東方無集録   作:生きる死神

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お久しぶりです、生きる死神です。
長らく更新が空いてしまって申し訳ない。
理由に関しては活動報告を見てくださいな。
それではスタートです。


無彩色の世界

 向かってくる黒い弾幕。それらを時に相殺し、時にひらりと舞うように避ける少女たち。踊るように動く様はまるで踊り子のようだ。

 その色鮮やかな弾幕を迎え撃つは、張り付けられた笑顔の少年。多方向から飛んでくる弾幕をそれぞれに相殺しながら、数を減らして避けていく。避けながらも始めた位置からはあまり動いておらず、最小限の動きで回避を続けていた。

 対称的な色の弾幕の応酬は、真也による一方的な宣誓から既に10分ほど続いていた。

 

霊夢「予想通りではあるけど、埒があかないわね」

 

フラン「この人数に対してこれだけ競れるんだから、たぶんまだ余力があると思うよ」

 

 御札と針を投げつつぼやいた言葉に、フランがその手の烈火の如き剣を振りつつ反応する。

 面倒くさそうな顔を隠すこともなく見せるが、それで何か変わるということはない。

 焦れったさを感じているのは霊夢だけではない。大回りに避けながら弾幕を放っている魔理沙やぬえもだった。

 

魔理沙「もっと攻めたいんだぜ!」

 

ぬえ「スペルで押しちゃダメなの?」

 

 ごそごそとスペカを出そうとする2人に、制止の言葉が飛ぶ。

 

天子「やるなら揃えないと。無駄打ちしたところで意味はないわ」

 

 まともな意見に返す言葉もなく、再度相殺と回避に意識を集中させる。

 一方、真也は相対する5人を1人ずつ何かを探るように見ていた。

 いつもは握ったままの手を開き、いつでも能力を使うことが出来るよう抜け目もない。

 一通り見たところで口を開く。

 

真也「こんなに緩い弾幕じゃ、僕は止められないよ?」

 

 あからさまに煽るような発言に、冷静だった霊夢や天子、フランは気にもしない様子だが、元々じれったさを感じていた残りの2人には、その言葉も裏を探ることもなく受け取ってしまっていた。

 すぐさまスペカを取り出した2人は、意気揚々と宣誓する。

 

魔理沙「そんなに激しいのが希望なら、やってやるさ!《恋符「マスタースパーク」》!」

 

 手に持ったミニ八卦路から放たれる白い極光。それは飛んでくる黒い弾幕を全て飲み込み突き進む。

 

ぬえ「その余裕、無くしてあげる!《正体不明「憤怒のレッドUFO襲来」》!」

 

 宣誓と同時にどこからか飛来する赤いUFO。それらは全て真也を狙ってレーザーを放つ。いくつものUFOから絶え間なく放ち、その場にいることを許さない。

 2つのスペルが同時に真也を狙い、彼もそれを受け止め──るわけもなく、自身を狙うレーザーを相殺しつつ、巨大な光を避ける。

 

真也「そんなもんなの?それじゃ当たらないよ?」

 

天子「なら私も手伝おうかしら。《地震「避難険路」》」

 

 まだ余裕があるような真也に、追い打ちをかけようと天子もスペルを宣誓する。

 すると、空から小型の要石が無数に振ってきた。それらは他の所へ打たれた弾幕も巻き込み相殺しつつ、彼を追い込む。

 自身狙いの弾幕にただ逃げ場を減らすだけの弾幕。極光はまだ続いており、微妙にながらこちらへ動いている。

 1度見たことがあるので、これが後に下からも弾幕が来るのはわかっていた。

 

真也「んー、これは中々厳しいな。さすがにスペル使わないと抑えようがない」

 

フラン「なら早速被弾して貰おうかな!《禁忌「レーヴァテイン」》!」

 

 スペカを取り出そうとした真也にフランが追撃をする。先ほどから持っていた炎剣を、スペルとして今度は振りかざす。

 振った後の軌跡から赤い小型弾が飛び、少ない安置をさらに減らす。

 結果、4つのスペルに挟まれ、彼は1度目の被弾をした。

 

霊夢「これだけやってようやく1回ね。先が長いわ」

 

真也「なら、減らそうか?」

 

 被弾した後とクールタイム中に彼女はまたぼやくが、それに真也が反応した。

 表情は変わっておらず、瞳は濁り意図が読めないがどう考えても虫の良い話すぎた。

 

霊夢「私は構わないけど、それあんた不利になるわよ?」

 

真也「別に構わないよ。長くやっても意味なんて無いからね。なら、早く終わらせられる可能性をあげようかなって」

 

霊夢「確実じゃないあたり、そこは譲らないのね。まあ、早く終わるのはこっちとしても助かるからいいんだけど」

 

 はぁ、と長い溜息をつき、やや散開している残りの4人を見る。2人の話し声は聞こえていたらしく、怪訝そうだったり、怒ったようだったり、つまらなそうだったりと4人4様の反応だった。

 一応納得はしているようだが、どうにも腑に落ちない顔をする者もいた。

 

真也「さてと、被弾数は僕が10くらいにしたらいいのかな?それとも5回にする?早くしたいなら後者。退治した感が欲しいなら前者をお勧めするよ」

 

霊夢「そうねぇ……」

 

 腕を組みどうするか悩む──ようなそぶりを見せているが、実際はすでに答えは出ており、今考えているのは別のこと。

 この、弾幕ごっこの終わりのこと。

 彼の言う意味のない戦い、がなにを指しているか彼女は見当がついており、それを考えると確かに今行っているのは時間稼ぎも良いところの遊戯だ。

 戦ったところで得られるのは、余計な疲労感や倦怠感のようなものだろう。いや、多少の達成感や満足感も得られるかもしれないが、徒労に終わるのが見えているのにそこまですることもないとは思っていた。

 

真也「どうするの?」

 

霊夢「そうね……5回にしましょ。早く終わらせたいからね」

 

真也「早く終わらせたい、ねぇ。まあいいや。残り4回、頑張ってね?」

 

 答えを聞いて不敵な笑みを浮かべた彼は、再度弾幕を張ろうとして──止まった。

 その様子に同じく動こうとした霊夢たちも不審そうに止まった。

 

霊夢「……?」

 

真也「……、気のせいかな?さあ、行くよ?」

 

 停止していた彼は頭を振って、一瞬視線を下に向けたがすぐに前に戻した。たった一瞬のことになにをと問う間もなかったが、その瞳がなにかを思っていたのは分かった。

 しかし、なにをと聞こうにも彼は弾幕を張り始めてしまった。

 比較的近くにいた霊夢が飛んできた弾幕を避けるのを皮切りに、再度弾幕の応酬が始まった。

 だが、それは長くは続かなかった。

 

真也「悪いけど、僕もそろそろ使わせて貰うね」

 

霊夢「!来るわよ!気を付けなさい!」

 

 不気味に笑いながらスペルカードを取り出す彼に、霊夢は即座に反応し周囲に警戒を促す。

 今の真也の状態を考えると普段通りのスペルを使うとは思えない彼女らは、小さな動きも見逃さない勢いで警戒していた。

 そんな彼女らを嘲笑うように、彼は宣誓する。

 

真也「さあ、始めよう。《無符「無々色の世界」》」

 

霊夢「……?なっ!」

 

 告げた言葉が空気に溶け、数瞬の間を置いて世界は暗転、はたまた白く包まれた。

 視界を埋めた眩い光か、または視力を奪うような闇に驚きを隠せない彼女らに、さらなる追い討ちがかかる。

 ようやく視界が復活し、見えるようになった彼女らの眼に最初に映ったのは、酷く味気ない色のした空だった。

 次に気づいたのは、眼下の木々がやけにシンプルな色になっていること。

 そして、世界を見回してようやく自身の服の変化に気づく。

 

フラン「これは……どういうこと?」

 

天子「服が、白と黒に、なってる……?」

 

 視界は全てが白と黒、そして灰色で構成された世界になっていた。いや、よく見ればそれは白黒灰だけではなく、その間の色も含めて構成されている。

 それは正しく無々色(七色)の世界だった

 そこはまるで色素の抜け落ちた世界。

 彩りが無くなった、モノトーンな空間。

 健常な者ならば見ることなど無いであろうつまらない景色。

 空の色も、木々の色も、大地の色も、全てが例外なく変えられてしまっていた。

 その変わりように驚くことしかできない彼女らを後目に、真也はその世界をぼんやりと眺め笑みを浮かべた。

 その表情は、彼女らの反応が彼の予想通りのものだったのだろうと思われた。

 

真也「これが彩りのない世界。どう?ここはお気に召したかな?」

 

 おどけた様子で聞いてきた彼は、まるでこの場の雰囲気に合っていなかった。

 しかしその服装は、誰よりもこの場に合っており、だからこそこの場の支配者は彼であった。

 

ぬえ「酷いくらい地味なんだけど。もっと派手な色の方が好きなんだけどね」

 

真也「そっか。まあ、そうだろうね。別に好まれるとは思ってはいないから大丈夫」

 

 半眼で答えたぬえに特に気にした様子もなく返答し、右手を前に突きだし開いた。

 その手をそのまま握ることなく適当に仰ぐと、どこからともなく弾幕が流れてくる。

 その色はこの世界を構成した単色のみで、背景と重なり合うとやや見づらさを感じてしまう。

 

真也「それじゃ、頑張って避けてね?このスペル中はありとあらゆる方向から弾幕飛んでくるから。半耐久スペルみたいなものさ」

 

 驚愕した声など耳を通り抜け、一方的な範囲無制限の弾幕による攻めが始まった。

 自然に存在する木々や、雲、空にある太陽からも弾幕が飛んでくる。

 ともすればそれはまるで御伽噺のような世界だった。

 現実ではまず自発的に弾幕が飛ばされることは無いであろうものから打ち出され、四方八方から狙われる苛烈なスペル。

 まだ1枚目だが、彼の本気の度合いが分かるものだった。

 

魔理沙「いくらなんでもこれはやりすぎだろ!相殺しても間に合わなくなるって!」

 

霊夢「そんなことわかってるわよ!いいから避けなさい!」

 

 反撃の糸口を掴むためにも現状はなんとか耐えねばならない彼女らだが、相殺するにも1つの方向を打ち消す間に、別の方向からいくつも飛んでくるため相殺が間に合わないのだ。

 スペルを使って相殺もしたいのだが、それすらする余裕もないほどに全方位から波のように押し寄せてくる。

 必然的に5人は固まり、背中を預けるようにして弾幕の相殺をしていた。

 その様子を遠くからぼんやりと見つめ、視界に収まる単色な色のぶつかり合いを眺める真也。

 この世界に変わってから彼女らの放つ弾幕すら彩りを失っていた。

 ただ1人この世界を作り、意のままに操る彼は、固まり抗う5人ではなく、地面に視線を向けていた。

 

真也「まだ、まだ来ないで欲しいな。せめて後1枚……」

 

 呟きは弾幕のぶつかる音にかき消され、5人に届くことはなかった。




いかがでしたかね。
次話に関してですか、完全に未定となっております。
今回みたくまた四ヶ月とか空くかもしれませんし、もしかしたら一ヶ月以内の可能性も少なからずあります。
が、リアルが忙しすぎるのであまり急かさないでもらえると嬉しいです。
それではまた次回。

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