デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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019 ピンチ

 ウイングドラモンがチビモンに退化し、

完全に勝機が無くなった僕達の末路は無様なモノだった。

 

 キメラモンはチビモンが退化して弱体化した姿を見て勝利を確信したのだろう。

近づくようなことはせずに、必殺技を次々に僕達に放ってきた。

――――頑張ればギリギリ回避出来るような攻撃を(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ……遊ばれていると分かっているが、もう僕達にはそれに対抗する手段は無い。

結果、僕はチビモンを抱えながらキメラモンの攻撃を回避し続けるしかなかった。

 

 

「……っ!」

 

 

 再び自分達に向けて放たれた攻撃を回避しようと駆けだした時、

砂に足を取られその場に顔面から倒れ込んだ。

 

 

「アマキ!」

 

 

 僕がチビモンを抱えながら回避行動を行うようになってから何度目か分からない

チビモンの悲鳴を受け取りながら僕は、右手を軸に左手で体を起こし、

急いでその場から離れる。

その結果なんとかキメラモンの攻撃をギリギリ回避する事に成功するが、その余波の衝撃が僕達を襲った。

 

 僕とチビモンは痛みで声を上げながら数メートル程吹き飛ばされる。

既に疲れ切っている僕達はまともに受け身を取る事も出来ずにその場所に叩きつけられた。

……足場が砂じゃなかったらとっくに立てなくなっていた。

僕は倒れ込んだ状態のまま、

吹き飛んだ際に放してしまったチビモンを再び抱きかかえると、

十数メートル先の木々が多く立ち並ぶ森林のエリアに視線を向ける。

 

 ……あの場所に辿り着く事が出来たら逃げ切れる可能性はある。

だがキメラモンもそれが分かっているのか、

僕達が森林のエリアに向かって走り出した際は、

森林のエリアと逆方向に回避行動をしなければ確実に当たる攻撃を何度も仕掛けてきた。

その攻撃の度僕達は森林と逆方向に回避行動を取ったが、

毎回ギリギリにしか避けれないので、

攻撃の余波までは避ける事が出来ず森林と逆方向に吹き飛ばされ続けた。

そのせいで既に体が限界近い上に、

森林に逃げ込む事だけは絶対に阻止しようとするキメラモンの用心深さから、

僕達が向こうに逃げ込むことができる可能性は0と言っても過言ではないだろう。

 

 ……せめてチビモンだけは。

そんな事を考えるが、それすらも今の状況では叶わない。

僕は既に折れているであろう右腕を軸に体を起こそうとするが、

体重の掛け方を間違えたのか、顔を歪めるほどの痛みが右腕に走り、立てずにいた。

 

 

「アマキィ!」

 

 

 再びチビモンの必死の悲鳴が僕の頭に響く。

……もしも自分一人だけだったらとっくに僕は諦めていたかもしれない。

僕はその声で自分を奮い立たせながら再び立ち上がろうとした。

だがそれよりも早く、僕達の体は何かに掴まれ宙に浮いた。

 

 

「キ、メラモン……!」

 

 

 いつの間にか接近して来ていたキメラモンが二本の腕でそれぞれ僕達を掴みあげたのだ。

……もう僕達との遊びに飽きて、止めを刺しに来たんだろう。

そしてその止めが、必殺技で跡形も無く消し去るのではなく、

自分の腕の中で握りつぶす事だとは……随分と趣味が悪いな。

 

 僕の表情を見て、僕のそんな考えを読んだのか、

キメラモンはそれは褒め言葉だと言わんばかりに目を僅かにニヤ付かせると、

僕達を掴む腕に、僕達が苦悶の声を上げざるをえない程の力を込めた。

 

 ミシミシと締め付けられる痛みに僕とチビモンを苦悶の声を上げる。

もう僕達にはこの攻撃から逃れる術は無い。

――――詰んだ。

 

 痛みのせいで一周回って思考がクリアになった僕は、

勝てたはずの試合を、僕の考えが至らなかったせいでこんな結末に巻き込んでしまった、

チビモンに心の中で謝罪する。

そして、もしもの為の遺言を光子郎達に残さなかったことを後悔した。

……こんな事なら光子郎達に―――――

 

 悔しさと後悔が頭の中を支配し、完全に生きる事を諦め空を見上げた時だった。

太陽を背に大きな鳥の様な何かの姿が目に入った。

 

 

『メテオウイング!!』

 

 

 太陽を背にこちらに下降して来た炎を身に纏った何か――バードラモンは、

キメラモンの足元に向かって炎を纏った羽をいくつも飛ばしてきた。

 

 突然の攻撃にキメラモンはまともにその攻撃を受けると、

驚きのせいか、僕等を掴んでいた手の力を緩めた。

その隙に僕とチビモンは、最後の力を振り絞り、何とかそこから脱出する事に成功する。

 

 そんな僕達をキメラモンは気に留める事も無く、

最後の止めを邪魔したバードラモンに向けて怒りの咆哮を放っていた。

そんな怒りの咆哮に、僕とチビモンは一瞬体を硬直させたが、

バードラモンはそんな咆哮を無視するかのように、地面すれすれまで降りてくると、

羽を何度も大きく羽ばたかせた。

 

 すると足元に無限と言えるほど存在する砂がその風によって巻き上がり、

目を開けていられない程の砂煙となりこの場を包み込んだ。

 

 あまりの砂煙にキメラモンは勿論、僕とチビモンも目を開ける事すら出来ず、

逃げ出せずにいた。

……せっかくのチャンスなのにこのままじゃ。

 

 

「こっちだ!」

 

 

 まともに目を開ける事が出来ないまま、森林の方だろうと思われる方向に一歩一歩進んでいる時だった。何者かに声を掛けられながら腕を掴まれた。

 この声は……ヤマトの声だ。

 

 

 僕は全身を巡る痛みに耐えながら、腕を引くヤマトに必死に付いて行った。

……何故だか分からないが、ヤマトはこの砂煙の中、目を開ける事が出来ている。

その事に疑問を覚えながらも付いて行くと、巻き上がった砂煙から抜け出す事が出来た。

 

 

「ヤマト早く!」

 

 

 森林の方からこちらに向かって必死に手を振るガブモンの姿にヤマトは一言返事を返すと、

僕を掴んだ腕を離してその場にしゃがみ、背中に乗るように言ってきた。

そんな迷惑はかけられないと一瞬返しそうになったが、

この状況ではその言葉の方が迷惑だと判断し、畏れ多いながらもヤマトに背負って貰った。

 

 僕を背負ったヤマトは、人ひとり背負っているとは思えない程の速さで走り出すと、

ガブモンと共に森林の奥に向かって走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……! ヤマト達が来たよ!」

 

 

 十分程僕を背負ったままヤマト達が走り続けていると、突然前方の方から声が聞こえて来た。

ヤマトはその声に驚くような態度は見せず、その声の方に走っていく。

……どうやらここが集合地点の様だ。

 

 ヤマトに背負われながらそんな事を考えていと、

森林の中でも少しだけ開けた場所に着いた。

 

 僕を背負ったまま走り続け、汗だくになったヤマトを迎えたのは、

先程バードラモンとなって僕達を助けてくれたピヨモンと、そのパートナーの空。

そして何故かアグモンだった。

 

 空達の心配の言葉にヤマトは一言で返すと、

僕とチビモンを大きな木にもたれかけるようにゆっくり下ろしてくれた。

ボロボロの僕達の姿を見て空は心から心配しているような表情を向けて近寄って来ようとしていたが、ヤマトがそれを制した。

……何よりも先に僕に聞きたい事があるのだろう。

取りあえず僕はゆっくりと下ろしてくれたヤマトにお礼を言った。

 

 

「ありがとうございます」

 

「疲れている所悪いがお前に聞かなければならない事がある。

俺達はお前の言う通り、要塞のエネルギー部を破壊した。

……それなのに何故キメラモンは消えていない?」

 

 

 厳しい目つきで僕にそう尋ねたヤマトの目は嘘は許さないといった感情が含まれていた。

僕はその目に嘘は付けないと判断し、正直に状況を話す事にした。

 

 

「……すいません。

要塞のエネルギー部を破壊すればキメラモンが停止すると言いましたが、あれは嘘です」

 

「…………光子郎の言った通りだな」

 

「……泉さんは気が付いていたという事ですか?」

 

「ああ。そもそも俺達は、

要塞からの供給を止めればキメラモンも止まるなんて美味い話、正直疑っていた。

そこで光子郎がキメラモンのデータを出来る限り集めた結果、

少なくとも今のキメラモンは他の場所からエネルギーを受け取ってなく、

純粋に一体のデジモンとして存在しているという事がわかった」

 

「……完全にバレていたという事ですか」

 

「そういう事。

だから私達は要塞のエネルギー部を破壊した後、

要塞自体の破壊は皆に任せてこっちに来たの。

……私達なら、もしもキメラモンがまだ居て、逃げないと行けなくなっても

逃げ切れるから」

 

「太一も来たがってたんだが、人数が増えれば増える程、

そいつらを乗せるガルルモンや

バードラモンに負担がかかってスピードが落ちるから置いて来た」

 

「ボクだけ来た理由は、この辺りの地形に一番詳しいのがボクだからその案内役に」

 

「成る程……」

 

 

 ヤマトや空、アグモンの話からここに来た理由を理解した僕は、

心配でここに来てくれた彼等に感謝の気持ちでいっぱいになったが、同時に

彼等を危険な目に合わせてしまう事になった事に罪悪感に飲まれそうになった

 

 

「俺達がここに来た理由は話した。次はお前の番だ。

どうして要塞のエネルギー部を破壊すればキメラモンも停止するなんて嘘を付いた?」

 

 

 再び厳しい目つきで僕を睨むヤマト。

 

 

「確かに要塞は放置しておいたら危険なモノだったのかもしれない。

だが正直俺はそんなモノよりもキメラモンの方がずっと危険だと思っている。

……お前もそう考えてたからこそ、俺達を要塞に向かわせ、自分はキメラモンと戦う事にしたんじゃないのか?」

 

「…………」

 

「……じゃあ、質問を変えてやる。

どうしてお前達は暗黒の海へ逃げなかったんだ? 

そのD3なら暗黒の海のゲートを開く事が出来るんだろ?」

 

「…………確かにこのD3は暗黒の海へのゲートを開く事が出来ます。

ですが、それを開くのにはかなり時間がかかってしまうんです」

 

「つまりキメラモンの前ではそんな暇は無かったって訳ね。

……なら守谷君はどうして初めから逃げられない相手を足止めするなんて私達に言ったの?

守谷君の作戦通り、私達が要塞を破壊する事に成功しても、

キメラモンが消えなくて、逃げられない相手だってことはわかってたのよね?

それなのにどうして……」

 

「…………」

 

 

 ヤマト達全員が僕を疑惑の表情で見つめていた。

……当然だろう。ヤマト達からしてみたら僕の行動の意味なんて全く理解出来ない筈だ。

……正直、僕自身もこうなるとは思っていなかったのだから、

余計に話がややこしくなっている。

さてどう説明すべきか……

全身を巡る痛みに耐えながらそんな事を考えていると、突然僕の頭の上に乗っているチビモンが、ヤマト達の前へ飛び出した。

 

 

 

「アマキは悪くないよ! 全部オレが悪いんだ!」

 

「チビモン!」

 

 

 僕が黙って話そうとしなかった話をしようとしていると察した僕は

チビモンに止める様に言ったが、チビモンはそれを無視して話し出した。

 

 

「オレが完全体の進化を維持さえ出来ていたらキメラモンに勝ててたんだ!

だからアマキは悪くない!」

 

「完全体に進化、だと?」

 

 

 ヤマト達が驚愕の表情で僕を見て来た。

……どうやらこの場でこの事を誤魔化す事は不可能の様だ。

 

 

「……チビモンは悪くないよ。

僕が完全体への進化がどれ程の負担かを考えていなかったのが原因だ。

少なくとも一度は事前に進化しておくべきだった」

 

「っていう事は本当に……」

 

 

 空の呟きに僕は、はいと返した。

 

 

「……今回の作戦の本当の内容は、石田さん達に要塞を破壊して貰い、

その間にダークタワーの無い場所、つまりこの場所に誘い込んだキメラモンを

僕がチビモンを完全体に進化させて倒す事だったんですよ」

 

「…………その話が本当なら、タグと紋章を見せてみろ」

 

「すいませんが、それは出来ません。

何故なら僕はタグと紋章を持っていませんから」

 

「それならどうして完全体に進化出来るの?

完全体に進化するには紋章とタグが必要筈よ?」

 

「……逆に聞きますが、

本当に紋章やタグが無ければデジモンは完全体に進化出来ないんですか?

武之内さん達は、それが無いと絶対に進化出来ないと言い切れるんですか?」

 

「それは…………」

 

 

 僕の言葉に空は言葉を返せなかった。

……当然だろう。彼等にとって完全体の進化とは紋章とタグ、

またはそれと同類のモノがあって初めて成立するモノという考えになっている。

……そう思う理由は簡単だ。彼等がそうだったから。

 

 実際、原作でヤマト達は最後の戦いで紋章とタグを敵に破壊された際、

完全体以上に進化出来なくなっていた。

だがその後、勇気、友情、愛情……といった8人の心を集めることで、

それぞれの心に新たな紋章を生み出したヤマト達はその力によって再び完全体以上に進化出来るようになった。

 

 ……後半の考えはあくまで僕の推測だったのだが、ヤマト達の様子を見る限り間違いではない様だ。ヤマト達が紋章無しに完全体以上に進化したことが無いという事が。

 

 だがそれも無理はないだろう。

僕が彼等と違ってそんな固定概念が無い理由が、

転生者と言うあり得ない第三者の目線で彼等の冒険を目にしていた上、

様々なデジモン作品の設定を知っているからこそ持ち合わせているモノなのだから。

普通に冒険していた彼女達には絶対に持ち合わせていない考えだろう。

 

 ……それに、僕ですら始めの頃は

多分完全体に進化出来るであろうという認識だったのだ。

 

 

「……なら俺達も紋章やタグ無しに進化出来る可能性が有るのか?」

 

 

 ヤマトが真剣な表情で問う。

……表情から見るに、

少なくとも僕が嘘を言っていないとは思ってくれている様だ。

まあよくて半信半疑といった所だろう。

 

 

「……少なくとも、半信半疑の状態じゃ100%出来ないと思います。

石田さん自身、まだ僕の話を信じ切れていないでしょうから」

 

「……お前の話が嘘じゃないとは思っているが、

それでも俺達にとっては完全体への進化は紋章とタグがそろって初めて出来るという

認識なんだ。悪いがそう簡単にそれを覆せるものじゃない」

 

「まあそうですよね」

 

 

取り敢えずヤマト達が僕の話を信じてくれているのはありがたかったが、

残念ながらそれはこの状況を覆す要因とはならない。

 

 ……暗黒の海へのゲートを開こうにも、キメラモンの体には暗黒の存在のデビモンのデータが使用されている。下手をすればゲートを開こうとした時点で

キメラモンに居場所がばれてしまう可能性が有る為、それは出来ない。

 

 ……正直状況はかなり悪かった。

キメラモンが僕等を探すのを諦めて、別の場所に行ってくれるのなら全て解決なのだが……きっとそれはないだろう。

 


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