デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 またもや更新が遅れてしまって本当に申し訳ございません。
……過去の話を見直してみると前書きで毎回謝っていますね。

 今回でアメリカ旅行編は終了です。
ですが、前編、中編に比べて文章が無駄に多い上、読みずらくなってしまっています。
今回の話を書いている時、
アメリカ編を前中後の3つに分けてしまった事を後悔しました。



027 アメリカ旅行 後編

 ニューヨークに来てから二日目の朝、僕とチビモンは、

ホテルのチェックアウトを済ませ、

ミミ達と落ち合う予定の待ち合わせ場所で皆を待っていた。

荷物は元々リュック一つに入りきるくらいしか持ってきていなかったので、

何処かに預けずに自分で背負っている。

……このままチョコモンの存在を確認しないまま

呑気にニューヨークを満喫するのには抵抗があるが、

今日の午前中までが、事前にミミ達と共に行動すると決めた期限なのだ。

チケットを手配して貰った手前、それを破るつもりは無い。

それに、今日の午後になればそれも終わり。

そうなれば僕達は、電車に乗って『サマーメモリー』という場所に行く。

 

 行ってこの世界が、映画の世界と同じ世界かどうかを確かめるのだ。

もしもこの世界が、映画と同じ世界なら、形は違えどデジヴァイスを持つ選ばれし子供が

チョコモン達の思い出の場所に足を踏み入れれば、必ず接触して来るだろう。

そして、そのチョコモンが敵と判断できた場合、僕は温存なぞ一切考えずに、

ブイモンをウイングドラモンに進化させ、速攻で終わらせる。

もし、その場にウォレスが居て、チョコモンを説得している最中だったとしてもだ。

……アンティラモンはともかく、

ケルビモンに進化されたら勝ち目なんぞ万に一つも無くなるのだから。

 

 そんな事を考えていると、

手を振りながらこちらに近づいて来るタケルとパタモンの姿が見えた。

そろそろ時間か。

僕は先程までの考えを胸の内に隠し、タケル達の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ミミ達とも合流した僕達一行は、昨日途中で中断した観光の続きを終えると、

ニューヨークで全員で取るであろう最後の昼食を取り終わると、駅の近くに来ていた。

 

 

「……では、そろそろ時間なので僕はここで失礼します」

 

 

 時計を見て頃合いと判断した僕は足を止め、全員にそう伝えた。

その言葉に隣にいるタケルは自分の腕時計を見て少しだけ驚いたような表情を見せた。

 

 

「もうそんな時間なんだ。やっぱり楽しい時間は立つのが早いね」

 

「天城君の用事ってどれくらい掛かるの? 終わってから合流とかって出来ない?」

 

 

 ミミの質問に僕はそうですねと考える振りをしながら答えた。

 

 

「電車の往復の時間を考えてもこちらに帰って来れるのは

飛行機の時間ギリギリになりそうなので、やはり無理そうです」

 

「そっかーそれなら仕方が無いわ。じゃあ私と天城君が最後に会うのは空港ね。

―――――じゃあ天城君! 旅、楽しんできてね、ばいばい!!」」

 

「…………はい。では失礼します」

 

 

 ミミ達に別れの言葉を告げ、

僕はぬいぐるみのふりをしたチビモンを抱きながらその場を去った。

そしてミミ達の姿が見えない位置まで来ると、僕は小走りで駅へ向かう。

そんな僕の行動に疑問を持ったのかチビモンが話しかけてきた。

 

 

「どうしたのアマキ? 電車に遅れそうなの?」

 

「いや、そう言う訳じゃないんだけど……嫌な予感がしてね」

 

 

 嫌な予感と言うのはミミ達がこっそり付いて来るのではないかというものだ。

そう思った理由は、ミミとの別れがあまりにあっさりしていたからだ。

ミミの性格から考えて、不法入国をしようとしてまで

海外に来ようとした僕の旅先に興味を持つ可能性は非常に高いと思っていた。

それなのにミミはその事を一度も尋ねなかった。

あえてその質問を避けたかのように。

……それに別れ際に僅かに口元をニヤ付かせていた気もする。

この考えが自惚れ、または自意識過剰な考えから生まれたモノかもしれないが、

少なからず警戒はした方が良いだろう。

 

 僕は駅前のコンビニで二人分の食事を購入すると、

回りにミミ達が居ないか警戒しながら切符を買い、

出来る限り回りから見えない様に列車に乗り込んだ。

その後は、適当に誰も居ないボックス席に座ると、

窓から自分達の姿が見えない様に身を隠しながら電車の出発を待った。

そして電車が発進し、駅が小さく見えるくらい離れた所で僕達はようやく気を抜く事が出来た。

 

 ここまで来ればもう大丈夫だろう。

駅で切符を買う時、周りにミミ達の姿がなかった事から尾行はされていないと思っては居たが、

念の為、ここまで警戒の行動を取った。

……が、どうやら杞憂に終わったようだ。

 

 僕は少し眠そうにしているチビモンに眠たかったら寝ていいよと声を掛ける。

この電車には乗り換え無しに一日近く乗り続けなければならないのだから、

無理して起きている必要は無いからね。

僕の言葉にチビモンは、じゃあ少しだけと言うと、前と隣に席が空いているというのに

そのまま僕の膝の上で眠りについた。

そんなチビモンに僕は小さく溜息を付き、頭を軽くなでると、

リュックから本を取り出し、読み始めようとした。

……が、そこで予想外にも声を掛けられた。

 

 

「あのー相席いいですか?」

 

 

 鼻声の恐らく女性と思われる声が僕に向けられた。

……せっかく寛げる席に座れたと思ったのだが、声を掛けられたのなら仕方が無い。

1秒ほどそんな事を考え、僕はその声の主の方を向いて構いませんと返事を返そうとした時、

ある疑問が脳裏に浮かんだ。

 

――――何故日本語で話しかけられたのか?

 

 ここはニューヨークだ。

それなら普通は英語で話しかけれ来るはずだ。

いくら僕が日本人だからと言って、外国で初対面の人に日本語で話しかけられるだろうか?

……まさか………僕は恐る恐るその声の主の方を向いてみると――――

そこには鼻をつまみながらニヤニヤした表情で此方を見るミミと、

申し訳なさそうな表情をしたタケル達の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして僕の行先まで分かったんですか?」

 

 

 あの後、結局ミミ達と相席する事になり、それぞれ席に着いた。

座席の場所は僕は進行方向と逆方向の窓際で、隣にタケルが座って居て、

正面にはヒカリ、その隣にミミという席順になった。

 

 全員が席に着いて暫くして、僕は正面隣に座るミミにそう尋ねた。

先程ミミ達にどこに行くのか分かっているのかと尋ねると、

ピタリと僕達が降りる予定の駅名を当てられた。

乗っている電車を特定されたのはともかく、行先を見事に当てられたことに疑問を覚えた。

 

 僕の質問にミミは、それはねとニヤリと笑いながら答えた。

 

 

「テイルモンに、駅の天井の柱の裏から天城君が何処行きの切符を買うのか見張っててもらったの!」

 

 

 ミミの言葉に僕はミミ達にお構いなしに大きな溜息を付いた。

そこまでするか。純粋に僕はそう思った。

流石にヴァンデモンの手下という闇の世界で生きてきたテイルモンに

そんな隠密行動をされたら気付ける筈が無い。

……という事は、さっきまで僕がしていた警戒の行動は全くの無意味だったという事か。

そう思うと自然と溜息が出た。

 

 明らかに不機嫌そうな態度を取った僕にタケルは乾いた笑い声を、

ヒカリは物凄く申し訳なさそうに謝罪してきた。

先程のテイルモンの行動から考えて、ヒカリもこの尾行作戦に関わっていたのだろう。

……まあミミに頼まれて断れきれなかったんだろうが。

僕はヒカリにもう気にしていないと返した。

 

 

「それで天城君はそこにどんな用があるの?

あそこは結構田舎で、観光になりそうなモノは無い筈だけど」

 

「…………古い知人に会いに行くんですよ」

 

「へぇー、守谷君って外国に会いに行くほどの知り合いが居るんだ。

もしかして僕と同じで何処かのクォーターだったりする?」

 

 

 タケルの問いに僕は多分違うと返事を返す。

髪の色も瞳の色も黒なので、そうでは無いと思うが、

両親がどうか知らないので、実際はどうなのか分からないからね。

 

 

「……それでミミさん達は僕の旅の目的まで聞いてまだ付いて来るんですか?」

 

「うーん……私はどうせ暇だし付いて行くわ。

こんな機会が無いとそんな田舎行く事ないと思うし」

 

「……ミミさんはともかく、二人はどうするんだ?

観光に来たんならもっと行くべき場所はある筈だが」

 

「僕はもう行きたい場所は昨日と今日で全部回ったから守谷君に付いて行くよ。

守谷君とはもっと仲良くなりたいし」

 

「私もタケル君と一緒で、行きたい場所はもう行ったから。

それに外国の田舎がどんな風なのか興味があるわ」

 

「…………そうか。ならもう好きにしてくれ」

 

 

 密かにある計画を練りながら僕はタケル達に投げやりにそう伝えた。

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideタケル

 

 僕達が改めて守谷君の旅に付いて行くと決まった後は、色んな話をした。

ミミさんのニューヨークでの学校生活や、

ミミさんが海外に行っていたせいで来れなかった集まりでどんなことをしたのかとか。

後、どんな歌手が好きなのかっていうのも話した。

ミミさんは海外の歌手の名前を挙げたのでどんな人か分からなかったけど、

ヒカリちゃんの挙げた歌手の名前は僕もミミさんも知ってたから結構盛り上がった。

最後に守谷君に聞いてみると、以外にも好きな歌手が居たようで、

その名前は僕達も知っている有名な人だった。

……守谷君の事だから音楽に興味は無いと返されると思ったから内心びっくりした。

守谷君の意外な発表が終わると、突然何故かミミさんがその歌手の歌を歌い出した。

そこで歌声がその歌手とそっくりだという事を知り、そこでも大いに盛り上がった。

 

 その後は、僕達が初めてデジタルワールドに行った時の話をした。

僕の話にミミさんは、そんな事もあったなーと懐かしげな表情で聞いていた。

ヒカリちゃんも当事者だけど、始めの方はメンバーに居なかったので、

僕の話に凄い真剣に聞いていた。

守谷君は――――視線を下に落とし目を閉じながら話を聞いていた。

寝ている訳では無かった。声を掛ければ普通に返事を返してくれたから。

きっと何か思う事があるんだろうと思った。

……何を思ったかは見当も付かないけどね。

 

 そんな風に色々話して時間を潰していると、

突然守谷君がトイレに行くと言って席を立った。

トイレに行くこと自体は別に普通の行動なのでその時の僕達は、

守谷君の行動に殆ど気に掛けずに話を続けていたけど、

一時間位時間が経っても守谷君が帰って来ない事にヒカリちゃんが気付いて

ようやく僕達も、守谷君が全然帰って来ない事に気が付いた。

 

 

「そういえば守谷君まだ帰って来てないね」

 

「お腹でも壊したんじゃない?」

 

 

 ミミさんの言葉に僕も同意で、ヒカリちゃんにそうじゃないかなって返そうとしたけど、

その際に、ふと隣の守谷君が座って居た席を見て、ある事に気が付いた。

 

 

「――守谷君の荷物が無い!」

 

 

 守谷君が座って居た席にはチビモンは勿論、守谷君が背負っていたリュックも無かった。

トイレに行くだけなら荷物を持っていく必要なんて無い筈だ。

それならつまり―――――

 

 僕は席を立ち、電車にあるトイレを全部回った。が、何処にも守谷君達の姿は無かった。

そこで守谷君がどうしたかが察しがついた僕は、皆の元に戻りその事を伝えた。

 

 

「……守谷君達、何処にも居なかった。

多分、途中でチビモンをライドラモンにアーマー進化させて電車を降りたんだと思う」

 

 僕の言葉にヒカリちゃん達は驚きの表情を浮かべた。

僕自身も、守谷君がこんな方法を使ってまで僕達から離れた事に驚いていた。

くそう! こんなことなら守谷君が席を立つ際ちゃんと見ておくべきだった。

守谷君が自分の荷物を持っていこうとしているのを。

チビモンも付いて行こうとしていた事を。

 

 

「電車から飛び降りてまで一人で行こうとするってなんだかおかしくない?」

 

 

 普段のミミさんならこんな風に出し抜かれたなら腹を立てていたと思うけど、

それ以上に守谷君の行動に疑問を持ったミミさんは静かにそう口にした。

 

 

「そうですね。守谷君が言ってた通り、知人に会いに行くだけならそこまでする必要は無いですね。

それにそうまでして付いて来てほしくないならそう言えばいいのに、

守谷君は付いて来るなとは一言も言わなかった」

 

 

 言ってくれれば、守谷君が知人に会う時は別行動にするつもりだった。

……まあ守谷君の事を考えれば本当は駅までも付いて行かない方が良かったのかもしれない。

けど電車に乗ってしまった上、他に行く予定の場所も無い僕達的にはそれは避けたかった。

 

 ……でも、ここまでして僕達を避ける理由はなんなんだろう?

 

 そんな事を内心考えていると、突然ヒカリちゃんが、物凄い勢いで窓の方を振り向いた。

 

 

「どうしたのヒカリちゃん?」

 

「――――今、泣いているデジモンの声が聞こえた気がしたの」

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タケル達を出し抜き、ライドラモンに乗って電車から飛び降りた僕達は、

そのまま目的地のサマーメモリーの方へ向かっていた。

 

 

「アマキ、そのサマーメモリーって場所は後どれくらいで着くんだ?」

 

「このまま休まずに行けば、日付が変わる前には着けるけど、そこまで急ぐ必要は無いよ。

途中で休憩や睡眠をとりながら明日の朝位に着けるようにしよう」

 

 

 休まず体力を消費して向かって、

そこに暴走したチョコモンが居て、戦闘になって負けてしまったら元も子も無い。

故に休憩は必須事項だ。

 

 ……まあ、この二日間、チョコモンが現れる前兆は一切感じられなかったから、

もしかしたら本当にこの世界にはチョコモンが騒ぎを起こすような事は起きないかもしれないけどね。

もしそうだとして、更にチョコモンがウォレスというパートナーから離れることなく、

真っ直ぐに成長していたとしたら、この先の戦いに協力して貰う様に話してみようか?

ウォレスは、大輔にそっくりだとウォレスのもう一体のパートナーデジモンは言っていたから、

もしかすれば事情を話せば協力してくれるかもしれない。

 

 ……いや、まだ楽観的に考えるのは早い。

チョコモンが現れなかったのも、時期が違うという理由なのかもしれない。

この世界は既に、原作と大きく違ってしまっている。

その影響でタケル達の旅行の日付がズレてしまっただけかもしれない。

 

とにかく今はそんな事を考えずにサマーメモリーに向かうとしよう。

そこに行けばきっと何か分かるはずだ。

サマーメモリーに行ってチョコモンがウェンディモンの姿で現れれば、十中八九原作と同じ展開になるだろう。

サマーメモリーに行っても何も起きなければ、7割位の確率でこの世界ではチョコモンが行方不明になって居ない、またはチョコモンがそもそも存在していないと予想できる。

もしもサマーメモリーに、ウォレスと、グミモン、そしてチョコモンが居て、一緒に遊んでいるなら、

この世界では彼等は幸せに過ごせていたという事が分かる。

 

――――出来れば3つ目の予想であって欲しい。

ライドラモンに乗ったまま、僕は密かにそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ここがサマーメモリー」

 

「――――凄い綺麗だね!!」

 

 

 途中野宿をしながらも大方予定通りの時間に目的地に着いた僕達は、

目の前に広がる光景に圧倒されていた。

足元は見渡す限り名前も分からない美しい花で埋められていて、

その向こう側にはこの花畑を囲むように山が存在し、

この場所が本当に地球上に存在する場所なのかと疑問を覚えた位、

幻想的な空間だった。

 

 

「――――ブイモン」

 

 

 僕の呼びかけにブイモンは首を横に振った。

 

 

「やっぱりデジモンの気配は感じないよ」

 

 

 ブイモンの言葉に、僕はそうかと返した。

……少なくともここから見える範囲の花畑は荒れたような形跡が一切見られない。

ウェンディモンに進化したチョコモン程のサイズのデジモンがこの花畑を歩けば、

目で見て分かる程その場所の花は潰れ、大きな足跡が残るはずだ。

それが無いという事は少なくとも大型のデジモンが最近現れたという事は無いのだろう。

 

僕は再び辺りを見回した。

そこには先程と同じく、美しい花畑が見渡す限り広がっていた。

僕は漠然とその美しさに疑問を覚えながらも、ブイモンと共に花畑に入って、

探索を始めた。

 

 そして探索を始めてから5時間後、ブイモンがもう飽きたと言わんばかりの様子で話しかけてきた。

 

 

「アマキ~オレ、疲れたよ」

 

 

 5時間も、ただ単に花畑を歩き回るという行為に流石にブイモンも痺れを切らしたのだろう。

普段は5時間以上修行しても泣き言を言わないのにその姿には疲労が見て取れた。

まあ正直に言って僕もこの行為に意味があるか疑問を覚え始めた所だった。

探索を始めてからずっと花畑を歩き回っていたが、チョコモンが現れる様子は無かった。

……これが映画と違って、チョコモンがウォレスと離れ離れになっていないという事を意味するのかはまだ判断できない。

……いや、ウォレスの持つデジヴァイスとは違うといえ、デジヴァイスを持っている僕が

この彼等の思い出の場所を歩き回っても姿を現さないという事は、

やはり映画とは違う展開になっているのだろうか?

 

 

「帰ろうかブイモン」

 

 

 ハッキリ言ってまだチョコモンが騒動を起こさないとは100%は断言出来ない。

だがここまでこの場所を歩き回って現れないならこれ以上ここに居ても時間の無駄だろうと、

そう考えた結果だった。

……いや、本当は心の何処かで、この世界は映画の様な展開が起きないんじゃないかと思い始めていたのだ。

―――――だが、そんな甘い考えはすぐさま捨てる事になった。

 

 

 

「おーい、天城君ー!!」

 

 

 突然上空から僕を呼ぶ声が聞こえて来た。

声が聞こえた方を見てみると、そこには、ネフェルティモンに乗っているヒカリと、ミミ。

ペガスモンに乗っているタケルの姿があった。

 

 ミミ達の姿を見た僕は、初めはここまで追いかけて来るなんてと、

呆れたように肩を落としたが、ある事に気が付き、思考をフル回転させる事になった。

それは、『どうしてミミ達はこの場所が分かったのか?』という事だ。

 

 行先は絶対に話していない。それは確かな筈だ。

それならミミ達が知っているのは僕が降りる筈だったこの場所の駅名だけだ。

そして、この場所は駅からかなり離れている。

仮にここで戦いが起きても気付かないと思えるくらい距離が離れて居る上、

現在の時刻は12時過ぎ。

ミミ達が乗っていた電車が駅に到着する予定時刻は11時半くらいだった事を考えると、

ミミ達は電車を降りて30分程でここに来たという事になる。

……ペガスモン達のスピードを考えればあり得ない話ではないが、

それは一度も止まらずにこの場所に向かってきた場合の話。

僕の行先を知らないミミ達では出来ない行為の筈なのだ。

 

 ネフェルティモンとペガスモンは僕達の前に降りると、

ミミ達を下ろし、進化を解いた。

そしてミミが、少し口を膨らませながらこちらに歩いて来た。

 

 

「天城く~ん……どうしてミミ達を置いて行ったの?」

 

「それについては本当にすいません。でもどうしてこの場所が分かったんですか?」

 

「それはヒカリちゃんのお蔭だよ」

 

 

 後ろからタケルが話に割り込んできた。

 

 

「八神さんの?」

 

 

「うん。ヒカリちゃんが電車で、『泣いているデジモンの声を聞いた』らしいんだ。

それで気になって、ヒカリちゃんがその声の元を辿――――――――

 

 

 そう言ってタケルは話を続けていたが、僕の耳には入らなかった。

今、タケルは、ヒカリが泣いているデジモンの声を聞いたと言った。

それが意味するのはつまり――――

 

 

「――――ブイモン!!」

 

 

 普段出さないような大声で隣に居るブイモンの名を呼ぶ。

その声にブイモンは質問を返したりする事なく只飛び上がった。

飛び上がった瞬間に一瞬で光を纏い、

そして僕の前に着地する時にはその姿はエクスブイモンの姿となって居た。

その余りの進化スピードにテイルモンとパタモンは驚いたような声を上げたが、

それに反応している余裕は僕にはない。

 

 ……ヒカリが電車で聞いた声は、十中八九劇場版と同じでチョコモンの泣き声だろう。

そしてその気配を辿ってヒカリ達が来たという事は、ここにチョコモンが居るという事だ。

そう思って辺りを見回すが、気配は感じられなかった。

 

 

「八神さん。そのデジモンの気配は何処から感じる?」

 

「え? えっと、さっき私達が空から守谷君を呼んだときに守谷君が居た場所辺りからだと思う」

 

 

 さっきまで居た場所……

僕はその方を凝視するが、変化は見られなかった。

……いや違う。先程までと違い、その場所に明らかに何らかの違和を感じ取る事が出来た。

さっきまでは何とも思えなかったのに何故?

 

 

「……高石、八神さん。今すぐミミさんを連れてここから離れてくれ」

 

 

 自分を落ち着かせるために静かな声でそう告げる。

今まであの辺りは何度も通ったが、チョコモンが現れる様子は無かった所から、

恐らく現地点では敵意は無いのだろう。

だかそれがいつまでも続くとは限らない。

仮に戦いになったのならタケル達は足手まといにしかならないのだから、

ここは引いて貰いたかった。

 

 

「…………」

 

 

 だが、タケルはその言葉に返すことなく、D3を取り出し、

僕の隣に立った。

 

 

「守谷君、ヒカリちゃんが聞いたデジモンの声の持ち主って悪いデジモンなの?」

 

「……アイツが僕の探していたデジモンならその可能性は高い。

そいつは本来なら善の存在になり得たデジモンだが、今はもう暗黒のデジモンと言った方が相応しい存在だ」

 

 

 タケル達にこれ以上ここから離れろと言った所で意味は無いだろう。

僕はそう結論付けると、ゆっくり一歩ずつエクスブイモンと共にその気配の元へと近づく。

……こうなればタケル達に被害が出る前に速攻でケリを付けるしかない。

そう考えながら進む僕に、タケルもパタモンをペガスモンに進化させ、無言で付いて来る。

そうして一歩ずつゆっくりその気配の元へ近づいて行く僕達の前に、突然ヒカリが両手を広げて立ちふさがった。

 

 

「……何のつもりだ?」

 

「……あのデジモンは泣いてた。すっごく悲しそうな声で誰かを探してた。

あのデジモンは悪いデジモンじゃないと思うの。

だからそんな表情であのデジモンに近づいてあげないで。

今守谷君凄い怖い顔してる」

 

「元々こんな顔だ」

 

「違うわ。守谷君は普段は…………何処か遠くを見ているような悲しい表情をしてる。

でもミミさんのお蔭か、この二日間はもっと良い表情をしてたわ。

少なくとも今みたいな怖い顔はしてなかった」

 

「あのデジモンに敵意が無いと分かればすぐにでも止める。

だがそれが不明な今はそんな風に気を抜いてる余裕はない、

そこを退いてくれ」

 

「ダメ、その顔を止めるまでは退けない」

 

「……下手をすれば全滅だってあり得「ねぇ、ヒカリちゃん! 本当にこの辺りに居るの?」

 

 

 ヒカリとひと悶着していると、そう言うミミの声が聞こえて来た。

その声の方を見てみると――そこは何かの気配を感じる場所のすぐ前だった。

 

 

「っっ!!」

 

 

 僕はヒカリを避け、全速力でミミの元へと向かう。

そんな僕の様子をミミは一切気にしないで、捜索を続けた。

 

 

「ねぇ! 居るんなら出て来なさいよ!

私は選ばれし子供。泣いているデジモンが居るなら相談位には乗って上げるわ!」

 

 

 自分のデジヴァイスを前に掲げながらそう言うミミ。

……すると何処から声が聞こえて来た。

 

 

『お前は…………ウォ……レ……じゃない』

 

「ウォ……って誰の事? いいから姿を現しなさい!」

 

 

 唸り声の様な低い声で突然話しかけられたのにも関わらずミミはそう返す。

するとミミの言葉に従ったのか、黒い影の様な姿ではあるがその声の主がミミの前へ姿を現した。

そこでようやくミミの元へ辿り着いた僕達もその姿を正面から確認する。

そのデジモンの姿は、

黒い影の様な姿をしていて元のデジモンのシルエットしか分からなかったが、

僕にはそれだけで判断出来た。

ぬいぐるみの様な大きさで、両端に手の様に長い耳が付いていて、

頭に大きな角が付いている。

このデジモンは映画で騒ぎを起こしたデジモンのロップモン。

つまりチョコモンだ。

 

 

「か、か、可愛い!!」

 

 

 そのチョコモンの愛くるしい姿に胸を打たれたのかミミは、チョコモンに近づき、

抱きかかえようとしたが、それは叶わなかった。

ミミがチョコモンに触れようとしたその時、ミミの手がチョコモンの体をすり抜けたのだ。

 

 ……どういう事だ、と一瞬思ったが、直ぐに理由が分かった。

恐らくチョコモンは、映画の様に、この世界とデジタルワールドとは違う世界を持っていて、

現在はそこに実体を置いているから触れないのだろう。

 

 その事が分からないミミは、すり抜けた事を理解出来ずに

純粋に目の前に居る可愛い存在に触れなかったことが相当悔しかったのか、軽く泣いていた。

 

 

「一体どういう事?」

 

 

 遅れて僕達の元へ辿り着いたヒカリ達はその光景にそんな言葉を漏らした。

だがその疑問に誰も答える前に、チョコモンが再び口を開いた。

 

 

『お前はウォ……スじゃない。

ウォ………と、同じデジヴァイスを持っているけど違う』

 

 

「デジヴァイスを持ってるってことはそのウォ……って選ばれし子供って事?

うーん。でも私達以外に選ばれし子供って確か、

昔に選ばれし子供に選ばれた5人しかいない筈だからその内の一人かしら?」

 

 チョコモンの言葉に早々に立ち直ったミミがそう言葉を漏らした。

ミミの言葉にタケル達もそうですねと何の違和感もなく返していたが、

僕にはミミの言葉にどうしても無視出来ない点があった。

 

 

「ミミさん。

選ばれし子供って僕達と昔選ばれた人以外に居ないんですか?」

 

「? ええそうよ。

私達と昔の5人以外居ないって前にゲンナイさんから聞いたって光子郎君が言ってたわ。

実際私も他の選ばれし子供にあった事ないし」

 

「そう…………ですか」

 

 

 ……現在のデジタルワールドの様子から考え、正直その可能性が有るとは思っていたが、

実際にそうだと思うと気が重くなった。

が、今はその事に肩を落としている場合では無い。

今は目の前のチョコモンをどうするかを考えるべきだ。

現在は敵意の様なモノは一切感じられないが、

何故か嫌な予感がしてならない。

 

 

「ねぇ、貴方はその子と逸れちゃったの?

だからそんな悲しそうな声で泣いていたの?」

 

 

 ヒカリがしゃがんでチョコモンに出来る限り視線の高さを合わせながら尋ねた。

その時僕はこのチョコモンをどうするべきなのか考えていた。

現在はこうやって意思の疎通が出来る程度には理性が残っている。

だがそれがいつまで持つかは分からない。

倒そうにも今は別世界に肉体が存在するのか、

触る事が出来ない。さてどうしたものか……

 

 

『――――違う』

 

 

 チョコモンのその言葉で僕の思考が止まった。

 

 

『――――違う』

 

 

 何故違うのか?

チョコモンは、はぐれてしまったウォレスを探している筈だ。

 

 

『――――違う――違う――ー』

 

 

 映画のチョコモンはそうだったはずだ。

だからこのチョコモンもその筈なのに。

 

 

『違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!』

 

 

 突然のチョコモンの憎しみのこもった声に僕達は一歩後ずさった。

 

 

『ボクがウ……レスと逸れたんじゃない!

アイツがウォレ……を連れて行ったんだ!!

………モンが……………コモンが………チョ……モンが………チョコモンが!!』

 

「――――チョコモンだと!?」

 

 

 そのデジモンの言葉に僕は驚愕の声を上げた。

何故チョコモンがチョコモンに連れて行かれたと口にした?

何故、映画ではあそこまで意思疎通できなかったのに今こうして会話が出来ているのか?

僕は目の前のデジモンがチョコモンの成長期のロップモンだと思っていた。

色は真っ黒でシルエットしか分からなかったが、見た目の特徴と、事前情報からそう判断していた。

だが、良く考えれば、映画にはロップモンに似たデジモンが登場していたではないか。

そう思った僕は、そのデジモンを正面からでは無く、横に回って見た。

そのデジモンの額には、正面からでは判断できない合計三つの角があると思っていたが、

実際には一つしか存在しなかった。

 

 

「お前はまさか………グミモンか?」

 

『――――どうしてボクの名前を知ってるの?』

 

 

 チョコモン……いや、グミモンがそう返した瞬間、グミモンの姿に色が付いた。

全体的に白と緑のカラーリングをされ、体が半透明に透けているテリアモンの姿が目の前に存在した。

 

 

「……グミモン。お前の探しているパートナーのウォレスは、チョコモンに攫われたのか?」

 

『! うん! ボクとウォレスがここに来て昔行方不明になったチョコモンを探してたら、

突然ウォレスの後ろに大きな影が現れて、そこから大きな黒い不気味なデジモンが出て来たんだ。

その姿にボク達は一瞬戸惑ったけど、そのデジモンがチョコモンだとすぐ分かった。

ウォレスはチョコモンが戻ってきたって喜びながらチョコモンに抱きつこうとしたんだけど、

ボクは何か嫌な予感がして、ウォレスを止めようとしたんだけど……

気付いたらウォレスもチョコモンも居なくなってたんだ。

多分、チョコモンがあの黒い影にウォレスを連れて行ったんだと思う』

 

 

 グミモンの言葉を聞いている途中で、グミモンの足元の地面に何か違和感を覚えた僕は、

しゃがみ込んでその地面を調べ、ある事に気が付いた。

 

 

「……グミモン、チョコモンが現れたのは何時頃だ?」

 

『ついさっきだよ! 今日ボクとウォレスはここに来て、そしてチョコモンに襲われたんだ!』

 

「…………そうか」

 

 

 僕はしゃがみ込んだままグミモンにそう返す。

そんな僕の様子に、グミモンは、僕に言っても自分の願いを聞き入れて貰えないと判断したのか、

僕から視線を外し、ヒカリ達の方を見つめた。

 

 

『お願い! ボクと一緒にウォレスを探して! きっとまだ遠くには行って無い筈だから!』

 

 

 お願い……! そう必死に口にするグミモンの姿に、ミミ達は顔を見合わせ、頷いた。

 

 

「分かった。君のパートナー探しに協力するよ」

 

『ホント!?』

 

「ええ。同じ選ばれし子供として、放っておけないわ」

 

「そうそう! 大丈夫よ、ミミ達に任せたら貴方のパートナー何てすぐ見つかるわ!」

 

『ありがとう!』

 

 

 ウォレスと一緒に探してくれると言ってくれたミミ達にグミモンは嬉しそうにほほ笑んだ。

……さて、話はここまでにするか。

 

 

「……じゃあ、何か分かったらまたここに来る。

それまでグミモンも心当たりがある場所を探しててくれ」

 

『分かった! じゃあよろしくね!』

 

 

 グミモンは、そう返すと、一瞬でその姿を消した。

まるで初めからそこに居なかったと言わんばかりに。

 

 そんな不可解な現象にミミ達は何も思わなかったのか、

これからどうやってウォレスを探すか話し合っていた。

……この空気で言うのはかなり気が引けるが仕方が無い。

事の真実にいち早く気が付いた僕は、

出来る限り冷たい態度でミミ達に言い放った。

 

 

「何をしてるんですか? もう僕の用事は終わりましたから帰りましょうか」

 

 

 突然の僕の言葉にミミ達は何を言っているだコイツといった表情をしていた。

 

 

「守谷君……何を言ってるの? 僕達は今から攫われたグミモンのパートナーを探すんでしょ?」

 

 

 タケルの言葉にミミ達はその通りだと言わんばかりに深く頷いた。

その反応に僕は小さく溜息を付いて、さっきまでグミモンが居た足元にしゃがみ込んだ。

 

 

「……ここをよく見ろ」

 

 

 そう言いながら、僕はその辺りの花を少しだけ抜く。

――――するとさっきまでは見えずらかった、大きな足跡の跡がくっきりと見えた。

 

 

「この足跡は?」

 

「グミモンとそのパートナーを襲ったデジモンの足跡だ」

 

「……? そうなんだ。でもそれがどうかしたの?

別にそのデジモンの足跡がある事自体は変な事じゃないと思うんだけど……」

 

 

 タケルの言葉にミミ達も同意するように頷く。

だが、テイルモンだけは僕の言いたい事に気が付いたのか、

目つきを鋭くしてジッとその足跡を見ていた。

そんなテイルモンの様子に気が付いたヒカリはテイルモンに尋ねた。

 

 

「どうしたのテイルモン?」

 

「……おかしくないか?」

 

「おかしいって何が?」

 

「……グミモン達を襲ったデジモンの足跡がある事自体は何らおかしくない。

それがある事は、実際にグミモンが言った事が嘘じゃないと言う証明になるからな。

だが……グミモンは、このデジモンに襲われたのは今日だと言っていた。

それなのに――――どうしてそのデジモンの足跡の上に花が咲いていたんだ?」

 

 

 テイルモンの言葉にヒカリ達は驚愕の表情を浮かべた。

そしてテイルモンを含め、その全員の視線が僕に向けられる。

僕はその理由を説明すべく、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「理由は簡単だ。

グミモン達が襲われたのが今日では無いと言う事だ。

少なくとも……花が潰されてからそこに種が落ちてまた咲き始めると考えて、

最低でも――――1年くらい前という事になるな」

 

「一年前って……! ならどうしてグミモンは今日攫われた何て嘘を付いたの?

そんな嘘を付く必要なんて無いじゃん」

 

「それも簡単です。

グミモンは嘘を付いているつもりなんて無いんですよ。

グミモンにとってはパートナーが攫われた日は今日なんです。

正確に言えば、グミモンの時間は、その日から一日たりとも動いていないという事です」

 

「動いていないってどうして?」

 

「――――死んでるからだよ」

 

 

 僕の言葉にタケル達は再び驚愕の表情を浮かべた。

そしてタケルはその言葉を真っ向から否定して来た。

 

 

「嘘だ! デジモンは死んだらデジタマになるはずだ!」

 

「それはデジタルワールドでの話だ。

こっちで死んだデジモンは基本的にデジタマになることはない。

それとも高石達はこっちで死んだデジモンのデジタマを一つでも見た事があるのか?」

 

 

 僕の言葉にヒカリとタケルは俯いた。

……二人ともこの現実世界でデジモンが死ぬ瞬間をその目で見た事があるのだ。

そしてその際にデジタマが生まれなかったことも見ている筈。

だからこそ僕の言葉に二人は返す事が出来なかった。

 

 

「さっきミミさんがグミモンに触ろうとした時にすり抜けたのもそう言う理由です。

……そしてハッキリ言いますが、

一年以上前に攫われたグミモンのパートナーは……もう生きてはいないでしょう」

 

「――――生きてないって…………死んだって事?」

 

 

 タケルの言葉に僕はコクリと頷く。

 

 

「詳しくは説明しないが、僕はそのデジモンがどういうデジモンなのかを知っている。

そいつは、僕の知る限りデジモンの中でも唯一リアルワールドともデジタルワールドとも違う

自分の世界を作りだせるデジモンだ。

そしてその世界は、こちらから感知する事は不可能な上、中からも脱出する手段はほぼ存在しない。

そんな世界に一年も前に連れて行かれたグミモンのパートナーが生きていると思うか?

凶暴で狂っているデジモンと二人きりな上、目の前でグミモンを殺されたそいつが、

大人しく一年以上もそのデジモンと生きて一緒に居れると思っているのか?」

 

 

 食料も無いだろうしな、と付け加え、ウォレスの生存はあり得ないとミミ達に伝える。

ウォレスが生きているかもしれないと思わせてしまったら

ミミ達は必ずウォレスを捜索するだろう。

それはさせてはならない。

仮にウェンディモンの世界を見つけ、乗り込んでしまったら、

ほぼ確実にウェンディモンが現れ、

自分とウォレスとの二人だけの世界に足を踏み入れられたことに怒り、

究極体へと進化するだろうから。

 

 ……ハッキリ言うと、ウォレスは今も生きているだろう。

ウォレスを殺すなどウェンディモンがする筈が無いのだから。

仮に誤って傷を付けてしまったとしてもその場所はウェンディモンの世界だ。

その世界の性質から考えて、ウォレスの傷を無くすなど造作もないだろう。

…………まあ体が無事でも心は無事だとは思えないが。

 

 

「それならグミモンはどうするの!?

グミモンは今もパートナーを探してるのよ!」

 

「放っておくしかないですよ。

現実世界で死んだデジモンはデジタマになれない。

デジタマになれないという事は生まれ変わることも出来ない。

……本来なら、こうして姿を現す事も無い筈なんですが、

余程強い思いを持っていたんでしょう。

残酷にもグミモンは不完全ながらもこうして明確な意思を持って形を得てしまった。

現状でグミモンを救う手段はグミモンのパートナーを連れて来ることですが、

彼が死んでいる以上それも出来ない。

放っておくことしか出来ないんですよ」

 

「そんなの…………可哀そうだよ」

 

「…………君達が本当にグミモンを救いたいのなら一刻も早くデジタルワールドを平和にするしかない。

デジタルワールドを平和にし、生まれ変わりのシステムを再調整する事が出来れば、

現実世界で死んだデジモン達も生まれ変われるように出来るかも知れない」

 

 

 ヒカリ達にグミモンを救えるかも知れない手段を伝えると、

僕はヒカリ達に背を向けながら駅の方へ歩き出した。

これ以上この事に関して話す事は無いと示す為に。

ブイモンと二人で歩き出した僕達にミミ達は、少しの間その場所に無言で留まっていたが、

最終的にグミモンが居た場所を申し訳なさそうに見つめながら僕の後を追ってきた。

 

 

「――――ごめん」

 

「ん? アマキ今何か言った?」

 

 

 僕の小さな呟きを聞いていたのか隣にいるブイモンがそう尋ねてきたが、

何でもないと返した。

 

 ……今僕が謝ったのはここに居る誰かに向けてでは無い。ここに居ない人間、ウォレスに対してだ。

さっきも言った通り、ウォレスはきっと今も生きているだろう。

ウォレスは、自分以外に選ばれし子供が居る事を知らないが、それでも今なお助けを待っているかもしれない。

――――それを理解した上で僕はウォレスを助けに行かない。

理由は単純に、助けに行けば僕にとって不都合な事が起きるからだ。それ以上の理由は無い。

あったとしてもそれは言い訳にしかならない。

……僕はウォレスを見捨てる。自分の目的の為に。

僕の望んだ未来の為に。




 ウォレスファンの方、
このような結果になって申し訳ございません。

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