幻物語   作:K66提督

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こんばんわ!
最近すっかり不定期投稿になってしまったK66提督です。

いやぁ、もうしわけない!
でも思うのです。
書きたくない時に書いても面白い文章は書けないのではないか、と。

…………。
はい、ごめんなさい。受け売りです。山田エルフ先生の。
しかも僕の場合、書きたいときに書いても面白いとは限らないっていうね。
ははは。(泣)

そんなこんなで書きました。
個人的にはもっとシリアルも混ぜていきたいのですが、物語終盤ということで
なかなかシリアスから抜け出せない

『幻物語 弐拾ㇳ捌』お楽しみ下さい!!


幻物語 弐拾ㇳ捌

111

 

計画は順調だ。

やはり私が予想した通り、いや、予想していた以上にこの男の闇は深い。

自分が殺した愛する女を甦らせる為に、この幻想郷を犠牲にする。

それだけならまぁ、よくある狂愛劇だろう。

大事なのはその後だ。

誰もが不幸で、誰もが理不尽で、誰にも都合の良い。

そんな不安定で、気持ちの悪い、薄っぺらな結末を男は望む。

 

天邪鬼の私が言うのも何だがこの男、実にひねくれている。

世間が右と言えば、上と言う。そんなひねくれ方。

 

「なぁトモダチ」

実に気味が悪い。

「そうだシンユウ」

最低だ!!

「待てよアララギ」

最低で最悪で最凶で!

「聞いてくれよ暦」

吐き気の及ぼす邪悪!

「行こうぜ、相棒。」

最っ……悪だね!!!!

 

 

 

 

予定は順調。

暗い夜に出会った彼女は不思議な魔道具を駆使して僕を手伝ってくれている。

某猫型ロボットみたいだ。と言ったら怒られた。

彼女は僕の考えにとても共感してくれた。

この地であの春休みをもう一度やり直す。

そしてあの男、あの幸せそうにヘラヘラと笑いを浮かべていたもう一人の化物と

同じ運命を辿るのだ。

全員が幸せに、みんなが笑っている世界を作る。

それが僕の願い。

 

なぁトモダチ

「なんだよ妖怪」

そうだシンユウ

「どうした妖怪」

待てよアララギ

「早く来いよ、妖怪」

聞いてくれよ暦

「ホントか?妖怪」

行こうぜ、相棒

「あぁ、行こう。妖怪」

 

 

みんなが笑う僕の世界に、笑えない奴は要らない。

 

 

112

 

 

あれから二週間が経った。

奴に目立った動きはなく、僕は咲夜さんや美鈴さん、忍達に日々刀を使った近接戦闘の

稽古をつけてもらっていた。

 

「じゃあ互いに飛行は禁止。弾幕や能力の行使は……まぁアリでいいじゃろ。

双方、準備はいいかの?」

 

「ばっちこい」

 

刀に手を掛けて、気持ちを戦闘モードに切り替える。

 

「問題ありません」

 

対するは咲夜さん。

いつものメイド服ではなく、ピッタリとしたストレッチスーツのようなものの

上から、体が覆い隠されるくらいの大きな外套を羽織っている。

全体に黒い恰好なので、咲夜さんの銀髪がとても美しく映えていた。

 

「それでは……」

 

忍が試合開始の合図を始める。

 

「咲夜さん咲夜さん」

 

「何でしょう?」

 

「ぴっちりスーツって、何だかえっちですよね」

 

「っ!?」

 

「始め!!」

 

『怪異譚・おもし蟹』

 

「きゃっ!?えっ?えっ!?」

 

時間を操る咲夜さんに対抗するには、初手必殺しかない!

 

「うわぁ」

 

なんか忍のドン引きする声が聞こえるけど知らん!

 

「咲夜さん、すみません!」

 

ザシュッ

 

布を裂く鋭い音。

吸血鬼の力で振り払われた刀は、

見事に黒い外套のみを切り裂いた。

 

『そして時は動き出す――』

 

ドスッ。

 

…………い

 

「痛てぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!」

 

『世界。』

 

ドスッ。

 

『世界。』

 

ドスッ。

 

『世界。』

 

ドスッ。

 

「ぐ、ぅううううううううううううう!!!!」

 

短く、冷たい言葉が響く度、僕の身体に刺さるナイフの数が増えてゆく。

 

5本。10本。20本。

35本目。

 

念入りに手入れされたナイフが僕の心臓に突き刺さったところで、

咲夜さんの攻撃の手が止まった。

 

「……暦さん、いつまでそうしているつもりですか?私もずっと同じ事をしていると

くたびれてきてしまうのですが」

 

「いつまでそうしてるはあなたの方よ、咲夜」

 

「……?っ!?な、」

 

―—カランッ

 

と、音をたて落下するナイフ

 

「今のは、幻覚ですか……」

 

目頭を押さえてふらつく咲夜さん

 

『怪異・狐火』

 

元々は何もない所にいきなり火の玉が浮かぶ怪異。

僕の語る『狐火』は何もない所に何かあるように見せる、つまりは幻覚を見せる怪異という

ように改変されている。

 

「おいおい、起こすのは反則じゃろ」

 

「だってこのままじゃつまらないじゃない。ほら咲夜!ボーっとしてないでさっさと本腰入れなさい!」

 

「ありがとうございます、お嬢様。……対人戦ではもう二度と使うまいと思っていたのですが、暦さん相手ならば不足はありません」

 

そう言うと咲夜さんは先ほどまでは使っていなかった

一回りほど大きいナイフ、もといダガーを両手に構えた。

 

「暦さん、イギリスはロンドンで語られる殺人鬼の逸話はご存知でしょうか?」

 

「え?……あぁ、『切り裂きジャック』の事ですか?でもあれって半分作り話みたいな……」

 

「そうなんですよ。殺人鬼だとか臓器収集癖を持った変態だとか」

 

 

 

――――――私はただ、お嬢様のおやつを仕入れに行っていただけなのに。

 

『真相・夜霧の殺人姫』

 

彼女の手には、いまだ鼓動を続ける 『 心臓 』 が握られていた。

 

 

 

113

 

 

「さ、咲夜さん、それは……?」

 

いつか見た光景。

 

「貴方の心臓です。暦さん」

 

春休み、あのアロハ男もまた、吸血鬼の心臓を片手に握っていた。

 

「時間操作の応用で、暦さんの心臓を空間ごと抜き取りました。切り取ったわけではないのでまだこの心臓は暦さんと繋がっています。……ですが」

 

グッ……

と、咲夜さんが少し握る力を強めただけで、僕の脳、そして全神経に激痛が走る。

 

「痛、う……ぐぅ……」

 

「獲物に抵抗されると要らない傷を付けて鮮度が落ちてしまうので、

こうやって少しずつ心を壊して、自分から死を乞うように仕込みを施します。

というわけで暦さん、精神的に死なないうちに降参して下さい」

 

「なんだか私のわがままであんな事させてたかと思うと少しゾッとするわね……」

 

「いや、なんでゾッとなんじゃ。反省しろよ」

 

「あんただって今まで食べてきた人間の数なんて数えてないくせに」

 

「300、飛んで2人じゃが」

 

「なんで覚えてんのよ!?逆に怖いんだけど!!」

 

「クリス、メアリー、ミカ、レミリア、ボブ、ジョニー、マイケル……」

 

「絶対適当に言ってるでしょ!?……あと途中で私の名前出さなかった?出したわよね?」

 

「出してない」

 

レミィと忍がまたギャーギャーと言い争いを始めている。

 

「……ははっ、なんだか外野が盛り上がってるな」

 

「暦さん、早く降参してください。私だってこんなこと長く続けたくないんです」

 

その言葉と共に、咲夜さんの手の力がより強くなる。

 

「うっ……ダ、ダメですよ……咲夜さん、こういう戦法をとるなら、非情になりきらないと」

 

そういうのを負けフラグって言うんだぜ。

 

『 神童・机上の数論 』

 

唱えたのはスペルカード。

咲夜さんが時間を操るのなら、僕は――――――

 

「空間を支配する!!」

 

「っえ!?」

 

突然のスペルカードの発動に警戒した咲夜さんが僕の背後に周る。

 

のに対し、僕はバックステップで咲夜さんとの距離を詰め、心臓を取り返した。

 

「そんな……時間を止めたはずなのに何故私の動きが……」

 

再度の幻覚を疑ったのか、咲夜さんが自分の手の甲をつねって言った。

 

「幻覚なのか、それとも現実なのか、嘘か本当か。そんな言葉遊びも

面白そうだけどこれは現実、虎の子のスペルカード、『神童・机上の数論』です」

 

まだ咲夜さんに教えるわけにはいかないが、このスペルカードは

僕を中心とした半径約100m以内の空間を机上とし、そこに数式を立てて解を出す。

 

咲夜さんが現在、時間を停止し、行うこと、止める長さ、時間停止解除後の出現位置などを

予測演算、実際に起こった事象と瞬時に照らし合わせて誤差を修正し、対応する。

 

ちなみにさっきのバックステップは予測より左に5cmほどずれた。

 

「スペルカードは弾幕を発生させるためにあって特殊能力を発動させるものでは無いのですが……」

 

「えっ」

 

動揺し、気の緩んだ僕の額に投げられたと思われるナイフの先が触れる寸前に、

僕はリンボーダンスのように後ろに反る。

 

「くっ……」

 

『 咲夜の世界 』!!

 

咲夜さんのスペルカード発動する寸前、

『 机上の数論 』によりはじき出された解に僕は苦笑いを浮かべる

 

解:<時を止めている間に四肢の空間を抜き取る>

 

そう。このスペルカードはあくまで予測ができるだけで、時間が止まっている間はどうしようもない。されるがままなのだ。

うーん、これは詰みかなぁ……

 

「む……また嫌なものを思い出させるような……」

 

忍が心底嫌そうな顔でぶつぶつ文句を言う。

 

「まいった!飛行禁止だし、これじゃあどうしようもない!」

 

いつかのキスショットのように、手足のない状態で地べたに転がりながら僕はキメ顔でそう言った。

 

 

114

 

 

あの男は何者なのだ。

急に現れたかと思ったらこの屋敷を、正確にはこの屋敷で管理している旧地獄の

エネルギー源をよこせと言う。

目的を探ろうと心を読もうとしたが、その瞬間に本能が拒否反応を起こした。

 

この男には関わっていけない。

この男の深層心理には踏み込むべきではない。

さもなくば心を読んだコチラが奴の闇に呑まれることになる。と、

本能が激しく訴えかけてきた。

 

「ここが旧地獄か、あんまりパッとしねぇなぁ」

 

鬼人正邪。彼女の心から間接的に目的を探ろうともしてみたが、ダメだ。

この天邪鬼は心の底から嘘やハッタリだらけで、ちっとも信用ならない。

まさに天邪鬼。

 

「じゃあ案内ありがとね、お嬢さん」

 

「あなた……一体ここで何をするつもり?ここは地霊殿が責任をもって管理している場所。

事によっては好き勝手なことさせるわけにはいかないわ」

 

私の言葉に男は目を細めて、恐ろしいことを言い出した。

 

「覚り妖怪だと思ってわざわざ説明しなかったんだけど……お嬢さん覚りじゃないの?

……まぁいいや。隠すようなことでもないしね。僕はここに地獄を作るんだ。ここにある

エネルギーを種火して時空に歪みを入れて、春休みの時空軸とここの時空軸を繋げる。

欲を言うとあのメイドさんの力も貰っときたいんだけどまぁなんとかなるだろ」

 

言っていることの半分くらいは理解できなかったのだが、一点どうしても

聞き逃せない箇所があった。

 

「時空に歪みを入れるですって……!?そんな事をしたらこの地底どころか幻想郷全域に

影響が……!」

 

「うん。被害は出るだろうね。少なくとも普通の人間、動物は死ぬんじゃないかな?

よくわかんないけど」

 

「よ、よくわからないって……」

 

殺される。このままこの男を放っておいたらこの幻想郷に生きる全ての生命が全滅の危機

に陥ってしまう。私や他の力のある妖怪ならなんとか致命傷くらいで済むかもしれないが、

あの子達、地霊殿で飼っているあの子達は確実に死んでしまう。

 

止めなければ。

 

「そ……」

 

守らなくては。

 

「ん?何かなお嬢さん?」

 

私はあの子達の主人なのだから。

 

「そんな事」

 

どこから取り出したのだろうか。男が刀の柄に手をかける。

 

「そんな事……!」

 

男は裂けた笑いを浮かべて刀を構え……!

 

「そんな事させるかよ」

 

ギィィイイン!!

 

と黒く、禍々しい邪気を放つ刃は鬼の鋼の肉体に弾かれた。

 

「ゆ、勇儀さん……!!何故……!?」

 

「こいしが慌てて私の所まで教えに来てくれた。よく頑張ったな、さとり。あとはアタシに任せな」

 

こいし。その名前を聞き、私は感極まって泣き出してしまう。

あの子が……!!

 

「……チッ、今度は地獄の鬼さんが相手かよ。毎度毎度鬼ばっかり、いい加減にしてくれよな」

 

「安心しろ。手前に今後なんてもんは存在しねぇ。ここで死んでもらうぞ。

幸いここは地獄だしな」

 

「生憎だけど、まだ僕は死ねないなぁ、殺り残した事があるんだ」

 

この状況でも男は余裕そうにヘラヘラと軽口を叩く。

 

「鬼の四天王が一人、怪力乱神こと星熊勇儀!!推して参る!!」


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