デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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002 ヴァンデモン戦~ウォーゲーム編

 それから僕は東京ビッグサイトの窓から空を見上げていた。

理由は、空に断片的に映し出されているデジタルワールドの光景を見る為。

そこにはアポカリモンと選ばれし子供達の最後の戦いが映し出されていた。

 

 選ばれし子供達は一度こそ存在を消されたが、

再び自身の心の紋章を輝かせながら舞い戻り、そして最後にはアポカリモンを倒した。

 

 アポカリモンを倒した事で断片的に映し出されたデジタルワールドの光景は消えていき、

暗い雲で覆われていた空が晴れた。

デジタルワールドが、世界が救われた瞬間だった。

 

 

「これでデジモンアドベンチャーは無事完結か」

 

 

 周りの人達が手を取り合って喜びあう中、僕は冷静にそう口にした。

結局僕はこの世界が救われた事よりも原作が無事完結した事を喜ぶような人間と言う事だ。

 

 僕は東京ビッグサイトから一人で出て行くと、二日前と同じように太一のマンションへと向かった。

理由は最後に太一達が無事この世界に帰って来たかを確認する為だ。

そして張り込みをしてから数時間後、すっかり空が暗くなった時間に太一とヒカリ達八神家族が家に帰ってくる姿が見れた。

 

 これで本当の意味で無事デジモンアドベンチャーの物語は完結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デジモンアドベンチャーが完結してから約7ヶ月後の春、

世界中の電子器具が問題を起こしていた。

理由は説明するまでも無いだろう。

コンピュータネットワーク上に突如出現したデジモン、クラモンのせいだ。

クラモンはネットワーク上のデータを食べ、己のデータ量を増やし、

尚且つリアルワールドに影響を出していた。

その被害は初めこそは小さなものだったが、少しずつではあるが確実に大きな被害になりつつあった。

 

 

「……まだケラモンみたいだな」

 

 

 あらかじめこの騒動が起きると知っていた僕はこの突然の事件にそれ程慌てる事も無く、

おじいちゃんに買って貰ったパソコンを使って、

有能な人間が問題の原因に気が付き、ネット上に貼った、『ネットワークに変なウイルスが居る』というスレッドのURLに映し出されたクラモンの姿を見ていた。

 

ケラモンは様々な場所を移動しながらデータを吸収し、その姿を少しずつではあるが大きくしていた。

そんな時、突如ケラモンの前に現れた2体の謎の生き物――――アグモンとテントモンは、

そんなケラモンを倒す為に姿を現した。

彼等の戦いは初めこそは2対1でリードしていたが、

ケラモンがインフェルモンに進化した辺りから戦況は大きく変化した。

 

 そしてしばらくして光子郎が原作通りインフェルモンが完全体だと気が付いたのか、

アグモン達を完全体に進化させようとするが、その瞬間をインフェルモンに狙われ、

進化をキャンセルさせられ、インフェルモンに逃げられた。

 

 

「……映画でも思ったけど、どうしてインフェルモンは進化中のアグモン達を攻撃出来たんだ?」

 

 

 僕は初め、選ばれし子供達のデジモンの進化中は、

聖なる光によって攻撃できないモノだと思っていた。

その考えを肯定するように、作中で進化中攻撃をされる事などなかった。

――――インフェルモン、ディアボロモンとの戦いを除いて。

 

 何故この時インフェルモンはアグモン達に攻撃する事が出来たのか?

僕が考えた理由は3つある。

 1つはインフェルモンが魔王クラスのデジモンだから。

作中で現れた魔王デジモン、デーモンも進化中のデジモンに攻撃はしなかったが、

それが慢心が起こした結果だとしたら考えられるパターンだ。

……だがデーモンが仮に慢心で攻撃しなかったとしても、

そもそもインフェルモンは魔王クラスのデジモンとは到底言えないだろう。

だからこれは無いだろう。

 

 2つめが、インフェルモンに感情が無いから。

生き物は感情があるからこそ、怖いと思ったり、悲しいと思ったりする。

選ばれし子供達のデジモンが進化する時の光が

神々しくて普通のデジモンは本能的に攻撃出来ない。

だから感情が無いインフェルモンは本能的に恐れることなく攻撃出来たと

考えたパターンだ。

……だが、実際インフェルモンは、ネットワーク上のデータを食べたり、

選ばれし子供達に「アソボ」とメールを送ったりしている。

これは感情があると……少なくとも本能はあると判断出来だろう。

だからこの考えも無いだろ。

 

 3つめに僕が考えたパターンは、そもそもインフェルモンが……

 

 

「……いや、これは無い。ある訳無いだろ」

 

 

 この考えをあり得ないと判断した僕は次にネットに貼られたURLをクリックし、

マイペースにデータを吸収し続けているインフェルモンの姿を無言で見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、ガブモンとパタモンを含めた4体のデジモンでインフェルモンに戦いを挑むが、

ディアボロモンに進化されたり、再び進化中を攻撃されたり、原作通りウォーグレイモンの動きが突如止まったりする等で再びディアボロモンに逃げられた。

 

 しばらくしてディアボロモンのせいでロケットが発射されたと

URLを貼り続けていた有能な人間が発表するとスレッド上はパニックになった。

 そんな中、傷付いたウォーグレイモン達はディアボロモンの行先を知ったのか、

空間に穴を開け、その場所から移動した。

 この場所のURLを貼った有能な人間もディアボロモンの場所を特定しようと捜索するが、

かなりの時間がかかった。

やはり光子郎のコンピュータに関する能力はずば抜けている様だ。

 貼られたURLの映像を見てみると、そこには数千と増えたディアボロモンに

四方八方から攻撃され、それを避け続けているウォーグレイモンとメタルガルルモンの姿があった。

その動きは初めこそは華麗なモノだったが時間が経つごとに明らかに異常なペースで鈍くなっていた。

理由は僕と同じようにこの戦いを見ている者達が

太一やヤマト達のパソコンに応援のメールを送っているからだ。

大量のメールのせいで彼らのパソコンの動作が重くなり、その結果そのパソコンから接続しているウォーグレイモン達の動きが遅くなったのだ。

 

圧倒的な攻撃に僕も思わずメールを送りそうになったが必死に止めた。

何故なら知っているからだ。この後ウォーグレイモンとメタルガルルモンは合体して

オメガモンとなり、この圧倒的な状況を覆すと。

 

――――が、その考えは覆された。

 

突如数千、数万のディアボロモンは攻撃を止めたのだ。

『ウォーグレイモン達がまだ動ける状態』なのに。

それと同時に増殖し増えたディアボロモン達が消えだした。

そして一体となったディアボロモンは動かないままウォーグレイモン達を見つめていた。

 この状況に太一達も理解できないのか10数秒ほどまったく動きを見せなかったが、

しばらくして、

早くディアボロモンを倒さないとロケットが東京に落ちてくると思い出したのか、

ウォーグレイモンとメタルガルルモンは必殺技をディアボロモンに放った。

 ディアボロモンはそれを避ける事もせずにまともに受け、消滅した。

ディアボロモンを倒した事でロケットが爆発する事は無く、事件は無事解決した。

 

 デジモンアドベンチャーぼくらのウォーゲームが完結したのだ。

 

 

「――――なんだよ、これ」

 

 

 太一達を含む騒動の原因を知る全ての人間が喜ぶ中、只一人僕は困惑していた。

 

 

 

「原作と違う、原作と違、う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と違う原作と……」

 

 

僕は原作に干渉して無い筈だ。選ばれし子供達と一度すら話した事が無い筈だ。

それなのに何故、原作と違う展開になっている。

 

 

「……何か、原作に影響が出るような事をしたのか?」

 

 

僕自身は選ばれし子供達に一度すら干渉していない。これは断言できる。

だが、僕が存在する事で、原作に少なからず干渉していたのではないかと考えた。

が、それも無いだろうと判断出来てしまった。

 

 僕は、僕が存在する事で原作に影響が出ない様に生まれた時から注意してきた。

小さい頃、幼稚園に入る時も、まずは選ばれし子供達が居ない遠い所を大前提として、

次に僕が入るせいで誰かが入れなくなるという事が起きない様に調べてから入園した。

入園後は、積極的に人を避け続け、積極的に一人で居られるように行動した。

先生にも一人でいる時が一番いいと判断されるように必死にそう見せた。

成績も、平均よりも常に下を保ち、誰かの眼に留まらない様に振る舞った。

幼稚園が終わった後は誰よりも早くその場から立ち去り、

誰とも関わりたくないと見せつけるような行動を続けた。

 そうする事で園児はおろか先生すら僕に話しかける事は無くなった。

 

 小学校でも、何処にでもいそうな無口な奴を演じ、

一人でずっと読書し続け、孤立する事に成功した。

成績も平均以下を常にキープし、眼に付けられないようにした。

偶に熱血的な先生などが、僕に話しかけたりするが、

親に捨てられ人を信用していない。人と最低限以上に関わるのが嫌、

最低限以上に人とかかわる位なら学校に来ないなどと、

根気強くその先生に伝える事でそれを防いだ。

 

 そんな8年間を過ごした僕だからこそ、

選ばれし子供達に影響を与えていないだろうと判断出来た。

 ……と言うか、そもそも仮に、僕が行動して影響が出るとしても選ばれし子供達にだ。

ディアボロモンに影響が出る筈が無い。

なら今、ディアボロモンがオメガモンになる前に倒された原因に

僕が関わっていないと言えるだろう。

 

 なら何故……?

理由を考えているとふと転生した時の事を思い出した。

 

 

「……あの時、もしかすると神はこの世界は原作と違うと言っていたのか?」

 

腕が根元から爆発すると言うあり得ない状況と想像を絶する痛みのせいで

殆ど聞けなかった神の言葉を再び考えた。

 

「……神は僕に救世主となれと言っていた。これは聞き取れた。

だがそれなら、原作と違う何らかの異常が僕の前に発生すると思っていた。

……でも、実際発生したのはディアボロモンがオメガモンになる前に倒されるという異常。

一体どうしろって言うんだよ……」

 

 

 僕がどういう風に行動すれば良かったのか分からないが、

既に原作は多少ながら変わってしまっていた。

 まだ原作の展開に影響が出ない程度の差かもしれない。

でも既にこの世界は僕の知る原作と違うモノとなっている。

この先、また今回の様に原作と違う展開が起きるかも知れない。

その結果、原作が崩壊してしまうかもしれない。

 

 

「何をどうすればいいかなんて分からない。何がどう正しいかなんて分からない」

 

 

――――でも僕は転生者だ。この世界の未来を知っている。

ならその未来を守る為に行動しなければならない。

この第2の人生全てを掛けても守らなければならない。

それがこの世界に生まれてしまった汚物、存在してはいけない者の定めだ。

 


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