光子郎の家に行った日の夜9時頃、僕とチビモンは布団の中に居た。
普段ならばこんな時間に眠ろうとする事なんてないのだが、今日は話が違った。
何故なら明日は――――キメラモンとの戦いがあるのだから。
……キメラモンとの戦いは一筋縄ではいかないだろう。
いや、一瞬でも気を抜けば負けてしまう様な戦いになることが予想できる。
だからこそ少しでも勝率を上げる為にこうして早々と布団の中に入っている。
……まあ実際はこうして眠る事が出来ず、思考に浸っているんだけどね。
「……アマキ、まだ起きてる?」
そろそろ本気で眠ろうと、思考を止めようとした時、突然チビモンに声を掛けられた。
普段は布団に入ったらすぐ眠りについているチビモンが起きていた事に驚きながらも、
返事を返した。
「起きてるよ。どうしたの?」
「……オレ達勝てるよね?」
チビモンの口から漏れたのは、
楽観的な性格をしているチビモンからは余り聞きなれない弱音な言葉だった。
「……キメラモンと戦うのが怖い?」
「……ほんのちょっぴりだけね。
だって相手はホークモン達が束になっても相手にならなかった位強いデジモンなんだよ?」
「……チビモンでもそんな事思ったりするんだね」
「あ、馬鹿にしたな! オレだって色々考えて生きてるんだからな!」
僕の言葉にムスッとしたチビモンは布団を跳ね除け、僕の背中をポカポカと叩き始めた。
そんなチビモンの姿に少しだけ笑みを浮かべながらごめんごめんと体を起こしながら謝罪すると、チビモンは渋々ながらも叩くのを止めてくれた。
――――が、チビモンは突然真剣な表情を浮かべ、僕の顔をジッと見つめた。
……ああそうか、さっきの質問の答えを待っているんだな。
チビモンの行動の意味を理解した僕は、チビモンと同じように真剣な表情を浮かべた。
「きっと……いや、絶対に勝てる。
そう思っているからこそ、僕は明日キメラモンと戦う事にしたんだから」
相手が強敵なのは分かっている。
原作でも大輔達が苦労してようやく倒せたようなデジモンなんだから。
……だけど、僕はチビモンが進化して同じ完全体になれば勝てない相手では無いと思って……
いや、感じている。
……この根拠が何処から来るかは正直に言えば分からない。
だけど、そう感じると言うなら、僕は直ぐにでもキメラモンを倒したかった。
……所々で感じている原作と異なっているあるモノの為にも。
僕の根拠のない自信ありげな言葉にチビモンはそっかと、一瞬だけ目を閉じて再び開くと、
そこには先程とは違い、表情に全く曇りのないチビモンの姿があった。
「アマキがそう言うなら大丈夫だな!」
チビモンは普段と変わりない笑顔でそう言うと、もう寝よ寝よと、口ずさみながら
先程蹴り飛ばした布団を拾いに行った。
……先程までは曇った表情をしていたのに、
僕のたった一言の言葉でどうしてそんな風に安心出来たのか?
理解出来なかった僕は、今度はこっちから質問する事にした。
「……どうして僕の一言でそんなに安心出来るの?」
その質問にチビモンは理解出来ないと言った表情を見せた。
「……確かに僕は、キメラモンに勝てると思っている。それは嘘じゃない。
だけど、ブイモンからしたらこの言葉は、何の根拠もない言葉だろ?
それに……今まで完全体に進化出来た事なんて一度も無いのに、
明日それを成功させないといけないんだよ。それは不安じゃないの?」
「全然」
全く間髪を入れずにチビモンはそう返してきた。
「だってオレはアマキを信じてるから。
アマキがキメラモンに絶対勝てるっていうなら、オレもそうだと信じるし、
アマキが明日は完全体に進化出来るっていうならオレはそれを疑ったりなんかしない。
オレにとってアマキはそう言う存在なんだ!」
照れくさそうに語ったチビモンに僕は言葉が出なかった。
……大事な事は何も話さないようなこんな僕をただ信じてくれる。
そんなチビモンの存在に僕は改めて感謝した。
パートナーがチビモンだったからこそ、僕は大輔の代わりに選ばれし子供として行動できているのだろうと感じた。
「……意外と僕達は相性がいいのかもね」
そう言いながら僕はチビモンに拳を向けた。
「明日は頼んだよ、チビモン」
「――――任せとけって!」
今日一番の笑顔を見せながらチビモンは僕の拳に自分の拳を合わせた。
翌日、僕とブイモンと太一達選ばれし子供達は、集合地点に集まっていた。
今日来ている太一達選ばれし子供達のメンバーは、
京、伊織の新選ばれし子供達と、太一、ヤマト、光子郎、空、丈、タケル、ヒカリの旧選ばれし子供達とそのパートナーデジモンだった。
「――――最後に、今回の作戦内容を復唱する。みんなちゃんと聞いとけよ?」
太一の言葉に全員が深く頷いた。
「まずは、守谷とブイモンが先行し、キメラモンをA地点まで誘導して貰う。
……光子郎、A地点は昨日と変わらずにダークタワーが建っていないな?」
「――――はい、大丈夫です。
アグモンが守っていたエリアだけあって、周辺には一本もダークタワーが建っていません。
……要塞がこの場所を通ってしまったら話は変わってきますが」
「そうさせない為に俺達が居るんだろ。
それで守谷とブイモンは計画通りキメラモンをこの地点まで誘導して、
その地点に付いたら戦闘を始めてくれ。
この場所は東側は森林が、西側には砂漠が延々と続いている。
どちらで足止めをするかは任せるが、砂漠で戦うなら気を付けろよ。
いざと言う時に隠れる場所が無いからな。
後――――絶対に無理はするなよ?」
「……大丈夫ですよ。僕達はただ足止めをするだけですから。
それに正直この作戦は八神先輩達の方が負担が大きい作戦です。
八神先輩達こそ無茶はしないでくださいね」
「わかってるよ。……話を戻すぞ?
守谷達がキメラモンを地点Aまで誘導したら、
ヒカリとタケルと京ちゃんは、パートナーをアーマー進化させて
要塞の下の部分を破壊してくれ。
そうすれば、要塞は一時的に浮遊できなくなりその場に不時着する。
つまり新たなダークタワーは作られなくなる。
そしてその後は要塞の上空に飛んで、
中から出てくるイービルリングで操られたデジモン達に備えてくれ」
太一の言葉に三人と三体は頷く。
……要塞の中にはアルケニモン達がイービルリングで操っているデジモン達が
大量に居る事を確認済みだ。
これはアルケニモンが要塞を守る為に配備したわけでは無く、
要塞ごとそのデジモン達を放棄したのであろう。
将来的に意識を持たないデジモンを作り出せるアルケニモンにとって、
このデジモン達の管理が面倒だったと考えられる。
「そして上空でヒカリ達が戦っている間に、伊織とアルマジモンは
この辺りにあるダークタワーを破壊してくれ」
アルマジモンのアーマー進化体であるディグモンは、他のデジモンに比べ空中戦は得意では無い。だが、地上での戦いが得意でなおかつ地中に潜りながらダークタワーを破壊出来る事から、
二人がこの作戦に回る事は必然だった。
……これは裏方だと思われる役回りかも知れないが、要塞を攻略する上では最も重要な
役回りだった。
伊織もその事を理解しているのか、太一の言葉に何の不満も無く返事を返した。
「伊織とアルマジモンが周辺のダークタワーを破壊したら、今度は俺達の出番だ。
アグモン達を進化させ、要塞から出てくるイービルリングで操られたデジモン達全員と
戦い、みんなを開放する。
俺達が戦っている間は、一先ずはテイルモン達は後方支援に回って、
体を休めて体力を回復させてくれ。
最後の破壊の時に力が出ませんでしたじゃ話にならないからな。
そして操られたデジモン全員を解放したら、全員で要塞に突入する。
……多分中には誰も居ないと思うが、注意だけは怠らないでくれ。
そしてそのまま最深部に向かい、
暗黒の海からエネルギーを吸い出している場所を見つけたら、
その渦に向かって全員で必殺技を放ち、エネルギーの供給を止める。
その後は、要塞の中にまだデジモンが残っていないか確認し、それが終わったら
要塞本体をバラバラに破壊する。これが作戦内容だ。誰も質問は無いな?」
太一の質問に丈が、ゆっくりを手を上げた。
「そう言えば、守谷君は要塞のエネルギー供給を止めればキメラモンも行動を停止するとか言っていたらしいけど、実際はどれくらいの時間で停止するか分かるかい?
場合によっては、要塞のエネルギーを止めた時点で、守谷君の元に行くっていう選択肢もあると思うんだけど」
「…………キメラモンは皆さん知っての通り、強力なデジモンです。
それ故にその消費エネルギーも馬鹿にならないでしょう。
だから八神先輩達が要塞のエネルギー供給を止めてからそうかからない内に
キメラモンのエネルギーが尽きる筈です。
なので僕の事は気にせずに、要塞の破壊に努めてください。
あれを長くこの世界においておくのは百害あって一利なしですから」
僕の説明に丈は渋々ながらも納得してくれた。
……キメラモンとの戦闘がどれくらい掛かるか分からない以上、
出来る限り、要塞で時間を掛けて貰った方が良いだろう。
丈の質問も終わり、計画実行の時が来た。
僕はブイモンをライドラモンにアーマー進化させ、その背中に乗ろうとすると、
京が慌てて止めてきた。
何故止めたのか分からなかった僕は、その理由を問い詰めるべく京の方に行くと、
突然僕の前に手を出してきた。
「どうせなら皆で円陣を組みましょ? いいですよね光子郎さん!」
「京君、全く君って人は…………」
突然の京の提案に光子郎は小さく溜息を付きながらも、自分の手を京の上に重ねた。
それに続くように、タケル、伊織とどんどん手が重ねられていった。
「守谷君も良ければやってくれませんか?」
僕以外の全員の選ばれし子供の手が重なると、光子郎が僕に向けてこんな事を言ってきた。
色々な含みがあるであろう光子郎の言葉に僕は溜息を付きながらも、一歩前に出た。
「……この状況で断れる程、僕は冷めてませんよ」
そう言いながら僕は内心物凄く照れながらゆっくりと選ばれし子供達の手の上に手を重ねた。
全員の手が重なった事を確認した京は、皆の顔を見回すと、
嬉しそうに手の方を向いた。
「この作戦、絶ッッッ対成功させるわよ! えい、えい―――――」
「「「おー!!!!」
京の掛け声とともに全員の声が一つとなって周りに響き渡った。
――――キメラモン、要塞同時攻略作戦の幕開けだ。