真也「後編だよー」
こいし「真面目回だね」
温泉なのになぜこうなったのか分からないけど、気にしないで始めましょう。
それでは
「「「スタート」」」
談笑しているお燐とさとりを見て笑みを浮かべていた真也のところに空が近付いてきた。
先程まで熱いと言って体を冷やしていたみたいだ。
お空「お真ー! 温泉熱いよー!」
真也「いやー、そんなこと言われてもー」
熱いと言いつつ元気そうな彼女に、真也は苦笑いを浮かべて応対する。
何かを思い出したようにはっとした顔で手を叩いた。
お空「うにゅ。そうだ! 私、お真に聞きたいことあるんだった!」
真也「今まで忘れてたのねー」
鳥頭が健在だなぁ、なんてことを考えているが口には出さず、また苦笑いをする。
お空「お真はさ! ここに来てから楽しい?」
真也「んー、楽しいよー?みんな面白いし良い人多いしねー」
そう言って真っ先に頭に浮かべたのは、大好きな恋人。そして地霊殿の家族に、過去を知る4人、その他にも雛や聖など、今まで会って自分のことを受け入れてくれたり、ひどい扱いをしなかった人を思い浮かべた。
思い浮かべた数の多さに自分でも驚きつつ、向こうにいたときを思いだし、その差に嬉しそうに笑みを浮かべる。
真也「こっちには優しい人がいっぱいだよー」
お空「うにゅ。ならいいや! 私が聞きたかったのはこれだけだよ! あっついから私も上がる!」
そう言うとお空はすぐに湯船から立ち上がり、さとり達の元に向かっていった。
さとり「私達は先に出ているわ。2人でゆっくりしなさない」
寄ってきたお空を見て、さとりは真也とこいしにそう言うとニコリと笑って中に戻っていった。
それを見届けると、ふと隣を見ると大好きな人が少し顔を赤くしてそこにいた。
ただそっと、隣に寄り添っていた。
談笑していた声も無くなり2人も口を開かず、辺りに鹿威しの溜まった水を流す際に出る小気味良い音と、湯船に湧いて溢れた水の流れる音が響く。
辺りを静粛が支配する。
2人にとってはこの無言の空間でさえも、心地の良いものだった。なにも話さなくても、ただ隣にいるだけ。それだけでも、2人には十分だった。
そんな空間は、長くはなかった。
こいし「……温かいね」
真也「……そうだねー」
唐突にこいしが口を開いたと思えば、出て来たのはその一言のみ。
ちょっと面食らった真也だが、深くは考えずに答える。
少し間が空いて、こいしは半分程開いた第三の目をゆっくりと手に取り、愛おしそうに撫でた。
こいし「……ねぇ、真也。もし、私の目が完全に開いて、真也の心も取り戻せたら。私は真也の心が見たい」
そこで切ったこいしは、撫でた手でそのまま自分の体を抱き締めた。
こいし「でも、真也は見て欲しくないかもしれない。その時、私はどうすればいい?」
温かい湯船に入っているというのに、こいしの身体は震えていた。それは寒さではなく、拒絶されたことを思ったときの恐怖。
彼に限ってそんなことはないと、そう信じたいと、思っている。
でも、どれだけ思っていても、本当かは分からない。
聞いてからしばらくなにも話さない彼の様子に、不安を覚える。
そして、彼は口を開いた。
真也「……僕は気にしないよ。見たかったら見ればいいよ。こいしに見られて困ることなんてないし、それでこいしが安心できるなら、なおさらね」
隣で震えている彼女の方をそっと抱き寄せ、ふわりと浮かぶ第三の目を優しく、慈しむように撫でた。
第三の目は覚りにとってはとても重要な機関である。それを撫でられると、その人への想いによって感じ方が変わってくる。
好いている者ならば心地良い、嫌いな者ならば嫌悪感を抱く。
彼女らにとってはそう言うものだと、いつか2人で話していたときに聞いた。
それを覚えていた真也は、言葉だけでなく行動でも安心できるようと思っていた。
震えはいつの間にか止まっており、自分の肩に頭を乗せていた。
身体を抱いていた手も解かれていた。
こいし「……真也なら、そう言ってくれると思ってたよ」
その状態のままぽつりと呟く彼女の閉じた心は暖かいもので満たされていた。
そして、時々思っていたことをそのまま疑問として吐き出した。
こいし「…………もし。もしだよ。私じゃなくて、フランや、天子、ぬえに先に会ってたら。真也は、今みたいな関係になってたと思う?」
真也「……」
乗せていた肩から頭を上げ、湯気の漂う空を見上げて返答を待つ。
隣で口を開くのを待つ彼は撫でていた手を止め、寄せていた手を離し、腕組みしながら考えている様子だった。
ほんの少しの興味で聞いたことだが、これでそうだと言われたらどんな顔をすればいいのか分からなかった。自分で聞いておいてなんだが、先程の答えもあり少しの自信があった。
彼なら大丈夫だろう、と。
そう思うしかない彼女には空を漂う湯気が少し灰色に見えた。
真也「……分からないかな」
こいし「……えっ?」
そうだ。
とは言われなかったものの、分からないという返答。予想していた答えと違い驚きと戸惑いを隠せない。
そんな彼女をあえて気にしている様子のない彼は言葉を紡ぐ。
真也「……3人とも僕とは仲が良いから、断定は出来ないかな。僕の過去を聞いても受け入れてくれるなら、大丈夫だろうから」
そこで一旦切り、ちらと隣を見た。
相変わらず上を見上げたまま、口を閉じていたが少し震えているように見えた。
顔もなんの表情も浮かべていないように見えるが泣いているように感じた。
その様子見た彼はどこかにちくりと刺さるような感覚を覚える。
そんな顔をさせてしまったことへの罪悪感と、こんなことしか言えない自分に嫌悪感を抱きながら、口を開く。
真也「……でもね。こいしとじゃないとたぶんここまで幸せに思える日々は無かったと思うんだ」
こいし「……なんで?」
震えた声で聞く彼女は、いつの間にか水面を見ていた。
真也「だってさ、こいしほど僕と共通点のある人はいないよ。フランだってぬえだって天子だって。あると言ってもこいしほどじゃない」
そう言うと先程彼女がしていたように空を見上げて湯気の消え行くところを見ていた。
真也「なにより、無意識に僕は負けちゃってるからね。こいしに無意識のうちから惹かれてるんだろうから。他の誰でもない無意識を操るこいしだからこそ、だよ」
なんの脈絡もないように思えるが、実際1度彼女に無意識に涙を見せた真也からしてみれば、彼女の無意識には勝てないのかもしれない。
大まかな無意識として真也の方が上なのだろうが、彼女の、たった1つのことへの力は彼女の方が上なのかもしれない。
だから、彼女の能力は唯一真也の能力に勝てる可能性があった。
それは、唯一無二の、他の仲の良い者達にも無いとても大きなアドバンテージだった。
こいし「……じゃあ、私が覚りとして元に戻って、無意識を操れなくなったら、真也は私から離れちゃうの?」
その声は小さく、震えていた。
俯いた彼女の顔は見えないが、どんな顔をしているかは容易に予想できた。
だから。
だからこそ、そんな顔をさせたくないから、彼は想いを口にする。
真也「そんなわけないさ。こいしが無意識を操れなくなったとしても、こいしなのは変わりないから。今まで過ごして作った思い出があるんだから。そんな簡単に離れるわけないし、今の僕にはこいし以上に大切な人はいないから」
そう言うと、彼女の方を向く。
そして、彼女も泣きそうな顔で、今にも溢れてしまいそうな滴を瞳に溜めてこちらを向いた。
こいし「本当だよね? 嘘じゃないよね?」
真也「もちろんだよ。こういう時に僕は嘘をついたことはないから」
それを聞くと顔を手で覆い、後ろを向いた。
まだ震えている背中に寄り添い抱き寄せる。
少しだけすすり泣く声が聞こえるが、悲しくて泣いてるわけではないと無意識に感じ、笑みを浮かべる。
彼に包まれている彼女は嬉しさで泣いていた。
やっぱり彼は私を好いてくれている。愛してくれている。
それだけで涙が流れた。
涙はしばらく止まらず、止まるまでそのままでいた。
涙も止まり泣きはらした目を隠すことなく満面の笑みを浮かべているこいし。
その様子にとても嬉しそうな真也。
2人はとても幸せそうだった。
空を浮かぶ湯気はもう、灰色ではなかった。
はいどうでしたかね。
真也「泣かせてしまった……」
こいし「き、気にしないで!」
(熱い)
はい、ちょーっとリアルが忙しくて更新が遅くなりそうです。
次回はコラボを書く予定ですが、リアルの予定によっては、9月中旬頃まで投稿しないかもしれません。
真也「将来に関わるからごめんねー」
こいし「完結はさせるからね!」
それと同時にもう一つ、今悩んでいることがありまして、台本形式を取ろうか悩んでいます。
真也「理由に関しては活動報告に載せるよー」
こいし「今後についても関わるから意見や取って!とか取らないで!だけでもいいよ!」
できるだけ多くの人の意見が聞きたいところです。
それでは次回まで
「「「ばいばーい」」」