雪彦「やった! 苗字と同じ数字で縁起がいい!!」
あと言い忘れていたのですが読みやすいかと思って前々回あたりから地の文での生徒の呼び方を名前で統一するのではなく、作中でよく呼ばれてる方で書くことしてみました。渚やカルマは名前のままで、神崎有希子などは苗字で書いてます。
「朝八時半。システムを全面起動。今日の予定六時間目までに二一五通りの射撃を実行。引き続き殺せんせーの行動パターンを分析……」
機械ゆえに正確な時間に自律思考固定砲台は起動を始めた。しかし、自分の体が拘束されていることに気がついた。
「……殺せんせーこれでは銃が展開できません。拘束を解いてください―――明らかに私に対する加害であり契約で禁じられているはずですが」
「俺たちがやったんだよ」
そう言って寺坂が粘着テープを見せた。
「どー考えたって邪魔だろーが。常識ぐらい身につけてから殺しに来いよポンコツ」
「ま、機械には分かんないよ常識はさ」
「授業終わったらちゃんと解いてあげるか」
寺坂に続く形で菅谷と原がそう言い。今日は通常通りの授業を受けれた。
授業終了後拘束を解き生徒たちは帰宅した。
◆
「んー! 今日は普通に過ごせたね」
帰り道矢田と帰りながら雪彦は困っていた。
「と言っても何時もああはできないよなあ」
「……そうだよねえ。機械って言ってもやっぱり少し可哀想だし」
「それもあるけどね……」
実際のところ雪彦が困っているのはいつまでもああしていれば開発者が文句をつけてくる来ることに対してだった。妨害しているのは明らかに自律思考固定砲台だが、最新技術であることや壊した際賠償金などを盾に取られてしまえば雪彦たちは何もできなくなる。
一方矢田は
(―――どうしよう)
葛藤していた。自律思考固定砲台についてではない。
(なんとかデートに誘いたいけど―――あ、あと一歩が踏み出せない)
修学旅行で矢田は雪彦と殆ど関わっていなかった。精々新幹線と旅館で少し話した程度だ。修学旅行中に神崎を急に名前で呼び出したことも気になるが、同じぐらい気になるのはあの『気になる男子ランキング』で雪彦に入った三票の内最後の一人についてだ。
(一人は有希子ちゃんで間違いないと思うけど……もう一人がわからない)
E組の中で雪彦と仲のいい女子といえば自分と神崎の二人だと矢田は理解している。次点でよく話しているとすれば速水だ。そしてその速水こそが正解なのだが―――矢田がそれを知るはずもなく。
(凛香ちゃんと雪彦くんの接点が全くわからない)
強いて言うならクラスメイトということだが、逆にいえば矢田はその場面しか知らないのだ。
(あ、でも確か千葉くんとよく射撃訓練してるっていうからその時に一緒にとかかな―――でも)
等と色々と考え込んでいるのだ。
「桃花どうしたの?」
「えっ!? あ、えっと―――!」
俯きながら考えに没頭していたあまり気がつかなかったが、心配そうな表情の雪彦が下から顔を覗き込んでおり驚いて素っ頓狂な声を出してしまった。
「いや、深刻そうな顔してたから」
「あはは……ねえ雪彦くん!」
「うん?」
キョトンとした雪彦を前に矢田はついに覚悟を決めた。
「今度二人で遊びに行きたいんだけど! ど、どうかな?」
「いいよ」
その言葉を言うまでどれだけの乙女の葛藤があったかも知らず、雪彦は二つ返事で了承した。嬉しいことは嬉しいのだが、どこか納得のいかないところのある、複雑な心境の矢田だった。
(桃花と遊びに行くのも久しぶりだな)
と、楽しみができた雪彦は自律思考固定砲台に対する悩みを少し忘れることができた。
◆
翌日。
雪彦の悩みはあっさり解決を迎えることになった。
廊下で会った渚と杉野が烏間に苦情を言ったほうがいいかもしれないと相談しながら教室にはいると
「おはようございます! 渚さん、杉野さん、七夜さん」
自律思考固定砲台は体積が増え、昨日までの感情を一切感じさせない声ではなく、とても明るく爽やかな声と笑顔で挨拶をしてきた。
(え? 誰?)
「親近感を出すための全身表示液晶と体・制服のモデリングソフト。全て自作で八万円!!」
驚き思考が緩やかになってしまっている雪彦の背後から殺せんせーがぬっと姿を現した。
「今日は素晴らしい天気ですね! こんな日を皆さんと過ごせて嬉しいです!!」
「豊かな表情と明るい会話術それらを操る膨大なソフトと追加メモリ同じく12万円! ―――先生の財布の残高5円!!」
自分の財布の残高がそこまで減っても生徒のために動く殺せんせーは教師の鏡なのかもしれない。そう思いながら急速に変わった転校生と殺せんせーを見比べ雪彦は一言。
「殺せんせー機械にも強かったんですね」
「そっち!?」
一番常識的なところに雪彦は突っ込みを入れた。
◆
「たった一晩でえらくキュートになっちゃって……」
「これ一応固定砲台だよな?」
クラスメイトが驚くのも無理はない。つい昨日まで文字通りただの機械だったものがこうも変わってしまったのだ。
「何騙されてんだよお前ら。全部あのタコが作ったプログラムだろ。愛想は良くても機械は機械。どーせまた空気を読まずに射撃するんだろポンコツ」
今までが今までゆえに口は悪いが寺坂の言うことも正論の一つではある。しかし、音を立てパネルが寺坂の方を向くと
「……仰る気持ちわかります寺坂さん。昨日までの私はそうでした。ポンコツ―――そう言われても返す言葉がりません」
泣いていた。それはもう今までのことを後悔し懺悔するように。それを見た片岡と原は
「あーあ泣かせた」
「寺坂くんが二次元の女の子泣かせちゃった」
「マジかよ、寺坂サイテーだな」
「誤解される言い方やめろ! つーか七夜! テメーも昨日一緒になって鎖まいてただろ!?」
雪彦はそっぽを向いた。寺坂の怒りのボルテージが上がった。
「素敵じゃないか二次元。Dを一つ失う所から女は始まる」
「竹林! それお前の初ゼリフだぞ! いいのか!?」
「へえそうなのか」
「納得しちゃだめだよ雪彦くん!?」
矢田と神崎は必死である。普通なら大丈夫だと思うのだが、雪彦の場合勘違いしたまま何処かへ行ってそのまま帰ってこない気がして仕方ないのだ。
二人の必死の説得で雪彦は道を踏み外すことはなかった。
「けど皆さんご安心を。殺せんせーに諭され、私は協調性の大切さを学びました。私のことを好きになっていただけるように努力し、皆さんの合意を得られるようになるまで、私単独での暗殺は控えることにいたしました」
「―――へえ、何というか・・・・・・可愛いもんだね」
「「「っ!?」」」
雪彦は今までのことを反省し努力する姿勢と笑顔を見てそういったのだが。クラスメイトたちはいろんな意味で捉えていた。特にとある三人は物凄い表情をしていたと後に潮田渚は語っている。