デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 今回は要らない回かもしれません。


 後、今更ですが君の名は。を見に行きました。
感想を一言で言うと、美しい映画でした。


028 選ばれし子供達の判断

sideヤマト

 

 

「――――以上が、僕達がアメリカで知った選ばれし子供とそのパートナーの話です」

 

 

 タケルはそう言うと、一気に話して疲れたのか少しだけ息を付くような素振りを見せた。

が、その表情は昨日から変わらず暗いままだ。

……まあそんな体験をしたのなら無理もないだろう。

 

 今日、俺と太一と光子郎は、昨日、

帰国して早々話したい事があると言うタケル達の言葉を叶えるべく、太一の家に集まっていた。

その時からタケル達の様子が少しおかしかったので何かあるとは思っていたが……

まさかそんな事が起きていたとは。

 

 

「成る程、そんな事が」

 

 

 タケルの話を聞いて、ある程度自分の考えがまとまったのか、

黙りこんでいた光子郎がそう口にした。

 

 

「……光子郎さん、私達このデジモンを助けたいんですけど、

どうにかなりませんか?」

 

「そうですね。……すみませんが、守谷君の言う通り、現状では厳しいと言わざるを得ないですね」

 

 

 ヒカリちゃんの質問に光子郎はきっぱりとそう返した。

 

 

「まず、ヒカリさん達が出会ったデジモンに関してですが、

そのデジモンは間違いなく死んでいて、現在は幽霊のような状態なんですよね?」

 

「……はい。体が透けてたし、守谷君もそう言ってました」

 

「ではやはり現状でそのデジモンを救うのは難しいです。

僕達は、デジモンは力を使い果たしたりして肉体を保てなくなるとデジタマになって、

はじまりの街に送られる。そして新しく生まれ変わるものだと思っていました。

……ですが、そのデジモンの姿と守谷君の証言から考えると

それはデジタルワールドでのみ起きる現象の様ですね」

 

「……確かに、今考えてみれば、

この世界でヴァンデモンに殺されたパンプモンとゴツモンは…………

デジタマにはならずに消滅していた」

 

「……ヒカリを庇ったウィザーモンもな」

 

「恐らく守谷君の言う通り、

デジタルワールドで死んでいない以上彼等も生まれ変われていないんでしょう。

そして彼等を救うには……これもまた守谷君の言う通り、

デジタルワールドの生まれ変わりのシステムを変えるしかなさそうですね。

…………それに守谷君は否定していますが、もしかするとその選ばれし子供は―――――――」

 

「……その選ばれし子供がどうかしたんですか?」

 

 

 突然言葉を止めて固まった光子郎にタケルがそう言って話しかけた。

その言葉に光子郎は、はっと我に返ったが、少しだけ様子がおかしかった。

 

 

「…………いえ、何でもないです。

――――それにしても外国とは言え、僕達以外に選ばれし子供が居たとは」

 

「確かにな。でも前にゲンナイさんは、選ばれし子供は

俺達と前の選ばれし子供以外には居ないって言ってたんだろ?」

 

 

 太一の言葉に光子郎は頷いた。

 

 

「はい。ゲンナイさんは確かにそう言ってました」

 

「……もしかすると俺達に嘘を吐いていたんじゃ……」

 

「……現状で断言は出来ないですが、僕はゲンナイさんは嘘は言っていないと思います。

理由は色々ありますが、一番の理由は、僕達に他の選ばれし子供が居る事を隠す理由が無いからです」

 

「そうだよな……仮に俺達がゲンナイさんから他の選ばれし子供の情報を貰っても、

大した事はしないだろうしな。

……やるとしてもお互いの情報交換のメールのやり取りぐらいか」

 

「はい。

ですので、ゲンナイさんが他に選ばれし子供が居ないと嘘を吐いたとは思えないんですよ」

 

「だとしたら……ゲンナイさん達も知らない選ばれし子供が居て、

そいつがそうだったという事か?」

 

「そう考えるのが自然かと」

 

 

 光子郎の返答に太一は溜息を付きながら無造作に自分の髪をかき乱した。

 

 

「だがアイツは……守谷は、アメリカに他の選ばれし子供が居る事を知っていた。

ゲンナイさん達ですら知らない選ばれし子供の存在をアイツは知っていた。

アイツがデジヴァイスを手にしたのは京ちゃん達と同じくたった4ヶ月前なのに。

訳わかんねぇよ…………一体アイツの情報網はどうなってるんだ?」

 

「もうこれは守谷君に情報を提供する者……

もしくは情報を提供した者が居ると考えるのが妥当でしょうね。

……とにかくこれ以上はいくら話し合っても答えは出ないでしょう」

 

「……そうだな。じゃあ今日はここまでにするか」

 

 

 太一の言葉に俺達も同意した。

そして俺とタケルは、家に帰るべく太一の部屋のドアノブに手を掛けようとした所で光子郎に

呼び止められた。

 

 

「どうしたんだよ光子郎?」

 

「言い忘れていた事がありました。

……今回のアメリカの選ばれし子供達に関する話は京君と伊織君には黙っていて欲しいんです」

 

 

 光子郎の言葉に俺は、僅かに動揺した。

……もし、この事を京ちゃん達に黙っておくことになってしまったら、

確実にタケル達と京ちゃん達の間に僅かながらではあるが壁が出来てしまう。

そうなってしまったら守谷が言っていたジョグレス進化が出来なくなってしまうかもしれない。

 

 

「……そうですね。デジモンに殺された選ばれし子供が居るなんて話言わない方が良いですよね」

 

「……京さん達はまだ、選ばれし子供になったばっかり。

私もそんな二人にこんな話をしてデジモンが怖い存在だと思って欲しくないです」

 

 

 内心そんな事を考えていた俺とは対象に、タケル達もそれに賛同するような態度を見せた。

……これは不味い。

 

 

「……いや、俺は話した方が良いと思う」

 

 

 光子郎達の意見を否定するように俺はそう口にした。

突然の俺の返答に、まさか反対されるとは思っていなかったのか、

光子郎達は驚いた様子だった。

 

 

「確かに今回の件は、かなりのイレギュラーだ。

人間世界に居た選ばれし子供とパートナーデジモンが、

何の前触れも無くデジモンに殺されるなんて事が起きるなんて俺も思わなかった。

そして、そんな話を京ちゃん達にしてしまったら、

選ばれし子供になったばっかりの二人にはそれがイレギュラーな事だと判断出来ずに、

デジモンそのものに恐怖心を覚えてしまうかもしれないということも。

……だけど、それなら尚更二人には話すべきだ。

選ばれし子供というのは、そういう目にあう可能性もあるという事をしっかり知らせ、

それを理解した上で、選ばれし子供として戦ってくれるかを考えて貰うべきだ」

 

「ヤマト……確かにお前のいう事は間違っちゃいない。

だけど、二人の性格を考えろ。

仮に殺された選ばれし子供が居ると知って、それに恐怖を覚えても、

最終的にはアイツ等はきっと選ばれし子供としてパートナーと共に戦う事を選んでしまう。

……自分の中に芽生えてしまった恐怖を解決出来ないままな」

 

 

 ……確かにそうかも知れない。

二人は優しい心の持ち主だ。それこそ俺達の紋章を受け継ぐに相応しいと思える程に。

そんな二人が、危険だからと言う理由で、パートナーの世界を守るのを放棄出来るのだろうか?

……太一の言う通りきっと無理だろう。

 

 

「……太一さんの言う通り、今の二人に話しても、きっと無理して戦う事を選んでしまうでしょう。

それに今回の事件は、デジタルワールドでは無く、僕達の世界で起きてしまっています。

無暗に話してしまったら、二人はデジタルワールドでもリアルワールドでも

怯えながら過ごす事になってしまうかもしれません。

――――現状、そのデジモンが姿を現す可能性が低い以上、今は話すべきではないかと」

 

 

 確かにタケル達の話では、どうやらその選ばれし子供とデジモンは、

初対面では無く、何らかの関係があったようだ。

そうだとしたら、現状で全くの面識がない俺達の前にそのデジモンが現れる可能性は低いと考えていいだろう。

……二人はまだ選ばれし子供になったばかりだ。

俺達の時とは違って、選ばれし子供としてゆっくり成長する時間もある。

……今の二人は、悪のデジモンですら一体も本当の意味で倒した事が無い選ばれし子供なのだ。

…………守谷には悪いが、もう俺にはここに居る全員を納得させる言葉を発する事は出来なかった。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうなったか」

 

 

 僕はヤマトから届いたメールを閉じながらそう言葉を漏らした。

どうやら先程、タケル達は、太一と光子郎とヤマトに今回のウェンディモンの騒動を話したらしい。

……それについては差程問題は無かったのだが、そこから先が問題だった。

どうやらタケル達は、今回の事件を京と伊織に話さない事にしたようだ。

…………その判断は、普通の人からしたら全くもって正しい判断だろう。

この判断は光子郎達にとって、別に都合が悪いから話さないのではなく、

話さない方が二人の為になると本気で思ったからこその判断だろう。

もしも、僕が光子郎達と同じ状況だったのなら僕もその考えを押した筈だ。

……だが、僕は光子郎達とは状況が違った。

 

 ……今回の出来事で、タケルとヒカリは、今まで以上に選ばれし子供として戦うようになるだろう。

リアルワールドで死んだデジモンをどうにかする為に。

……選ばれし子供としては後輩の、京と伊織を危険な目に合せない為に。

 

 何も知らない二人と、より深い闇を知って、それらを自分達だけで抱え込もうとする二人。

そんな二組が心を通じ合わせる事で初めて出来る奇跡『ジョグレス進化』を行えるだろうか?

 

――――無理だろう。

 

 ただでさえ京と伊織は、僕の考えの甘さのせいで、成長フラグを折られている。

それに加え、更にタケル達との壁が出来てしまったら……ジョグレスなんて出来る筈が無いだろう。

……原作にはない、新たに成長する機会を二人に与えれればいいのだが、

そんな事を出来る機会なんて考え付かない。

そして、そんな機会が無い状態で、二人に自分達に足りない何かを伝えられる存在も思いつかない。

 

――――恐らく、もうすぐアルケニモン達との戦いが始まると言うのに現状はかなり悪かった。

 

 ……完全体のダークタワーデジモンが現れたら一度だけタケル達に任せてみよう。

それでジョグレス出来る可能性を感じなかったら――――

…………この世界に帰れなくなるかも知れないな。

 

 

 

 

 


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