿が見えなくなるまでその姿をチンロンモンは見続けていたが、

その姿が見えなくなると、深々と溜息を吐いた。

そんなチンロンモンに突如横から声を掛ける者が居た。

 

 

「――――チンロンモンさま、お疲れですか?」

 

「少しな」

 

 

 チンロンモンは、突如現れた白いフードの男が初めから居る事を知っていたのか、特に驚いた様な反応を見せずにそう返事を返した。

 

 

「……予めお前には隠れた場所から聞いて貰ったが、お前から見てあの選ばれし子供はどう見えた? ゲンナイ」

 

 

 ゲンナイと呼ばれた白いフードの男は、フードを下ろしながらそうですねと、考えながら話し出した。

 

 

「正直に言ってしまうと、現状私は、まだ彼を信用しきれていません」

 

「ほう」

 

「……彼は、チンロンモン様の封印の解き方を知って居ました。それもあの様子を見るにかなり前から。

それなのに今日まで封印を解くような素振りはいっさい見せませんでした。

それに加え、彼は最近この世界に来たばかりだと言うのにあまりに知り過ぎています。

その理由を、チンロンモン様との話の中で語っていましたが、分かったのが、正体不明の存在に情報を貰ったという何処まで信じていいのか分からない情報だけです。

……確かに彼は他のどの選ばれし子供達よりもデジタルワールドの為に戦ってくれています。

それこそ自分の生活を度外視する程に。

ですが、デジタルワールドを歪ます元凶であるダークタワーを彼はあまり壊したがりません。

それどころか光子郎くんのメールの内容によると、他の選ばれし子供達に嘘を言ってまでダークタワーの破壊個数を減らそうとしています。

……私の頭で考えられる限りでは、ダークタワーが破壊されない事がメリットになるのは、デジタルワールドに異変を起こそうとする側の存在だけです」

 

「成る程、確かに口にすると怪しさばかりが目立つ選ばれし子供だな。

お前が警戒するのも無理はない」

 

 

 チンロンモンが認めた存在をゲンナイは少なからず否定するような言葉を漏らしたが、

チンロンモンはそれを咎める様な事はせず、寧ろ同意するような反応を見せた。

その反応がゲンナイにとっては意外だったのか、思わず分かり切っている筈の質問をしてしまった。

 

 

「あの……チンロンモン様は、彼の事を此方側の存在として信じられているんですよね?」

 

「無論だ」

 

 

 ゲンナイの問いにチンロンモンはハッキリそう答えた。

 

 

「確かにあの選ばれし子供の行動は不可解な点が多い。

だが、少なくともあの選ばれし子供は、デジタルワールドの為に戦っている。

それが先程直接話して……目をみて分かったのだ。

……それに私の直感も彼が味方だと言っているようだしな」

 

「直感……ですか?」

 

「ああ。私は昔から勘が良くてな。

…………これが有ったからこそ今ここに私が居ると言ってもいい程に」

 

「…………申し訳ございません」

 

 

 触れてはならない話題に触れてしまった事に気が付いたゲンナイはすぐさま謝罪の言葉を返した。

そんなゲンナイにチンロンモンは、よいと言葉を返すと、突然何か思いついたのか考え込むように黙り込んだ。

そして暫くするとおぉと、何かを思い出したかのような声を上げた。

 

 

「先程あの選ばれし子供に尋ねようと思っていた内容を今になって思い出した」

 

 

 チンロンモンはそう言葉を漏らすと、ゲンナイの方を向いた。

 

 

「あの選ばれし子供との会話の中で一つ引っかかる点があったのだ」

 

「引っかかる点、ですか?」

 

「ああ。あやつが、自分の情報提供者の事を話している時だ。

あやつは、自分の情報提供者が『チンロンモン達に似た存在』だと言っていた。

お前はこの言葉の意味が分かるか?」

 

 

 チンロンモンの言葉にゲンナイは頭をフル回転させて考えたが、そもそもチンロンモンの言っている質問の意味が理解出来なかった。

 

 

「……申し訳ございません。私には質問の意味が」

 

「ふむ。何、難しい質問では無い。

ただあやつが言ったチンロンモン達と言う言葉の、『達』が誰の事を指しているのかという質問だ」

 

「成る程。

……まことに失礼ながら、その部分の達は、チンロンモン様に使えてる者達。

つまり私達ホメオスタシスの事を含めているのではないでしょうか?」

 

「ふむ。確かにこの言葉だけで考えればそういう意味なのだろう。

だが、あの選ばれし子供がこの言葉を漏らしたタイミングを考慮するとそう言う意味では無い可能性が高い。

何故ならそもそも、あの選ばれし子供がこの言葉を言ったのは、

人間でもデジモンでもないと思った自分の情報提供者が……というタイミングだ」

 

「……はい」

 

「そもそも情報提供者が、私やゲンナイ達の様なデジタルワールドの安定を望む者達だったのなら、

あの選ばれし子供は、自分の情報提供者は『味方』だという筈だ。

その方が信用して貰える可能性が高いのだから。

なのにあの選ばれし子供は情報提供者が味方だとは言わなかった。まるでその存在が味方では無いと言わんばかりに」

 

「……なら、その情報提供者は敵なんでしょうか?」

 

「いいや、それは違う。

仮に敵だったのなら、あの選ばれし子供がチンロンモン達に似た存在だと言った時点で嘘を吐いたことになり、

私が気が付いている筈だ。だが、少なくともあの会話の中であの選ばれし子供が嘘を言っている様子は無かった。

つまり、恐らくあの選ばれし子供の言った似た存在というのは、善悪やらがどうというより、その情報提供者と存在的なモノが私達に似ているという意味で言ったのだろう」

 

「な、成る程。

……それなら私達ホメオスタシスとチンロンモン様ではまるで立ち位置が違うので、その達には含まれませんね」

 

「ふむ。

だとしたらこの達とは一体誰の事を示しているのだろうな?

――――少なくとも私は自分に似た存在を一体すらも知らない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

上の存在は何体かは知っているが、同格のデジモンなど聞いたことも無い」

 

「私もです。

……あの選ばれし子供はチンロンモン様に似た存在……チンロンモン様以外の聖獣デジモンを知っているのでしょうか?」

 

「それは私にも分からない。そもそも私以外の聖獣が居るのかもな。

……とにかく一度町に戻るとしようか」

 

「はい」

 

 

 チンロンモンの言葉にゲンナイはそう返すと、チンロンモンと共に空の方へと姿を消していった。


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