デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 投稿がかなり遅れてしまって本当に申し訳ございません。
こんなに遅くなってしまった理由は、モチベーションが落ちた訳でも、
書く時間が無かったわけでもありません。
純粋に今回の話をまとめるのに苦労しました。

何度書い読み直しても長い上に、
何の面白味も無い話になってしまって何度も書き直しました。
その成果もあって長さだけは何とか短くすることが出来ました。



020 残された策

 突如そう遠くない場所から大きな爆発音が聞こえて来た。

……どうやらキメラモンが上空から僕達を探すのにしびれを切らし、

僕達が隠れているであろう森自体を破壊し始めたようだ。

この森がいくら広いと言っても、キメラモンが必殺技を威力では無く、範囲力に力を入れて、

放ち続ければ、あり得ない速度でこの森から隠れる場所は無くなってしまうだろう。

……いや、そうなる前にここに留まって居たら、先に僕達が見つかってしまう。

もしくは、その攻撃で全滅してしまうだろう。

 

 

「……とにかく今はキメラモンからどう逃げるかを考えるべきだ」

 

 

 次々と聞こえてくるキメラモンの攻撃による爆発音からこのままここに隠れるのは危険だと

判断したヤマトは、そう提案した。

そんなヤマトの言葉に空達は頷き、どう逃げるかを話し合い始めた。

闇雲にこの場から逃げ出すのは危険だと判断したのだろう。

僕自身はその判断は正しいと思った。

……普通に考えてもでない解決策を、

走りながら考え付く筈が無いのだから。

ヤマト達は真剣にどうやったらここから全員が逃げ出せるかを考えていた

 

 ……だが僕からすれば……いや、

もしかするとヤマト達も心の何処かでそう感じているかもしれないが、

正直全員がキメラモンから逃げ出せる可能性は0に近い。

……いや、ハッキリ言って0と言ってもいいだろう。

それ程までにキメラモンの破壊スピードが速いのだ。

 

 ……ヤマト達がこんなピンチになったのは全部僕のせいだ。

僕が完全体に進化するという事がどういう事かをしっかりと理解して対策していれば、

ヤマト達をこんな危険な目に合わせる事は無かった。

 

 

「……りや君……守谷君」

 

 

 ふと空に話しかけられている事に気が付いた。

……どうやら僕は話しかけられているのに気が付かない程思考に没頭していたらしい。

そんな僕に対し、空が心配そうに具合が悪いのかと尋ねてきた。

そんな空に僕は大丈夫ですと一言返し、僕に話しかけてきた理由を尋ねるべく言葉を返した。

 

 

「それで……なんでしょうか?」

 

「あの……守谷君のD3で暗黒の海へのゲートを開いて、そこから暗黒の海へ逃げ込むって

いう作戦を思いついたんだけどどうかしら」

 

 

 今ならゲートを開く時間もあるしと空は付け足して僕にそう提案して来た。

……僕的に言わせて貰えば、暗黒の海へ開こうとした時点でアウトなのだが、

空達の知っているだろう情報ではそんな事を知る筈が無い。

僕はそれを実行しようとしなかった理由を説明することにした。

 

 

「……確かにこのD3には暗黒の海へのゲートを開く力があります。

ですが暗黒の海へのゲートを開こうとする事は、

すなわちその場所に暗黒のエネルギーを発生させるという事と同意義です。

そしてそんな暗黒のエネルギーをこんな何もない場所で作ろうとしたら、

直ぐにキメラモンに気が付かれ、ゲートが完成する前にこの場所に来る事になるでしょう。

キメラモンにはデビモンという暗黒のデジモンのデータが使用されてますしね」

 

 

 そんな僕の返答に空は力なく返事を返すと、再びヤマト達と話し合い始めた。

……正直このままヤマト達が話し合ってもいい作戦は出ないだろう。

何故なら現状は詰みと言える状況に近いのだから。

誰の犠牲も出さずにこの場から全員が逃げ出せる作戦などきっと存在しない。

逃げ切るのなら……誰かが囮になる必要があった。

 

――――僕が囮になります。

 

 そうヤマト達に話しかけようとしたが踏みとどまった。

囮になるのが嫌なわけでは無い。むしろ囮になりたいと思っている。

何故なら、今の様なピンチな状況になったのは全て僕に原因があるからだ。

自分の失敗の責任を取るのが筋と言うモノだろう。

だがそれをヤマト達に言っても聞き受けてくれないだろうと思った。

……二人の紋章は『友情』と『愛情』。

どちらも他者を大事にするといった意味を持つ紋章だ。

そんな紋章を持つ人間が、年下の僕の囮になるという意見を聞き受けてくれるだろうか?

……きっと聞き受けてくれないだろう。

こんな事を思うのは正直畏れ多いが……きっとヤマトと空は僕の事を

少なからず仲間と思っていてくれている気がしているからだ。

……僕が転生者と言う、存在すべきではない人間だとも知らずに。

……だがそうだとしても僕は彼等を納得させなければならない。

 

 

「皆さん、僕の話を聞いてもらってもいいですか?」

 

 

 僕は顔を上げ、全員の視線を集めるべく言葉を発した。

ヤマト達は突然話し出した僕に少し驚いた表情を見せたが、

すぐさま先程までの真剣な表情に戻してコクリと頷いた。

 

 

「僕のせいで申し訳ないんですが、現状はかなり悪いです。

どれくらい悪いかと言うと……正直に言って、

誰かが囮にならない限り逃げきれないだろうというくらい悪いです」

 

 

 僕の嘘偽りない言葉にヤマト達は僅かに表情を歪ませたが、

僕の言葉を否定する事は無かった。

……やはりヤマト達もそう感じていたのだろう。

 

 

「……なので僕を「――――お前を囮になんてさせない」」

 

 

 僕が言葉を言い切る前にヤマトが言葉を重ねてきた。

……やはり聞き受けてくれないか。

 

 

「お前は俺達の中で唯一自由に完全体に進化させる事が出来る選ばれし子供だ。

言わば俺達にとっての希望だ。

そんなお前を囮になんて出来る筈が無いだろう。

……どうしても囮が必要ってなら俺が引き受ける」

 

「ヤマト!」

 

 

 ヤマトの突然の宣言に空は驚愕の声を上げ、必死にヤマトを止めようとする。

だがヤマトの、それならどう現状を切り抜けるかと言う質問に空は答えられず俯いた。

……このままじゃ本当にヤマトが囮役になってしまう。

 

「……石田さん。その必要は無いです。囮は僕がやります」

 

「……お前、聞いてなかったのか? お前は俺達の希望「――――時間が無いので簡潔に説明します」」

 

 

 今度は僕がヤマトの言葉を遮るように言葉を重ねた。

 

 

「……このデジタルワールドには四聖獣という4体のデジモンが存在しています。

そしてその内の一体のチンロンモンと言うデジモンが

この世界を安定させるべく力を使っています。

……今はダークタワーによって力を封じられていますが、

D3を使えばその封印を解く事が出来ます。

石田さん達はここを脱出したら、そのチンロンモンと言うデジモンに会ってください。

そうすれば一時的にですが、

完全体……究極体に進化出来る力を借りる事が出来る筈です」

 

 

 突然の話にヤマト達は驚愕した表情を僕に見せたが、

それを無視して僕はポケットから手帳を取り出し、チンロンモンが封印されている

ホーリーストーンの場所を書き写したページを切り取りヤマトに差し出す。

 

 

 

「……このいずれかのホーリーストーンにD3の光を当てれば、チンロンモンの封印は解ける筈です。

ですが、恐らく封印が解けてから直ぐはチンロンモンの力を借りれない可能性が

高いので、暫くはキメラモンに関わらないようにしてください」

 

「……直ぐには力を借りれないってことは、この場所を光子郎達にメールで知らせた所で間に合わないか」

 

「はい。

……なので石田さん達はそのメモの切れ端を持ってここから逃げてください。

まともに動けない僕を置いて行けば逃げ切れるはずです。

それに加え、このD3で暗黒の海のゲートを開こうとしてキメラモンをおびき寄せればほぼ逃げ切れるでしょう」

 

 

 ヤマト達が僕を囮にここから逃げる。それがベストな選択だ。

……この状況を招いたのは僕のせいだ。自分の失敗は自分で償うべきだろう。

それにヤマト達に話した通り、僕にはこの暗黒の海へのゲートを開けるD3がある。

キメラモンへの囮にはうってつけなのだ。

 

 …………正直に言えば、現状を打破する手が無いわけでは無い。

この作戦が成功すれば、きっと全員で生きてこの場所を出る事が出来るだろう。

だがこの作戦は僕の机上の空論によって成り立っているそもそも成功するかも分からない作戦だ。

失敗すれば勿論全滅だ。……僕自身成功するかもわからない作戦は実行する気にはなれなかった。

 

 ヤマトは僕の提案に目を瞑って考えた。

そして目を開けると同時に僕が渡したメモを握りつぶした。

 

 

「――――却下だ。

お前を置いておめおめと俺達だけで逃げ出すことなんて出来ない」

 

「……どうして分かってくれないんですか。

どう考えてもそれが最善の選択なのに」

 

「お前にとってそれは最善なのかもしれないが、

俺にとっては仲間を囮に逃げるなんて選択は最善なんかじゃない。

そんな選択をしてしまったら……俺は二度と自分の紋章に顔向け出来なくなる」

 

「私も同じ考えよ。

後輩を囮に逃げるなんて、出来る筈が無いわ。

それにまだ守谷君には助けて貰った借りを返せてないしね」

 

 

 意志は変わらない。

そう宣言するような表情をする二人に僕は思わず顔を伏せた。

……もう二人が僕を囮に逃げてくれる説得が思いつかない。

それにこれ以上ここで長々と話していたらキメラモンがやって来てしまう。

どうすれば…………

 

 

「それにお前……いや、守谷。

―――――本当はまだ手が残ってるだろ?」

 

 

 突然のヤマトの言葉に僕はギョッと目を見開いた。

 

 

「無表情な奴かと思っていたが、お前、意外と顔に出るタイプみたいだな」

 

 

 僕がまだ話していない作戦があると確信しているのか、

ヤマトは僅かに鼻で笑いながら僕にそう言い放った。

……誤魔化しは効かないようだ。

 

 

「驚きました。隠しきれていたと思っていたんですけどね。

……確かに僕にはまだ話していない作戦が一つだけありあります。

これは成功すれば全員が生きて帰る事が出来る可能性が高いですが、

逆に失敗してしまったら全滅は免れません。

……それにこれは僕の机上の空論によって成り立っている作戦なんです。

絶対に出来るなんて確証は無いんですよ」

 

「机上の空論、か。……成る程、お前が話さなかった訳だ」

 

 

 僕が確証の無い事を話したがらない事までも見抜かれているのか、

ヤマトはそう返して、僕に改めて視線を向けた。

 

 

「机上の空論でもいい。話せ。

間違いなくこのまま無策に戦いを挑むよりはマシだろ」

 

「……話さなかったらそんな無謀な戦いを挑むつもりなんですか?」

 

「全員で逃げて、逃げ切れなかったらな」

 

「守谷君の作戦はヤマトのこんな作戦よりも勝機は薄いの?」

 

 

 そんな空の微笑みながらの言葉に僕は大きな溜息を付いた。

……これ以上は本当に時間が無い。

それに話さなかったら本当にヤマト達は僕を連れて全員でここから脱出しようとし、

キメラモンに追いつかれてしまったら戦いを挑むだろう。

ガルルモンとバードラモンの二体の成熟期デジモンで。

……それなら僕の机上の空論に掛けた方がマシかも知れないな。

 

 

「……分かりました。話します。

僕の考えた作戦は、簡潔に言えば、キメラモン相手にどう逃げるかと言う作戦ではありません。

――――キメラモンを正面から倒す作戦です」

 


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