……やっぱり戦闘描写は苦手です。
太一達と円陣を組んだ後、僕はライドラモンに乗ってキメラモンの元へと向かった
僕達は、既にキメラモンの見える道まで来ていた。
……いや、本来ならこの辺りには大きな木や岩があって
かなり接近しなければ見えないような場所なのだが……
キメラモンがところ構わずそれらを破壊し、無残にも荒地の様な場所になっていた為、
この距離でもキメラモンの姿を目視する事が出来た。
……やはり、こんなデジモンを長くデジタルワールドに存在させる訳にはいかないようだ。
「ブイモン。まずは開幕一発大きいのお願い」
了解、とライドラモンは返事を返すと、頭のブレード部分に雷のエネルギーを集め出した。
集めたエネルギーが目を逸らしたくなるほど光を放ち始めると、
ライドラモンはその場から飛び上がり、
キメラモンに向かってブレードを振り下ろした。
『ライトニングブレード!!』
雷を纏った雷撃の刃は真っ直ぐとキメラモンに向かって行き、
そのままキメラモンの背中に命中した。
……が、キメラモンは驚いたような声を上げ、辺りを見回すだけで、全く効いているような様子では無かった。
「こっちだ!」
ライドラモンはキメラモンに向かって叫びながら、
先程とは違い全くエネルギーを溜めていない必殺技を牽制と言わんばかりにキメラモンに放つ。
ライドラモンの声でこちらの存在に気が付いたキメラモンは、再び飛んできた攻撃を腕で防ぐと、空気を震わす程の咆哮を上げた。
決してキメラモンの近くに居るわけでは無い僕達の体すらも震わす圧倒的な咆吼に、
微かな弱音を吐きながらも、キメラモンを誘導する為、
背を向けて目的の位置まで全速力で走り出した。
そんな僕等をキメラモンは逃がさんと言わんばかりに追ってくる。
……いくつもの必殺技を放ちながら。
「――――ライドラモン、右だ! ――――次は左!」
後ろを振り向かず、全力で走り続けるライドラモンにかわり、
僕がキメラモンの攻撃が来る方向を指示する事でなんとか攻撃を避け続ける。
……予想してたよりも全然余裕が無い。
想像していたよりも速い攻撃の連続に早くも冷や汗をかきながらライドラモンに指示を続ける。
――――そんなギリギリの状況を十数分程続けると、
ようやく目的の場所まで辿り着く事が出来た。
「――――ライドラモン!」
目的の場所の西側、砂漠のエリアに辿り着いた僕は
ヒビの入った右手に衝撃がいかないようにライドラモンから飛び降りる。
それと同時にライドラモンもアーマー進化を解き、ブイモンへと退化した。
「…………」
僕等が砂漠に降りると同時に、
ようやく少しだけ距離を離せたキメラモンが僕らの前に姿を現した。
だがその様子が明らかにおかしかった。
キメラモンはアーマー進化を解いたブイモンを警戒するように
数十メートル離れた場所に着陸した。
……どうやら少なくとも警戒できるほどの知恵が芽生え始めている様だ。
こうなっては少しでも早く倒さなければ。
僕は左手でポケットに入ったD3を取り出し、ブイモンを進化させた。
光がブイモンを包み込み、その光が晴れるとそこにはエクスブイモンの姿があった。
……完全体には進化出来ていない。
どうやらまだ足りていないモノがある様だ。
僕は自分の心を見つめ直す為、一歩前に足を踏み出し語り始めた。
「……始めの頃、僕はこの世界を僕の望むべき姿にしようと行動していた」
大輔の代わりに選ばれし子供になりデジタルワールドに行くことを決意した時、
僕は原作通りに話が進むようにとそう誓った。
「それが正しいと思っていたし、実際それまでの僕の行動は間違っていなかったと断言できる」
今思えば原作と言うモノにこだわり過ぎていたかもしれないが……少なくともやっていた事自体に間違いはない筈だ。
「だけど――――僕は間違っていた。
既に自分の望む理想通りにならない事を何処かで気が付きながらもそれから目を逸らし、
いつの間にかそんな
本当に守るべきものは原作では無いと言う事が分かっていなかった。
本当に命を懸けるべきなのは、その世界で生きる選ばれし子供達。
そして、この世界に確かに存在する僕が大好きなデジタルワールドだったというのに。
D3を握る手に自然と力が入る。
……その時、D3が僅かに発光していた事にこの時の僕はまだ気付いていなかった。
「だから――――僕はここで誓う!
もう守るべきものを間違えたりしないと!
僕が何の為に戦うべきかを忘れたりしないと!!」
原作の為に命を張ろうとする無謀な『勇気』
捻くれた僕ですら感じるパートナーとの『友情』
命を懸けてまで原作を守りたいと想える歪んだ『愛情』
この世で生きる者として最も罪深いだろう平行世界の『知識』
原作を維持する為だけに11年間生き続けられる程の狂った『純真』
転生してからずっとこの世界の為にと歪みながらも真っ直ぐな『誠実』
原作という可能性を知るからこそ欲深く心からそうあれと望んでしまう『希望』
大輔の代わりに選ばれ、この世界の命運を握る存在。おこがましいが世界にとっての『光』
それら一つ一つは太一達に劣る程度の想いでしかない。
だけどそれらを合わせれば。
いや――――それだけじゃない。
ありったけの思いを思い浮かべ、それら一つ一つに強い思いを――――
それら一つ一つに、その思いが何の為に存在するかを示す様に意味を――――
この瞬間だけはそれらは目の前の敵を倒す為に機能しろと。
――――この瞬間だけは――――怒りも絶望も奇跡も運命すらもただ戦うための力にと。
D3が今度は僕ですら気が付く程に光を放ち始めた。
――――今なら行ける。
そう確信した僕は光に包まれたD3をエクスブイモンに向ける。
それと同時にD3を包む光が一気にエクスブイモンの方へと飛んで行き、
一瞬の内にエクスブイモンを包み込んだ。
そして光が消えたその場所には、大きな翼を生やした天竜型デジモンの姿があった。
「エクスブイモン超進化―――――ウイングドラモン」
伝説の天竜――――ウイングドラモンは小さく飛び上がり、
威嚇するようにキメラモンを見据えた。
そんなウイングドラモンの姿にキメラモンは大きな咆吼を上げる。
まるで強敵が現れた事を喜ぶように。
「…………いくぞ」
そんなキメラモンに向かって、ウイングドラモンは大きな翼を羽ばたかせ、飛翔する。
風を切る様な速さで瞬く間にキメラモンの前に辿り着いたウイングドラモンは、その勢いのまま全力でキメラモンの顔面を殴りつけた。
キメラモンにとってもこの速さは想定外だったのか、驚愕したような表情をしたまま殴りつけられるとそのまま砂にまみれた地面に激突し、辺りに砂煙を立ち上げた。
――――速い。
キメラモンと同じように僕もウイングドラモンの速さに驚いていた。
完全体に進化出来るとは思っていたが、何に進化するのかは全く予想がついていなかったので、
キメラモンと同じように空を飛べる完全体に進化出来た事に純粋に安堵を付いていた。
……空を飛ぶ相手に飛べないデジモンで挑むのは得策では無いからね。
そんな事を考えていると、少しずつ薄くなってきた砂煙からキメラモンの必殺技がウイングドラモンに向かっていくつも放たれた。かなりの量だ。
だがウイングドラモンはそれらを難なく避ける。
「今度はこっちの番だ!」
薄れた砂煙の中のキメラモンの姿を発見したウイングドラモンは、大きく息を吸って
キメラモンに狙いを定める。
『ブレイズソニックブレス!!』
口から放たれた灼熱の炎がキメラモンに襲い掛かる。
キメラモンは防御するような姿勢を見せず、空中に飛び上がる事でそれを躱した。
……伊達にエアドラモンとエンジェモンの翼を使用している訳ではないようだ。
ウイングドラモンは攻撃を躱されたことに舌打ちをすると、
必殺技での攻撃を止め、接近戦で攻めるべく、再びキメラモンに向かって行った。
だがキメラモンも同じ手は喰らわないと言わんばかりに自分に使用されているデビモン、クワガーモン、スカルグレイモンの腕を使い、接近して来るウイングドラモンに反撃する。
風を切る音と共に振るわれる4本の腕を突破しながらウイングドラモンは再びキメラモンの顔面に攻撃を食らわす事に成功するが、体を回転させながら振るわれたモノクロモンの尻尾による攻撃を受けてしまう。
「ウイングドラモン!!」
心配で思わず声を上げた僕にウイングドラモンは一瞬視線を向けると、大丈夫だ、と返事を返した。
だが状況は決していいものでは無かった。
攻撃を当てた事で景気付いたのか、今度はキメラモンがウイングドラモンに向かってきた。
振るわれる4本の腕と、尻尾攻撃。
時折ガルルモンの足で蹴りも混ぜながら、チャンスとあれば口から必殺技を放つ。
……正直接近戦では分が悪いと思った。
だが距離を離しても、ダメージが殆どない状態のキメラモンに闇雲に必殺技を放った所で攻撃が当たるとは思えない。
下手をすれば無駄にエネルギーを消費する事になるだけかもしれない。
そんな事を考えていると、ウイングドラモンのパンチがキメラモンの腹部に命中している光景が目に入った。
……よく4本の腕を躱しながら腹部に攻撃を当てれたな。
そんな事を考えていると、再び先程と同じ様に体を回転させ、モノクロモンの尻尾がウイングドラモンに振るわれる。
……まずい、これでは先程と同じ様な事に――――
これから起こるであろう展開に思わず顔を歪めていると、突如僕の視界からウイングドラモンが消えた。
「っな!?」
突然の出来事に思わず声を上げた驚いた僕であったが、それはキメラモンも同じ様で、
目を見開いて辺りを見回して消えたウイングドラモンの行方を捜していた。
『ブレイズソニックブレス!!』
その直後、上空から灼熱の炎がキメラモン目がけて降り注いだ。
突然の出来事で回避が間に合わなかったキメラモンにその攻撃が命中し、苦痛の声を上げた。
そしてその隙を逃さないと言わんばかりにウイングドラモンがキメラモンの直ぐ上に現れ、
巨大な尻尾をキメラモンに向けて振り下ろした。
直前に喰らった灼熱の炎で、
まともにウイングドラモンの姿を捉えていなかったキメラモンは
その攻撃をまともに受け、再び地面に屈した。
……まさかさっき消えて見えたのは、
僕がとらえきれないスピードでウイングドラモンが移動したからなのか?
僕が驚愕の事実に気が付き、思わず口をポカーンと開けていると、
ウイングドラモンが地面に落ちたキメラモンに追い打ちをかけるべく、向かって行く。
キメラモンも直ぐに立ち上がり、再び4本の腕と尻尾を振るうが、
ウイングドラモンは難なくそれを避けながら攻撃を加えた。
初めは全部避けるごとに一回、二回。
だがそれが続くと二回が三回に。三回が四回にと、
どんどんウイングドラモンの攻撃が当たる回数が増していく。
……時間と共に体が馴染んでいるのか?
少しずつ速度を上げ、キメラモンに攻撃を加えるウイングドラモンの姿に思わず息を呑む。
そしてその光景を見て、ある疑問を覚えたのだが……今はそんな事を考える必要は無いと自分の中で新たに芽生えた疑問を胸の奥にしまうと、
ウイングドラモン達に視線を向ける。
そして再び目の前で起きている出来事に気が付き、またもや頭を抱える事になった。
……ウイングドラモンの攻撃が命中する回数が減っている。
先程までなら一度の隙に数発の攻撃を当てる事が出来ていた筈なのに、
今では一度の隙に一回ほど。稀に攻撃すら出来ていない時すら存在していた。
……見ている限り、ウイングドラモンのスピードが落ちたわけでは無い。
移動の速度も攻撃の速さもどちらも先程とそれ程変わっていない。
…………そうだとしたら答えは一つ。キメラモンが早くなっているという事だ。
自分と互角以上に戦う相手と戦う事で眠っていた力が芽生え始めたのか?
そうだとしたら――――なんとしてでもこの場で奴を倒さなければならない。
見る限り、確かにウイングドラモンの攻撃が当たる頻度は落ちているが、
それでもまだウイングドラモンの方がずっと早い上、
既にキメラモンにかなりのダメージを与えている。そろそろ終わりも近いだろう。
僕がそんな事を考えていると、ウイングドラモンの渾身の一撃がキメラモンの腹部に命中し、キメラモンがその場にうずくまった。今までの腹部へのダメージがここに来て限界を超えたのだろう。
――――どう考えても今がチャンスだ!
「ウイングドラモン!!!」
僕は今日一番の大声でウイングドラモンの名前を叫ぶ。
ウイングドラモンはその声を耳にすると、それに答えるように大空に大きく飛翔した。
そして、上空まで飛び上がると、そのままキメラモンに向かって最大速力で加速しながら急落下した。
「これで最後だ!『エクスプロードソニックランス!!』」
ウイングドラモンの最高の技がキメラモンに迫る。
防御も出来ない状態の今のキメラモンに命中すればきっと倒せるだろ。
「いっけぇぇぇ!!」
「うぉぉぉぉぉ!!」
僕とウイングドラモンの心からの声が辺りに響き渡る。
未だにキメラモンは起き上がって来ない。
――――勝った!
僕とウイングドラモンがそう確信したその時だった。
―――――突然僕達の優勢は終わりを告げる事になった。
「――――あ、れ?」
突如ウイングドラモンの体が光に包まれ始めた。
突然の光景にウイングドラモンは声を上げ、それを見ていた僕も目を見開く。
光に包まれると同時にウイングドラモンの音速とも呼べる落下スピードは
明らかに落ちていき、最後にはただ落下しているだけのスピードになった時、
ウイングドラモンを包んで居た光が晴れ、そのままキメラモンの頭上に命中した。
攻撃が命中したキメラモンには全くダメージがある様子が見えない。
だがそれも当然だった。何故ならキメラモンの頭上に落ちたのはウイングドラモンではなく……チビモンの姿だったのだから。
その瞬間、僕はそうなってしまった理由を悟り、その場に屈伏し、絶望した。
――――初進化の戦闘で、僕達は時間をかけ過ぎたのだ。
主人公の心の無謀な勇気や……の所で
色々突っ込みたい気持ちになった人が沢山いるかも知れません。
……一応これでもかなり時間をかけて考えた結果がこうなりました。