七夜雪彦の暗殺教室   作:桐島楓

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上手く書いていけるかわかりませんが頑張ります。


始まりの時間

 

 雪彦の家は広い―――厳密に言うと家の敷地は広い。何せ山一つ丸ごと七夜の敷地なのだ。一応普通に歩く道もあるのだが、迷いやすく、山の中には危険な野生動物や危険なトラップが仕掛けられている。その為進入禁止となっている。一般人が入ろうものなら罠にかかって死ぬか、動けなくなって熊にでも食われるかの未来しか待っていない。そういった者は年に数人いるのだが持ち主たちからすれば進入禁止や猛獣注意の看板を至るところに配置してあるにも関わらず入ってくる輩が悪いとスルーしている。

 そう言った意味で普通とは少し自分たちの感覚は違うのだろうなと七夜雪彦は常常思っていた。そんな山も雪彦にとっては学校に通うための通学路であり、遊び場であり、修業の場でもあった。

 今日も友人たちと分かれ雪彦は帰路に付く。

 イヤホンをつけてメガネをかけて歩いている姿は至って普通の人畜無害そうな少年である。

 

(ん? 車……)

 

 山に入る前に――一台の黒塗りの車が止まっているのが雪彦の目に入った。車の後部座席から一人の男性が降りた。そして、その男性に雪彦は見覚えがあった。

 

「―――烏間さんですか?」

 

 少し小走りに近づいて確認するように聞く。おそらく間違いはないが最後に会ったのが数年前ということもあって朧げだったからだ。

 

「……君は―――雪彦くんか?」

「はい。お久しぶりですね」

「そうだな、最後に会ったのは5年ほど前か。随分大きくなったな」

「成長期ですので」

 

 烏間惟臣―――雪彦の父親の友人であり、雪彦も幼い時からよく会っていた男である。

 そんな烏間のまるで甥とでも話してるかのような気安さに車内に残っていた者は驚いていた。彼らの知る限り烏間が仕事中に誰かと気安く話している場面などないからだ。

 

「ああ、紹介しよう。彼はこれから会いにいく七夜史彦さんの息子で雪彦くんだ。雪彦くん、こっちは防衛省の同僚だ」

「防衛省ですか? 烏間さんは確か―――」

「それにはついては後で話そう。色々あってな」

 

 苦虫を噛み潰したような表情でそういう烏間に雪彦はこの人も結構な苦労人だなあと思った。

 

 

 道中野犬に襲われるというハプニングがあったが烏間が犬を見た瞬間笑顔になり、野犬が犬とは思えない顔芸を披露し逃げ出すというイベントをこなし、雪彦と烏間は家までたどり着いた。

 雪彦の家は昔ながらの和風な作りとなっている―――というより、場所のせいで業者が来れず、建て替えもリフォームも出来ないのだ。むしろ電気が通ってることに驚くくらいだ。

 客室に烏間が通され雪彦は自室に引き上げようとしたのだが父親に呼び止められた。烏間も雪彦が残ることに異論は無さそうだったのでその場にとどまった。

 

「お久しぶりです、史彦さん」

「久しぶりだな烏間―――それで、こんな引退した老いぼれに何のようだ?」

「……お力を貸していただきたいのです。……月が爆破された話はご存知ですか?」

「人並み程度にはな」

 

 そして烏間は話を切り出した。その話は雪彦だけではなく、史彦も驚く内容だった。

 

「つまり―――月を爆破したタコが3年E組の教師をやってるから3月までに秘密裏に暗殺する――ということですか?」

「そうなる―――だが、この生物はとにかく素早い。各国の軍や殺し屋が相手でも全くが歯が立たなかった」

「そこで、俺たち七夜にか」

 

 七夜の体術は五体満足なら獣でも継承可能である。その動きは通常の人間というより限りなく獣の動きに近いとも言える。人間の兵器や殺し屋でダメなら獣のような動きのできる七夜なら或はという思惑があったのだろう。

 

「史彦さんが引退し、雪彦くんにあとを継がせる気がないのも分かっていますが―――」

「まあ、地球の危機とまでなっては引退だのとは言ってられないな。だが、俺はブランクも長いし、最後の仕事で左手と右足をやられてしまってる。正直は俺が行っても足を引っ張るだけだろうな……雪彦」

「なに?」

「出来るか?」

「さあ、実践なんてしたことないし」

 

 精々不良との喧嘩くらいと内心で続ける。

 

「けど、必要なら受けるよ―――いや」

 

 暗殺者としての血がそうさせるのか、雪彦は日常の中でも妙な虚しさを感じることがあった。もし、この仕事を受ければその虚しさが埋まるかもしれない。そう考えると答える言葉は変わった。

 

「やってみたい」

 

 

 雪彦が部屋から出ると、烏間は再び史彦に頭を下げた。

 

「すみません、史彦さん。雪彦くんを巻き込んでしまって」

「気にするな。さっきも言ったが状況が状況だ。ターゲットも生徒には危害を加えない契約になっているのだろう。何を考えてるかは分からんが、信じて大丈夫だろう。元々高校生になったらどこかで一人暮らしをさせるつもりだったしな。それが少し早まっただけだ。それに、あいつにとってもいい刺激になるかもしれない」

「刺激……ですか?」

「ああ、アイツは誰かを殺したいと思ってるわけじゃない。だが、それでも七夜の血の影響か―――どこかで自分と普通の間にズレがあることを感じ取ってる。多感な時期だから仕方ないかもしれないが、この仕事でなにか答えを掴めるかもしれない。お前のことだ、最低限普通の中学生のような生活を送れるようにはしているんだろう?」

 

 そう言い史彦と烏間は昔を思い出す。雪彦が暗殺者の一族の人間だと知ったときの事を。まだ十歳なったばかりだというのに、驚くことも自暴自棄に陥ることもなくただ静かに受け入れた。年不相応に達観していたのだ。もし、今回のような普通ではない環境に入り、その環境の中で学生らしく楽しんでいるものを見れば雪彦もまた変われるかもしれない。

 

 

 こうして、七夜雪彦は椚ヶ丘中学校、3年E組に転校することとなった。

 

 

 




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