デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 何と言うか……こんな話でつまずくとは思ってもしませんでした。
別に作者的には見せ場も無い話の筈なんですけどね。


013 やるべき事

 病院の再検査を終え、絶対に無理はしないようにと医師に注意を受け、

右手にギプスを付け包帯で固定しながらも午前中に退院する事が出来た僕は、

ある問題に気が付いた。

ブイモンがデジタルワールドの何処に居るかという事を聞いて居なかったと言う事だ。

恐らくだが、普段僕が行き来しているゲートの前にはブイモンは来ていないだろう。

そこを光子郎に知られたら、下手をすれば

僕の住んでいる場所を特定されるかも知れないからだ。

 

 

「……どうするべきか」

 

 

 今はまだ十二時頃。

タケル達は授業を受けている時間だろう。

あまり選ばれし子供達と行動を共にしたくない僕にとって、選ばれし子供達が動けない今が

ブイモンと合流するチャンスであるのだが……

……まあ、十中八九アグモン達がブイモンを見張ってるとは思うけどね。

 

取りあえず僕は、自分の家に帰り、そこからデジタルワールドへ向かった。

デジタルワールドに来た僕は、辺りを見回したが、ブイモンの姿は無かった。

念の為、選ばれし子供達がここに来ていないかD3で確認したが、案の定反応は無かった。

 

 ……さて、どうするべきか。

 

 恐らく今デジタルワールドは、アルケニモンやキメラモン達によって、かなりの被害を受けている筈だ。

放っておけばそれだけデジタルワールドが荒れることになる。

それを許すわけにはいかない。

 

 僕が考える限り……恐らくだが、キメラモンとアルケニモンの基地さえ破壊出来れば、

しばらくはアルケニモン達は行動しないだろうと思う。

……原作ではアルケニモン達は、アルケニモン達を作った大人の人間をデジタルワールドに来れる様にする為に行動していた。

恐らくこの世界でもそれが目的の筈だ。

そして、それが目的だと言うなら現時点で

アルケニモン達が選ばれし子供達に直接手を下す事は無いだろうと思う。

そう思う理由は、いくつかあるが……

一番の理由は、選ばれし子供達に直接手を下すのはアルケニモン達の親玉が望んでいる行為の筈だからだ。

 

 ……まあこの考えは完全に僕の妄想だ。

そうだという保証は無い。

情報が少ない現状では、そうかもしれないという程度に考えていた方が良いだろう。

 

 

「……さて、どうするか」

 

 

 情報を集めるにしても取りあえずブイモンと合流したいのだが、今何処に居るのか分からない。

 

 取りあえずこの辺りに居るデジモン達に、今デジタルワールドがどうなっているかを尋ねようと思った時だった。

 

「―――――やはり来ましたか」

 

 

 突然上空からそんな言葉が聞こえて来た。

突然の声に驚きながらも空を見上げてみると、そこにはカブテリモンの姿と、

その背中に乗っている光子郎とブイモンとアグモンの姿があった。

 

 ――――どうして光子郎がデジタルワールドに居るのか?

今はまだ昼過ぎ頃。

学校がまだ終わっていない時間の筈だ。

……サボったのか?

だが、そうだとしても分からない事がある。

何故僕が居る場所を特定できたのか?

 

 僕がそんな事を考えている内に

カブテリモンが目の前に着陸し、光子郎達が降りて来た。

その中でも一番最初に飛び降りたブイモンは降りたと同時に僕に飛びついて来た。

……どうやら心配かけてしまっていたようだ。

僕は、ブイモンに謝罪と、助けて貰ったお礼を伝えながら頭を撫でた。

 

 

「……それで、どうして泉さんがここに居るんですか?

今はまだ授業中の筈ですよね?」

 

 取りあえず学校があるはずなのにどうしてここに居るかを尋ねた。

僕の問いに光子郎は、ああそれはですねと、全く悪びれた様子も無く答えた。

 

 

「風邪を引いたという名目で学校は休みました」

 

「……それってずる休みですよね」

 

「いいんですよ、偶には」

 

 

 学校で色々と先生方を手助けしてるんですから偶にはこういう事を……、

等の光子郎の小さな独り言に、貴方は入学してから一か月程で何をしているんだ……

と思いながらも、質問を本題に移した。

 

 

「なら泉さんはどうして学校を休んでまで僕を待ってたりなんかしたんですか?」

 

「……放っておいたら、一人でキメラモン達と戦うかもしれないと思ったからです」

 

 

 ……成る程、確かに昨日の僕の話を聞いていたらそういう風に思われても仕方が無い。

実際キメラモンは、僕とブイモンだけで倒そうと思っているのだから。

 

 

「そんな無謀な事はしませんよ。今日は、ブイモンに会いに来たのと、

現在デジタルワールドがどうなっているかを確認しに来ただけです」

 

「そうですか……」

 

「それで僕より早くデジタルワールドに来ていたという事は、既に情報は……」

 

「はい。集めていますよ」

 

「ワテとコウシロウハンを見くびってもろうたら困りまっせ」

 

 

 テントモンの当然だと言わんばかりの表情に僕とブイモンは乾いた笑いで返すと、

光子郎がパソコンを取り出しながら、集めた情報を話し始めた。

 

 

「今のデジタルワールドの現状ですが、残念ながら予想通り、

キメラモンや謎の女の物と思われる移動式の巨大な要塞の様な物によって、

たった一日の間にかなり荒らされてしまったようです」

 

 

 光子郎のパソコンの画面に映し出されたキメラモン等によって侵略されたエリアの数を見て、想像通りとはいえ、額から汗が垂れ落ちた。

 

 ……キメラモン達によって荒らされるだろうとは思っていたが、これは想像以上に危険な状況だ。

このままではそう時間が経たない内にこのデジタルワールドが荒れ果ててしまうだろう。

 

 

「このパソコンを見て貰えば分かると思いますが、

キメラモンの破壊活動、謎の女の要塞によって次々に作り出されるダークタワーの数。

このどちらも放っておいては危険です」

 

「……そうですね。このままではデジタルワールドが大変な事になってしまいます。

―――――ん?」

 

 

 光子郎のパソコンのモニターに次々と映し出される情報の中に一つ気になる点があった。

 

 

「泉さん、この一定時間ごとのダークタワー増加数の項目なんですけど、

明らかに時間が経つごとに減ってませんか?」

 

「気が付きましたか。そうなんですよ。

理由は分かりませんが、時間が経つごとにダークタワーの増加量が減っているんですよ。

ある一定の期間だけならともかく、時間が経つごとに少しずつ、明らかに」

 

 

 光子郎のパソコンは、ダークタワーの数や、場所をほぼ正確に映す事が出来る。

だからこれは決して計り間違いなのではなく、明らかに減っていっているのだろう。

……だが何故?

 

「ワテ等も昨日の今日の話やさかい、要塞に関する事は殆ど分かってまへん」

 

「他のデジモン達も要塞やキメラモンを見つけたらすぐさま逃げだしたようなので、

要塞に関しての情報はまだ集まってないんですよ」

 

 

 

 確かに普通のデジモンがあんな危険なデジモンや、要塞を見たらすぐさま逃げ出すだろう。

それに対して責めるつもりなんて勿論ない。

 

 ―――――いや、待てよ。もしかしたら――――

 

 

「随分と短期間の間に調べてるみたいじゃないか」

 

 

 僕がある事に気が付いた瞬間、

少し遠くの方からそんな声が聞こえて来た。

――――この声は……アルケニモンの!

 

 光子郎が僕の一歩前に出てデジヴァイスを構える。

テントモンもいつでも進化出来るといった様子で光子郎の横に飛んだ。

 

 

「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。

今日は別に戦いに来たわけじゃないんだよ」

 

 

 そう言いながら木の陰から姿を現したのは、

怪しいサングラスと帽子をかぶった謎の女――アルケニモンだった。

 

 

「……貴方がヤマトさん達が言ってた謎の女性ですか。

確かに何処から見ても大人の人間に見えますね」

 

「ちょっと賢そうなあんたは……

昨日は居なかった選ばれし子供みたいだね。

おやおや二人だけでどうしたんだい?

他の選ばれし子供達はキメラモンの力に怯えてデジタルワールドに来なくなったのかい?」

 

「ヤマトさん達は学校があって今は来れていないだけです。

決してキメラモンに屈した訳ではありません」

 

 

 なんだい面白くないねとアルケニモンは呟くと視線を僕の方に向けて来た。

 

 

「選ばれし子供っていうのは随分と脆い様だね。

結局キメラモンの攻撃を受けていないのにそんな風になるなんてさ」

 

「人間の体なんてデジモンと比べたらとんでもなく脆いモノですよ。

簡単に壊れてしまう。それこそ一瞬の内に。

……それで貴方はどうしてこんな場所に居るんですか?

戦いに来たわけじゃないんですよね?」

 

「ああ。今日はそんなつもりであんた達の前に姿を現した訳じゃない。

……あんたに話して上げようと思う話があるからこうして来てやったのさ」

 

「……僕にですか?」

 

 

 アルケニモンが態々僕に話があるとは想定外だった。

突然の言葉に困惑する僕を無視してアルケニモンは話し出した。

 

 

「あんた達がさっき話してたダークタワー製造移動要塞が制御不能になってね。

せっかく建てたダークタワーを自分で引きつぶしたりするくらいコントロールが効かなくなってるんだよ。

まあアレはもともと無理やり動かしてたモノだからいずれこうなるとは思ってたが、

まさかこんなに早くいかれちまうとはね」

 

 

 ……やっぱりコントロールが効かなくなっているのか。

あれはもともと異世界のエネルギー――暗黒の海の暗黒エネルギーを引っ張り出し、優しさの紋章の力によってそれを制御し、動かす要塞なのだ。

紋章が無い上に、代わりの物を用意できなかった以上、こうなる事は必然だと言える。

 

 

「キメラモンもあの後まだ暴れ出してね。

抑え込んでいたイービルリングを全部破壊してどっかに行っちまったんだよ。

……まあ、意識のあるデジモンを作り出すからこんな風に言う事を聞かなくなるんだろうね」

 

「じゃあ今キメラモンがやっている破壊工作は貴方の意志では無いという事ですか?」

 

「アイツが勝手にやってるだけさ」

 

 

 ……恐らく嘘は付いてないだろう。

理由は、単純に嘘を付く理由が無いように思えるから。

……だが、今まで話した話が本当だとしたら何故アルケニモンは僕にそれを話したのか?

 

 

「……取り敢えずは、貴方の話を信じる事にします。

ですが、それなら何故敵である選ばれし子供にこんな話を?」

 

「――――さあ、なんでだろうね。好きなように解釈しな」

 

 

 そう言ってアルケニモンは僕等に背を向けた。

 

 

「最後に一つ、どうしてその話を僕に?」

 

 

 アルケニモンは同じ選ばれし子供である筈の光子郎にでは無く、僕に話をした。

その理由が疑問だった。

 

 

「そうだね――――アンタはつまらない男だけど

……選ばれし子供の中では

まだマシな方だと思ってるからかもしれないわね」

 

 

 そう言うとアルケニモンは再び僕達に背を向けた。

 

 

「例えあんた達がキメラモンを倒そうが、要塞を破壊しようが特別に手を出さないであげる。

精々選ばれし子供としての役目を全うするんだね」

 

 そう言い残すと、今度こそアルケニモンはその場から姿を消した。

 

 ……正直アルケニモンの言った言葉の意味は分からないが、

アルケニモンが情報を与えた理由には少なからず心当たりがあった。

 

 恐らく、この二つを僕達に止めて欲しいんだろう。

アルケニモン達の親玉の計画はデジタルワールドに来ること。

――――それと密かにその男に憑りつき、男を誘導して計画を進めているデジモン、

ヴァンデモンが肉体を取り戻す事。

 

 この目的を達成するには、まずはデジタルワールドの位相を

多くのダークタワーで狂わし、環境を強制的に変更し、

そして大人でもデジタルワールドに来れる様にしなければならない。

アルケニモンやキメラモンの行動のお蔭で、位相を少なからずズラすことは出来た。

……だが、予想よりも早く出来てしまった上に、キメラモンと要塞の暴走によって

それを止める事が出来ない。

このままいけば、男の目的は果たす事が出来る。

……だが、ヴァンデモンは今はそれを望んではいない。

 

 今デジタルワールドに行けるようになっても、ヴァンデモンにはデジモンとしての体が無い。

戦う力もほとんど無いだろう。

こんな状況でデジタルワールドに来てしまったら、ゲンナイ達ホメオスタシスに発見され、

抵抗できないまま消されてしまうかもしれない。

そうなってしまう可能性が有るからこそヴァンデモンは

今デジタルワールドに行く事を望んでいない筈だ。

だが、位相を狂わしたまま放置したら、デジタルワールドそのものが崩壊してしまう。

それは男もヴァンデモンも望んでいない。

だからこそ、僕達選ばれし子供達に位相を狂わす二つの要因を止めさせようとしているのだろう。

 

 ……後は、デジタルワールドの位相をより狂わすホーリーストーンをキメラモンの暴走によって

発見しにくくなる事を危惧して止めさせようとしているのかもしれないが、

……兎に角、本当の理由なんて分からない。

 

 ――――だが、このままキメラモンと要塞を放置すれば、デジタルワールドが大変な事になってしまう。それなら僕は行動しなければならない。

 

 それが選ばれし子供として選ばれた僕の使命だ。




アマキ「そう言えば、泉さんはどうして僕の居場所が分かったんですか?」

光子郎「ああ、それはですね、守谷君が気絶している間に、D3を弄って
    位置情報をオンに……」

アマキ「…………」

光子郎「……本当にすいません。守谷君の場所を特定するにはそうするしか
    方法が思いつかなかったんですよ……」



 本編に挟めなかった話をここにいれてみました。

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