七夜雪彦の暗殺教室   作:桐島楓

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転校生の時間

 修学旅行が終わり今日から通常授業が始まる。E組メンバーも何時もどおり山道を通り校舎へと向かっていた。

 雪彦は磯貝、前原と歩きながら昨日きたメールについて話していた。

 

「そういえばさ、昨日の烏間先生からのメール見た?」

「あ、うん。今日から転校生が来るってやつだろ。なんか外見が変わってるとか言ってたな」

 

 磯貝と前原の言葉を聞いて雪彦は改めてメールを見る。

 

「文面的には暗殺者だよな―――きっと」

「転校生暗殺者には雪彦がいるから、あまり驚きはないけどな」

「ああ、確かに。特に初日は驚いたからな。流石にあのインパクトは超えないだろ」

「あはは、いやあの時は驚かしちゃって……いや、でも待てよ。烏間先生が態々外見に驚くなってことはさ……」

 

 もしかしたら並みのインパクトじゃないかも。と続けて磯貝は沈黙した。

 

「例えばさ、授業中は暗殺禁止って言われた直後「OK」って言いながら銃撃つ筋肉モリモリマッチョマンの元コマンドーとか」

「さ、流石に……いや、ないとは言い切れないか」

 

 日本の元精鋭部隊の烏間が来ているのだ。外国の精鋭部隊が来ても、まあ可笑しくはない。なにせ日本だけでなく文字通り世界の危機なのだ、殺せんせーとは。

 

「ふっふっふ」

 

 そんな怖い想像をしている二人とは裏腹に前原は不敵に笑う。

 

「そんなこともあろうかと思ってさ、昨日写真とかないですか? って聞いてみたんだよ。そしたら、ほら」

 

 そう言い自分のスマホに写真を表示させ雪彦と磯貝に見せた。

 そこには至って普通の可愛い少女の顔が写っていた。

 

「へえ、女子か」

「俺も驚いた。しかも結構可愛いんだよ」

「そうだね、確かに可愛い」

 

 雪彦が写真を見てそう言うと二人は微妙な顔をする。

 

「なあ、雪彦―――」

「何? 妙に神妙な顔して」

 

 ガシッ! と雪彦の肩をつかみ前原は言う。

 

「悪いこと言わないから、絶対に神崎と矢田の前では言うなよ」

「?」

 

 何が言いたいのかよく分からず雪彦は首をかしげる。磯貝の方を見ると

 

「そうだな、そのほうがいいかも」

「まあ磯貝がそう言うなら」

「って俺は!?」

「女性関係で前原の言うことは間に受けるなって、とある筋から聞いたんだけどガセだった?」

「…………ふッ」

「「否定しないのかよ!?」」

 

 そんな会話をしながら教室に到着した。

 教室に入ると黒い直方体の何かが増えていた。それを前に渚など一部生徒が固まっている。

 

「……なにこれ?」

 

 磯貝が聞くと直方体のパネルに映像が写った。そこには写っているのは先ほど前原が見せた写真の少女だった。

 

「おはようございます。今日から転校してきました。"自律思考固定砲台"です。よろしくお願いします」

 

 そう言い終わるとパネルは消え、再びただの黒い直方体として沈黙した。

 

(((そうきたか!?)))

 

 つい先ほどの渚たちも同様のコメントを残したのだが三人は知る由もなかった。

 

 

「知っていると思うが、転校生を紹介する」

 

 表向きE組の担任である烏間が震える声でそう言いながら黒板にチョークを走らせる。彼らしい生真面目さを感じさせる丁寧な字で

 

 "自律思考固定砲台"

 

 と書かれていた。突っ込み所が多すぎたせいか最後にチョークを少し砕いてしまったのだがそれについては置いておこう。

 

(烏間先生も大変だなァ……)

(俺あの人だったら突っ込みきれずにおかしくなるわ)

 

 生徒たちから気遣われ、そして本当の担任である殺せんせーは自律思考固定砲台を見て。プークスクスと笑っていたが、色物具合はどっちも似たようなものである。

 

「お前が笑うな、同じイロモノだろうが。言っておくが、彼女は思考能力(AI)と顔を持ちれっきとした生徒として学校に登録されている。あの場所からお前に銃口を向けているが、お前は彼女に反撃できない」

 

 月を破壊し地球も破壊すると宣言している危険な超生物である殺せんせー。彼がE組の教師をするための条件に『生徒に危害を加えない』というものがある。それを逆手に機械を生徒として送り込む。地球の命運がかかっている以上形振り等構っている状況ではない。

 

「いいでしょう。自律思考固定砲台さん。貴方をE組に歓迎します」

 

 自己紹介を終えて授業が始まる。

 

「でもどうやって攻撃するのかな?」

 

 矢田が疑問に思ったことはそこだった。砲台という割に砲門がどこにもついていないのだ。

 

「多分―――」

 

 雪彦が予想を答えようとすると、自律思考固定砲台に変化が訪れた。ガシャガシャッ!! と音を立てて両横から銃を現れた。

 

「ああなるよね。伏せた方がいいかも」

 

 言い終わるや否や対先生BB弾を発射した。一機でありながらもショットガン四門、機関銃二門による弾幕は生徒数人ぶんの弾数だ。と言っても

 

「ショットガン四門、機関銃二門。濃密な弾幕ですがここの生徒は当たり前のようにやってますよ」

 

 E組の全生徒の弾幕でさえ殺せんせーを殺せないのだ。そんな殺せんせーにとってこの程度の弾幕で躱すのは簡単だった。しかし、流石は人工知能というべきか弾道を計算してあり、一発だけ殺せんせーも避けられない弾があった。しかし、それもチョークを使って弾いた。

 

「それと、授業中の発砲は禁止ですよ」

「気を付けます。続けて攻撃に移ります」

 

 言った端からこれである。

 

(あ、ある意味当たった)

 

 先ほど雪彦はどこぞの映画の大佐のようなやつかもと言った。外見はともかく「OK」と言った直後に発砲と「気を付けます」といった直後に攻撃―――状況的には少し似ているかもしれない。

 

「弾頭再計算、射角計算、自己進化フェイズ5-28-02に移行」

「…………こりませんねえ」

 

 顔をシマシマにしながら殺せんせーは笑う。しかし、ここから自律思考固定砲台の本領発揮だった。再び弾幕が張られる。

 

(さっきと全く同じ射撃―――しょせんは機械ですねぇ。これもさっきと同じ。チョークで弾いて退路をっ!?)

 

 チョークを使って退路を作ろうした殺せんせーのだが、チョークを触手が弾け飛んだ。

 その光景に全員が驚いた。

 

(一発目の弾で二発目を隠したのか?)

 

 一発目の弾丸で二発目を隠すことで死角を作る。それなら一発目を弾いても二発目が直撃する。

 

「右指先破壊。増設した副砲の効果を確認しました」

 

 自律思考固定砲台は進化する。AI(あたま)構造(からだ)もターゲットの殺せんせーを確実に殺すためにターゲットの防御パターンを学習し、武装とプログラムを改良、確実に効率的に相手の逃げ道を減らしていくように自らの手で進化していく。

 

「次の射撃で殺せる確率は0.001%未満。次の次で殺せる可能性0.003%未満。卒業までに殺せる可能性90%以上」

 

 スラスラと述べられる自律思考固定砲台の言葉に生徒たちは気付いた。

 

 ―――彼女なら殺るかもしれない

 

 雪彦は不意打ちで殺せんせーを殺しかけた。不意打ちが通用しにくくなった今、雪彦単独で殺せる可能性は限りなく低くなっている。だが、自律思考固定砲台はその逆、殺せんせーの動きに合わせて進化していくことで殺せんせーを殺せる確率を上げていくのだ。

 入力済み(プログラム)の笑顔で、転校生は次の進化を始めた。

 認識を間違っていたと殺せんせーは認めざる得ない。

 

(アレはただの機械ではなく、紛れもなく殺し屋だ)

 

 その様子を教室の外で見ていた烏間とイリーナはその技術に驚いていた。

 

「自己進化する固定砲台か―――すごいわね」

「使っている弾こそBB弾だが、使われている技術が最先端の軍事技術だ。確かにこれならいずれ殺せるかもしれない―――」

 

 ただ、一つ問題がある。

 

「フン、そう上手くいくかしら―――」

 

 イリーナは教室の中で再び攻撃を始めた自律思考固定砲台の弾幕に慌てる生徒を見ながら、かつての自分を思い出していた。

 

「この教室がそんなに単純な暗殺場(仕事場)なら、私は先生なんてやってないわ……」

 

 

 授業終了後。

 

「これ……俺たちが片すのか」

 

 前原が面倒くさそうに言う。自分たちが撃った弾ならともかく、授業妨害しながら撃った者の弾を授業妨害されていた自分たちが片付ける事に納得がいかないのだ。それは勿論前原だけでなく他の生徒も同じ意見だ。

 

「掃除機能とかついてねーのかよ。固定砲台さんよお」

 

 村松がそう言うが自律思考固定砲台は沈黙したままだ。

 

「チッ、シカトかよ」

「やめとけ、機械に絡んでも仕方ねーよ」

「もし固定砲台が殺せんせー仕留めても―――報酬は開発者のところにいくのかな?」

 

 雪彦がポツリとそう言うとクラス中が沈黙した。勉強の邪魔をされ、掃除をさせられ、挙句に報酬は向こうに持っていかれる―――冗談ではない。というのがE組の一同の思いだった。

 

 そして、2時間目、3時間目と一日中自律思考固定砲台の攻撃は続き、生徒たちは大いに迷惑していた。

 

 

 

 その日雪彦は普段よりかなり早い時間に登校していた。

 

(―――もう少し寝てたかったな。ん?)

 

 雪彦が教室に着くと寺坂たちが既に教室に来ていた。

 

「寺坂?」

「あん? 雪彦か」

 

 そう言って振り向く寺坂の手には粘着テープが握られていた。

 

「考えることは同じか」

 

 雪彦もまた自律思考固定砲台が壊れない程度に動きを拘束するつもりだった。昨日のようなことを続けられてはたまったものではないからだ。隣の席の神崎や斜め前の矢田が雪彦の目と鼻の先で怖がっていたのが最大の要因ではあるが。

 

「みてーだな」

 

 寺坂の後ろの黒い直方体―――自律思考固定砲台は粘着テープで雁字搦めに固定されていた。

 

「テープで大丈夫?」

「ああ、見たところ開閉する力はそんなに強くなさそうだからな」

 

 そう吉田が言った。

 

「なら態々チェーンなんて持ってくる必要なかったかな」

「いいんじゃね、一応巻いとけば」

 

 村松のそう言われ、それもそうかと雪彦は鎖を巻きつけた。

 その後登校してきた生徒たちは自律思考固定砲台の姿を見て驚いたものの、昨日のような授業妨害はされないと安心していた。

 

 

 


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