艦これでいう1ー5、「つの字」と呼ばれている海域がある。
その名の通り海域のマップを見るとひらがなの「つ」のような形になっている。その「つの字」に沿うようなルートを辿ると、必ず出くわす深海棲艦がいる...潜水艦だ。
そんなつの字の末端、所謂ボスマス。
海中を粛々と進むのは「潜水ヨ級 flagship」
1ー5というのは案外色々な艦娘がドロップする。そのために提督達はこぞってこの海域を攻略しに来る。潜水艦しかいないため、それ相応の装備をすればレベリングもできる。
その考えは深海側も同じである。まあ「レベリング」というより「間引き」と言った方が正しいのだが...
新米を最前線に配置して生き残った者を後方に下げ、中央の守りを固める。
やらされる者にとってはとんでもない事である。生まれたばかりなのにいきなり激戦地に配置され、生きるか死ぬかの戦いを繰り広げる。そして生き残るのは「素質」のある者だけ。無能は徹底的に排除される...
そんな状況下であっても、このヨ級は生き残ってきた。周囲の同胞たちが次々と沈められていく中、艦娘やその搭載機に投下される爆雷を必死に避け、反撃に魚雷を発射した。夜戦まで持ち込めば大体の艦隊は追撃してこないのでその隙に海域を離脱する...といった事を繰り返してきた。
お陰でeliteからflagshipへと階級が上がってゆき、基本的な能力も向上した...
「早ク夜ニナリマセンカネ?」
不意に声をかけられ、ヨ級は隣にいる「部下」に視線を向けた。
「ウルサイ、奴ラニ聞コエタラドウスル」
「大丈夫デスヨ。『アクティブ』『パッシブ』ドチラノソナーニモ反応無インデスカラ」
そう話すのは「潜水カ級」長い間行動を共にしているおかげで気心知れた仲になっている。
理由は分からないが確かに深海側のソナーは艦娘側の使うソナーより性能がいいらしい。それに反応が無いという事は周辺に艦隊は居ないだろう。
そう判断したヨ級は少しだけ気を緩める事にした。
最近は敵の姿を見ない。この調子でいけば自分は部下と一緒に根拠地に近い海域に配置される事になるだろう。そんな海域を攻略しようとするのはかなりのベテラン提督で、一度戦いになれば生存の確率も低くなりそうだが...新米もベテランも争うように攻略してきて休む暇も無いこの地獄のような海域よりは幾分かましだろう...
そんな思考をした後、再度気を引き締めたヨ級は万が一の事が無いように部下のカ級に指示して深度を下げる事にした。
ーそうりゅうサイドー
潜水艦というものは静粛性が命だ。防御力が無いので見つからないように努めて「音」を出さないようにする。本気で息を殺した潜水艦を見つけるのは至難の技だ。なのでこの海域...つの字に行くにあたり、それ相応の装備や経験値が必要だと思った俺は距離的には近かったものの、あえて海域を避けて水上艦艇...戦艦ル級だの重巡リ級だの相手に練習を積み重ねてきた。海流に紛れるどんな音も聞き逃さないように...
潜水艦だけは本気で探そう...そう思っていた。だけど...
数キロ先にスクリュー音が2つ。
ちなみに数時間前...距離数十キロの時点で発見、その後は気付かれぬよう注意しながら追尾していた。
大戦中の日本の潜水艦は自動懸吊装置が付いていて無動力で同じ場所に留まれるから基本静かだ。
対するアメリカの潜水艦は付いていなかったと聞いた。動き回るしかないので発見がしやすい。
艦これやっている間はそんな事考えもしなかった...潜水艦の魚雷の口径って日本でもアメリカでもドイツでも「53.3cm」だから兵装だけでは国籍の判断ができないんだよ...
はぁ...本気で挑んで損した...
例えるなら「街中を大音量で演説しながら走る選挙カー」
...ちなみになぜ「街中」かと言うと、あんまり静かだと周囲の雑音...海流の音に紛れてしまうからだ。選挙カーが走る道路の脇の歩道を自転車が全力で走っても誰も気にしない。
言いたいことは1つ...
うるさい。
数キロまで近づいても反応すらしない。いやこっちが静かすぎるっていうのもあるが...
あんまり無警戒なので魚雷をぶっ放してやろうかと思ったけど、やると今度はこっちが提督にぶっ飛ばされる。俺も一応提督やってたから弾薬がどれほど大切かぐらいは分かっている。
まぁまだ艦種の識別出来てないから撃とうにも撃てないのだが...
ここは1ー5のボスマス。いるのは潜水カ級と潜水ヨ級だろう。それぐらいは分かる。でもさ、どっちのスクリュー音がヨ級なのかなんて分かるはずがない。
ちょっと前までただのミリヲタだよ?いきなり耳にレシーバー当てられて
「アメリカ海軍潜水艦の音が二種類聞こえます。さて、どっちが「ガトー級潜水艦」でどっちが「テンチ級潜水艦」でしょうか?」なんて聞かれてもどうしようもないのだ。スクリュー音聞いた事のある日本人なんて旧日本海軍もしくは海自の人ぐらいだと思う。
それはさて置き...
どうやって相手の種類を特定するかというと、見るしかない。
幸い当時の潜水艦は今の物と違い、ずっと潜っていられるというわけではない。現代の潜水艦と違ってバッテリーの性能が低いため、潜航時間には限りがあるのだ。
なので昼間は潜航し、充電したバッテリーから電気を貰いモーターで航行。敵に見つかりにくい夜になると浮上して、エンジンをかけて発電機を回し、昼間消費した電気を充電しながら水上航行をしていた。
潜航しながら充電する事が出来る「スノーケル」というものもあるが、敵に発見される可能性が高くなるのでどうしてもという時にしか使わない。
俺の予想が正しければ今追跡してる2隻は夜になれば浮上してくる。
今はだいたい昼を過ぎたところなので、それまでずっとストーキングをするわけである。めんどくさい...
早く夜になんないかなぁ...
それまで耳に響いていたキャビテーションノイズ(スクリュー音)が途絶え、プツプツと空気の泡が弾ける様な音が聞こえてきた。浮上したな...
時刻は午後7時。
先ほども言った通り充電のため...あとは生存連絡かな?
潜水艦は攻撃に対してはとても弱い。タンクに穴が開けば終わり、即沈没だ。だから生存連絡をしておかないとすぐに「沈没」と認定されてしまう...半分沈んでるような艦だからなぁ...しょうがないか?
そんなような事を考えているうちにどうやら充電のためにディーゼルエンジンを始動したらしい。スクリューが水をかき混ぜる音にエンジンの騒音が加わって更にうるさくなった。
...そろそろ良いかな?
(潜望鏡深度まで浮上)
『了解。メンタンク、ブロー。潜望鏡深度』
副長からの復唱を確認した後、視界を潜望鏡に切り替える。
浮上。照準線の向こう側にいる2隻(?)を確認すると横に並んで航行する深海棲艦を発見した...左がヨ級、右がカ級だ。間違えようがない。艦これで何度出くわしたことか...会話に夢中で後ろから潜望鏡で覗いているこちらには全く気付いていないようだ...もう少し警戒しろよ...ま、いいか?
これで深海棲艦の音紋データはかなりの数を集めることができた。そろそろ帰港しようかな?
その前にやる事...訓練はやるけど。
潜望鏡を下ろして指示を出す...
(1、2番発射用意)
そうりゅうは海自の艦なのでソナーの事を「ソーナー」と呼称させる事にしています。