コーヒー提督と艦船型少女   作:せつ763みだれうち

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第0話 コーヒー提督 ―幕開―

時計の秒針だけが聞こえる、そんな、落ち着いた雰囲気の中、

 

一室には窓から零れる黄昏時の陽光で二人の影が映った。

 

一人は、本日の秘書艦、特型駆逐艦1番艦の吹雪、秘書艦のデスクで書類整理を

 

せっせと行っており、その手つきは慣れたものである。

 

そして、もう一人、吹雪のデスクにとある飲み物が入ったマグカップを置き、

 

自分のデスクに向かう男。

 

部屋では吹雪の「ありがとうございます」と声が響き、男は「…ああ」と答えた。

 

自分のすべき仕事、本日の作業を終え後は吹雪を待つばかり、

 

そんな彼は、デスクで一息つき右手のマグカップを口元に近づけ、香りを楽しんだ後、喉を潤す

 

 

「……クッ!!……何度飲んでもうめえ」

 

 

彼が飲んでいるもの、それはコーヒー。根っからのコーヒー好きで彼は既に16杯も飲んでいた。

 

常人ならありえない数字である……

 

 

「…おいしい。やっぱり司令官が淹れてくれたコーヒーは美味しいです!!」

 

「…フッ……当然だな」

 

 

普通、お茶汲み、もといコーヒー汲みは秘書官が行うべき業務である。

 

しかし、彼にはコーヒーに並々ならぬ拘りがあり、その役を譲渡しなかった。

 

当初、艦娘達は一同、恐縮し自らが淹れようとするが、

 

提督より美味しいコーヒーを淹れられない為、その役を申し訳なく譲る形となった。

 

そしてコーヒー好きと聞いて一部の艦娘は……

 

 

『Oh……提督がコーヒー党なんて知らなかったヨ。

 これでは素敵なTea Timeが送れないないネ……』

 

『美味しい緑茶をと思いましたが、まさかコーヒーしか御飲みにならないとは思いませんでした。

 少々、寂しいです…』

 

 

と、嘆いていた。そんな事は露知らず、提督は今一度、喉を鳴らす。

 

 

「司令官。書類整理完了致しました」

 

「ご苦労さん」

 

 

肩肘を机につけ、左手の甲を顎に添え、ニッと笑みを浮かべる提督。

 

今年、齢30を迎えるにあたり、その仕草から大人の渋さを醸し出していた。

 

 

「ですが、司令官。コーヒーを飲み過ぎですよ……」

 

「そう堅い事をいうなよ。ブッキー」

 

「ブッキーって呼ばないで下さい。司令官には吹雪って呼んでほしいのに…」

 

「ああ。すまない…ブッキー」

 

「もう!!司令官!!」

 

 

提督はクッと笑みを溢す。すると、タイミング良くドアからノックの音が響く。

 

 

「失礼します。提督」

 

 

ガチャっとドアが開くと六人の艦娘が部屋の中に入ってきた。

 

近づく足音、足取りは嬉々としたものと思うほど軽い様に窺える

 

 

「旗艦、蒼龍、以下、陸奥、鳥海、能代、時雨、叢雲、帰還しました!」

 

 

6名の艦娘達は水兵式の敬礼をし無事を提督に報告をした

 

皆、一様に着衣が所々破れ肌が露になっており、戦闘の過酷さが顕著に現れている。

 

その中で、構成された艦隊の中心艦娘、蒼龍の損傷は著しいものだった。

 

所謂、大破の状態であり、まともに艦載機も飛ばせなかったであろう。

 

だが、彼女の表情は成し遂げたと言わんばかりに歓喜と達成感に満ち溢れていた。

 

 

「……やったな蒼龍」

 

「はい!!やっちゃいました!!」

 

「おめでとうございます、蒼龍さん!!」

 

 

その提督の一言、蒼龍の返答で察しがつく人がいると思うが、

 

彼女達は一つの海域の攻略に成功したのである

 

蒼龍は屈託なく満面な笑みを浮かべ、吹雪は胸の前で手を叩き自分の事かのように喜んだ。

 

提督はフッと息を漏らす。その息は決してため息ではない。

 

むしろその逆、喜びを交えているものである。しかし、提督は鞭も必要だと考えていた。

 

提督は蒼龍に近づく、勿論、右手にはマグカップを持っている。

 

 

「…だが、無茶はするもんじゃねぇ。オマエさんの事だ道中、中破にも関わらず進軍し

 そんな状態になっちまったんだろう…?」

 

「う!……わかっちゃいますぅ」

 

「…当然だ。オレを誰だと思っている。オマエたちの提督、だぜ」

 

 

提督は、再度コーヒーで喉を鳴らす。

 

 

「…オレが嫌いな事わかるな。帰還した至福の一杯、二度と美味いコーヒーが飲めない事だ」

 

「は、はい……」

 

 

独特な言い回しで蒼龍に注意を喚起する提督。この男はコーヒーで比喩するのが当然である。

 

コーヒー至上主義、その心がこの様な変態的な言い回しなっていた。

 

しかも、その変態的な信念が枷となり本質が旨く伝わらない事も多々ある

 

支離滅裂ではあるが今回の比喩は伝わりやすい方であった

 

 

「うう、すみません……」

 

 

蒼龍はシュンと身を小さくしてしまった。

 

 

「…あまりオレを心配させるんじゃねぇ。おまえが居なけりゃ意味がねえんだからな」

 

「え…?」

 

 

蒼龍が顔を上げ提督を見つめる、吸い込まれそうな大きな瞳、

 

それでいて青みがかった瞳は確りと提督を捉えていた。

 

提督は何も厳しい男ではない、彼は飴と鞭の使い分け、人の機微を見極めるのは確かである。

 

また、艦娘を兵器として扱うのではなく、一人の対等の女性として接している。

 

その証拠に無理に敬語を使わなくて良いと伝え、

 

艦娘達にとって過ごし易い環境を提供したのである。

 

それと、もう一つ提督はどうしても嫌いな事があった。それは堅苦しい上下関係、

 

なのでこれを撤廃し本名で呼んでいいと口にした際は、

 

流石に提督に対して失礼と一部の艦娘に止められたのはいい思い出。

 

とにかく提督は艦娘の為に尽力した。クールな心に隠された熱き血潮を燃やして。

 

その結果、艦娘達は彼に惹かれたのは言わずもがな

 

 

「もう、無茶はするなよ。頑張るのは結構だが頑張り過ぎるのは良くねぇ。

 

 蒼龍の長所だが短所でもあるからな……」

 

 

そう言うと提督は蒼龍の頭を強くひと撫で、

 

そして蒼龍の反応を確認せず横を過ぎ去っていった。

 

蒼龍は乱れた髪を気にせず過ぎ去った提督の背中を見つめ、

 

見る見るうちに張りとツヤのある頬を染めていった

 

 

「提督、ちゃんと私の事見てくれて、や、やだやだ。嬉しいけど恥ずかしいぃぃ……」

 

 

熱が上がっている頬を手で押さえ女性特有の仕草を見せる蒼龍。

 

その蒼龍に視線を突き刺す五人の目、嫉妬を交えているのは間違いないだろう。

 

だが、蒼龍はその視線に気がつかない。彼女は今、花畑におりそれ所ではないから。

 

そんな中、提督は蒼龍の後ろで待機していた陸奥、鳥海、能代、時雨、叢雲に近づく。

 

その際、陸奥と視線が合いウインクを貰いフッと笑った

 

彼女の意図を読み取ったからだ。私の事は後でいいから、あの子達を労ってあげて、

 

そんな鎮守府の姉のポジションにいる陸奥の献身さ、更に裏っかわの若干気にしていた

 

運のなさ、残り物には、この場合最後には福があると思っての事だと思うと

 

提督は笑みを溢さずにはいられなかった。苦笑した提督は陸奥以外の四人、

 

鳥海、能代、時雨、叢雲に視線を移す。

 

すると、前の四人、後ろからは吹雪の視線が冷ややかに突き刺さっているのに提督は気づいた。

 

前門の虎、後門も狼といった所であろうか。しかし、提督は動じない。

 

 

「……おいおい。そんな見つめられると照れちまうぜ」

 

「……はぁ」

 

「ふん…!!」

 

「あ、あはは…」

 

 

五人の艦娘達は、ため息をついたり、そっぽを向いたりと多種多様な反応を見せた。

 

皆、提督はこういう人であると思い出した。我が道を行く、他人の視線などものともしない人だと

 

そう思い出したが故、無意識にそういった仕草が出てしまった。

 

だが、今、提督が吐き出した言葉が本心であるかどうかは誰もわからない。

 

積み重なった年齢と、それまでの経験により提督の器が計り知れないからだ。

 

もし、その心が知りたいと思い探りを入れたとしても、旨くはぐらかされ、

 

逆にからかわれると皆知っている。

 

一度、一部の艦娘がどう思われているか知りたいと探りを入れ、無残にも敗戦したからだ。

 

それでも、時折、提督にどう思われているか知りたいと探りを入れてしまうのは彼女達の人として

 

淡い感情によるべきものなのであろう。

 

 

「…クッ!!…ご苦労だったな。鳥海、能代、時雨、叢雲。それと蒼龍のサポートも助かった」

 

 

提督が蒼龍と口にすると、蒼龍は我に返り、花畑から再び鎮守府に帰還し、

 

あれっと口にして辺りを見渡していた。

 

 

「いえ、鳥海は当然の事をしたまでです」

 

「ええ、仲間を助けるのは当たり前、ですから」

 

「ボク達は感謝される事はしてないよ。提督」

 

「フン。それにアンタの為にしたんじゃないし」

 

「…フッ。それじゃあ何も言えねえな。なら言葉ではなく行動で示すか」

 

「「「「え…?」」」」

 

 

提督は満足気な表情でコーヒーを飲みながら、鳥海、能代、時雨の順番に頭を撫でた。

 

鳥海は不意を突かれた為、驚きを隠せずにいたが次第と身を縮ませるようにして

 

固まってしまった。

 

能代も同様に恐縮し、徐々に何も言えなくなり身を委ねるだけ、

 

時雨は、はにかんだ笑顔を見せながら一言。嬉しいなと口から漏らしていた。

 

三人とも頬を朱色に染めていたのは言わずもがな、そんな中、叢雲は順番が迫るにつれ、

 

そわそわと落ち着きをなくしていた。そして、時雨の頭を撫で終えた提督は叢雲に……

 

近づかず、コーヒーを一口、踵を返そうとしている

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」

 

 

叢雲からの大きな一言

 

 

「どうした?」

 

「どうしたって、何で戻ろうとしているのよ!!」

 

「…クッ!!この間頭を撫でたらプルプルと震えて嫌がっただろ」

 

 

叢雲は若干、顔を歪ませた。確かにあの時撫でないでと口にした。

 

しかし、それは油断し蕩けきった顔を見られた羞恥心により発してしまった言葉だった。

 

本音は飛び跳ねるほど嬉しかったのだが、叢雲は考えを巡らすどうやって自然に

 

撫でて貰えるかと。しかし、ここで提督からの一言が思考を巡らせていた叢雲に割り込んできた。

 

 

「…もしかして、撫でて欲しいのかい」

 

「んなっ!?そ、そんな訳ないじゃない自惚れないで!!」

 

 

この提督からの一言が叢雲の素直になれないツントリガーを引いてしまい、

 

脊髄反射的に拒んでしまった。

 

気がつけば折角のチャンスを無駄にしたと、内心、落とし穴に落ちた様な気分になっているが、

 

表面上は怒っている雰囲気、とても後悔している様子はなかった。

 

表に出さないのは彼女のプライドが故であろう。だが、そんな叢雲を見て提督はクッと笑う。

 

 

「…冗談はさて置き、叢雲、お前は知っているだろう。俺はやりたい事を遠慮しない男だと…」

 

 

そう言うと、提督は叢雲に近づき遠慮なく頭に手を置いた。無論、提督は

 

叢雲の心内など見透かしていた。今までの行動は只、叢雲をからかっていただけに過ぎなかった。

 

 

「…オレは今、無性にお前の頭が撫でてえんだ。嫌だろうが知った事か」

 

「そ、そんなに私の頭が撫でたいの…?」

 

「…ああ。撫でたいねぇ」

 

「そ、そう。ならしょうがないわね。特別に許すから丁寧に撫でなさい」

 

「フッ…頭皮が薄くなるまで撫でてやる」

 

「…何言ってるのよ。もう――」

 

 

叢雲は表情を偽るのを自然と止めてしまった。今、見せている表情はまさに恋する乙女。

 

照れて顔を俯かせた。しかし、彼女はハッとし顔を上げる。

 

叢雲は、またもや油断してしまった。それ故、忘れてしまったのだろう。

 

この空間は提督と叢雲の二人きりではないという事を。叢雲は辺りを見回すと時既に遅し、

 

そこには皆のニヤニヤとした好奇な眼差しだった。

 

 

「~~~~~~~~っつ!!」

 

 

あの時と同じく羞恥心が膨れ上がり、叢雲は一気に顔を赤く染め上げた。そして、混乱し

 

提督を突き飛ばそうと勢い良く両手を押し出す。しかし、これは空を切る事となった。

 

提督は叢雲の性格を把握し十中八九、こうするであろうと読んでいたからだ。

 

身体ごと勢い良く手を押し出していた叢雲は、体勢を崩し倒れそうになる。

 

そこに、半身の構えをとっていた提督の左腕がスッと現れ、

 

ストッパーとしての役割を果たし叢雲を支えた。

 

 

「…おいおい。気をつけてくれよ。コイツが無残な姿になっちまう」

 

 

そう言うと提督はコーヒーを一口、そろそろ残りが少なくなっている事だろう。

 

そして、叢雲は首をブンブンと横に振った。顔のほてりを雲散させる為、

 

なおかつ、見惚れてしまった気持ちを落ち着かせ普段の振る舞いに戻そうとする為に。

 

 

「う、うっさい!!…バカ」

 

 

叢雲は自らの意思で提督から離れ、身体を背けた。そこに吹雪を始め、

 

陸奥以外の五人が叢雲を中心としぞろぞろと集まっていくる。

 

 

「もう、叢雲ちゃんは相変わらず素直じゃないなぁ」

 

「私は何時でも素直よ!!」

 

「あの様子では、とてもそういう風には見えなかったよ」

 

「ですね。もう少し柔和な印象を提督に与えてみては…?」

 

「いえ、それでは叢雲さんの長所が消えてしまいます。叢雲さんはやはり、こうでなくては」

 

「そうそう。これでこそ叢雲ってね」

 

「…そう、ですね。失言でした」

 

「何納得してるのよ。アンタ達は!!」

 

 

叢雲に対して会話の花を咲かせている吹雪、時雨、蒼龍、能代、鳥海。

 

それを不機嫌に反論する叢雲、そして、提督はと言うと陸奥に労いの言葉を掛けていた。

 

 

「陸奥。色々と助かった。オマエには迷惑を掛けるな」

 

「別にいいわよ。これも貴方の為ってね」

 

「…そうか」

 

 

吹雪達に視線を移していた二人、すると陸奥は提督との距離を徐々に縮めていた。

 

 

「ねぇ、そんな事よりも、わ・た・し・に・は、撫でてくれないの」

 

 

情熱的な眼で提督を見つめてくる陸奥、胸を強調する様に腕を組み、

 

左手の人差し指は唇にそっと触れている、プルンとした唇、魅惑的な胸部、

 

その姿は明らかに提督を誘惑していた、だが、提督は…

 

 

「さあて、どうかな…」

 

 

はぐらかした。しかも楽しそうに。流石の陸奥もこれには少し肩を落とした。

 

 

「もぅ…これだけしても貴方の心は揺さぶれないのね」

 

「…フッ。揺さぶるねぇ―――」

 

 

目を瞑り笑みを浮かべると提督は一気にコーヒーを飲み干した。

 

そして…

 

 

「どうせなら盗んじまいな。こんな風に、な」

 

「キャア!!ち、ちょっと…!!」

 

 

提督は陸奥の顎を優しく触れ、顔を近づけた、その距離およそ五センチ、お互いの吐息が

 

感じられる程に近い。陸奥は提督から滲み出ているコーヒーの香りに包まれながら、

 

平常心を保てないでいた。こんな間近な距離で提督の顔を見たと事は今まで一度もない。

 

それ故、今の陸奥には余裕がなく目を泳がせては、弱々しく提督に視線を合わせる

 

といった仕草を繰り返していた。

 

 

「…オレを誘惑するならこれ位、やらなきゃダメ、だぜ――」

 

「…はい――」

 

「…クッ!!顔が赤いな。爆発でもするかい」

 

「ば、爆発なんて……しちゃう、かも」

 

「…司令官」

 

「む…」

 

 

傍から見ているとイチャイチャしている様にしか見えない二人に、輪になって話をしていた六人が

 

目を据わらせて提督と陸奥を睨んでいた。皆、その眼差しに明らかに怒気を孕んでいる

 

しかし。ここで提督自慢の武器がこの危機的状況を打破するのである。

 

 

「…そんなに熱い視線を送らないでくれ。火傷しちまいそうだ。オレはウェルダンは好みじゃねえ。

 血が滴る様な、レアが好みだぜ」

 

「なら、アンタの血を滴らせてあげましょうか」

 

「中々にバイオレンスな発言をするじゃねえか。ムラクゥー」

 

「ムラクゥーって言うな!!」

 

「良いじゃねえか。オレとオマエの仲だろ」

 

「ど、どういう仲よ!!」

 

「無論、人前で頭を撫でた仲、だぜ」

 

「~~~~っつ!!」

 

「提督、君には失望したよ」

 

「失望?何故、オレに失望するんだ…時雨」

 

「む、陸奥さんにあんな事したからだよ。もう少しで…」

 

「もう少しで、何だ」

 

「キ、キスしそうだったじゃないか」

 

「キス、か。…クッ!!

 時雨はおマセさんだな。キスに興味があるのかい?」

 

「い、いやない事はないけど」

 

「なら、練習するかい?キスの。オレは毎日してるぜ。熱いコーヒーとな」

 

「え?!えっと、あの、うぅ~…」

 

「…司令官さん。流石に今のはどうかと思います」

 

「…鳥海」

 

「な、何でしょうか」

 

「いや、鳥海が感情を露にするのが珍しくてな。中々、可愛らしいじゃねえか」

 

「か、からかわないで下さい…」

 

「からかってなんかいないさ。オマエは何時も何処かで遠慮してるんだ。

 

 今の様にもっと我を表に出しな」

 

「で、でも、それでは司令官さんに迷惑を掛けてしまいます」

 

「迷惑なんて思わねぇ。むしろ、信頼の現われってやつさ。だからな、鳥海。

 オマエはもっと我が儘になりな。心配するな。オレはどんな鳥海だって支えてやるよ」

 

「は、はい。司令官さんがそう望むなら、ど、努力します」

 

「…はぁ」

 

「凄いため息だな…能代」

 

「いえ、提督の巧みな話術を目の当たりにして…」

 

「口八丁って言いたいのか?クッ…そいつは残念だぜ…」

 

「い、いえ、決してその様な…!!提督は尊敬に値するお人です!!

 私たちの事を何より考えて下さって、それに、水上機ユニット装着して、

 前線で指揮を振るう提督など他に類を見ません。

 危険を顧みず堂としたお姿、そして、あの時お教え頂いた比類なき覚悟、

 私の心から片時も消えた事も消える事も一生ありません。提督は能代の理想の提督です」

 

「…フッ。よせやい照れちまうぜ、だがその評価を下げるわ訳にはイカねえな。

 能代、オマエを頼りにしている。これからも力を貸してくれ」

 

「はい!!阿賀野型軽巡二番艦の能代。力の限り提督に尽力致します!!」

 

「ありがとうよ…」

 

「わぁ、皆、陥落しちゃった。でも提督?私は雰囲気に流されませんよ。ぜったいに」

 

「…蒼龍」

 

「な、何ですか。その目は…」

 

「オマエは今の状態を直様、頭に叩き込む事をおすすめするぜ…」

 

「え…」

 

「乙女の柔肌なんざあまり見せつけない方がいい。自慢の九九艦爆が今にもこぼれ落ちそうだ」

 

「あっ!?や、やだやだ。提督――み、見ないで!!」

 

「…やれやれだぜ」

 

 

五人は…提督の前で無残にも沈んでしまった。提督の口から発せられた言葉は、

 

魔法の様に事態を収束させた。まさに、口先の魔術師、大本営ではその異名で噂され、

 

弁に対しては右に出るものは居ないと評された程の実力。しかし、勘違いしないで欲しいのは、

 

彼は嘘を吐いていないと言う点、提督が艦娘らに送った言葉には偽りはない。

 

多少、茶目っ気を出して辛かってはいるが…

 

それと、余談だが、彼の異名は多々存在する。

 

歩くコーヒーメーカー。カフェインの申し子、ボス艦コーヒー、などなど

 

 

「…司令官」

 

 

蒼龍に自らの上着をかけている提督に吹雪が声をかける。

 

その蒼龍だが上着に染み付いている提督の匂いを密かに楽しんでいた。

 

 

「…ブッキーはオレに言わないのか」

 

「司令官には口で叶いませんから。それにそういう人ですし…」

 

 

諦めた様相で吹雪はため息を吐くものの、それまでは若干、頬を膨らませていた

 

 

「…クッ!!流石は、ブッキーだ」

 

「でも、自分が起こした行動には注意して下さいね」

 

「ああ。さて、浮わついた空間にしちまったが最後は締めるとするかい…」

 

 

提督は自分のデスクに戻りながら手を叩き、

 

出撃した全員の名を普段よりやや低音な声で口にした。

 

室内の雰囲気は先程と明らかに異なり、少しピリッとした空気に一転した。

 

そして、その雰囲気を汲み取った艦娘達は敬礼をする

 

 

「…再度言うが、皆ご苦労だった。こうして生還してくれた事がオレにとって何よりの褒美だ。

 今日は勝利の余韻に浸りながら、次の出撃に向けてゆっくりと英気を養ってくれ。以上だ」

 

「了解!!」

 

「それと、吹雪。もう上がって良いぜ」

 

「えっ…でも」

 

「夜更かしは美容の天敵、だぜ」

 

「いえ、まだ夜半どころか、宵に差し掛かる頃合ですが…」

 

「クッ!!…まぁ、後はオレに任せな。

 吹雪が纏めた書類を再確認するだけだから、そんなに時間はかからねぇよ」

 

「…わかりました」

 

 

提督は徐ろに行動する。その行動は17杯目の熱いコイビトと再び邂逅する為だった。

 

だが、吹雪が司令官と口にし提督の行動を遮った。

 

どうやら蒼龍達がまだ提督に用があるとの事らしい出撃した今日6人を代表して蒼龍が口を開く

 

 

「提督。一つお願いがあります。私達にコーヒーを淹れて頂けませんか。

 勿論、提督の愛情たっぷりで」

 

 

この一言と同じタイミングで外は丁度暗くなり、窓から差し込む陽光は本日の役目を終えていた。

 

その為、室内は先程より暗い。それなのに、提督の目には先程よりも艦娘達が輝かしく映った。

 

提督はクッと笑う。それは温かさを感じる絵画の様な優しい光景を目の当たりにしたからか、

 

それとも、愛して止まないコーヒーを所望してくれたからか。そんなのは決まっている。

 

間違いなく両方だと…

 

 

「…ああ。淹れてやるぜ。至福の一杯を、な。吹雪も飲んでいきな、ご馳走するぜ」

 

「はい!!頂きます!!」

 

「それと蒼龍。何時までもオレの臭いを楽しむのは結構だが、後でちゃんと返してくれよ…」

 

「「「む…ちょっと、蒼龍(ちゃん)(さん)!!」」」

 

「あ、あはは…了解」

 

「クッ!!相変わらず騒がしい鎮守府だぜ……」

 

 

本日も執務室は騒がしくコーヒーの香りに包まれていた

 

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます。

まだまだ、至らない点があるかと思いますがよろしくお願い致します


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