ー長門サイドー
私を旗艦とし、日向、加賀、鳥海、吹雪、睦月で編成された我が艦隊は数日前より「沖ノ島」を攻略すべく進撃していたが、進軍ルートを外れてしまい、空母ヲ級を主とした敵艦隊に遭遇、開幕航空攻撃で艦載機が大量に襲撃してきた。
加賀の航空隊が奮戦するものの、数に勝る深海棲艦機に押され、制空権が取れなかった。更に対空兵装が少ない睦月が急降下爆撃により中破してしまった。
睦月が中破したことにより、進軍はそこで中止。吹雪を随伴させて睦月を撤退させ、残りの艦隊で夜戦に持ち込み、少しでもヲ級共を沈めようか、と思ったが...
ここは激戦地で知られる沖ノ島海域だ、睦月の護衛が吹雪のみでは心許ない。そこで旗艦たる私が「艦隊を2つに分けて、私、吹雪、睦月の3隻で先に撤退、残りの3隻は夜戦で敵艦隊を攻撃した後撤退」という方法を提案したところ、仲間達も賛成してくれたため、私こと長門と吹雪が睦月を護衛しつつ撤退していたのだが...問題はここで起きてしまった。
何と羅針盤の調子が狂って撤退進路がずれ、敵の中核艦隊の哨戒圏に入ってしまったのである。
以前から羅針盤が突然調子が悪くなって艦隊の進路が予期せぬ方向に変わってしまう事は度々あったが...いくら何でもこれは理不尽すぎるだろう...
そしてその事に気付いた頃には、敵の索敵機に発見されてしまった後だった。完全に油断していたな...
発見されてしまったのなら仕方がない、何とか逃げようと思ったが被弾した睦月の速力は
全速でも20ノット(37km/h)が限界だった。
もう逃げられないと思った私は観測機を発艦させ吹雪と睦月に砲雷撃戦用意を指示、打って出る事にした。
暫くすると観測機から送られてきた電文により敵艦隊の編成が判明した。
敵艦隊は戦艦タ級フラグシップ1隻、戦艦ル級2隻、軽巡ヘ級1隻、駆逐ニ級2隻とのことだった。
対するこちらは戦艦1隻、駆逐艦2隻...内1隻は手負い。
絶望的な戦力差だな...これが私の最期の戦闘になるかもしれんな...船だった頃の私はろくに戦えもせずに沈んでしまったから悲観はしていないが、よし、死ぬ前に一花咲かせてやろう!血路を開いて駆逐艦達だけでも撤退させてやらねばな。
戦闘が始まり、私は吹雪と協力して駆逐ニ級2隻を沈めた、が、戦艦共は装甲が硬くなかなか沈まない、辛うじて戦艦ル級を1隻沈めたものの、睦月が被弾しない様に攻撃を受け止めていたせいか私は中破してしまい、更に厄介だと思ったのか敵はこちらに攻撃を集中させてきてとうとう大破してしまった。
「長門さん⁈」
吹雪が支援する為に近づこうとしたが、軽巡ヘ級に阻まれて近寄れず、更に砲撃を受けて小破していた。
戦艦タ級とル級が勝利を確信したかのような笑みを浮かべてこちらを見てくる。もはやこれまでか...
と思った次の瞬間、タ級とル級が水柱に包まれて見えなくなり、ヘ級にいたっては吹き飛ばされて粉々になり、艤装の小さな破片が私に当たって跳ね返り、水面に落ちた。
...な、何が起きた?
味方の増援か?と思い辺りを見渡すが私達以外の艦は見当たらなかった。
水柱が晴れると敵艦隊の様子が明らかになった。
ヘ級は轟沈、ところどころ艤装の破片が浮いているそばで吹雪が呆然としていた。
戦艦タ級とル級は損傷したのであろう、傾斜している。
そして私達より脅威だと思ったのかこちらの方は気にせずに必死に辺りを見回し姿の見えない「敵艦」を探していた。が、その後すぐに同様の水柱が立ち、2隻は海中に没した。
何という威力だ....
それにしても「見えない」艦...潜水艦か?
そう当たりをつけた私は吹雪に指示を出した。
「吹雪、付近に潜水艦が居るはずだ、調べてくれないか?」
「...へ?あ、はい!!!!今すぐ調べます!」
どうもまだ呆然としていたようだ、吹雪は慌てて水中聴音機で海中の様子を確認するよう自身の妖精に指示を出していた。気持ちは分かるがここは戦場だ、もう少し警戒心を持って欲しいものだな...
暫くして吹雪からもたらされた報告は信じがたいものだった。
「何の反応もありません...」
何だと...
「そんなはずはないだろう、潜水艦とはいえ船である以上、何かしらの音は出るはずだぞ?」
「そうは言っても...⁈探信音が聞こえました!数は3、本艦の右後方、距離は1900ないし2000!」
そこまで近づいても反応がなかっただと⁈
指示された方向を見ると、こちらを注視している潜望鏡を発見した。探信音を3回も放つということは自分の位置をわざと教えているようだな...敵では無いであろうが...
「一応砲口を向けておけ」
念の為吹雪に戦闘準備をさせておく。
するとまるでこちらを刺激させないかのようなゆっくりとした動きで「真っ黒な」船体が浮上してきた。
...黒?深海棲艦か⁈...いや待て、そう判断するのは時期尚早だ、第一私達を沈めるならとっくに沈めているでは無いか。それにしても見たことの無い艦だな...魚雷の威力といい、普通では無いことは確かだな。特務艦か?
「長門さん、どうしますか?」
「私に任せろ、照準は一応あいつに合わせておけ」
敵か味方かはっきりしないうちは油断はしない方がいいな。
潜水艦であろう艦は浮上した後こちらを注視していた。
ふむ、まずはこうだな。
私は潜水艦に発光信号を送った。
『貴艦名ト所属鎮守府ヲ教エラレタシ』
まずはこれで反応を見よう。すると潜水艦の艤装から発光信号が送られて来た。
『我ハ日本国海上自衛隊第1潜水隊群第5潜水隊所属ノ潜水艦SS501「ソウリュウ」、所属鎮守府ハ「無シ」』
...ソウリュウ?ジエイタイとは既に解体された組織では無いか?そして所属無し...ということはドロップ艦か?罠...にしては出来すぎているな。
もう一度送って様子を見よう
『ソレハ真カ?』
すると返答が返って来た
『我ハ深海側ヲ攻撃シタ、単艦デハ補給モ困難、此方ニ虚偽ヲ申ス利点ガ存在セズ』
む、それもそうか。よし!方針は決まった。
『ソノ場ニテ待機セヨ』
『了解』
「吹雪、あの艦と詳しく話がしたい、連れて来てくれ」
「⁈は、はい!」
潜水艦の様子を改めて見ると、艤装から妖精が数人出て来て艦橋...と思われる場所に日本海軍の「軍艦旗」を掲げていた。完全に交戦の意思無し、だな。
次回視点戻ります。