デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。


後、感想の方で主人公のデジタルワールドでの服装がどうなっているかという質問を受け、
その事に関して全く描写していない事に気が付きました。
それで主人公のデジタルワールドでの服装ですが、
主人公が初めてデジタルワールドに来る際に来ていた私服がデジタルワールドでの普段着?となっています。

第8話になるまでその事に関して説明せずに申し訳ございませんでした。
今回の様に何かこの小説内で分からない点がありましたら、感想にてご指摘して頂けると光栄です。


008 暗黒の海

 この日、僕はブイモンと共にデジタルワールドのある場所に来ていた。

その場所は、これと言って特別な所でもないのだが、この場所にはあるモノがあった。

 

 

「――――見つけた」

 

「――――これがアマキの言う、オレ達の二つ目のデジメンタル?」

 

 

 今までのデジメンタルを違い、洞穴や、祭壇と言った場所にでは無く、

外に置いてあるデジメンタル――――友情のデジメンタルを指差しながらブイモンが僕に問いかけた。

 

 

「…………」

 

 

 僕はブイモンの問いに答えずに無言で友情のデジメンタルに手を掛け、持ち上げようと力を込めた。

友情のデジメンタルは初めこそは重くてビクともしなかったが、

次第にその重さを感じなくなっていき、

最終的に何も持っていないと思えるくらいの重さになり持ち上げる事が出来た。

 

 新たなデジメンタルを手に入れた事にブイモンは両手を上げて喜んでいたが、

僕は純粋には喜べなかった。

 

 ――――何故僕は、友情のデジメンタルを引き抜く事が出来たのか?

いや、そもそもどうして僕は勇気のデジメンタルを引き抜く事が出来たのか?

確かに僕には、選ばれし子供としてデジタルワールドに選ばれた。

だが、そうだからと言って僕に勇気と友情のデジメンタルを引き抜く事が出来る

素質、覚悟、資格があるのか?

―――――それは無いと僕は断言できる。

 

 ならどうして僕は勇気と、友情のデジメンタルを引き抜く事が出来たのか?

答えなんて分からない。

ただ言える事は、僕は大輔とは違い、

資格が無いのにデジメンタルを手に入れているという事だ。

――――もしかすると僕は、大輔とは少し事情が異なる選ばれし子供なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友情のデジメンタルを手にしてから数日後の昼過ぎ、

僕は学校を体調不良で欠席し、チビモンと共に、タケル達が通う学校の近くの海に来ていた。

 

 理由は、暗黒の海に行く為だ。

原作では大体この時期に、ヒカリはこの辺で暗黒の海の住人に呼ばれ、暗黒の海に迷い込む。

タケルは、ヒカリが消える前に残した海と言う言葉をヒントにこの場所に辿り着き、

ヒカリの名前を呼び続ける事で、暗黒の海に居るヒカリと空間を超えて会話する事が出来、

その際に生じた空間の穴からタケルとパタモンとテイルモンは暗黒の海に入った。

 

 僕はタケル達が暗黒の海に入る際にそれに便乗して入ろうと計画していた。

……一乗寺賢が選ばれし子供ではないと分かってしまった以上、僕はどうしても一度暗黒の海に行く必要があった。

……だからこそ、僕はここ数日学校を欠席してでも毎日この場所に来ていた。

 

 この場所に来てから一時間後程経過し、そろそろ学生の下校時間だと考えていたその時、

堤防の上に虚ろな目で現れたヒカリの姿を見つけた。

ヒカリはしばらく海をぼうっと見つめていると、突然体がノイズのように荒れ、

次の瞬間にはその場所から姿を消していた。

 

 僕はその光景に罪悪感を覚えながら立ち上がると、

普段デジタルワールドで付けている仮面を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒカリが消えてから数十分後、

ヒカリが消えたこの海にタケルとパタモンとテイルモンがやって来た。

……どうやら原作通り、デジタルワールドでは無い場所にヒカリが居ると感付き、

この場所に来たようだ。

ただ闇雲にヒカリの名前を呼び続けるタケル達の前に、

僕は仮面を付けたまま、ブイモンと共に姿を現した。

 

 

「……よくこの場所がわかったな」

 

 

 突然後ろから話しかけられたタケル達は驚き、

振り向くとデジタルワールドでしか会った事のない僕の姿に更に驚きの表情を見せた。

 

 

「君は……現実世界でもその悪趣味な仮面を付けているんだね」

 

「四六時中付けている訳でも無いけどな」

 

 

僕はそう言うとタケル達の前を遮り、数歩程歩いた所で歩み止める。

 

 

「…………仲間を探しているんだろ?

それなら付いて来るといい。近くまでなら案内しよう」

 

「! お前はヒカリが何処に居るのか知っているのか?」

 

 

 テイルモンの質問に僕はああ、と言葉を返す。

 

 

「お前の仲間はデジタルワールドでも、現実世界でも無い場所に迷い込んでいる」

 

「デジタルワールドでも、現実世界でも無い場所、だって?」

 

「ああ。実際どういう名前の場所かは知らないが、僕はその場所を暗黒の海と呼んでいる」

 

「暗黒の海……」

 

「だが、その場所は基本的に此方の意志では行く事が出来ない世界だ。

向こうに居る者に招かれない限りは」

 

「ならボク達はどうやってそっちの世界に行けばいいの?」

 

「それは歩きながら話そう」

 

 

 パタモンの問いに僕はそう返すと、再び歩き出した。

……理由は分からないが、僕にはヒカリが居るであろう暗黒の海に繋がる時空の切れ目の場所がなんとなく分かっていた。

この辺りの時空が変だと思って辺りを見ていると、何となくだが、他の場所より時空が歪んでいる場所が察知出来たのだ。

 

……これが原作でタケルやヒカリがよく見せていた、他の選ばれし子供とは違う特殊な力の様なモノなのか?

そうだとしたら、どうして僕にそんな力があるのだろうか?

それは、資格のない勇気や友情のデジメンタルを使える事に関係しているのだろうか?

その答えは考えても出てくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……この辺りだな」

 

 

 タケル達を引きつれてしばらく堤防を歩き、

目的の場所であろう所に着いた僕はそう言って立ち止まった。

 

 

「この場所がそうなの?

……僕にはこの辺りが他の場所と違っている様には見えないんだけど」

 

「……なんとなくこの場所だろうと僕は思っているが、

この場所であると言う確信は正直に言うと無い。

……信用出来ないなら他の場所を探すといい」

 

 

 この場所が他の場所より時空が歪んでいる気がすると僕が感じているだけで、

この場所であると断言出来る程、自身は無かった。

だからタケル達が僕の勘を信用出来ないと言ってこの場所を離れても仕方が無いと考えていた。

 

 

「――――いや、信じるよ」

 

 

 だが帰ってきたのは予想外の言葉だった。

僕の考えていた予想は、良くて、

他に当てが無いから仕方なくこの場所に留まると言う妥協の選択だと思っていた。

だがタケルはそうでは無く、僕の言葉を信じてこの場所に残ると言う選択肢だった。

 

 タケルはそう言うと、海の方に向かって、ヒカリの名前を叫び続けた。

パタモンもテイルモンもそれに続くように叫び出した。

 

 タケル達がこうしている理由は、ここまで来る道中で僕がタケル達に、

暗黒の海に行くには、向こうに居るモノに招かれなければ行く事は出来ない。

だから向こうに居るお前達の仲間に招いてもらう為に、時空の歪みの場所に来たら仲間の名前を呼び続けろと言ったからだ。

タケル達はそれを馬鹿正直に信じてそれを実行していた。

……何もしないで待っていると言うのが出来ないからやっているだけの可能性もあったが、

そうだとしてもタケル達は僕の言った通りに行動していた。

 

 

「……お前達はどうして僕の言葉を馬鹿正直に信じる事が出来る?

騙されているかもしれないとか考えていないのか?」

 

 

 気付けば僕はタケルにそう問いかけていた。

仮面を付けて顔を隠し、目的も分からない人間をどうして信用する事が出来るか不思議で仕方が無かったからだ。

 

 

「それは――――君が太一さんの勇気の紋章を受け継いでいるからだよ。

君が勇気のデジメンタルを持っている事は、この前僕達を助けてくれた時に、

君のパートナーに刻まれた勇気の紋章の印から推測出来る。

実際君は、勇気のデジメンタルを持っているんでしょ?」

 

「……まあ一応持っている」

 

「だったら僕は、よっぽどの事が無い限り、君の事を疑ったりしないよ。

太一さんの勇気を受け継いでいる君をそう簡単には疑えないよ」

 

 

 タケルは僕に笑顔でそう投げかけると、再び海に向かってヒカリの名前を叫び出した。

 

 太一さんの勇気を受け継いでいる、か。

……タケルの言葉に僕の胸はギュッと締め付けられていた。

それもそうだろう。僕は八神太一の様な勇気が無いのに、

勇気のデジメンタルを扱っているのだから。

 

 僕が罪悪感で胸がいっぱいになって居ると、タケル達の声がヒカリに届いたのか、

突如目の前に、モニターに映し出されているかのように薄くなっているヒカリの姿が現れ、

その後、その場所に大きな時空の穴が現れた。

 

 タケル達はその時空の穴を見つけると、迷いもせずにその時空の穴に飛び込んで行った。

僕とブイモンもそれに付いて行くように少し時間を空けて飛び込んだ。

 

 

 時空の穴を抜けた先には、先程までの場所とは異なる空が広がっていた。

空だけではない。

地面も海も自分達の居た世界とは異なっていた。

何と言うか見ているだけで心が不安になる世界だった。

 

 その世界の空気に僕とブイモンは少しの間呑まれていたが、

タケルがパタモンをペガスモンに進化させて襲い掛かってくるエアドラモンと戦っている姿を見て我に返った。

 

 

「……助けに行かないの?」

 

 

 苦戦するペガスモンの姿にブイモンは僕にそう投げかけたが、

それに対し、その必要は無いよと返す。

 

 そうしてペガスモンがエアドラモンに防戦一方となって居ると、

遠くの方にダークタワーがある事に気が付いたテイルモンは、

ペガスモンに飛び乗り、ダークタワーを破壊するように頼んだ。

その言葉通りペガスモンがダークタワーを破壊すると、その上空から光が溢れ出し、

テイルモンを包み込み、テイルモンをエンジェウーモンに進化させた。

 

 エンジェウーモンは圧倒的な力でエアドラモンを倒すと、

ヒカリ達の周りに居るイービルリングを複数付けられたハンギョモン達のイービルリングを聖なる力で破壊した。

……だが、イービルリングを破壊されたハンギョモンはデジモンでは無い何かに姿を変え、

ヒカリを自分達の信仰する神の元へ連れて行こうと腕をつかんだが、

エンジェウーモンに阻止され、渋々ヒカリ達の前から姿を消した。

 

 原作通りの展開になった事に内心ほっとした僕は、ブイモンを引きつれタケル達の元に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……どうやら終わったみたいだな」

 

 

 思いがけない僕の声にヒカリは勿論、タケル達も驚いていた。

 

 

「貴方は……どうしてこの世界に居るの?」

 

 

 僕がこの世界に居る事に疑問を隠せないヒカリは、僕に疑問を投げかけた。

僕はそれに答えようとしたが、それよりも先にタケルが答えた。

 

 

「彼がヒカリちゃんがこの世界に居る事を知らせてくれたんだよ。

こっちの世界に来るための時空の抜け目も彼が見つけてくれたし

……それにしても、君もこっちに来ているとは思ってなかったよ」

 

「そうだったの。

――――タケルくんに私がここに居る事を知らせてくれてありがとう」

 

「……礼を言う必要は無い。僕自身この世界に用があっただけだ」

 

 

 僕はそう返すと、海の方へと歩き、タケル達から見えない様に自分のD3を

暗黒の海に浸けた。

暗黒の海に浸かったD3は、一乗寺賢のD3の様に黒く染まる事は無かったが、

彼のD3の様に新たな機能が追加された。

――――暗黒の海に繋がるゲートを開く力が。

 

 

「何をやってるの?」

 

 

 僕の行動を疑問に思ったヒカリに僕は何でもないと言葉を返し、

再びヒカリ達の元へ戻った。

 

 

「……恐らくあの空から元の世界に戻れるはずよ」

 

 

 ハンギョモンだった何かがこの場を去った後、空に開いた大きな穴をエンジェウーモンは指差し、元の世界に帰るべく、ヒカリを抱きかかえた。

 

 僕もその穴から帰ろうとブイモンを進化させようと思ったその時ある事に気が付いた。

――――僕を抱えた状態のフレイドラモンのジャンプじゃあそこまで届かないのではと。

 

 ……しまった、そこまでは考えていなかった。

先程手に入れた暗黒の海へと繋がるゲートを開ける力を使えば恐らく元の世界に戻れるが、

タケル達の前でそれを使う訳にはいかない。

ライドラモンのジャンプ力でも恐らく届かないだろう。

どうしたものか……

そう考えていると突然タケルが話しかけてきた。

 

 

「何してるの? 早く乗りなよ。

君のパートナーのアーマー進化は飛べないんだろ?」

 

「…………いいのか?」

 

「あたりまえじゃないか」

 

タケルの言葉に色々思う事は有ったが、その言葉に甘えて、

ブイモン共々ペガスモンに乗せて貰う事にした。

 

 ペガスモンは僕達が乗った事を確認すると、エンジェウーモンにと共に

空に会いた穴に向かって飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間の穴をくぐり、元の世界に戻った僕はペガスモンから降りると、

早々とその場を立ち去ろうとした。

だが残念ながらそれはヒカリによって止められた。

 

 

「待って! ……今日は本当にありがとう。

貴方のお蔭で私はまたこの世界に戻って来れた」

 

「……さっきも言った筈だ。礼を言う必要は無いと。

僕自身にあの海に行く用事があったから、手を貸しただけだ。

それに僕が居なくとも彼なら一人で君の元に辿り着けただろう」

 

 

 なんせ原作はそうなっているのだから。

 

 

「そうだとしても結果的に貴方は私を助けてくれた事に変わりは無いでしょ?

だから――――ありがとう」

 

 

 この世界に来てから初めての他者からの感謝の言葉に僕は仮面の下で何とも言えない表情を浮かべながら、今度こその場から立ち去った。

 


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