デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 遅くなって本当にすいません。



021 奇跡

sideヤマト

 

 

 作戦を話し終えた俺とガブモンは、

森林を破壊し尽くそうと攻撃を放ち続けているキメラモンの近くまで来ていた。

 

 

「……やれるかガブモン?」

 

 

 前回戦った時よりもずっと強く感じるキメラモンの圧倒的な攻撃に

僅かだが足がすくんだ俺は、自分がまだ心の準備が済んでいないというのにガブモンにそう質問した。

 

 守谷と話し合った結果、俺とガブモンはキメラモンの元に行き、守谷達の準備が終わるまでの時間稼ぎをすることになった。

だが、どれ位時間を稼げばいいのかは分からない。

……何故なら、時間がどれくらいかかるかを守谷自身も分かっていないからだ。

 だがそれでも俺達はアイツを信じてキメラモンを出来る限り引き付けなければならない。

 

 そんな足がすくんだ俺の言葉にガブモンは力強く頷くとキメラモンの方に力強い視線を向けていた。

……どうやらガブモンは準備万端のようだ。

 

 意外とビビりな癖にこういう時に誰よりも心強い相棒に勇気を貰った俺は力強くデジヴァイスを握った。

そしてガブモンをガルルモンに進化させると、その背中に乗った。

 

 

「―――行くぞ、ガルルモン!」

 

 

 俺の声にガルルモンは返事では無く、キメラモンに必殺技を放つことで返した。

ガルルモンの必殺技は、他の方向を見ていたキメラモンに見事に命中した。

……が、全く効いている様子では無かった。

 

 効かないだろうとは分かっていても、

実際その光景を見せられた俺達は改めてキメラモンとの圧倒的な差を感じたが、

その考えを振り払い、キメラモンが今まで破壊して来た荒地に走り出した。

 

 荒地に出た事で俺達の居場所に気が付いたキメラモンは、咆哮を上げながら

俺達を追って来た。

 

 ……ここまでは作戦通りだ。

取り敢えずは思惑通りに進んでいる事に安堵した俺達だったが、ここで一つ想定外の事が発覚した。

――――キメラモンのスピードが速すぎる。

 

 確かに守谷はキメラモンの速さは俺達が前に戦った時よりも

ずっと早くなっていると言っていたが、まさかここまでとは……

真っ直ぐ直進でガルルモンが走っているのにもかかわらず、

キメラモンとの差は開くどころか徐々に詰められていた。

……くそ、こんなにも速いのならもっとキメラモンと距離をとってから攻撃を仕掛けるべきだった。

速さに定評の無いエアドラモンとエンジェモンの翼を使っているからと

何処かで油断してしまっていたようだ。

 

……兎に角、少しでも時間を稼がなければ。

 

 キメラモンが追いかけながら放ちだした攻撃を間一髪で躱し続けながら走り続けた。

 

 そして守谷達とブイモンが戦っていた砂漠地帯が見え始めた辺りで

キメラモンと俺達の距離は直ぐ近くまで迫っていた。

キメラモンは初めこそは必殺技を放ちながら俺達を追って来ていたが、

このまま何もせずに追いかけても追いつけると判断したのか

攻撃を放たずにただ俺達を追って来ていた。

そして遂に俺達とキメラモンの距離が10m程を切り、

キメラモンが更にスピードを上げ、俺達を捕えようとしたその時、

突如空からいくつもの炎がキメラモンに降り注いだ。

――――バードラモンの攻撃だ。

 

 

 俺達に気を取られ完全に不意を突かれたキメラモンにバードラモンの攻撃がすべて命中する。

……が、キメラモンはその場に止まり、鬱陶しがるような素振りを見せながら

攻撃が飛んできた方に視線を向けた。

……ダメージは無いようだ。

 

 

「ヤマト……」

 

 

「……やはり俺達じゃキメラモンを倒す事は出来そうにないな」

 

 

 ダメージを受けている今の状態ならもしかすればと考えていたが、

先程から不意を突き攻撃を仕掛けてもキメラモンには効果が無かった事から、

現状の俺達ではそれは不可能だと判断出来た。

……やはりこの状況でキメラモンを倒せるかはアイツに全て掛かっているという訳か。

 

 

「……だけど本当に成功するのかな?」

 

 

 

 ガルルモンの呟きに俺は返す事が出来なかった。

確かに俺達は、アイツの言っていた作戦に全てを賭け、こうして戦ってるのだが、

どうしてもその作戦が成功するとは断言できなかった。

多分俺達は、それが成功するとは心からは信じ切れていないのだろう。

……アイツ自身も成功するかは分からないと、

そもそも出来ない事なのかもしれないと言っていた。

 

 ――――だが俺達は、全員で生きて帰る為にその作戦にかけた。

 

 

「……俺達は少しでも時間を稼ぐんだ。アイツ等を信じて」

 

 

 俺の言葉にガルルモンは深く頷くと、上空に居るバードラモンに攻撃を放ち始めた

キメラモンに必殺技を放った。

こっちにも敵は居るぞと言わんばかりに。

 

 そして俺達とバードラモンは互いにフォローしつつ、

勝ち目のない戦いを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ガルルモン!」

 

 

 俺とバードラモンから退化して幼年期になってしまったピョコモンと、

隠れていたのにバードラモンがやられた時に思わず飛び出してきてしまった空を

庇い必殺技を受けたガルルモンはそのまま吹き飛んだ。

 

 完全体の攻撃をまともに受けたガルルモンは進化を維持できずツノモンまで退化してしまった。

……限界だ。もうこれ以上俺達は戦えない。

そしてアイツ等もまだここには来ていない。

……どうやら俺達は十分に役目を果たせなかった様だ。

 

 キメラモンは俺達にもう抵抗する術が無いと理解したのか、大きな咆哮を上げた。

そして此方に向かって下降して来た。

 

 ……どうやらここまでの様だ。

目の前に死が迫っているせいか、これまでの思い出が走馬灯のように頭を巡った。

そしてキメラモンが下降のスピードを維持したまま俺達を踏みつぶそうと目前まで迫ってきた。

 

 ――――その瞬間、突如横からミサイルの様なモノが飛んできてキメラモンの左側部分に命中した。

これまでガルルモン達の攻撃を受けても

全くダメージを受けた素振りを見せなかったキメラモンだったが、

この攻撃には明らかにダメージを受けた素振りを見せ、苦悶の声を上げながら横方向に吹き飛んだ。

 

 

「ヤマト! あのミサイルは――――」

 

 

 キメラモンを吹き飛ばしたミサイルを見たのであろう空は、

信じられないといった表情を浮かべながらも嬉しそうに俺に話しかけてきた。

 

 

「分かってる!」

 

 

 あのミサイルには見覚えがあった。

……そう、そのミサイルはこれまで何度も見た事があるモノだった。

見間違う筈が無い。あれは俺達が知るあのミサイルだ。

 

 

 吹き飛んだキメラモンに目もくれず俺達はそのミサイルが飛んできた方向を見た。

そこにはあるデジモンの背中に乗り、

この信じられない作戦を計画し成功させた守谷と、その頭に乗ったチビモン。

――――そしてアグモンが完全体に進化した姿であるメタルグレイモンの姿があった。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらギリギリ間に合ったみたいだ……」

 

 

 アグモンを完全体に進化させる事に成功した僕は、

メタルグレイモンの背に乗ってここまで全速力で来たわけだが……

どうやら間一髪だったようだ。

 

 後数秒でも遅れていたらヤマト達が大変な事になっていただろう。

……本当に間に合ってよかった。

ヤマト達を助ける事が出来た事に安堵の息を付きながら、

僕は改めて作戦通りに話を進める事が出来た事を喜んだ。

 

 僕がヤマト達に話した作戦は……

――――『僕がアグモンを完全体に進化させてキメラモンを倒す』

という本当に賭けに近い作戦だった。

 

 話した直後は勿論ヤマト達に呆れられたし、

僕自身も出来るかどうかは賭けに近い作戦だった。

だってこの考えは、根拠が無いに等しいモノだったのだから。

 

 自分のパートナー以外のデジモンを進化させる事が出来ないという話は原作では登場していなかった。

…………そう、たったこれだけの根拠で僕は自分のパートナー以外のデジモンを

進化させる事が出来るかも知れないと考えていた。

……勿論この考えは無理があると僕自身思っていてずっと試す事すらしてこなかったが、

今回はそれ以外に全員で生きて帰る方法が思いつかなかったからやるしかなかった。

もし成功しなかったら、僕だけでは無くヤマト達まで死ぬことになっていただろう。

……成功して本当に良かった。

 

 成功したのは恐らく、

パートナー以外のデジモンを進化させる事が出来ないという固定概念を

僕が持っていなかったのと、進化させる対象がアグモンだったのが主な原因だろう。

……僕自身、もしブイモン以外のパートナーデジモンを進化させる事が出来るとしたら

進化出来そうなデジモンは、アグモンかゴマモンか……パルモン辺りだと考えていた。

この三体のパートナーデジモンは、状況によって色々割り切れるタイプ……だと思っている。

簡単に言えば、上の三体は

状況によっては僕をパートナーだと扱える性格をしているという事だ。

……他のパートナーデジモンはどんな状況でも少なくとも僕をパートナーと割り切る事は出来ないと思う。

ピヨモンは空以外をパートナーになんてしたくないだろうし、

ガブモンはヤマト以外とパートナーになるのは裏切りだと考えてしまう気がする。

他のパートナーデジモンもガブモンとピヨモンと似たような考えを持っているだろう。

……だからここにアグモンが居た事に僕は少なからず奇跡を感じていた。

 

 そして僕がヤマト達に時間を稼いで貰うようにお願いしたのは、

アグモンと少しでも心を通わせる為。

成熟期に進化ならともかく、完全体へ。それも紋章やタグ無しに行うというのなら

少なからず心を通わせる必要があると考えたからだ。

……実際アグモンと心が通ったと感じた瞬間にD3が光りだしたからこの考えは合っているのだろう。

 

 そんな事を考えていると――――突如目眩がした。

 

 

「アマキ!?」

 

「大丈夫だよ、大丈夫。ちょっと目眩がしただけさ」

 

 

 チビモンにそう返したがきっとこれは只の目眩では無いだろう。

この感じは……そう、僕がアグモンを完全体に進化させる事に成功した際に

突如襲った疲労感に良く似ていたのだ。

そしてその時は、それを感じたと同時にメタルグレイモンがグレイモンに退化してしまった。

その時はまたグレイモンをメタルグレイモンに進化させようとD3に力を込めても何の反応も無かった。

何度やっても駄目で、結局最後の足掻きにグレイモンに触れてみると再びメタルグレイモンに進化したのだ。

……だから邪魔になると分かっていながらもこうしてメタルグレイモンの背中に乗っているのだ。

こうやって密着していないと離れた瞬間に進化が解けるからね。

きっと完全体……いや、デジモンを進化させるには選ばれし子供の心のエネルギーみたいなものが

少なからず必要なのかもしれない。

事実今僕は、少しでも気を抜けば意識が飛びそうなくらいの疲労感に襲われていた。

 

 

「……メタルグレイモン、ごめん。

ギガデストロイヤーは出来る限り無駄撃ちしないでほしい。

今襲った疲労感から考えて、後数発撃ったら意識が保てなくなる可能性が高いんだ」

 

「……分かった」

 

 

 僕が意識を失う事が完全体への進化が解ける事だと瞬時に理解した

メタルグレイモンは、瞬時に飛び起きこちらの10数メートル前の上空まで

飛んできたキメラモンに視線を向けながらそう返した。

 

 そんな僕等に対してキメラモンは強敵が現れたのを喜ぶかのような歓喜の声を上げると、

そのまま真っ直ぐ突っ込んできた。

 

 

「――――キメラモンは絶対ここで倒さなければならない。

行くよ、メタルグレイモン!」

 

 

 僕はずっと握りしめていたヤマトから借りた太一のゴーグルを装着しながらそう叫んだ。

――――こうして僕とキメラモンとの最後になるだろう戦いの火蓋が切られた。




 本当は今回の話でキメラモン編を終わらそうと思っていましたが出来ませんでした。
ですが、次回で、キメラモン編を終わらせてみせます。




 前作を書いていた時から思っていたんですが、
やはり僕は主人公の仲間を上手く動かす事が苦手の様です。

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