全校集会とはどの学校にもあるものだ。基本的に同じ時間に集まるものだがE組となると少し変わってくる。
E組は他のクラスよりも早く集まり整列しなければいけないのだ。E組の校舎は本校者から離れた山の上にある。そのため本校舎の生徒とよりも早く集まらなければならない。
雪彦は烏間とイリーナともに並んでいる。転校生のため全校生徒に紹介されるためだ、若しくはE組ということで晒し者としての側面もある。
少ししてから本校舎の生徒たちが入ってくる。ほとんどがE組のメンバーを指差しニヤニヤと笑っている。
その光景を見た雪彦はE組って本当に差別の対象なんだと改めて実感した。ちなみに、烏間とイリーナを見て若干悔しそうといか羨ましそうに見ている者もいるが。
全クラスが並び終わり、プリントを配り始める。しかし、E組にだけは配布されなかった。
「すみません! E組の分がまだなんですか」
委員長である磯貝がそう言うと、壇上に立つ生徒会はニヤリと笑い。
「あれ?おっかしいなー、すみませーん。3年E組の分は忘れてきてしまったみたいです。3年E組の方たちは覚えて帰ってください。ほら、記憶力とか鍛えないとでしょう?」
そう言うとE組を除いたクラスが笑い出した。
「なによこれ、陰湿ね」
イリーナは不愉快そうに言う。そして
「本校舎って集会に使うものを忘れる程度の記憶力でも残れるんですね」
この瞬間間違いなく空気が凍ったんだ、と後に潮田渚は語っている。
ふむふむと頷きながら、ボソリと雪彦は呟いた。別に悪意があって言ったのでなく、純粋に疑問に思ったのがポロッと口から出てしまっただけである。が、当事者である生徒会のメンバーからすれば悪意以外のなにものでもない。
ちなみに烏間は頭を抱えイリーナは口元を抑え笑いを堪えている。
「ね、ねえ矢田さん……雪彦くんってもしかして―――」
「うん……普段は割と普通なんだけど……時々すごく空気が読めない」
雪彦の弱点
・時々KY
『うるせーぞE組転校生!』
『お前らの記憶力鍛えるためにわざとやってやったんだよ』
『お前らに発言権なんてないんだよ!』
「え? それは学校ルール以前に基本的人権に関わるような―――」
しつこいようだが、雪彦は本校舎の生徒に喧嘩を売ってるわけではない。
そんなことをやっていると風が吹いた。そしてE組生徒と雪彦の手にプリントが配られていた。
「磯貝君、問題はありませんね。手書きのコピーが全員分あるようなので」
いつの間にか雪彦の隣には変装? した殺せんせーが立っていた。が、変装しても目立つ、それこそ国家機密がこれでいいのか? と思うくらいに目立つ。具体的に言うとさっきまで雪彦に文句をつけていた生徒が吃驚するくらいには。
「すみません、プリントあったんで進めてください」
「嘘!? なんで!? 誰だよ!? 笑いどころ潰した奴…………ん! それでは集会を始めます」
「誤魔化すってことは後ろめたい事してた自覚はあるんだな」
『……っ!!』
(((((マジで空気読め!!)))))
本校舎の生徒が凄い目で睨み、E組は烏間のように頭を抱えながら心の中で突っ込んだ。
ちなみに雪彦の紹介の時はどこぞの議会のごとくヤジが飛んだのだがスルーして自己紹介だけして普通に終わった。
◆
「まったく君は……」
「すみません烏間先生、つい口が滑って」
本校者の生徒と敵対するつもりはないんですけどね、と続けながら雪彦は軽く頭を下げた。悪気があったわけではないのだが、いらぬ心労をかけてしまったのは事実だからだ。
「いいじゃない、面白かったわよ!」
バンバンと雪彦の背中を叩くのはイリーナである。イリーナとしては陰湿な連中に一矢報いた気分で心労どころか、逆に晴れやかな気分に近いのかもしれない。
「ん? あれは」
そんな風に体育館の外にでると、ニキビ面の男とメガネの男が渚に絡んでいた。
「―――因縁つけられてるのか」
「まったくこの学校は」
雪彦と烏間は助けに行くべきかと思ったが、動く前に殺せんせーの触手に止められた。
「あの程度では屈したりしませんよ、私の生徒たちはね」
何を? と思った雪彦だが、次の瞬間ゾクリとした悪寒に襲われた。
((殺気―――!?))
誰がと思い雪彦と烏間は振り向く。渚に絡んでいた二人は掴んでいた手を離し、渚は二人の間を悠々と歩き去った。
「ほらね、私の生徒たちは殺やる気が違いますから」
「……殺せんせー」
「はい?」
雪彦は渚と数日過ごし、そして今の渚の殺気を感じ思ったことがある。殺気を隠し自然体でいる才能、殺気をだし相手をひるませる才能。
「―――渚って、もしかして―――」
「そうですね、おそらく君の思っているとおりです」
「そっか―――」
暗殺者の才能―――それが渚にはある。
というわけKYの雪彦くん。ちなみに以前の学校での評価は、基本的にいい奴だけど時々空気の読めない不思議な奴です。