我は菊月だ   作:シャリ

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7話:初陣

 遠征当日。時刻は九時手前。

 我を含めた遠征メンバーは抜錨所に来ていた。抜錨所は名前の通り、艦娘が抜錨──海に出ることを指す──する際に使う場所だ。建物の大きさは一般的な小学校に存在する体育館と同じ程度らしい。我は小学校の体育館を見たことがないのでそれが正しい情報なのかは知らない。

 抜錨所内で海側には陸上と水上を行き来できるスロープとシャッターがついており、そこから抜錨していく。

 他だと艦装を種別に管理する為の棚や箱が置かれている。ただ、入れ方が若干乱雑だ。箱から飛び出ていたり向きがバラバラだったりと、単に重ねて置いただけに見える。いちいち丁寧に出し入れするのは面倒だったのだろうな。

 

 

「初めまして、だよね。私は水上機母艦の千歳(ちとせ)です。お互い頑張ろうね」

 

 声が耳に入ったことで、周辺視野で見えていた光景から目の前の艦娘に意識を戻す。

 

「よろしく頼む」

 

 差し出された右手を取り、握手を行う。千歳は今回共に遠征する六人目の艦娘。長月たちと何度か遠征に出ている艦娘で、我とは今日が初対面となる。

 

「千歳は偵察だけを考えた装備をさせている。攻撃力は無いに等しい。実際の戦力はお前を含めた私たち五人だと考えておけ」

 

 横からかけられた長月の言葉には、頷くことで理解の意を示す。千歳は艦隊の目としての役割を担う。護衛対象の傍で敵を発見した場合、我らはともかく護衛対象を無傷で済ませることは難しい。護衛任務の性質上、偵察能力は攻撃能力を犠牲してでも必要な能力となる。

 

 千歳との顔見せを終えて、旗艦である長月の目の前に我ら五人が並ぶ。長月は全員の顔を一度見まわしてから簡単な説明と一緒に任務開始を告げる。

 

「現時刻から遠征任務を開始する。流れとしては、初めに私を先頭に単縦陣で合流地点へ向かう。合流後は今まで通り護衛対象を挟んで複縦陣。届け終えたらすぐに帰港。遠征中に深海棲艦を察知した際の行動は、その時の状況を見て指示を行う。それと」

 

 五人全体ではなく、我だけを瞳に捉える。

 

「初任務だが、誰かを傍につけるといった手助けは必要ないだろう?」

 

 肯定を前提とした聞き方。質問ではなく確認だな。

 

「補佐は不要だ。我は一人でいい」

 

 むしろ誰かにカバーされている方がやりにくい。邪魔になる光景しか思い浮かばないからな。

 

「ならば良し。では全員、抜錨だ。モタモタするなよ」

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 空は青く、太陽の光は遮られることなく降り注ぐ。日光が乱反射して輝く海面。穏やかな波。頬を撫でる心地よい風。地平線はどこまでも広がっていて、海と空との境界線を見ることができる。

 

《偵察機にて護衛対象を確認。まもなく、皆さんからも見えるはずです》

 

 単縦陣の最後尾にいる我の一つ前。千歳から通信が入った。単縦陣では艦娘と艦娘の間を二十メートルは空ける。艦娘の持つ通信能力を使用しないと全員に声は届かない。

 千歳の言う通り、船が見えてきた。船の周りには艦娘がいる。アメリカ本土からの護衛艦隊だな。

 鎮守府を出てから、戦闘が起きることなく順調に移動してきた。この後も同じようなら腰に携えた連装砲、ニ基四門の出番はない。

 

《ここまでご苦労。引継ぎに来た。後は私たちが受け持つ》

 

 長月が通信で呼びかけると、向こうの艦娘が手を振ってきた。名前は……確か榛名(はるな)だったな。

 

《はい。この子達をよろしくお願いします》

 

 通信を送ると、榛名たちは反転。本土へと去っていった。随分あっさりとしたやり取りだ。何度もやっているとそんなものか。立ち止まって一々挨拶だの引き渡しのことだので時間がかからなくて済むのは楽なので何も言わないが。

 

《手筈通り複縦陣でつく。艦間距離は三十メートルだ》

 

 陣形の変更。我は全体を上から見て左下の位置につく。合流地点に来るまでと違い、貨物船と共に並走するので速力を抑える。人間が乗る船は艦娘よりも遅い。調整しないと置いていってしまう。

 

 ふと、見られている気がして貨物船に顔を向ける。甲板にいる乗組員の男数人がこちらを見ていた。我に手を軽く振ってきた。振り返す等の反応はせず、視線を前に戻す。先程と同じく、我の前にいるのは千歳。五番艦だから当然のことだ。艦隊を組んでいる間は番号が割り当てられる。旗艦を一番艦として後は連番。今回だと、長月、皐月、文月、望月、千歳、我、なので我は六番艦だ。

 

 五番艦の千歳は偵察機の遠隔操縦に集中している。護衛が開始してからは、合流地点に来るまで以上の範囲で偵察機を飛ばしている。十キロ以上の距離を偵察機を通して見ることができるが、遠くに飛ばすほどに操縦精度は落ちる。これが空母の攻撃機のような戦闘用だと厄介な問題点らしいが、千歳のは偵察機。操縦限界距離と強風でバランスを崩して墜落しないようにするだけでいい。まぁ、だからといって楽そうではない。敵を見落とさないように気を張るのは精神力を消耗するだろう。敵を早期発見にすることは護衛対象や我らの生還率に関わる。手を抜くことは許されない役割だ。

 対して我はやることがない。戦闘がない限り、出番はこないのでやることがないのは良いことではある。退屈だという点を除けばな。海を眺めるのも飽きが来ている。何もないものを見続けても面白味はない。暇だ。

 

 

《今回も楽に終わりそうだよねっ》

 

 合流地点から約三時間。時間潰しにたまに飛んでいるカモメを眺めたり、次に蔵書室から持ち出す本を考えていると皐月の声が届いてきた。個別通信ではなく、全員に聞こえる方だ。

 

《そうね〜。ここまでに深海が出てこないなら戦闘はなさそう》

 

 皐月の言葉に文月が乗る。

 

《でさ、菊月はどう? 初の遠征任務、拍子抜けだったりするかな》

 

 話を振られた。拍子抜けかというとそうでもない。

 

《戦闘がない場合も予想できていたことだ。拍子抜けとまでは言わない。暇ではあるがな》

《することないもんね。簡単な任務だし。なんなら、しりとりでもしちゃおうか》

《ダメよ。頑張ってる千歳さんに悪いでしょうが》

《うぐっ。そうだね、気を抜きすぎてたよ》

 

 皐月は素直に文月の正論を受け入れた。とはいえ、黙っておく気はないらしく次は望月に声をかける。

 

《望月、寝てたりしない? さっきから声を聞いてないけど》

《流石のあたしも移動しながらは寝れないっての。つーかさぁ……》

《なになに》

《深海棲艦来ないと思ってる?》

《うん。目的地まで一時間弱だし、襲撃の心配しなくても大丈夫だって》

《あたしはさっきから皐月たちの会話聞いてると、逆にやってきそうな気がしてるけどねぇ》

《なんでさ?》

《ほらアレ。お約束とかお決まりの展開ってやつ》

 

 資料系でなく物語が書かれた本を読んでいると、お決まりの展開と言えそうなものはあったな。話の中身は違えど流れは同じだったりする。戦闘予定のない場所で戦闘が起きたり、敵がいない場所で敵がいたり、大丈夫と言われている場所に行くと大丈夫ではなかったり、簡単な任務だったはずが簡単ではなかったりといったものがある。

 

 とはいえ、今の我らにも起こりえるとは限らないが。

 

《敵艦隊観測! 方角二時。敵編成は駆逐イ級四、ロ級四、ハ級四、計十二体! 護衛対象に接敵するまでの時間は十五分もありません!》

 

 ……そうでもなかったようだ。ともかく敵が来てくれたことで、船と並走するだけの飽き飽きとした時間は終わりを迎える。任務で考えるなら良くないことだろうが、我としては喜ばしい。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 敵艦隊の知らせを受けたことで一度集結。小さな円を作るような位置取り。お互いの顔を見れるようにすると自然と出来る形だ。

 長月が戦闘態勢の指示を下す。

 

「敵が多いことから多めに艦隊を分け、敵が来る方角から船までに配置する。最初に接敵する第一陣、抜けてきた奴らを処理する第二陣、最終防衛線となる第三陣の三つだ」

 

 ふむ、三分割と考えるなら二人ずつといった具合になるな。

 

「千歳と望月は第三陣として船のそばにつけ。千歳は他に敵艦隊がいないか偵察を続けて、望月は最後まで突破してきた敵に対応。千歳もいざとなったら偵察より、偵察機をぶつけて足止めを優先して欲しい」

「承知しました」

「うぃ、わかったよ」

 

 偵察機でも足止めくらいには使えるのだな。本来の用途ではなくとも利用できるなら悪い手ではない。

 

「第二陣は第一陣を抜けてきた敵に対処。後ろに第三陣が控えているが、取りこぼすわけにはいかない。確実に始末する。第三陣は最終ラインだ。出る幕が無いのが望ましい」

 

 第三陣まで接近された時点で、砲撃を受けて船が沈む可能性は低くない。船を危険に晒したくないなら、長月の言うように第三陣を頼りにしないのが正解だな。

 

「第一陣は最初に対処してもらう。人員は第二陣が皐月、文月、私。第一陣は六番艦のみとする」

「ちょっとまちなさい!」

 

 文月が長月に対して口を挟む。

 

「駆逐級とはいえ菊月一人は危険すぎるわ。まだマトモに戦ったことないのよ!」

 

 皐月も頬を掻いて言う。

 

「十二体相手に一人なんてボクでも怖いのに……それはないんじゃない?」

「なにも単独で全て倒せという話でもない。一気に攻め込んでこないように時間稼ぎをして、段階的にワザと抜けさせたっていい。できる能力を持つことは演習の結果からわかっている」

 

 演習の結果は前にやった能力テストのことだな。艦隊の艦娘が持つ力を把握しておくのも、旗艦として持つべき知識と言える。知っていても不思議ではない。

 

「危ないのは変わらないって。ボクも菊月とやるよ」

「抜錨前に『一人で良い』と言っていた。その必要はあるまい」

「ここでそれを持ち出すのは違うでしょ。皐月もあたしも反対よ」

「なら当人に聞いて決めようじゃないか」

 

 長月は面倒だとばかりにため息をつき、我に問う。

 

「できるかどうか、言ってみろ」

 

 我としては答えるまでもないが、黙っておくわけにもいかないか。

 

「異論はない。一人で戦うのは可能だ。我は長月の指示に従う」

 

 能力テスト以降、力を完全に引き出すことを何度かやって確かめてみた。結果、全力だと我の瞳の色はどうしても変わってしまう。深海棲艦なのか艦娘なのかわからない我の姿を他の者に見せれない。きっと厄介なことになる。

 そして、我はまだ演習場でしか力を試していない。戦場で敵を相手に我が持っている力を使う経験しておきたい。だから単独戦闘の方が都合が良いのだ。

 

 

「心配は不要だ。駆逐級相手に我は沈みはしない」

 

 二人が食い下がらないように加えて言っておく。

 

「もっちからも何とか言って」

「菊月自身が言ってるんだからいいっしょ。でも無理はよくないからねぇ。途中でダメそうに感じた時は下がりなよ」

「まぁ……ボクも菊月が無茶しないってなら」

「むぅ~」

 

 我の言葉も聞いても、文月はまだ納得いかない顔をしている。

 

「無理は行わん。我は破滅願望を持っていない」

「……わかった」

 

 文月は我の目の前に来ると、右手の握りこぶしを差し出してきた。それから小指だけを伸ばす。

 

「指切りで約束。ちゃんと無事に戻ってくること」

 

 大袈裟だと一蹴はすることは……できないな。

 

「ああ、約束だ」

 

 我も右手を出して、お互いの小指を絡ませる。体温とは別の温かさを感じた。

 

 文月は我のような者が相手でも心配をする、してくれている。文月だけでなく、皐月も望月も我に対して想いや言葉を与えてくる。

 我からはなにも与えても無く、言いもしていないのに。

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 第一陣として向かう場所まで移動を終え、両手に連装砲を持つ。今回の戦闘で雷撃艦装は使用する気はない。魚雷は脚部の艦装から発射され着水後に点火が開始されて動き出す。威力はともかく動きの速い駆逐級とは相性が悪い。当たらないことはないが、砲撃の方が手早く済む。

 

 駆逐級は速力はあるが耐久性は低い。全長約十六メートルと大きいが砲撃を一撃、多くても二撃当てれば事足りる。他の特徴だと、数が多く最も艦娘に破壊されている深海棲艦であり、最も艦娘を殺している深海棲艦でもある。駆逐級の攻撃方法は口の中に存在する砲身による砲撃と、大きな口による噛み砕きの二種類。比率だと、後者による死亡が過半数を占める。砲撃を受けても一撃で沈むことはないが、噛み千切られる方は即死だ。

 パターンとして、他の駆逐級や敵に気取られている間に不意を突かれることが多い。駆逐級の移動音が砲撃の音より小さいことから、意識できていないと接近に気づきにくい。夜だと黒い駆逐級は暗闇によって視認性が落ちるので更に危険な存在となる。

 

 我は駆逐級によって海の藻屑となった艦娘とは違う。無様に死ぬことはない。

 

 

 あまり待つことなく、十二体の駆逐級が見えてきた。ある程度は纏まっているが、突出している個体が三体。ハ級二体とロ級一体だ。その中で最も先行しているロ級との距離が段々と近くなってくる。

 深海棲艦との戦闘は初めてだ。最初は様子見を行う。攻撃を仕掛けてきた時に反撃をして、戦闘開始の合図とする。

 ロ級は砲撃を行う様子もなく、我の方へと移動をしている。噛みにくるのだろう。迎え撃つ準備として、左手の連装砲を構える。右手はさげたまま。

 

 お互いの距離はないと言える程に近くなり、ロ級は大口を開けて我を喰おうと突撃──することはなく横を通り抜けた。

 

 どういうことだ。人間狙いだとしても、なにもせずにただ通過するとは。

 

 次にこちらへ迫ってきているハ級を相手にもう一度、待ってみる。二体の内、一体との距離は詰まり……先のロ級同様に通り過ぎていった。

 無視されたのか? 迫りくるもう一体のハ級の瞳に注目すると、我のことは見ており存在の認識はされているようだ。しかし、敵意と殺意は感じられない。

 

 考えられる理由は、今の我は艦娘の体ではあるけれど元深海棲艦としての力を持っている。その部分が感知されて攻撃対象から外れているのか? 我が艦娘を見て艦娘かどうか感覚でわかるように、深海棲艦からなら我のことがわかるのかもしれない。深海棲艦同士が争うことはない。同類だと判断されたなら攻撃してこなかったことには合点がいく。

 

 二体目のハ級も我の横を通り抜けようとしていたので、横にきたタイミングで砲弾をぶちこむ。真横から撃たれたハ級は巨人にでも殴られたかのように軽く吹き飛び、横腹からは肉と緑色の血が飛び散った。衝撃で浮き上がった巨体は海面に着水、浮上することなく沈んでいく。

 

「自由意志すら持っていないお前たちと我は違う。一緒にするな」

 

 一体を轟沈させたことで、後の九体は我を敵と認識したらしく、動きながらも砲撃を開始。

 

 対して我は、持つ能力を引き出して感覚と処理能力を向上させる。

 

「狙いが甘いな」

 

 容易に回避。距離を保つ敵集団に向けて駆ける。戦火の中に入り、本格的に戦闘行動を行う。

 

 砲弾が空気を裂き、風を切り、海面を割り、敵を砕いていく。

 

 沈む敵を見ても、この手で沈めても、なにも思わない。

 戦闘の高揚感も、敵を砕く快感も、元深海棲艦としての後ろめたさも、自由意志を持っていないことに対する哀れみも、なにも無い。戦闘に何かを見出せない。

 

 艦娘は人類を守る為に戦い、深海棲艦は人類を滅ぼすために戦う。その為に存在する。ならば我が戦う理由は、意味は、どこにある。我が存在する意味はどこにある。

 我は何を求めていたのか、何を望んでいたのか、それがわかれば戦いに対する意味も持てそうな気はする。気はするが、肝心のそれを思い出せない。

 

 敵の処理を続けながら考え事をしていると、残りはイ級四体となったが四方を位置どられてしまった。前方、右、左、後方に一体ずつ。回避が難しい十字砲火をするつもりだな。

 

 回避と反撃を兼ねる手を思いついたので試してみよう。

 イ級四体による同時砲撃。それより一足先に、足元の海面へニ基の連装砲で砲撃。射角を調整して水中ぶつかり合うようにした。

 砲弾は海面を貫き、水中で接触して爆発。衝撃が水中から海面へと伝わり、水柱として海上で露わになろうとする。

 

 海面に衝撃が到達して水柱が吹き出るまでの刹那の時間。

 水柱の中で一番水が集まる芯。即ち中心部分が出る地点を見極め、その上に左足を運ぶ。

 

 ロ級共の砲弾が着弾するより先に、水柱が発生。一瞬にして視界が二十二メートルは高くなる。水柱を足場とした急上昇、更に片足飛びで空中へ飛び出す。

 

 我が空中にいるのは、砲撃を回避するためだけではない。残りの敵を始末するためでもある。深海棲艦の中でも駆逐艦の対空能力は低い。空中の相手を咄嗟に狙い撃つことはできない。

 事実、我に対応してイ級共は動けていない。処理能力そのものが低いこともあり、対処が遅れているのだ。

 

「一体目」

 

 飛び上がりながら正面下位にいるイ級に、左手の連装砲を放つ。反動は完全に抑えはしない。撃った反動により体が後ろに半回転、頭が下になり足が上になり前後は反転。同時に、水柱の勢いと跳躍によって生まれていた浮力が重力によって消されたことで、ほんの一瞬ではあるが空中で静止する時間が生じる。

 これにより、我の真後ろにいたイ級を完全に狙いをつけることができる。

 

「二体目」

 

 次は右手の連装砲での二撃目を放つ。反動により、また半回転。体の上下が元に戻る。

 

「最後だ」

 

 両腕を広げて右腕左腕をそれぞれ左右のイ級に向ける。位置は既に確認済みだ。空中落下によって発生している誤差を計算、修正。命中させるのに必要な処理を終えて、同時砲火。

 砲撃音を聴きつつ、片膝と片手をつく形で着水。慌てることなく、ゆっくりと立ち上がる。

 砲弾は不可なく直撃したようで、二体のイ級は沈んでいく。

 

 

 連装砲を腰に携え直した後、右方向のイ級の亡骸に近づき、沈まないように力に任せて強引に掴む。まだ試しておきたい事がある。イ級のグチャグチャとした破壊箇所に左腕を突っ込む。血肉の触り心地を感じつつ、我とイ級の体を強制接続。

 なにか得る物がないかと探ったが、力の取り込みは不可能だった。体の作りが違うのが原因のようだ。燃料や鋼材を奪う事は可能だが、それだけしかできないとも言える。

 腕を引き抜き、海底に誘われるイ級の横にて海水で血を洗い流す。

 

「さて、戻ろう」

 

 二体が第二陣に行ったが既に対処済みに違いない。

 

《我の方は終わった。駆逐級はもういない。そちらは片が付いたか》

《ボクたちで抜けてきた二体は倒したよ……って、全部一人で倒したんだ。凄いね。で、大丈夫?》

《怪我してない!? 無事なら早く戻りなさいよ》

《あたしはなーんにもしてないね。菊月は初戦闘どうだった。怖かったりしたかい》

 

 みんなの声を聴いて、思わず息を漏らす。

 

《もしかしていま笑った?》

《菊月の初笑いってやつかねぇ》

《もっちのそれは微妙に意味が違うような》

《気のせいだ。我はすぐに戻る》

 

 

 この戦闘以降はコレといったことはなく、護衛をやり遂げて遠征は終了した。あえて言うなら、長月から観察するかのように見られていたような気がしたくらいだ。

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

 もしかしたらとは思っていたが、やはりそうだったらしい。今日一日、見ることで確信した。アイツは──。

 




 十字砲火された際の上に退避は、対空能力持ちがいたら普通に撃たれるし止まっていないとできないしで便利な方法ではないです。他の艦娘が近くにいても目立ちすぎてやれません。
 千歳は改二とかではなく初期形態。そもそもこの世界に改造がない。武装も『改』は存在しません。開発者の技術に追いついていないので改変が不可。代わりに最初から見た目が改二な艦娘は存在する(木曾とか)。見た目だけなので能力が特別高いわけではない。

 乗組員さんが無視されていたけど、我菊月は人間に対して好感度が高い低い以前に無いから仕方ないことです。仮に人間たちを乗せたまま船が沈んでも感情的になることはありません。
 文月たちは限りなく良い子。我菊月も揺らぐ。

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