幻物語   作:K66提督

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お待たせいたしましたぁぁぁ……
K66提督でございます。

一ヶ月以上の期間を空けてようやく投稿……といいたい所なのですが、
短い!圧倒的に短い!!

広げた風呂敷を畳むのがこんなにも難しいとは……
もっと勉強です。

さて、残り少ないですがラストスパート頑張って参りますので
応援よろしくお願いいたします!

『幻物語 参拾ㇳ壱』お楽しみください!


幻物語 参拾ㇳ壱

124

 

 

僕は死んだ。

いや、不死身の存在なのだから、この場合は『消滅した』というのが正しいのだろうか。

僕は消滅した。

消滅した吸血鬼はどうなるのだろうか。死後の世界とやらはあるのだろうか。

まぁ、たとえ僕が人間だったとしても地獄行きだと言うのは周知のことだろう。

ごめん戦場ヶ原……約束、守れなかった……

 

「あのー、アライさん?」

 

吸血鬼が死んだ後のこんな真っ暗な世界まで来てくれて嬉しいが八九寺、

僕の名前を2017年、ダークホース枠として大ヒットしたアニメ作品に登場する、

とにかく前向きなことが取り柄な、アライグマを擬人化した女の子みたいな

名前で間違えるな、僕の名前は阿良々木だ。

 

「失礼噛みました」

 

「違う、わざとだ」

 

「がおー!かんじゃうぞー!」

 

「かまないでくださーい!」

 

わーい、たーのしー!!

 

「あやや……元気そうなのは何よりですが暦さん、大変切羽詰まった状況ですので

起きて下さると嬉しいです」

 

「ん、あれ?文さん?というか僕、生きてる?」

 

「こちらの文さんが間に合わなかったら阿良々木さんは今頃、灰の山になって桜の木に

振りかけられていたことでしょうね。感謝したほうがいいですよ」

 

「なんか真っ赤な花が咲きそうだな、その桜」

 

血染め桜的な。

 

「ちなみにここまで文さんを案内したのは私です。私にも心から感謝した後に崇め奉り、

お百度参りするといいです。」

 

吸血鬼の信仰を受ける神様ってそれはもう魔神なのでは……?

 

「あ、あのっ!八九寺様!?話をそらさないでいただけますか!?」

 

「おっと、そうでした。阿良々木さん、無駄話をしている暇はありませんよ。

こうしている間にも私達は攻撃を受けているのです」

 

八九寺に言われて気が付いたが、僕は今恐らく文さんが作り出したであろう

竜巻の塔の中にいた。

塔の中はそよ風程度に風があり、どうやら外部からの熱と光を防いでいるようだ。

風の向こうに見える真っ黒な太陽。

 

「あれが、奴の奥の手のスペルカード……」

 

使用者を核とし、周囲を焼き尽くすまさに神の炎。

『日符・吸血殺しの黒い太陽』……と奴は言っていただろうか。

 

「ふむ、やはりあれはスペルカードでしたか。先ほどは暦さんを助けるのが最優先で

チラッとしか見えませんでしたが、途轍もない熱量でした。恐らくは『耐久スペル』でしょう」

 

「耐久スペル?」

 

「はい。高い掃討力を持つかわりに、行動制限、時間制限などのデメリットをもつスペルカードのことです。霊夢さんの『夢想天生』や、魔理沙さんの『ブレイジングスター』など、

あとは私が今使っているこの『暴風壁』も耐久スペルです」

 

「へぇ」

 

なるほど、全然わからん。

 

「あやや……さてはあんまり理解してないですね?」

 

「要するにあの太陽が消えた瞬間が最大のチャンスという事です。

阿良々木さん、何か一撃で倒せるような必殺技ないんですか?」

 

「ひ、必殺技……?」

 

「こう、聞くだけで死の呪いが降りかかる怪異譚とか!!何かないんですか」

 

「あるわけないだろ!あったとしてもそれ、僕が生きてる時点でデマだから!

お前こそ神様的パワーでなんとかできないのかよ!」

 

「残念ですが、天界規定により現世に大きな影響を与えることは禁止されていますので」

 

「真面目か」

 

「暦さん!そろそろ敵の耐久スペルが解けます!それと同時にこちらのスペルも解きますのですぐに戦闘準備を!」

 

「え?あ、わ、わかった!」

 

必殺……必ず、殺す技……?

 

 

125

 

 

「さぁ!一体どうやったら抜け出せるかな!?紅魔館のメイドさんよぉ!」

 

「…………」

 

空間転移、いや違う……

これは……結界?

 

「と、なると……」

 

「おやぁ?もう諦めちゃったのかな?がんばれよぉ、メイドさーん!

ほらほらぁ、時間をかければ反転世界も慣れてくるぜ?」

 

あまり気は進まないけど……そんな事言ってられないか。

というか、

 

「うるさいわね。バカにするのもいい加減にしなさいよ、小鬼風情が」

 

『怪符・情報抹消』

 

「え……!?」

 

「外の世界で『仕入れ』をやっていた時によく使っていた事象の書き換えスキルよ。

……あの頃の感覚が戻る気がして進んで使いたくないけど。さて……」

 

暦さんは……あれは、風の塔?天狗の仕業かしら……?

となると暦さんは任せて私は忍さんの方に援軍に行った方がいいかしら

 

「礼を言うわ、天邪鬼。あなたのお陰で頭が冷えた。あのまま私が駆けつけていたら

逆に足手まといになるかもしれなかったしね」

 

「ぐ……」

 

悔しそうな顔をしてこちらを睨み付ける天邪鬼。

妨害に対して礼を言われたことに天邪鬼のプライドが傷ついたらしい。

 

「頭を冷やしてくれたお礼にここは見逃してあげるわ。

……お節介を焼くつもりはないけど、あの男に関わるのはもうやめた方がいい。

奴はあなたを味方とは思っていない。事が起きる前に身を隠しなさい」

 

「…………」

 

「あなたも薄々気が付いているんじゃないの?奴があなたに向ける目が私達に向ける目と全く同じ、別人でも見ているような気味の悪い視線だってこと」

 

「……それが暦の望みだ。幻想郷の全てを、お前らの方の阿良々木暦の世界のモノ

に置き換える」

 

「置き換える、ですって……?」

 

「そう。人里は街に、妖怪の山は天文台に、ちょうど神社もある。博麗神社が北白蛇神社

になるんだろう」

 

「幻想郷を、丸々塗り替えるっていうの?」

 

「土地だけじゃない。人も妖怪も動物も、全部だ」

 

「それじゃあ私も、あなただって……」

 

「んー、まぁ確かに消えちまうなぁ」

 

「じゃあ何故……」

 

「わかんねぇ。あいつの側に居た影響かな、もうとっくに狂っちまってるんだよ私も」

 

「鬼人正邪、あなた……」

 

「ちっ、なーんか冷めちまったなぁ」

 

「そう、じゃあ地上に出て自首でもしてきなさい。小人のお姫様もあなたの事、心配してたわよ」

 

「余計なお世話だー!」

 

舌を出して睨み付けてくる天邪鬼を無視して、忍さんの元へ向かうべく

飛び立った。

 

「『……さて、そろそろかな』」

 

天邪鬼が呟いたその小さな声は、私の耳に入ることはなかった。

 

 

126

 

 

『体は骸で出来ている』

 

 

とある国に生まれた、それはそれは美しい姫。

 

 

『美貌に恋し、心を捧ぐ』

 

 

その美しさから「うつくし姫」と呼ばれ、あらゆる人にもてはやされました。

 

 

『幾年の時を越えて不滅』

 

 

しかし、「見てくれではなく、もっと内面を見てほしい」と願う姫。

 

 

『たった一筋の光もなく』

 

 

その願いを叶えるべく、魔女が「外見と透明にし、内面の有様が他人に見える魔法」

をかけてくれました。

 

 

『たった一人の救いもなし』

 

 

こうして、うつくし姫の心の美しさを目の当たりにした人間は、

 

 

『愚か者は其処に独り、屍の山で涙を流す』

 

 

ある者は感動し、ある者は恋し、ある者は罪の意識を持ち、

 

 

『ならばこの命の罪は重く』

 

 

自らの命を姫に差し出したのです。

 

 

『この体は』

 

 

こうして、うつくし姫の周りには

 

 

『愛しき犠牲で出来ていた』

 

 

姫が愛し、愛された民の死体の山だけが残ったのでした。

 

 

127

 

 

「ぐ……がふっ、な、何を……した……?」

 

竜巻が晴れ、八九寺を連れ、距離を取ろうとした文さんへ襲い掛かろうとしていた奴の手が文さんへ届く寸前で、僕は1つの物語を語り終えた。

その物語の名は――

 

「『童話・うつくし姫』。きっとお前の知らない、忍よりも、キスショットよりも前、あいつが人間だった時の罪の物語だ」

 

聞いた者全てが呪われる怪異譚ではなく、

出会った者全てが自ら命を絶つ物語。

これは、これだけは絶対に、君の知らない物語。

 

「残念だけどお前の物語はここで幕引きだ、阿良々木暦」

 

足元に横たわる男の横に立ち、僕は事の終わりを告げる。

 

「終わり、か……自決とはまた我ながらあっけない負け方だったなぁ、

結局俺は主人公どころかラスボスキャラにすらなれなかったわけだ」

 

僕と同じ顔をしているその男は悔しそうに、しかし今までと違い、やけに晴れた苦笑いを浮かべていた。

 

「……ずっと見てたんだろ?幻想郷の管理者様よぉ」

 

虚空に語り掛ける阿良々木暦。

その声に応えるように『スキマ』が現れた。

 

「御機嫌よう、暦さん方」

 

「紫さん……いたんですね」

 

「よぉスキマ妖怪。満足のいく結末になったかよ」

 

「あら、なんのことかしら?」

 

「……紫さん、あの……!」

 

「暦さん!!」

 

突然目の前に咲夜さんが現れ、張りつめた顔で僕の腕をつかむ。

 

「すぐに来てください!忍さんが!!」

 

僕が吸血鬼になって以来、忍と僕のペアリングは切れている。

でも何故かこの時だけは、忍の身に何が起こったのかわかった気がした。

 


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