艦隊からの信号に答え、敵対の意思が無いことを示すため、数人の妖精さんにセイルに上がってもらい、「自衛艦旗」を掲げてもらった、妖精さんがセイルに上がっている以上、すぐに潜行するのは不可能だからだ。すると長門から発光信号が送られて来た。
『ソノ場ニテ待機セヨ』
何とかなったか...
長門に『了解』と返信すると暫くして吹雪がこちらに近づいて来た、こちらに砲門を向けたまま...
まだ警戒はされているようだが、しょうがないかな?
「長門さんがあなたに聞きたいことがあるそうです。ついて来てください。」
お互いに会話が出来る距離まで近づいてきた吹雪が言った。
異論は全く無いが...表情がかたいな、こっちは潜行できねぇっての。そんなに警戒しなくても...
「了解」
機関を始動してゆっくりと長門の方へ進む、おぉ...長門が目の前に...
飛び上がって喜びたい感情は俺に照準が合わせられている12.7cm連装砲によって掻き消された。浮上してると心細いな...
背後から砲を突き付けられ、冷や汗をかきながら近づいて行き、とうとう長門の目の前...話の出来る距離に来た。
長門はあちこち怪我をしていた。大破するとこうなるのか...
でもやっぱり美人だな...
見惚れていると話しかけられた。
「聞きたい事がある」
「...何だ?」
「先程の攻撃はお前がやったものか?」
あれ?攻撃しちゃ駄目だったか?
「そうだ」
「単艦でか?」
「...ああ、俺がやった。まずかったか?」
「いや、単艦にしては攻撃力が異常だったからな。改めて聞くが名前と所属は?」
...そういうことか、緊張して損した。
「俺の名前はSS501『そうりゅう』、所属は...無い」
「ふむ...とするとドロップ艦、という認識でいいか?」
「多分そうだ」
目が覚めたら海の中だぞ?まさに「ドロップ」だわ
「その軍艦旗を見る限り敵対の意思は無いと思うが、これからどうするのだ?」
あの、「軍艦旗」じゃなくて「自衛艦旗」なんですけど...デザイン同じだから仕方ないか?
「分からない。行くあても無いし...」
「うぅむ...それならば私達の鎮守府まで来てもらう、というのはどうだろうか?」
マジで?
「...良いのか?」
「ああ、ドロップ艦なら誘導しなければな、吹雪、砲を下せ。」
「あ、はい!」
...よっしゃあ!!!!敵対されずに済んだぞ!!!!
「お前の速力はどれくらいだ?」
「水上だと全速で13ノット(約24km/h)が限界だ、遅くてすまない...」
「いや、構わん。私も大破で16ノットが限界だ。」
ならいいのか?
「大丈夫か?」
「何、心配には及ばん。出発するぞ」
「ああ」
こうして俺が加わった艦隊は横須賀へ帰還の途についた。艦隊の速力は13ノット、1番低速である俺に合わせてくれたらしい。
...そういや俺が今いる所はどこだ?GPSで分からないかな?妖精さん、現在位置は?
『現在位置は沖ノ島沖合43km地点です。』
...激戦地でした。だから深海棲艦があんな編成だったのか?
しかしなんだな、さっきまでは普通に流してたけど...
「艦これ」の世界じゃねぇか、ここ。
うん、寝て起きたら艦これの世界に居ました。なんだこれ意味分からんわ。ながもんも居るし...
しかもさ、「そうりゅう」って事はあれだろ、世界で1番静粛性が高い通常動力型潜水艦で「最強」なんて言われてるやつだろ?...チートじゃねぇか!雷装と回避どんだけだよ?
もうなんなのかね?「艦」としてこれから生きてくのか...
覚悟を決めるしか無いかな?
よし、しょうがない。これから俺は「西澤醇一」ではなく、「SS501 そうりゅう」として生きていこう。うん、
考え方も艦これ基準でいいや。
そういや自分の体あちこち無意識に使ってたけど、どんな感じなんだ?
改めて自分の体を見てみる。
左手はフリー、右手には艦首、背中には酸素ボンベのように付いているデフォルメされた船体、その上には「フィレット」が付いたそうりゅう独特の形をしたセイルがあり、腰の辺りにはXの形をした舵と、回転するハイスキュードペラ(スクリュー)。自分が着ているのは潜水艦の無反響タイルの様な模様がついたダイビングスーツの様なもの。顔には何も無し。
性別は...どっちなんだろ?艦「娘」だからなぁ...男であって欲しいが、今は確認出来ない。
どうやら潜望鏡の視界は自分の視界と同調出来るらしい、あと、センサーやソナーの類も自力で使用できるらしい。さっきは無意識に使っていたが...
もうただの「人間」では無いのか...
色々と考えてると警戒のためにセイルから伸ばしていた潜望鏡に装備されているNZLRー1C...電波探知装置に反応があった。
パッシブソナーで確認してみると、聞こえた。
スクリュー音。距離は50km、数は6つ、速度変化は無し、気づいてないのかな?報告しとこう。
「少しいいか?」
「む、何だ?」
長門が聞いてくる
「50km先に艦隊がいる、味方か?」
「ご、五万で艦隊を見つけたのですか?」
「あ、ありえないです!」
「い、いや、作戦行動中の味方は我々だけだから敵だろうが...それは本当か?嘘では無いのか?」
吹雪がこの距離で艦隊を発見した事に驚愕し、睦月は「ありえない」と否定、更に長門が本当か嘘か確認してきた。嘘つくメリット無いって...
「本当だ。数は6隻、進路変更した方がいいのでは?」
「そんなに遠くから...よし分かった、迂回しよう」
進路変更、流石にこの編成で6隻はきつい。
その後も俺のレーダー、ソナー、その他機器を駆使して敵の索敵機、艦隊等の哨戒網を確実にくぐり抜けていった。撤退中なんだ、戦ってられるか!全力で回避してやる!
艦娘達は俺の索敵能力に驚いていた。そして一度も会敵しないので少しずつ俺を信頼していった。まあ、まだ着任するとは決まってないので最低限の話しかしていないが、特に睦月とはひと言も会話をしていない。まあ、鎮守府に行けば話ぐらいは出来るだろう。
しかし13ノットという低速だからこのまま順調に行っても横須賀に着くのは数日後だろうな、長い道のりだなぁ...
次回鎮守府に到着、だと思います。