幻物語   作:K66提督

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すらまっぱぎー、K66提督です。

ペースを上げようと頑張ったらむしろ遅くなってしまうという……
情けないです……

前回に比べると少し長めになっています。

皆さまにも満足していただける内容になってればいいな、と思います!

それでは『幻物語 拾ㇳ捌』をお楽しみください!


幻物語 拾ㇳ捌

071

 

―――――それでですね、やっと見つけた翼先輩がどうしていたかというと……」

 

「おいお前様。『分身を作る』という案を出した儂が言うのもなんじゃが……さっさと消してくれんか、ちょーうざいんじゃが。」

 

「ひどいなぁ、忍ちゃんは。せっかく私も顕現したんですから。せめて今日一日は自由にさせてもらいます。まったく、忍ちゃんは可愛いなぁ。影の中に入れても痛くないくらいだ。」

 

僕の吸血鬼性を抑えるにあたって、僕は分身を作りだした。

僕こと『阿良々木暦』の分身、つまりは『忍野扇』である。

 

「ええい、わかったからやめろ!いつまで儂を抱いておるつもりじゃ!!」

 

「ねぇねぇ、お姉さんは誰なの?」

 

「ん?あー、そういえば貴女とは初対面でしたね、私は忍野扇といいます。フランドール・スカーレットさん。どうぞ扇ちゃんとお呼びください。」

 

「オウギ……ちゃん……?」

 

「ええ、ええ。そうです。」

 

「んで?扇ちゃん。さっき言ってた羽川が―――って話の続きは?」

 

「え?知らないんですか?阿良々木先輩。他ならぬ私が知っているのに?」

 

「知らねぇよ。今の話は君が『忍野扇』っていう一人の人間になった後の話だっただろうが。

君が羽川を世界中にわたって追いかけ回してた時の」

 

「黙りなさい、この愚か者めが。私は翼先輩を追いかけてなんていません。私の行く所に必ず翼先輩がいるってだけです。先回りされているだけです。」

 

「そうかよ」

 

まぁ、この子には反論しても勝てないだろうから別にいいや

 

「それで……なんでしたっけ。あぁ、そうです。翼先輩の話ですね、えぇっと……あれです。あれはどこの国だったか、とにかくその場所で翼先輩を見つけた時、そこにもう『羽川翼』はいなかったんです。」

 

「お、おい、つまりそれって……」

 

「いやいや、別に亡くなったりしませんよ?むしろ幸せそうに、彼女は『家族』と一緒に笑ってましたから。」

 

「…………は?」

 

「結婚してました。翼先輩。エピソード君と。」

 

「はああああああああああああ!!!?」

 

「やっぱり普通じゃないですよね、あの方は。自分を殺しかけた人、というかヴァンパイアハーフと結婚するとか。文字通り腹を割った仲ってことなんですかねぇ?」

 

「え、エピソードってあのエピソードだろ!?なんでアイツがっ!?ぼ、僕は何も聞いてなかったぞ!!?」

 

「いやいや、阿良々木先輩。なんで翼先輩が結婚するのに貴方にいちいち報告しなきゃいけないんですか。あの方の人生はあの方が決めるものでしょうが」

 

「いや……でも……」

 

「もういいでしょう、少なくとも翼先輩は幸せそうでしたし、幸せと言っていました。彼女が阿良々木先輩に何の報告も入れなかったのは相手がエピソード君で、心配が先輩、もとい先輩が心配すると思ってでしょう。」

 

幸せ……か……

 

「あ、寺子屋とはあれではないですか?阿良々木先輩。」

 

「え?あ、あぁ、ホントだ。多分あれだよ。」

 

いや、間違いなくあれだろう。

 

「あれじゃろうなぁ」

 

そこには、神獣の角と思われる装飾のついた、立派な門を構える建物があった。

 

「趣味悪いですねぇ」

 

君もまともなセンスを持っているとは限らないぞ。扇子は持ってそうだけど。

 

072

 

「よく来てくれた。歓迎するよ、阿良々木君。」

 

「おはようございます。慧音先生。」

 

「おいおい、君は私の生徒ではないだろうに。もっと気軽に、慧音でいいさ」

 

「よう、来てやったぞ、慧音。昨日ぶりじゃな。」

 

「やぁ、昨日ぶり。フランドールも。」

 

扇ちゃんに抱えられる忍と僕の背中にへばりつくフランと順にしっかり目を合わせて挨拶する慧音先生。

 

「それで、そちらは……」

 

「どうも初めまして、私は忍野扇といいます。上白沢慧音さん。半人半神獣だなんて中途半端な存在、私からしたら非常に歯がゆいのですが今日のところは何も手を出さないでおくので安心してください。」

 

「忍野……つまりは忍さんの血縁か何かか……?それに私がワーハクタクだということは……」

 

慧音さんは僕に疑問と疑念の織り交じった視線を向ける。

なんで君はそう胡散臭い自己紹介しかできないんだ、扇ちゃん。

 

「僕が教えたってわけじゃないんですけど、その……僕が聞いたということは、扇ちゃんが聞いたということでもあるというか……」

 

「は?」

 

「『阿良々木暦』と『忍野扇』。イコールではないんですが、ええっと、なんて言えばいいのかな……」

 

「私は言うなれば『阿良々木暦』の嫌な所、なんですよ慧音さん。」

 

「…………」

 

僕は沈黙する。

 

「曲がったことが嫌いで、嘘が嫌いで、ご都合主義が嫌いで、自分が、嫌い。」

 

嫌いと嫌いが嫌いで嫌いの嫌いへ嫌いな嫌いは嫌いを嫌い。

 

「扇ちゃん……」

 

「私は阿良々木先輩が切り離した自己嫌悪と自己犠牲でできているどこにでもいる女子高生です。上白沢慧音さん。」

 

「そうか……、しかしまぁ、理解した。よろしくな、忍野扇さん。」

 

「おや……意外ですねぇ、ここまで正体を明かしてもあくまで友好的に接してこられるとは。大抵の方は不気味がるんですけどね。」

 

「ふむ、しかしまぁ安心したまえ扇さん。君はこの幻想郷において、およそ特別というわけではないよ。」

 

「はぁ。」

 

「私だって二重人格のようなものだし、自分も他人も隣人も友人も恋人も、全てが嫌いで気味が悪くて君が悪い。そんな事を言う奴がたくさんいる。それでも皆そんな自分を、そしてそんな周りを受け入れて生きている。

 

『幻想郷は全てを受け入れる。』

 

歓迎するよ、扇さん。ようこそ幻想郷へ。」

 

073

 

「つまりここはこうなるのがそうなるので……」

 

「せんせー!もう時間でーす!」

 

「む、そうだな。じゃあ今日の授業はここまで。今言ったところ、明日までにしっかりできるようにしておくこと!」

 

「「「はーい!」」」

 

久しぶりに学校の授業ってのを見たなぁ……

 

「お待たせ暦。どうだった、幻想郷の授業は」

 

「慧音さん。」

 

「うーん……君の方が圧倒的に年上なんだし、敬語もできればやめて欲しいんだが……まぁいいだろう。で、どうだった?」

 

「あ、はい、なんだか懐かしい感じになりました。それに妖精の子たちも案外すんなり僕のこと受け入れてくれたみたいで、嬉しいです。」

 

「ははは……そのようだな……」

 

「ねぇ暦!アンタ吸血鬼なんでしょ!?じゃあ湖の吸血鬼とどっちが強い!?」

 

「…………。」

 

「ちょ、ちょっとサニー!その湖の吸血鬼の妹がすっごいこっち見てるんだけど!?」

 

「おい暦!昨日の約束どおりアタイと勝負しろ!!今度は負けないからな!」

 

初めは皆警戒していたのだが、(突然吸血鬼が三人もやってきたのなら当然だ)チルノが話かけて来てくれたお陰で、僕や忍、フランに対しての警戒が少しずつほぐれていった。

 

結果、現在僕はジャングルジム状態である。

阿良々木=ジャングルジム=暦。

 

「あの阿良々木先輩。私は吸血鬼じゃないはずなのに何で私だけ警戒度数が下がらないんでしょうか。おかしいですねぇ、不思議ですねぇ。先ほど慧音さんの言っていたことと全然違う気がするのですが」

 

「本能じゃねぇの?」

 

きっと生物としての本能が扇ちゃんを危険だと判断しているのだろう。

正しい判断である。

 

「幼い者の方が聡いというのはよくある話じゃ。まぁこいつは常にウザさが滲みでとるからの、危険でなくとも近寄ったりせんわい。」

 

「なるほど、あー、傷ついちゃったなー、なんか騙されちゃった気分だなー。帰ろっかなー。」

 

「え、帰るって……それは困るよ扇ちゃん。」

 

それじゃそもそも君を呼んだ目的が……

 

「いや、もう決めました。帰ります帰ります。先輩の中に。吸血鬼性?知りませんよそんなの。自分でなんとかしてください。ふふ、――――まぁ私も阿良々木先輩も、『自分』なんですけどね。」

 

そう言って扇ちゃんは闇へと消える。

影ではなく、闇へ。

 

心の闇へと――――忍野扇は、消える。

 

それはもう、心底楽しそうに。

 

「――――ヒッ……!?」

 

「ん?みんなどうしたんだ?」

 

「あー、えっと……マズいな、」

 

僕を遊具にして騒いでいた妖精、妖怪の子たちが、揃って慧音さんの後ろに隠れてしまう。

突然吸血鬼性が戻ってしまったせいでやはり恐怖が生まれてしまったようだ(チルノはくっ付いたままだが)

 

「あ、阿良々木君……」

 

「すみません慧音さん。なんとかするんでそれまでその子達を安心させてあげてください。」

 

「あ、あぁ、わかった。元からそのつもりだ、任せてくれ。」

 

チルノをはがし、子供達を慧音さんに任せ、僕達は一旦教室を後にする。

 

「さて、どうしたものかな……」

 

「どうしようもこうしようも、あいつではない別の何かを作るしかないじゃろ」

 

「別の何か……ねぇ……」

 

「なんじゃ、気が進まんのか?」

 

「気が進まないと言えば……まぁその通りなんだけど……」

 

「だったらさっさとやればいいじゃろ。ほれ、後輩でも先輩でも幼馴染でも妹でも姉でも幼女でも少女でも童女でも熟女でもなんでもいいからさっさと作ればよかろうよ。」

 

「なんで女の子限定なんだよ。」

 

正確には熟女は女の子に含まれるのか微妙だが。

 

「扇ちゃんはさ、もう存在してるから、存在させてしまったから今更何も後悔とかしてないよ。でもその……僕の都合の良いように、僕の都合の悪いことを押し付けるためだけに命を生み出してしまうっていうのは、どうなのかなって……」

 

都合良く、目を背け、棚にあげて、全てを忘れて、押し付ける。

そんな相手をこれ以上増やしてはいけないし、そもそも一人として作るべきではないのだ。

自分の責任は自分にしかとれないのだから。他の誰かに肩代わりなど、してもらうべきではない。

 

「ふむ……まぁ確かにこれ以上忍野扇みたいなウザいのが増えるのは迷惑というか、うむ、ウザいの。」

 

そんなウザいウザい言わないでくれよ……あの子も僕の一部なんだ……

 

「しかしてどうするよお前様。分身を作るのが嫌だというなら何か代案を考えなくてはいかんじゃろう」

 

「結局ふりだしに戻る、かぁ……」

 

『なぁ……あれって……』

 

『やだ、妖怪……?』

 

しまった、里の人達も気づき始めてしまったようだ

 

「まずいな……このままじゃパニックになるぞ……」

 

「ん……いや、お前様よ。ここはいっそパニックになってもらった方がよいのかも知れんぞ?」

 

「は?おいおい忍、いいわけないだろ。そんな事したら霊夢に……」

 

「そう、異変になればあの巫女が制裁に来る。むしろそれが狙いなのじゃ。」

 

な、何を言って……?

 

「おいフランドール。たしか紅魔館では食事で人の血を摂る時もあるんじゃったな?」

 

「え?う、うん。たしか里の人達から貰ってるって咲夜が言ってた気がするけど……」

 

「ここで一つクイズじゃ、お前様。人間とは言っても悪魔の館に住んでいるあのメイドは一体何故、どうやって、血液なんていう本来販売されているようなモノではない品を手に入れられると思う?」

 

「え、だからそれは、きちんと相手の同意を得て、それ相応の対価を支払って、つまりは取引をして血を手に入れているって話だっただろ?」

 

「では悪魔の従者であるあの女は何故儂らのような扱いを受けず、正当な契約を結べたのかのぅ?」

 

「それは……えっと……」

 

「――紅魔館の住人が一度私に退治されているから。でしょ?」

 

突如聞こえた声の主は、紅白の巫女服に身を包み、僕達の頭上を浮かんでいた。

 

074

 

「れ、霊夢!?」

 

「はぁ……だからバレんなってあれほど言ったでしょーが……見たことない妖怪が里に居たりすると皆大騒ぎして私の所に連絡よこすから、こうして来ないわけにはいかなくなんのよ。ホント面倒ったらありゃしない……」

 

妖怪退治してお賽銭が増えるってんなら喜んでやるけどさ……

と愚痴を垂れる。

 

『み、巫女さん!そいつ妖怪だろ!?早いとこ追っ払っちゃってくれよ!』

 

どこからかそんな声が聞こえた。

ヴァンパイアハンターに追われていたときに散々受けていたがやはりはっきりとした拒絶というのには堪えるものがあるな……

 

「……ま、そういうわけだから、適当に弾幕戦やっちゃえば皆安心して騒いだりしなくなるから。早いとこ終わらせちゃいましょ」

 

「た、退治されろってことかよ……?」

 

「うん。忍の予想どおり、私が退治した妖怪には里の人間から無害認定、というか悪く言えば嘗められる。『コイツが暴れても博麗の巫女に任せればどうにでもなる』ってね。まぁよっぽど情けないやられ方でもしない限り大丈夫だろうけど。」

 

「怪異は、妖怪は人々に畏れられてこそ存在できるんだぜ?嘗められるなんてたまったもんじゃない。」

 

「だからそうならないようにせいぜい私に本気を出させてみなさいよ、博麗の巫女といい勝負をしたって箔が付くわよ?」

 

「箔……?」

 

「そ、人間から妖怪、妖精、神様に至るまで、博麗の巫女を知らない奴はそうそういない。

私を苦戦させたってのは妖怪達にとっての一種のステータスみたいよ?私も最近知ったんだけどね。レミリアとかはそういう理由でまだ少しは恐れられてるみたいだし。」

 

「ステータス……」

 

「ま、結局どいつもこいつも弾幕ごっこで遊びたいだけ。どうせアンタ達の事だって本気で怖がってなんてないのよ。」

 

娯楽、お遊び、ゲーム。見せ物よ。

 

お気楽そうに笑う霊夢の周囲に、もはやお馴染みの御札、そして対極図を立体の玉状にしたような物が複数現れた。

初めて会ったときにはなかった武器だ。恐らくあれが妖怪退治に臨む時の霊夢の正しい装備なのだろう。

 

「さて、ギャラリーも集まってきたことだし、そろそろ始めましょうか」

 

「忍、今回の勝負、僕に任せてくれないか。試してみたいこともある。」

 

「好きにせい、どのみち儂は弾幕は好かん。」

 

僕は忍とフランを安全な位置まで下がらせる。

 

「お兄ちゃん、頑張ってね!!」

 

「あの玉、札よりも高い退魔の気を感じる。札の方はいくつか当たっても痛いで済むじゃろうがあれは全力で避けた方がよい。不死性ごと削りとられかねんぞ。」

 

忍とフランに目で返事を返し、僕は気を引き締める。

退治されてしまえば無害認定を受けられる。しかし、誇り高き吸血鬼として簡単にやられるわけにはいかないだろう。怪異は『らしく』あれ。だ。

 

「そういえば前に勝負したときはアンタじゃなくて忍が相手だったわね。せっかくだし修行の成果、見せてもらおうかしら!!?」

 

「っ!!!」

 

『霊符・夢想封印』!!!

 

大捕り物、紅白巫女の吸血鬼退治は彼女のスペルカード発動と同時に開幕した。

 

 


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