七夜雪彦の暗殺教室   作:桐島楓

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修学旅行になります。……ヒロイン追加してもいいかな


班決めの時間

「楽しかったね」

 

 修学旅行初日の夜。ホテルの個室で雪彦と矢田は話をしていた。

 

「そうだね……桃花が同じ班にいてくれたから」

「え?」

 

 唐突にそう言われ矢田が驚くと雪彦は立ち上がりそっと矢田の肩を抱き寄せる。

 

「ゆ、雪彦くん」

「……桃花―――俺、本当はお前のことをずっと……」

 

 その先を言いよどむ雪彦。自分は暗殺者の人間だ。矢田に拒絶されてしまうのが怖いのだ。

 

「大丈夫だよ。だって、私も同じ気持ちだから―――子供の頃からずっと……だから、教えて雪彦くんの気持ちを」

「桃花―――」

 

 

 そして二人の顔が近づき重なり―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピピピピピっ!!

 

 

 合う直前で矢田の目は覚めた。目覚まし時計を止めて項垂れる。

 

「―――なんで? ……せめて、せめて、あと1分あれば……」

 

 起きて早々に矢田は凹んだ。が、すぐに気を取り直した。

 

「―――大丈夫、そうクールにならなきゃ」

 

 素数を数え矢田は一度落ち着いた。

 

(初恋の相手がクラスに転校してきて運命の再会。そしてこの意味深な夢―――どれを取っても恋愛運が私の追い風になっている証拠! それにビッチ先生から男の子が好きそうなことは色々聞いたし、この修学旅行というシチュエーション―――絶対に逃せない!)

 

 とはいえまだまだ、問題は山積みである。まず雪彦は矢田を仲のいい友達と見ていること。そして

 

(有希子ちゃん―――会って数日のはずなのに雪彦くんと凄く仲がいいんだよね)

 

 席が隣のせいか二人はよく話していることが多い。その中で何故か雪彦の趣味や食べ物の好みなどを把握していることが多いのだ。しかも、あまり男子生徒に進んで話かけることの少ない神崎が気軽に話をしている点も気になっていた。

 二人が知り合いという可能性は低いだろうと矢田は考えている。というより、雪彦は知らないと言っていたからだ(忘れてるだけの可能性も捨てきれないが)。

 では、神崎が隣の席に着た雪彦をよく見ている理由は単純に世話焼きなためか、もしくは短期間の間に神崎が雪彦に好意を持つようになったためか。

 

(もしそうなら、ライバルとして強力すぎる!)

 

 可能性が0とは言い切れない。若干天然で時々空気が読めないのが玉に瑕だが、運動神経の良さは初日で、勉強ができるのも中間テストで実証済みだ。暗殺者という肩書きもE組の中ではステータスでしかない。E組筆頭男の娘の渚ほどではないが顔も女顔で綺麗に整っている。ワイルドな男が好きな人からすれば物足りないかもしれないかもしれないが、神崎がそうだという話は言いた覚えがない。

 

「ど、どうしよう~~~!?」

 

 ベッドの上でゴロゴロと転がりながら悩む矢田。結局最近体調の良い弟が「お姉ちゃん遅刻するよ」と呼びにくるまで悩み続けた。

 

「と、とにかくアレを正夢にしないと!」

 

 慌てて登校の用意をした矢田は決意を新たに家を出た。

 

 

 

 だが、彼女は忘れていた。

 

 

 

 修学旅行のE組の宿泊施設―――それは

 

 

 

 

 個室ではなく男女別れただけの大部屋であることに。

 

 

 

 

 ちなみにその恋する乙女の悩みの中心人物は

 

「たい焼き一つください」

「おお、学校頑張れよ坊主」

 

 朝食のたい焼きを購入していた。

 

 

 

 

 

 

 

 今朝矢田は一つの決意をした。そのために必要なのは雪彦を自分と同じ班に入れることだ。桃花の班は第1班であり、一番最初―――つまり雪彦が転校する前に決まっていた。が、一人増えることを拒絶されることはないだろう。当初少し距離をおいていたメンバーも中間テストで本校舎の人間に一矢報いたことで、前より雪彦との距離は縮まっている。

 磯貝や前原とよく話しているのも見かけるし、磯貝が用事があるという時に片岡の手伝いをしている姿も見かける。なので、誘っても問題ないはずというのが現在の桃花の考えだった。あらゆる角度から戦力をねっていく矢田だったが。

 それらの下準備を行うために矢田が教室に着いたとき、それを目撃した。

 

 

 

 

 

 ―――あらゆるの戦略

 

 

 

 

 ―――あらゆる考え

 

 

 

 

 ―――あらゆる決意

 

 

 

 

 

 それらすべてをあざ笑うように―――

 

 

 

 

 

「雪彦くん班は決まった?」

 

 朝登校し机で本を読んでいる雪彦に渚がそう声をかけた。

 

「班?」

「うん、修学旅行の」

「ああ、こっちはまだだったんだ。まだ決まってないね」

 

 雪彦は前の学校で既に修学旅行に行っているので椚ヶ丘中学校の修学旅行も終わっているものだと思っていたからだ。

 

「それじゃあさ、一緒の班にならない?」

「いいの? それじゃあ頼むよ」

「うん、わかった。―――片岡さん4班最後の一人は雪彦くんになったよ」

「はいはい」

 

 

 

 ―――笑顔の死神に雪彦が連れて行かれるのを……。

 

 

 

「いや助かった、ぼっち修学旅行になるところだった―――どうしたの? 桃花」

「ううん、なんでもないよ」

 

 崩れ落ちる桃花を見て心配そうに声をかける雪彦だった。

 

「あと1分……あと1分速ければ―――」

 

 朝とは真逆のことを言う矢田であった。

 

 

 

 修学旅行といってもE組のは普通の旅行ではない。殺せんせーの暗殺も兼ねた旅行だ。

 国が雇ったプロのスナイパーが狙撃するため、生徒たちはそれをサポートすることになる。そのため普通以上に念入りに現地の調査をする。渚たちの4班も調査を行っている、一度修学旅行で行っている雪彦の意見は随分と参考になるものだった。

 

「ふん、あんたらもガキねえ。世界各国を渡り歩いてきた私からすれば国内の旅行なんていまさらだわ」

 

 無駄に気障ったらしい仕草で言うのはイリーナである。

 

「それじゃビッチ先生は留守番しててよ」

「花壇に水あげといて」

 

 前原と岡野は振り向きもせずにそう言った。イリーナのE組での立ち位置がよく分かる一幕である

 

「ここはどうかな?」

「ここは障害物が多すぎて狙撃には不向きじゃないかな?」

「でも逆に盲点を付けるかもしれないですよ」

「それに障害物が多いなら身を隠せる場所も多い」

 

 ほかの生徒も同じようにに暗殺ルートの考えに夢中であった。その様子を見て徐々にイリーナの目が半眼になっていく。

 

「―――ちょっと! 私抜きで楽しそうな話しないでくれる!?」

 

 叫びながらデリンジャーを抜くビッチ先生。大人気ないように見えるが、この人はこれでも世界でも有数の殺し屋である。

 

「行きたいのか行きたくないのかどっちなんだよ!?」

「めんどくさいなこの人」

「うるさい! 仕方ないから行ってあげるわよ!!」

「やっぱり行きたいのか―――」

 

 などと騒いでいると教室に殺せんせーが入ってきた。

 

「一人一冊です」

 

 そう言って生徒に辞書のような書物を配り始めた。

 

「重っ!」

「なにこれ!?」

「修学旅行のしおりです」

「広辞苑かと思ったよ」

 

 明らかにしおりなんてレベルのものではない厚さの辞書を渡されクラスからはブーイングが出る。実際に持ち歩くにはスペースと重量的にかなり問題があるつくりである。

 

「徹夜で作りました。イラスト解説の人気スポット、お土産人気トップ100、旅の護身術入門~応用に付録には組立紙工作の金閣寺がついてます」

「どんだけテンション高いんだよ!?」

 

 前原が当然といえば当然のツッコミを入れた。

 

「いやでもこれよくできてるよ。ほら、お土産は老舗から最近評判になってる店まで入ってるし、金閣寺も細かく作りこんである!」

「雪彦くんそういう問題じゃないと思うよ」

 

 若干喜んでいる雪彦に渚が冷静に突っ込んだ。

 

「テンションは勿論高いですよ。先生は皆さんと旅行できるのが楽しみで仕方ないのです!」

 

 勿論テンションが上がっているのは殺せんせーだけでなく、クラスの人間全員上がっていた。

 

「さー皆さん! 準備はしっかりやっておいてくださいね!」

 

 


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