次回からは新編に入ります。
……開始早々話がかなり進む予定です。
なので、もしかすると楽しみにして下さっていた話が飛ばされるかもしれません。
ヤマト達と太一達に話すキメラモンとの戦いの内容を話し合ってからしばらくすると、
ヤマト達が話の途中で言ってた通りの時間に太一達が病室にやって来た。
太一達は病室に入るや否や、先に病室に来ているヤマト達に驚いたような反応を見せた。
……どうやら太一達には内緒で来ていたようだ。
「どうしてお兄ちゃんや空さんが先に来てるの?」
「……ちょっとコイツにどうしても聞いておきたかったことがあってな」
太一達今来た組全員を代表してそう質問して来たタケルにヤマトはそう答えると、
僕の近くから離れ、病室の壁に腕を組んでもたれ掛かり先頭に居る太一の方を向いた。
「……これだけは言っておくが、コイツはこいつなりの勝算が確かにあって計画を実行した。
……結果はこのざまだが、少なくともヒカリちゃんの時とは訳が違う。
―――――手は出すなよ太一」
「……それぐらい分かってるよ」
ヤマトの予想外の言葉に太一は驚きながらもしっかりとそう返した。
そして全員を代表して僕の前まで来た。
「早速で悪いが……まずはキメラモンとの戦いについて教えてくれ」
「……はい。初めは――――――――」
こうして僕は太一達にキメラモンとの戦いについて話した。
……まあ内容はヤマト達と話し合って考えた真っ赤な嘘だが。
話した内容は簡潔に言うと、初めは太一達に話した通りに普通に逃げ回っていたが、
途中で突然キメラモンが停止し、消滅し始めた。
そこで僕達は太一達が要塞を破壊したのだと気を抜いたが、
キメラモンは自分の体のパーツのいくつかを自ら外す事で消費エネルギーを節約し、
消滅を踏み止まり、僕達に攻撃してきた。
油断していた僕達はそれを避ける事が出来ずに命中し、ピンチに陥るがそこでヤマト達が来てくれた。
その後は僕を背負ったままヤマト達がキメラモンのエネルギー切れまで逃げ回った。
……という内容だ。
「――――以上がキメラモンとの戦いの内容です」
嘘がばれない様に細心の注意を払いながらなんとか話に詰まることなく話し終えた僕は、
一呼吸置くと、太一達に頭を下げた。
「僕の考えが甘かったせいで、皆さんにまで迷惑をかけるところでした。
本当にすいません」
……さっきから太一達には嘘の話ばかりしているが、この謝罪は本心からのモノだった。
今回は本当に危なかった。もしもヤマト達が来ていなかったら、僕がここに居ないのは勿論、
あの場所に居なかった太一達選ばれし子供達にまで危険な目に合わせるところだったのだ。
それを思うと謝罪せずにはいられなかった。
「……顔を上げろ」
太一の言葉に僕はゆっくりを顔を上げ、太一の方を改めて見つめた。
そんな僕に太一は、自分の手を僕の頭の上に置いて優しくなでた。
「謝る必要なんて無いさ。お前はよくやった。
……確かに詰めが甘かった箇所もあったかもしれないが、
お前の行動のお蔭でキメラモンの脅威は去ったんだ。もっと胸を張れよ」
「そうだよ! 守谷君は良くやったよ」
太一に続き後ろに居たタケル達も次々と僕を庇う様な言葉を言ってくれた。
僕はそんな優しい気遣いに無言で頭を下げた。
「……あ! そうだ!」
何か思いついたのか、京が突然そんな声を上げた。
「守谷君! 何か欲しいものとかしてほしいことない?
私の実家、コンビニエンスストアを経営してるから
言ってくれたらおにぎりとか色々持ってこれるわよ!」
何でも言ってくれと言わんばかりの表情で僕に迫る京。
「欲しいモノか何かしてほしい事、ですか? そうですね…………」
突然の京の提案に僕は左手を口元に当てて考える。
……現時点で欲しいモノは無いから物はナシだ。
ならやってほしい事は…………
「……それならデジタルワールドを少しの間任せてもいいですか?」
「え? デジタルワールドを?」
「はい。……今回は流石に僕も無理をし過ぎたので少し休養を取ろうと思いまして。
……謎の女たちもしばらくは行動し無さそうなので」
僕は包帯でぐるぐる巻きになった右手を軽く上げながらそう伝える。
……休暇を取ろうと思っているのは本当だ。
流石にこの状態でデジタルワールドに行くのはアレだしね。
それにこう言っておかないと太一達にまた無理をするかもしれないと心配されるだろう。
後それに加えもう一つ理由があった。
それは選ばれし子供達……主に京と伊織に経験を積んで貰う為だ。
アルケニモン達が表立って行動しなくなるという事は恐らくダークタワーの進化を妨害する力も無くなる筈だ。
その状態で戦闘経験を積めば、原作よりも早い段階でホークモンとアルマジモンが成熟期に進化出来るようになるかも知れない。
それに、皆で戦う事で、
後にジョグレス進化する為の選ばれし子供達の親密度も少なからず上昇するだろう。
……この世界が原作の世界と違う以上、原作の様に選ばれし子供達がジョグレス進化出来るかは分からない。
それに加え、選ばれし子供達のムードメーカーだった大輔も居ないのだ。
下手をすれば親密度が足りなくてジョグレスが出来ないという状況になってしまう可能性もある以上、少しでも選ばれし子供達には親密になってもらう必要があった。
後、もうあまり必要じゃないかもしれないが、伊織と京に二つ目のデジメンタルを入手して貰う為でもある。
……まあこの二つ……特に伊織の二つ目のデジメンタルの入手のイベントの際は僕も注意して観察するつもりだが。
「成る程、分かったわ! デジタルワールドは任せて!
守谷君が休んでる間にダークタワー何て全部壊しておくわ!」
「はい、お願いします。
……ですが、ダークタワーを破壊するのは程ほどでお願いします」
僕の言葉に全員が疑問を浮かべた。
そして真っ先に疑問をぶつけて来たのは伊織だった。
「どうしてですか?
ダークタワーはイービルリングでデジモンを操る電波塔の様な役割を持って居るモノの筈です。
それなら出来る限り早くに全部破壊した方が良い筈です」
「確かに君の言う通りダークタワーの存在は百害あって一利なしだ。
……だけどもはやあの塔は良くも悪くもデジタルワールドの一部の様な存在になってしまっている。
そんなモノを一度に多く破壊するのはあまり得策じゃないんだ。
だから君達には少しずつダークタワーを破壊していって欲しいんだ」
……本当の理由は、あまりにダークタワーを破壊しすぎたら
アルケニモン達が早々に行動せざるを得ない状況になってしまうからね。
それを防ぐためにもダークタワーは少なからず必要だ。
僕の説明に伊織は渋々ながらも分かりましたと納得してくれた。
後ろの選ばれし子供達も反論を言ってこない所から見るに同じように納得してくれたのだろう。
「……っと、あんまり怪我人に無理させるのも良くないしそろそろ帰らないかい?」
「確かにそうですね。皆さんもそれでよろしいですか?」
光子郎の質問に太一達は頷き、僕にそれぞれお別れの言葉を言って病室から出て行く。
太一以外が病室から出て終わると、太一自身も僕に一言別れの言葉を言って病室から出ようとした。
だがそこで僕は太一にあるモノを借りていた事を思い出し太一を呼び止めた。
「八神先輩、ちょっと待ってください」
「ん? どうした?」
僕の声に立ち止まり、僕の前まで戻って来てくれた太一にあれを返すべく、
病室に用意されていた僕の持ち物入れからそれを取り出し差し出した。
「石田さんから借りていた八神先輩のゴーグルを返すのを忘れてました」
「あーそれか。そう言えばヤマトがお前に貸したとか言ってたな」
太一はそう言いながら僕の手からゴーグルを受け取ろうとしたが、
手前で手を止め、そして受け取らずに手を下ろした。
「……それ、お前にやるよ」
「…………え?」
太一の想定外の言葉に僕は思わず固まった。
「ヒカリやタケルのデジヴァイスがD3に変わった時俺は思ったんだ。
これから先は俺達じゃなくて、D3を持つ新しい選ばれし子供達の時代なんだなって」
「……そんな事ないですよ。八神先輩達だってまだ…………」
「分かってる。俺達だってまだ選ばれし子供として出来る事がある。それは分かってる。
だが、デジタルワールドに自由に行き来できるお前達やダークタワーを見ているとやっぱりそう考えちまうんだ」
「……そうだとしても、どうして僕なんですか?」
僕の質問に太一は、そうだなと一言返すと、
僕の方では無く窓から見える風景を見ながら語りだした。
「3年前の俺は正直に言ってお前よりも単純で無鉄砲なガキだった。
今考えると多分みんなにはそのせいで色々迷惑かけたんだなと思う。
……特に丈や光子郎にはな。
でもその時の俺は、どうしても立ち止まろうとはしなかった。
出来る事があるのに何もしないってのが出来なかったんだ。
……そんな所が少しお前と似ていると思ったからかな」
そうやって照れくさそうに微笑む太一に僕は密かにそれは間違っていると思った。
……確かに僕の知る原作の太一は無印の世界でそう思われるような行動はとっていた。
今の太一の言葉から想像するに、きっと僕の知る太一と同じような行動を取っていたんだろう。
だけど……そうだとしたらやっぱり太一の自己評価は間違っている。
太一はどんな時も仲間を気遣っていた。
そしてどんな時でもやらなければならない事を誰よりも早く、深く理解していた。
だからこそ、まだどうすればいいか判断出来ていない仲間に反発されたりしていた。
だがそれが正しい事だと理解していたから太一は無理を押し切ってでも行動を起こしていた。
立ち止まるより前に進む方が断然いいと思っていたから。
進める道があるなら進んだ方が良いと思っていたから。
現状を変えるというもっとも恐ろしい行為に直ぐに立ち向かえる『勇気』があったから。
「それに俺も中二だからそろそろゴーグルはどうかなって思ってたんだ。
だけど、これは俺のトレードマークみたいなものだし少なくとも捨てるのはちょっとな。
だけど誰かにあげようにも、ヒカリには昔、普段から首からかけていたホイッスルが無くなった時に言ったんだけど、
その時ですら嫌がるような顔をしながら要らないって言われたんだ。
タケルは意外とおしゃれ好きだから言ってもいらないって言われそうだし、
京ちゃんは女の子だから流石にこんなのをあげるのはどうかと思うし、
伊織には……あんまり似合わない気がするしな。
ヤマト曰く、お前のゴーグル姿は中々様になってたらしいしそれならなと思ってな」
「……八神先輩、僕は――――――――」
side太一
俺は守谷の病室から『ゴーグル』を手に持って出た。
守谷は俺のゴーグルを受け取らなかった。
……別にその事に関しては大したことでは無かった。
確かに新たな選ばれし子供へ俺からのエールとして受け取って貰いたかったという気持ちはあったが、
それはあくまで出来ればの話だ。いらないと言われれば無理して渡すつもりは無かった。
だが、ゴーグルを受け取れないといった守谷の表情がどうしても頭から離れなかった。
「……八神先輩、僕はこのゴーグルを受け取れません」
「どうしてだ?」
「僕にとってゴーグルというのは勇気の証なんです」
「勇気、の証?」
「はい。正確には仲間を思う勇気の証です。
ゴーグルを受け取るという事は僕にとってはそれを一生背負う覚悟を持つという事なんです。
……すいませんが僕はそんな覚悟を持てません」
「……これはそんな重苦しいモノなんかじゃないぞ?」
「八神先輩にとってはそうでも僕にとってはそういうモノなんです。
それに――――――――」
守谷は普段とはっきり違う作り笑顔で言った。
「もうこれ以上何かを背負う余裕なんてないですから」