七夜雪彦の暗殺教室   作:桐島楓

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 ビッチ先生の残留の時間はカットの方向で。すみません! あの話は教師陣メインということもあって生徒絡めた話が思い浮かばずカットする方向にしてしまいました。


転校生の時間・2時間目

「…………ふぅ」

 

 梅雨入りし湿度の高くなってきた季節。机の上から起き上がりぼんやりしていた雪彦は一言呟いた。

 

「……遅刻だ」

 

 雪彦は寝坊した。

 雪彦は朝に弱い。そのため普段から複数の目覚まし時計をセットしているのだが。今回は夜に勉強をしていてそのまま眠ってしまった。今まで勉強はそれなりにこなせればいいと考えていた雪彦だが、椚ヶ丘中学校に転校しその校風に触れ、E組で第二の刃の必要性を知った雪彦は今まで以上に勉強にも力を入れるようになっていた。

 学校から帰宅したら課題と暗殺術の訓練、寝る前に予習を行うというのは日課だったのだが。

 

(失敗した)

 

 後悔しながら身支度を済ませていく。遅れたからといって開き直ってのんびりしたり、学校を休むわけにはいかない。

 制服を着込み、鞄に必要な教科書、対先生用ナイフと愛用の普通のナイフを放り込む。

 

「……そういえば、今日また転校生が来る日だった。どんな人かな」

『初期命令では私と彼の同時投入の予定でした』

「…………え?」

 

 自分の携帯から聞こえてきた声に驚き雪彦が取り出すと

 

『おはようございます! 雪彦さん』

 

 お邪魔してますというプラカードを持った律がいた。

 

「律か、びっくりした。ていうか、なんで俺の携帯に?」

『皆さんとの情報共有を円滑にするために全員の携帯に私の端末をダウンロードしてみました。モバイル律とお呼びください』

(割となんでもアリだな)

 

 人間の感情について学習していく彼女は日々感情豊かになっていた。そして自発的にE組のメンバーと交流することを楽しんでいる。人としても協調性を持つ暗殺者としても進化しているのだ。

 

「それで同時投入の予定だった。ということは中止になったの?」

『はい、当初は私が遠距離、彼が近距離で暗殺を行うはずでしたが二つの理由からキャンセルになりました。一つは彼の調整が予定より時間がかかったこと、もう一つは私の性能では彼のサポートに力不足……私が彼より暗殺者として劣っていたから』

「マジ?」

 

 律が劣っていると聞いて雪彦は驚いた。最先端の軍事技術で生み出された律すら力不足という評価をされてしまうとは俄かには信じがたいものだからだ。

 

『はい。あ、それはそうと雪彦さん、殺せんせーからメッセージが来ています』

「あっ」

 

 雪彦は自分が遅刻している身であることをすっかり忘れていた。『再生しますね』と律が言うと聞きなれた担任の声が流れてきた。

 

『雪彦くん! 律さんとラブコメしてないで早く登校してください!!』

「ちょっ! 聞いてたのかよ!?」

 

 そのメッセージを聞いた雪彦は傘を手に取り家を飛び出た。

 

 

『それにしても雪彦さんが寝坊するだなんて珍しいですね』

「というか、元々朝には弱いんだ」

 

 雪彦は律と話しながら登校していた。走りながら話しているのが携帯の画面の中の少女という一点を除けば普通である。

 

『そうなのですか? でも以前―――』

 

 そう律が思い出すのは転校二日目のことである。寺坂達と雪彦が律を縛った日だ。律自身はスリープ状態だったためその時の様子は覚えていないが、会話の流れや、状況から判断して早朝に行われたはずだと判断していた。

 

「あの時は頑張って早起きしたからね。……そういえばごめんね。あの時は縛ったりして」

『いえ気にしないでください。あの時は私も悪かったんです』

「―――そう言ってもらえると助かるけど」

『それに私のために早起きして頂いただなんて』

 

 そして画面の中の律は頬を染めて照れだした。雪彦は一体今の会話の何処に照れる要素があったのか分からない。

 

「いやそこで照れるのはおかしくないかな?」

『そうだ! 雪彦さん、よろしければ朝は私が起こして差し上げましょうか?』

 

 そう言うと律は『目覚まし律』と書かれたプラカードを取り出した。

 

「え? う~ん、俺としては頼みたいけど……律は大変じゃないの?」

『大丈夫です! 私はもっと雪彦さんやクラスの皆さんとお話したいです』

 

 雪彦は少しだけ悩む。AIとはいえ律はクラスメイトの女子だ。いいのだろうか? という葛藤と、無機質な目覚まし時計よりは律の声の方が目覚めがいいのではないかという、二つの思考で揺れ動いていた。

 

「……それじゃあお願いできるかな」

『はい、お任せ下さい!』

 

 敬礼を取る律。E組の校舎がある山をひょいひょいと進みながらそんな律を微笑ましく思っていた雪彦だが、校舎を見た瞬間表情が引きつった。

 

「えっと、なにこれ?」

『転校生が空けた穴ですね』

 

 雪彦がE組の校舎に着くと、なぜか教室の壁に穴が空いていた。それも人一人が通れるほどの大きな穴だ。穴の前で穴の側面を観察する。

 

(切ったとかじゃなくて力尽くで破ったって感じか……転校生ってゴリラか何か?)

 

 そして顔を上げるとクラスの皆が雪彦を見ていた。『何してんの!?』と突っ込みたいのだろう。

 そんな中で一人、雪彦の見覚えのない生徒がカルマの顔を見ていた。そして雪彦を見ると、近付いてきた。

 

「―――あ、ども。七夜雪彦です」

「お前強いな」

「小前強稲くん?」

 

 変わった名前だなと思う雪彦だが、当然彼の勘違いであり

 

「「「「「いや違うだろ!!」」」」」

 

 E組恒例のクラス一丸突っ込みが入った。

 

「あはは、そりゃそうか」

「―――でも俺の方が強い。俺より弱い……だから殺さない。安心しろ。俺が殺したいのは俺より強いかもしれないものだけ」

 

 そう言うと転校生のイトナは教壇へと向かう。そして殺せんせーに向かって言った。

 

「この教室ではあんただけだ、殺せんせー」

「強い弱いは喧嘩のことですかイトナ君? 力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」

 

 言ってることは経験者らしく格好良いのだが、何故か殺せんせーは羊羹を齧りながらそう言ったため格好良さは半減している。そしてイトナは―――殺せんせーの食べているものと同じ羊羹を取り出した。

 

「立てるさ。だって俺たち血を分けた兄弟なんだから」

 

 そして衝撃的な一言を放った。

 

「「「「「兄弟ィ!?」」」」」

 

 当然のことながら全員が驚愕する。イトナはどう見ても普通の人である(壁を破壊したことを除けば)。それに対して殺せんせーはタコ型の生物。兄弟というには無理がある。

 

「兄弟同士小細工は要らない。兄さん、お前を殺して俺の強さを証明する。時は放課後、この教室で勝負だ」

 

 そしてイトナは教室の後ろに向かって歩きだし穴の前でもう一度振り返りこう告げた。

 

「今日があんたの最後の授業だ。こいつらにお別れでも言っておけ」

 

 それだけ言うとイトナは雪彦の横をすり抜けて出ていった。

 

「授業は?」

 

 雪彦が後ろからそう声をかけたがイトナは振り返ることはなかった。

 イトナが出て行った直後教室は静寂に包まれた―――はずもなく、殺せんせーにE組生徒から質問の嵐が飛んだ。

 

「ちょっと先生兄弟ってどういうこと!?」

「そもそも人とタコで全然違うじゃん!!」

「いっ、いやいやいや!!」

 

 驚いた生徒たちの質問が飛び交う中、同じように驚いているのは殺せんせーも同じだった。なぜなら、

 

「まったく心当たりがありません! 先生生まれも育ちも一人っ子ですから!! 両親に「弟が欲しい」とねだったら家庭内が気まずくなりました!!」

(((((そもそも親とかいるのか!?)))))

 

 その日は殺せんせーとイトナが本当に兄弟なのか否かの憶測が教室を飛び交うこととなった。ちなみに、この騒ぎのどさくさに紛れ雪彦は席に着いた。

 

 

 そして昼休み。イトナは自分の机の上に大量の甘いお菓子を置いて食べていた。控えめに言っても人間が食べたら身体に悪いとしか言いようのない量だ。

 甘党な所、表情が読みづらいなど共通点が多い二人に生徒達は本当に兄弟なのかという疑問へ関心がより強くなっていく。

 

「……兄弟疑惑で皆やたら私と彼を比較してます。ムズムズしますねぇ」

 

 イトナと同じようにお菓子を食べていた殺せんせーが居心地が悪そうにそうぼやく。イトナが気にしていないのとは対照的だ。

 

「気分直しに今日買ったグラビアでも見ますか。これぞ大人の嗜み」

「いや、教室で読むのはまずくないですか?」

 

 神崎、矢田と昼食を取っていた雪彦がそう言う。世界広しといえど担任が教室で昼休みに生徒の目の前で堂々とグラビアを読むのは殺せんせーぐらいのものだろう。暗殺が行われていることと比べれば些細な問題かもしれないが。

 そしてここでも共通点が見つかった。

 

「……」

「……」

 

 イトナもグラビアを取り出したのだ。それも同じ雑誌、同じページだ。

 

(((((巨乳好きまで同じだ!!)))))

「……これは、俄然信憑性が増してきたぞ」

 

 そういうのはE組のエロ代表岡島である。

 

「そ、そうかな岡島君」

「そうさ!! 巨乳好きは皆兄弟だ!!」

 

 渚がそう言うと岡島は鞄から二人と同じグラビア雑誌を取り出しそう力説した。

 

「三人兄弟になっちゃうよ!?」

 

 そんな岡島に対して渚が言う。

 

「……もし本当に兄弟だったとして、どうして殺せんせーは分かってないの?」

「うーん、きっとこうよ」

 

 プリンを食べていた茅野が疑問を口にすると漫画好きの不破が予想を口にする。

 

 

 殺せんせーとイトナは某国の王子であった。しかし、その国で戦争が起こり遂に王家にまで敵軍が迫ってきた。

 そして王は苦渋の決断を下す。王である自分が城を離れるわけには行かない。だが、せめて息子たちだけでも

 

「息子達よ!! お前達だけでも生き延びよ」

 

 そして逃げる殺せんせーとイトナ。しかし敵の進軍は予想以上に早かった。そこで兄である殺せんせーは

 

「先に行け弟よ!! この橋を渡れば逃げきれる!!」

 

 そして弟を逃がすために単身敵兵の足止めを行う殺せんせー。しかし、敵の猛攻により殺せんせーは橋から落下してしまう。

 

「兄さーん!!」

 

 それを見たイトナは殺せんせーを助けようとする。しかし、殺せんせーには兄の意地があった。

 

「構うな行け!! 弟よ生きろ!!」

 

 

「……それで成長した二人は兄弟と気付かず宿命の戦いを始めるのよ」

 

 不破は今週のジャ○プを握りそう力説した。

 

「うん、で、なんで弟だけ人間なの?」

 

 横で聞いていた茅野がそもそもの根本的な謎を聞く。

 

「それはまあ、突然変異?」

「肝心なとこが説明できてないよ!!」

「キャラ設定の掘り下げが甘いよ不破さん!!」

 

 その話を聞いていた茅野と原がそう言うが不破はのらりくらりとしたものだった。

 

「ていうか気付かずって言うけど、イトナの方は普通に兄さんって呼んでたよ?」

 

 途中から一緒に聞いていた雪彦が二人が兄弟と気付かずという流れは無理があるんじゃないかと質問すると。

 

「細かいこと気にしたら負けだよ雪彦くん」

「細かい……のかなぁ?」

 

 そして昼休みが終わり、放課後。イトナが指定した時間が刻一刻と近づいてきていた。

 


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