ちんじゅふを つくろう!   作:TNK

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誰だって体を吹っ飛ばされたくは無い

星の下、山の奥。

そこに建っている白亜の建物はほの白く闇夜に浮かび上がる。

 

「またなんとも、出来過ぎた」

 

それはホラーと言われても、ファンタジーと言われても納得がいくものだった。

 

「……仰せつかっている招待人は、そちらの御嬢さん一人となっております。

あなたは別の所に案内せよと」

 

「おや、拷問部屋行きですか?」

 

「いいえ、拷問などは致しません。

ですが色々とお聞かせ願いたい事が有りますので」

 

「奇遇ですね、私としてもあなた達の親玉に色々とお聞かせ願いたい事が有ります」

 

意趣返しか、芝居がかった物言いで僕に言う部隊の隊長らしき人に、僕も芝居がかった物言いで返す。

 

「え、提督一緒に行けないの?

やだやだ、提督と離れるのやーだー!」

 

「……これは純粋な親切心で言うのですが。

暴れ出さない内に何とかした方が良いかと」

 

「……確認だけは致します。

駄目ならば、諦めて下さい」

 

そうして無事に許可は取れ、僕は島風と一緒に彼らの親玉と会えることになった。

僕らを拘束した隊長らしき人が無線で返答を聞くまで、その場にいた島風以外の全員が冷や汗を流した事は、言うまでもない。

どうやら、全員あの映像を見ているらしかった。

 

 

 

「……ようこそ。

私は海軍中将、笹中です」

 

「お招きいただきありがとうございます、私が……まあ、提督とでもお呼び下さい。

そしてこちらが島風」

 

「……島風です」

 

紅茶にケーキという持て成しに構わず、自己紹介を交わす。

島風は今までの態度がまるで借りて来た猫のように大人しくなっている。

具体的な、尚且つ相当な階級の人物を前に、緊張でもしているらしかった。

 

「はて、あなたのような者は海軍には居なかった、と記憶していますが」

 

「ええ、中将殿の記憶は合っておりますよ」

 

「では、その名乗りの意味のほどをお聞かせ願えませんかな?」

 

何気ない会話の端々から、僕達の情報を抜こうという気が感じられた。

だが、僕がそちらのペースに乗らなければならない理由など無い。

 

「……腹の探り合いは止めましょう、中将殿。

まず、私はあなたと敵対する意思は有りません。

しかし、味方と言えるかどうかは、まだ判別し兼ねます」

 

僕の発言に、笹中中将殿は鋭い視線をこちらに向ける。

 

「ほう。

提督殿、あなたは自身の立場を判っておいでで?

我々はあなたを"エスコート"して来たのですよ」

 

武力を背景に会話の主導権を持つ。

実に有効かつ基本的な戦術だ。

だが既に対策はしてある。

 

「ええ、勿論。

元はと言えば、最初にこの場へのお誘いを出したのは私ですから」

 

「……何を」

 

「何を言っている、ですか。

簡単な話です。

あなた方は、私達の所在をどうやって見つけ出しましたか?

五本の島風の戦闘映像、その映像のデータから読み取った位置情報による行動分布。

動画の投稿場所がラブホテルだったのでラブホテルに焦点を絞り、更に目撃情報で絞り切った。

違いますか?」

 

「……合っています」

 

元々そうなるように考えた上での行動だから、ここに連れて来れたのだとすればそう言う経路で所在を見つける他無い。

元より情報のアドバンテージが圧倒的なのだ、これぐらいは何とでもなる。

 

驚いたように眼を見開く中将。

 

元より足元を見られ無い為のこれまでの仕込みなのだ。

駄目押しでもう一押し。

 

そしてその為の準備を、僕は既に終えている。

 

「ここまでで私が考え無しの阿呆ではない事は解っていただけたと思いますが。

では、私は自慢をしにここに来ている訳では有りませんので、後一つだけ。

彼女は、艦娘は。

島風一人だけでは無いのですよ」

 

「あ、だから鳳翔さん最近見なかったんだ!」

 

ケーキを嬉々として摘まんでいた島風が口を挟む。

 

「島風に、鳳翔……」

 

「流石は海軍さん、と言った所でしょうか。

どうやら、笹中中将殿も彼女達の正体にお気づきになられたようですな。

あなた方は部隊一つ、私達は島風に99艦爆。

双方共に王手、と言った所でしょうか。

……これでも、対等では無いとお思いで?」

 

中将殿は大きくため息を付き、頬を張った。

赤々と腫れた頬を見れば、鋭く威厳のある眼差しとかち合う。

気合いを入れ直したようだ。

 

「なるほど、だから提督ですか。

正直な所、私はあなたの事を彼女達の情報源として見ていませんでしたが、考えを改める必要が有りそうですな。

では、本題に入りましょう。

……提督殿、あなたは深海棲艦と我々軍について、どう思いますか?」

 

「如何せんこちらが寡兵ですね。

造船スピードに対して損耗率が若干上回っている。

向こう数年は持ちますが、逆に言えば数年しか持たない」

 

あの呉の造船所は、深海棲艦と言う事情に十年という歳月が加わり、半ば異様なほどの規模になっている。

だと言うのにここ十年間ずっとあの造船所は夜に光を消した事は無い上に、進水式などの式典も略式でやるのが定例化している。

それだけ数が足りないのだ。

そして艦には人員が要る、そこも含めれば実働出来る数はさらに減る。

 

「……よく御存じで。

ええ、その通り。

私もその事を常々憂慮しておりました」

 

そうだろう。

そうでなければ動画を拡散させてからこれだけの速さで僕に辿り着くはずが無い。

この方法で釣れるのは、あんな動画一、二本で行動する程艦娘の力が欲しい者か、あるいは"要らない"者かだ。

後者ならば、99艦爆で吹き飛ばしてもらう算段だった。

イ級程度ならば悠々と吹き飛ばすその威力は対象を選ばないのは、既に実験済みだ。

……その場合、艦娘に、鳳翔さんにかつての味方でありその子孫とも言える人々を殺してもらう事になってしまっていたが。

 

「……そろそろ、夜も更けて来ました。

ですので、面倒な問答も、値切りも、吹っ掛けも止めましょう、中将。

私が望むのは、艦娘達の立場の保証と最大級の独自の裁量、土地に設備に金にと、まあそう言う細々としたものです。

それに対して私が払えるのは、今持っている情報と私の望んだ物を用いて手に入るであろう情報とノウハウ。

結果を出す事は、約束しましょう」

 

「……では、前払いとしてある程度の資金提供と融通、実績を出した上でその他諸々に着手する、という所で如何でしょうか。

こちらとしても、実績も無いというのに厚遇をしてはこちらの立場が危うくなりますので。

裁量については、実績を出すまでは私の下である程度の裁量を認める形になります」

 

「解りました、では書類での手形も頂きましょう。

その前に……島風、僕の分のケーキも食べなさい。

食べたいんだろう?」

 

「……良いの?」

 

早々にケーキを食べ終わり、物欲しげな目で見ながらもこちらを邪魔せずに我慢していた島風の眼前にケーキを置く。

態々待機して貰っている鳳翔さんにも何かご褒美を上げないとな、と考えながら。

 

「その代わり、食べたらきちんと歯を磨いて寝なさい。

……部屋の方は、借りても宜しいですね?」

 

「どれでも好きな部屋を」

 

「提督、ありがとう!」

 

ケーキを食べる島風を見守り、寝る為に部屋を出ていくのを見送ってから中将は口を開いた。

 

「……提督殿。

私はあなたに聞きたい事が有ります」

 

「何でしょうか」

 

「あなたは、彼女を、あなたの言う艦娘達を、どうしたいのです。

自らを売り込む為の道具として扱うには、あなたの態度は優しすぎる。

かと言って、ただ人として扱う気ならば、あなたがこれからやろうとする事は婦女子を戦場に叩き込む事だ」

 

「……彼女を、婦女子と呼んでくださいますか。

そうですね、一言で言うならば、あなた方が信用出来なかったから。

僕が彼女達を発見しなくても、いずれあなた方は彼女達を……艦娘を見つけたでしょう。

そうしたとして、あなた方は人道に溢れる扱いをしたかもしれない。

けれど、そうで無いかもしれなかった。

そう言う点では、あなたが釣れて良かったですよ」

 

「これはまた、一杯喰わされたようですな。

……しかし、それをしてあなたに何の得が有るのです。

権力が欲しいならば、何とでも出来たはずだ。

私達を徒手空拳でここまで踊らせられるほどのあなたならば」

 

「得とか損では無いのです。

あなたに、いやこの世界の誰であろうと理解は出来ないのでしょうが。

私は提督なのですよ。

それだけで、私は彼女達に組する理由になるのです」

 

「……なるほど。

いずれは、その理由も聞きたいものですな。

何にせよ、これからは一蓮托生です。

よろしく頼みますぞ?」

 

そして、僕は笹中中将の協力を取り付ける事に成功した。

窓を見れば、太陽が昇っている。

暁の水平線が、そこには広がっていた。


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