昨日までの数日間まともに寝ていなかったのに、今朝は0600(マルロクマルマル)...午前6時に目が覚めた。どんな体になったんだよ...しかしラッパの音がしないな...気のせいかな?なぜか聞こえないとムズムズする。
ベットから出て5分程でパパっと着替え、毛布類の片付けその他を済ませる。なんか身体が勝手に動く。なんで?
謎の焦りを感じながら身仕度を済ませてしまうと、やる事が消える。なぜかダッシュで外に行って体操をしたい気分になるが、外に出る事は禁じられている。
俺さっきから謎の脅迫感に駆られてんだけど何かあったか妖精さん?
すると背中に装着した艤装から妖精さんが出てきた。
『...0600は総員起こしですね、隊では総員起こしから5分未満に全てを終わらせて外に集合して点呼、体操をしなければなりませんから』
...いつの間に中身が自衛隊員になってたのかよ...だからあんなに焦ってたのか?まあいいか...
しょうがないのでベッドに座って迎えを待つことにする。
すると約1時間後の0700にドアがノックされた。
「起きてるか〜?」
提督が俺が起きてるかどうかをドア越しに確認してくる。
遅ぇよ、1時間の間超暇だったよ。
「0600には起床してました、どうぞお入り下さい」
「そ、そうか...」
ドアが開く
「いやぁ、疲れているだろうと思って遅めに来たが起きてたとはな...こちらの準備は出来てる、ついてきてもらっていいか?」
「はい、大丈夫です」
「よし、行こうか」
部屋を出て提督について行く...
憲兵宿舎を出ると、数人の艦娘が俺たち2人を待っていた。
長門、吹雪、睦月、それと...響?
後の3人はなんとなく分かるけどなんで響?
「ああ、この4人は君の性能試験の随伴艦だ、あまり情報が漏れるとまずいからな、君と接触した事のある艦だけで編成した。私は水の上を走れないからな、速力の測定等を私の代わりにやってもらう役割もある」
「長門だ、よろしく」
「吹雪です!よろしくお願いします!」
「睦月です!」
「響だよ」
「ああ、よろしく...ところで提督、こちらの『響』さんは初対面ですが?」
「響は私の秘書艦だ、こちらに君のことで通信が入った時にも彼女は執務室にいたからな」
「ああ、なるほど」
秘書艦だったから事情は知ってるのか、疑問が晴れたよ。
港に着いた後、簡単な説明を聞いた俺は海上に降り立った。隣には4人の艦娘、提督は地上で指示を出すようだ。
試験内容は簡単だ。
鎮守府正面海域で基本性能...速力等の確認をした後、実際に外洋に出て戦闘能力の確認という流れである。
横須賀港を出て暫くした頃、随伴艦の長門が話しかけた。
「先程電信が入った。『性能試験ヲ開始セヨ、艦隊ハ新型艦ヨリ距離ヲトレ』との事だ。健闘を祈る」
「了解」
う〜ん、長門が事務口調だ...まあいいや、始めるか。
長門たちが距離をとった事を確認した俺は妖精さんに指示を出して機関を全速にした。
ー長門サイドー
うぅむ、いくら性能試験とはいえ相手は命の恩人だ。態度を固くしすぎたか?...まあ過ぎた事は仕方がない、集中するか。
私は「彼女」(妙に男らしいが今まで出てきた艦は女だけなので「女」だろう)から十分に距離をとった事を確認して、吹雪たち駆逐艦に速力測定の指示を出した。潜水艦については駆逐艦に任せるしかないからな...暫く見てると「彼女」の速力が明らかに速くなったのを感じた。
「吹雪、測定開始だ」
「は、はい!...11...12...速力は約13ノットです」
ふむ、水上速力については事前に渡された資料と同じか。
次は水中速力か...
すると全速で航行していた艦影が水中に消えた。
ここまでは良かった、しかし問題が発生した。
「あの、長門さん...ちょっといいですか?」
「何だ?」
「音が聞こえなくて速力が分かりません...」
何⁈またか⁈確か沖ノ島沖でもだぞ?
「ありえんな、しっかり確認しろ」
「何度も確認しましたがスクリュー音すら聞こえません!」
「私も何1つ聞こえなかったです!」
吹雪が信じられないと言った顔で叫び、睦月までもが聞こえない、と言う。
「そんなはずはないだろう、聞き逃したのではないか?」
「いや、吹雪さんの言う通りだ、スクリュー音なんて聞こえなかったよ」
我が鎮守府最高練度の駆逐艦である響ですら聞こえなかったのか?
...どういうことだ?機関停止して水中にでも留まっているのか?
戸惑っていると遠くの方に何かが浮上してくるのが見えた。
「彼女」だ...。
あんなに距離が離れているという事は全速を出したのだろう。駆逐艦たちの言葉が本当だとすれば何という静粛性だ..。
全速航行を終えたであろう「彼女」がこちらに近づき、話しかけてきた。
「速力どのくらいだった?」
「む、その...だな...水上速力は約13ノットだった。水中は...分からん...」
「ああ〜、しょうがないかなぁ...」
「『しょうがない』とはどういうことだい?」
響が「彼女」に質問する。
「ああ、あのな、俺のスクリューは特別製で雑音がほとんどしないんだ。しかも船体も雑音を出さない形になっていて、凹凸が極力ないようにしている。だから駆逐艦の聴音機で聞き取れないのは当たり前かもしれないな...だいたい全速で20ノット(37km/h)ぐらいは出してたと思うぞ?」
20ノットも出してたのか...少しは雑音が出るのではないのか?
「そんなに出してたのかい?なんだか自信がなくなるね...」
響が落ち込んでいるようだな...む、吹雪と睦月に至っては固まっている。仕方がないな...。
「よし、気をとりなおして行こう、いよいよ戦闘能力の確認だ」
いまいち納得しない、と言った表情の駆逐艦たちと新型艦を連れて、私達は鎮守府正面海域の深海棲艦...駆逐イ級のよく出現する場所に向かった。
明日戦闘(?)回です。