目が覚めたらSS501   作:にわかミリヲタ三等兵

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ドン亀が一発で変換されないのがなんとも
これは携帯を調教するほかあるまいて


それぞれの戦い1 〜ドン亀の意気地〜

雲が所々に散りばめられた空。

見渡す限りの大海原...島の多い海域であるが目に見える範囲には陸地は存在しない。風も弱く波も比較的穏やかとはいえ、やはり太平洋なのか完全に凪いだ水面とは行かないが...

 

パシャリ、と波間を割いて現れたのは二本の物体。海面から突き出たレンズ付きの細長い「異物」は一方が左ならもう片方は右、といったように互いの死角をカバーし合いながら周囲の状況をキョロキョロと確認する。そして納得がいったのか数秒後に水線下へと消えた。

 

「「ぷはぁ!」」

一瞬の静寂も束の間、今度はザバァといささか遠慮の無い音を立てて二人の少女が出現する。

「ふわぁっ、空気がおいしいのね!」

「今のうちに充電でち!」

「言われなくても分かってるのね...」

「さっきの駆逐艦は本当に焦ったでち...」

「「はぁぁ〜...」」

登場直後に波と風の音のみが支配する空気を盛大に破壊したのは巡潜乙型改二の伊号第58潜に巡潜乙型の伊号第19潜...我らが「でち公」と「イク」のコンビだ。

道中にて敵駆逐艦の哨戒に引っかかりかけ、這々の体で抜け出した疲れからか、伊58は美少女の外見にそぐわぬおっさん臭さを漂わせながら海面に身を任せてくつろいでいる。

「ま、とにかく今のうちに定時連絡と座標確認済ませておくのね...」

酸素不足から来る気怠さを感じながら19はゆるゆるとした動きで海図を取り出した。太陽の位置などから座標を読み、現在の位置と航路予定とを照らし合わせる。長時間潜航後には必須の作業だ。

「あ、あ〜ぁ...」

「どうしたでち?」

「やっぱり逸れてるのね...」

1940年代当時の潜水艦はコンピューターなどといった気の利くものは積んでいない。

アメリカの場合は例外だがそれでも魚雷の射角計算等の用途に限られており、海流の影響によって自艦がどのくらい予定位置からずれた場所に行こうとしてるかが海中に居ながら分かるようになるのはだいぶ後の話だ。

よって頻繁に浮上してその都度航路を修正する必要があるのだが...どうやら今回に関してはその余裕がなかったらしい。今も昔も潜水艦にとって駆逐艦が脅威である事は変わらず、爆雷を喰らうよりは流された方がまだマシといったところであった。

「うわぁ、だいぶ流れてるでち」

「ここから...45度転針して2時間もすれば戻れるのね」

「...あの駆逐艦今度見つけたらただじゃおかないでち」

自分達に散々探信音波を浴びせた深海棲艦への怒りを漏らす58。それをまぁまぁと宥める19。

連中もそれが仕事なんだからと。

「私達も駆逐艦だったら同じ事やってるのね。」

「はぁ...今の内に鳳翔さんから貰ったおにぎりでも食べるでち」

二人は海面に白い筋を刻みながら『本来自分達が通るべき航路』へ向かう。その道中、暇じゃなくなる前に平らげてしまおうと梱包されたおにぎりを取り出す58。それもそうかと自分にもまた同じく渡された握り飯を取り出す19。

スク水しか着てないのにどこから出したとか、航行してるのに出せるのかといったツッコミはNGだ。

「やっぱりお艦の糧食は最高なのね…」

「もぐ...同感でち」

現在は居酒屋を営んでいるお艦こと軽空母の鳳翔さん。実は出撃前に作戦要員全員に糧食を作っていたりする。

何日か経ってもほかほかで美味しく食べられる不思議仕様だ。

実のことを言うと食料なしでも海に出ているあいだは問題無いのだが、そこは気持ちの問題だ。

付け合わせのたくあんをポリポリと音を立てて食べながらそういえばと19が切り出す。

「そういえばW島組の出撃って」

「むぐ...今日でち」

おにぎりの最後の一欠片を口に放り込みながら答える58。

せっかくの美味い食い物だがじっくりと味わう余裕は無い。その事は19の頭上と、58の艤装から伸び、クルクルと回り続ける対空電探が証明している。

たくあんを咀嚼しながらも二人の視線は水平線上をひっきりなしに移動していた。

一部の例外を除いてろくに装甲や対空兵装を積んでいない潜水艦にとって、太陽光に反射してキラリと光る駆逐艦のマスト、電探のスコープに表れる反射波は警戒の対象であり、対処が遅れれば面倒な事になるのは確実だ。

恐らく鳳翔さんもそれを見越してさっさと食べられるおにぎりを選択したのであろう。

「さっき平文で傍受したでち」

「暗号じゃないのね?」

「南方方面輸送船団の名前使ってたでち」

「あー、確かに定期便の方が怪しまれずにすみそうなのね...」

対空対水上警戒を厳としながらも会話は続く。どっちかが疎かになる事が無いのはさすがといったところか。

「他も問題無いみたいでち」

通商破壊艦隊、通常攻略部隊、対潜哨戒艦隊等々、バリエーションは様々であるが、各艦隊は色々なものに擬態しながら目的地へと順調に進んでおり、

傍受さえできれば定時連絡でどの艦隊がどんな状況なのかはだいたい把握できるのだ。しかし...

「で、『彼』は?」

「音沙汰なしでち」

「はぁ...あの後輩、無線封鎖徹底しすぎなのね...」

だいぶ前に出撃したとある艦に関しては、生存報告すらも傍受することができなかった。

 

そう。

 

「「そうりゅう...」」

 

実はあの潜水艦、敵に出航したことすら気取られたくないばかりに、手に入れた無線設備を一切使用していなかった。おそらく提督ですら彼の正確な現在位置を把握できていないだろう。

そうなってくると流石に歴戦の潜水艦娘も心配になってくるというもので...

 

「なにか問題でも起きてるんじゃ...」

19が思わずこんな事を口にしてしまう。しかし、

「いや、大丈夫でち」

58がすぐにそれを否定して、続ける。

「敵にどうこうされるような性能差じゃないでち」

兵器...特に艦船にとって時代の差は大きいとはいえ、数年でさほどの違いは出ない。

19と58にも建造年に数年の差はあるが、そこまで性能に差は出ず、訓練次第でどうにでもなる。

しかし、そうりゅうと深海棲艦の間にはざっと見積もって70年ほどの技術の開きがある。

例えるならF22ラプターと零戦が正々堂々と勝負するようなものだ。

勝敗は火を見るより明らかだ。もはや練度でなんとか埋め合わせられるスペック差ではない。

つまりは...

「心配するだけ無駄でち」

「まぁ...そうなるのね…」

そうなるのだ。

「優秀な後輩より自分達の心配の方が先でち」

「確かにこっちはぼんやりしてる余裕は無いのね...さて、航路修正は終わったし、充電もいい感じなのね」

「ああ、いい頃合でち...そろそ...ろ」

 

『潜るでち』と続けようとした58が突然固まった。

 

「?...ゴーヤ?どうし...」

少し遅れて19もある事に気がつき、固まった。何があったのか...

「......どう思うでち?」

「速力と高度的には...間違いないのね…」

対空電探に反応あり。だんだんと二人の方へ近づいている。

 

そう、飛行機だ。

 

「「潜航!!!!!!!」」

そうとわかるや否や、二人の姿が海面から消える。実に忙しないが仕方の無いことだろう。潜水艦にとって飛行機は天敵であり、見つかって駆逐艦でも呼ばれると大変なことになるのだから。敵味方の判別をしている余裕はない。

 

 

二人が海中深く潜ってから少しして、1機の深海棲艦機が海域上空を通りがかったが、その頃には二人のいた痕跡など跡形もなく、特に気にすることもなく次なる目的地へと向かっていった。

...............

.........

......

所狭しと生えるヤシの木

シミひとつ無い白い砂浜

『ありふれた南方の島』に付属するのは

おどろおどろしい港湾施設と

往来をひっきりなしに繰り返す数多の『異形』

駆逐艦、輸送艦、巡洋艦...

中には戦艦や空母といった大型艦も多数いた。

そんな『典型的な深海棲艦の前線基地』を数キロ先からこっそりと覗き見る潜望鏡が二本。

照準線の向こう側に目を凝らすのはでち公とイクのコンビである。

何も敵を倒す事だけが潜水艦の仕事というわけでは無い。

潜航という、監視の目から逃れることのできる最高の手段を持つ潜水艦に適した任務は意外に多いのだ。

「(駆逐艦入港2(フタ))」

「(さっきのパトロールでちね)」

二人の周囲には数隻(数匹?)の駆逐艦が航行しているため、自然と会話の音声も小さくなる。

「(93°駆逐艦低速にて接近中...どうするでち?)」

「(距離が遠いのね、あと少しは粘れそうなのね)」

二人は出撃前に深海棲艦泊地近辺の海図を熟読し、哨戒をやり過ごしながら監視を続けるベストポジションを見つけ、張り込んでいた。

「(...重巡リ級出航)」

「(3隻目...またフラグシップでち)」

「(他は出払ってる筈だから...多分重巡はこれで全部なのね)」

「(粘ってよかったでち)」

2日ほど港湾施設の出入りを確認していたが、その甲斐あってか新たな情報を手に入れることもできた。成果は上々といったところか...

「(そうこうしてるうちに来たのね...)」

「(着底でち)」

さっきの駆逐艦...哨戒の駆逐ロ級が無視できないほどに近づいて来たため、二人は潜望鏡をしまいながら海底まで潜っていく。

いちいちビクビクしていれば情報は入手できないが、あまりギリギリでも敵に見つかる。

粘るか潜るかの見極めは練度次第だ。

しばらくすると、ポーンポーンというアクティブソナーの音と、どこから出しているのか分からないスクリュー音を響かせながら、決して船とは言い難い形の敵艦が頭上を通過していった。気づく様子は全くない。

海底に着底さえしてしまえば、音を当てて反射させ、敵を探知するタイプのソナーで潜水艦が見つかることはない。

ただ、水中聴音機が聞き耳を立てているとも限らないので海底の二人は無言で敵が去るのを待っている。

しばらく後...

「(...探信音波だけはどれだけ聴いても慣れないでち)」

「(仕方ないのね、何度も言うけど連中はそれが仕事なのね...)」

スクリューペラの回転する音も遠ざかり、安全と判断したのか、海の底にて二人が会話を始めた。

「(...聴音機で聞いた感じ新しい敵艦はいないでち)」

「(ということは...)」

「(何日か見てたけど、多分これで全部でち)」

「(...確かに舞鶴鎮守府が作った一覧と合致するのね、でももう数日見た方が...)」

「(舞鶴が数ヶ月強行偵察繰り返しても引きこもってられるほどの主力がいたらこの作戦はどのみち失敗でち)」

もう数日は監視をと思ったイクだったが、ゴーヤの台詞に納得した。

「(一理あるのね...するとここの旗艦はル級フラグシップ改...)」

「(事前情報だと主力はフラグシップになってたでち)」

どうやら敵旗艦について新しい発見があったらしい。

「(にしし...いい成果なのね)」

「(帰港したら提督に間宮券強請るでち)」

顔を見合わせた二人が互いに黒い笑みを浮かべた。

提督御愁傷様である。

「(てな訳でそろそろ帰るでち)」

「(わかったのね、機関びそーく、転針180)」

そして二人の『海の忍者』は、誰にも気づかれること無く深海棲艦の拠点から泳ぎ去っていった。

半日経って日付けが変わった頃。

海上から謎の暗号電文が送信されているのを深海棲艦が傍受し、通信を逆探知して数隻の駆逐艦が現場に急行した。

しかし時既に遅く、そこには月の光に照らされた至って普通の海面が広がっているのみであった。

そこに手練の潜水艦娘二人がいた事を深海棲艦は知らない。

ましてや暗号で送信された電文が自分たちの『個人情報』であった事など理解できる筈も無かった。

考えても意味が無いと判断した深海の駆逐艦は何の手がかりも掴めぬまま、諦めて泊地へと引き返していった。

厳重な哨戒の目を盗んで送られてしまったモノが、近い将来に自分達を海の藻屑へと変える可能性を秘めているということも...勿論知らない。

 




3年ぶりに投稿
死んでました。
潜水艦はいいぞ
長門はいいぞ
追伸
伊号潜水艦が93式及び3式水中探信儀をどこに装備しているのか(イギリスのように甲板からひょっこりと出てくるのか、アメリカのように艦首下部から出てくるのか、水測室下部にあるのか)が分からず、場合によっては音響測深ができないので、でち公達がアクティブソーナーを使ったような描写を取り消し、海図を元に着底、張り込んだ事にしました。
誰か資料をお恵み下さい

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