提督に報告をした後、艤装を自室に置き、制服に着替えて外へ出た。
見てみたいとは思ったものの、勉強漬けで行けなかった場所があった。
『6号船渠』
大和型戦艦3番艦として起工したものの、戦局の悪化により計画が変更され、航空母艦として竣工した「信濃」を建造したことで有名なドックだ。
ドックの縁に腰掛け、周囲を見渡す...かなり大きなドックだ。大和型戦艦は263mあるから、それが余裕をもって入れる広さはあるわけだ。
いかにも『軍港』という雰囲気である...まぁ艦は居ないわけだが...
まぁでも前世では見る事が出来なかったからとても嬉しかったり...
やっと横須賀に帰ってきた。
まだ潜水ソ級やその他鬼・姫級等の音紋は未収集だが、大体の艦娘、及び深海棲艦の判別はできるようになった。これで戦闘時には隠密性を遺憾なく発揮して敵を撃破する事ができるだろう。
出撃できればの話だが...
帰って来て執務室に行った時、提督が『弾薬使ってないよな⁈本当に使ってないよな⁈』などとしつこく聞いてきた。ものすごい形相で...
俺ほどの金食い虫では今後出番などないかもしれない。練度上げても無駄なのかなぁ...
「帰って来ていたのか?」
...ん?
ー長門サイドー
昼食後、特にする事の無かった私は気晴らしに散歩をしていた。この鎮守府はかなり広いので良い運動になるのだ。ドックや桟橋のそばを歩きながらぼんやりとある事を考える。
最近そうりゅうの姿を見ていない。
気になって探したものの、出撃名簿には名前が無い。演習などもしていないようだった...
どこに行っているのか判明したのはほんの数日前だ。
寮の部屋にて陸奥にそうりゅうの居場所が分からないか聞いてみた所、どうやら少し前に潜水艦達からそうりゅうが何をやっているか聞いたらしい。
分かっていたのなら私にも言ってくれれば良かったのに...
い、いや、そうりゅうに会えないから云々と言うのではなくでだな?ただ少し心配だったのだ。
低練度の艦がかなりの期間見当たらない...いくら強いとはいえ何かあったのかと思ってしまう...
おっと、気がつけばかなり遠くまで来てしまったようだ。
そろそろ戻ると...む?
引き返そうとした時、6号船渠の方にしばらく見なかった人影が見えた。
そうりゅう...戻ってきたのか。
ドックの縁に腰掛け、海を眺めている。
側まで近づいてゆき、話しかける。
「帰って来ていたのか?」
「...?お、おう長門か」
こちらに気付きゆっくりと首を向けてくる。
「いつ頃戻ってきたのだ?」
「あぁ、今日の昼頃だな」
ついさっき戻ってきたばかりのようだ。少し話そうと思い隣に座る。
一瞬だけそうりゅうが硬直したような...気のせいか?まあいいだろう...
「訓練ご苦労だったな」
「お、おう。あれ?言ってたっけ?」
「陸奥から聞いたぞ?敵相手に魚雷発射訓練をやっていたそうだな?」
「ああ、まぁ出撃してもしっかりと戦えるようにはしたつもりだよ...」
そう答えるそうりゅうは理由は不明だが少し落ち込んでいるように見えた。
聞いてみるか...
「...何かあったのか?」
「ん?いや、大した事ではないけどな...俺はこの先出撃できるのかな?なんて...」
「む?どういう事だ?」
そうりゅうは言うべきかどうか迷ったいたようだが、しばらくするとポツリポツリと返答が帰って来た。
練度を上げたはいいが、自分は大和型戦艦を超える金食い虫で、このままでは出撃など1回もできないのではないか?と不安になっていたらしい。
「出撃の機会は絶対にあると思うぞ?」
「...そうか?」
まだ半信半疑といった感じだな...全く、自分の力にもう少し自信を持て。
「うむ、私だって出撃するのは大きめの戦闘だけだ。頻繁に行動しては鎮守府の弾薬事情を締め付けてしまうからな...お前は静粛性に優れているのだから、砲戦しか取り柄の無い私より使える場所はあるはずだ。流石に軽巡駆逐程には出番は無いだろうが...案外忙しくなるかもしれんぞ?」
そう、『金食い虫』は我々戦艦も同じだ。だが潜水艦であれば偵察や輸送など様々な任務をこなす事ができるのだ。
「...」
「お前は強い、だから自分に自信を持て」
無能だとは言わせんぞ?
何度も言うが...貴様が助けてくれなければ私はここには居ないのだ。
『自分は強い』と自覚してくれなければ話にならん。
「...失念してたよ。敵を沈める以外にも色々やれるよな。よし、もっと訓練やって、出番になった時に恥ずかしく無いようにしよう」
やる気に満ちた顔でそうりゅうが言った。
その目は初めて会った時のとは打って変わり、狙った獲物は逃さぬというような『艦長』の目をしていた。
それでいいのだ。
お前は落ち込んだ顔よりそっちの方が似合っていてかっこい...って、な、何を余計な事を考えているのだ私は⁈
唐突に出てきた思考を必死に消し去る。
「悩みを聞いてくれてありがとうな」
礼を言って来た。このタイミングで。声が裏返らぬよう気をつけながら冷静を装い返答する。
「な、なに...礼には及ばん」
「...どうした?」
クッ...なんとかせねば...
「い、いやなんでも無い。そういえば大体どこら辺の海域に行っていたのだ?」
「ん?そうだな...」
なんとか誤魔化すことに成功した私は暫く会話を続けた後自室に戻った。
私と会話をしていたそうりゅうは顔こそ海の方を向いていたが、以前に比べ、まとっている空気が変わっているような気がした...訓練をしたせいか?なぜか前よりキリッと引き締まってかっこよく見え...だああ!!!!
す、少し落ち着こう。今日の私はおかしいぞ?なんなのだ全く...
ー提督サイドー
そうりゅうが帰ってきた。
どうやら本当に弾薬を使わなかったらしい。報告に来たときに思わず問い詰めるような形で『消費してないよな⁈』等と言ってしまったが...改めてそうりゅうの静粛性には脱帽するな...
そして、どうやらその静粛性をフル活用してもらう時が来たようだ。
以前より話は出ていた。
沈めても沈めてもいつの間にやら出てくる深海棲艦。鎮守府正面の敵に至ってはレベリングに使われる始末だ。
このままではキリが無い...
その打開策として考案されたのが
『大規模作戦』
バラバラに活動していた各鎮守府が一体となって1つの敵に集中する。
今回狙うのは敵の前線司令部のような扱いになっており、桁違いの強さを持った敵がいてなかなか攻略が出来ない場所だ。重要な拠点を叩けば深海棲艦も少しは大人しくなるだろう。
我が鎮守府からも艦隊を出す。今回は敵が敵なだけに『切り札』のような扱いをしていたそうりゅうも出撃させようと思う...が
「はぁ...胃が痛い」
今回の作戦では戦艦や空母も全力で出撃する。消費する弾薬の事を考えただけで胃が締め付けられるような思いだ...仕方がないが。
はぁ...諦めて艦隊の編成でも考えるとするか...
次回からイベント回です。
弾薬消費考えたく無いですねw