デーモン・ゲート 魔物娘、彼の地で斯く蹂躙せり   作:イベンゴ

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仕切り直しになりますが、大筋はそんなに変わりません

魔物娘万歳もの。


※(仕切り直し) その1、日本と魔界と世界と

 

 

 

 雲の少ない快晴の休日だった。

 東京秋葉原の上空に、それは忽然と現れた。

 赤く輝く無数の文字や数字らしきもので構成された円形の巨大発光体。

 もっとわかりやすく語ると、赤い魔法陣が出現したのである。

 ちなみにファンタジーで定番といってもいい魔法陣は日本独特のものだそうだ。

 遡ると水木しげる御大が『悪魔くん』の中で登場させたのが最初で、そもそもオリジナルと

言うべき魔法円は呼び出した悪魔から身を守るためのものらしい。

 

 それはさておき。

 

 赤い巨大な魔法陣から真っ黒な船が出現した。

 凄まじく巨大な船体である。

 それはちょうど空母のような形状をしていたが、サイズが尋常ではなかった。

 地上の人間にはそれが船であると認識できなかったほどだ。

 空に浮かんでいるわけだから、船だとは思わないのは普通かもしれない。

 後で明らかになることだが、その船の全長は2630メートル。幅は390メートル。

 化け物のようなサイズだった。

 

 さらに。

 

 空飛び空母周辺には、無数の空飛ぶ者が群れて飛び交っていた。

 その飛行する者は黒や赤など色とりどりの翼を羽ばたかせ、頭には角があった。

 この角もまた、各自で個性があったようである。

 コウモリのような翼に、角。尻尾。

 

 悪魔。

 

 まさにイメージ通りの悪魔そのものの姿をしていた。

 唯一違うのは、そいつらが全員美しい女性であったことだろう。

 日本のオタク文化的に言うなれば、悪魔っ娘である。

 巨乳爆乳の熟女から、色んな団体から抗議の来そうなロリタイプからまで千差万別。

 そんな非現実的なモノが無数にアキバ上空に出現したのだからたまらない。

 人々は呆然としてその闖入者を見上げるだけだった。

 中には半ば無意識に画像映像を取り、ネットにあげる者も。

 白昼堂々の出現だから当然目につき、たちまち警察の出動となった。

 出動した警官たちもひどく困ったことだろうが。

 

 情報はあっと言う間に拡散し、日本中、世界中がこの船に注目した。

 やがて空飛ぶ悪魔娘が地上に降り始め、積極的にコンタクトを取り始める。

 悪魔娘たち、実に流暢に日本語を話すことができたのだった。

 いや、日本語ばかりでなく、英語から中国など様々な言語をネイティブばりに話した。

 やがて、日本政府はこの闖入者たちとの対話の結果、次のような答えを得る。

 

「私たちは魔界から友好を求めてきました」

 

 代表として人間たちの前に立った銀髪の悪魔娘は嫣然して言った。

 彼女たちは異世界――魔界から来た、魔族であり地球の住む人間と交流するべく使者として

やってきたと語る。

 

 銀髪の魔物娘は、アルフォンヌ。

 魔界の第四十七王女、魔王の娘リリムの一人と名乗る。

 

「まずは現状で唯一ゲートを開くことのできる土地、この国と友好を得たい」

 

 そう言って、アルフォンヌは山のような贈り物を日本の贈呈した。

 黄金の魔物娘像。銀製の食器類。まっ黒な美しいドレス。輝く宝石の数々。

 一つとってもひと財産になりそうなものばかりであった。

 

 この宇宙人ならぬ異世界人の来訪に、世界中は沸き立った。

 

「私たちは日本人と魔族が隣人同士、いえ、夫婦として仲睦まじく暮らせることを願います」

 

 記者会見の席でアルフォンヌはそう宣言した。

 それがすなわち、魔王――魔界の意思であると。

 

 超親日路線で迫ってくる魔界に対して、日本政府は困ってしまった。

 いくら美女ばかりで友好的とはいえ、相手は得体の知れない存在である。

 また彼女らの存在自体が大きな波紋を呼んでいた。

 

 魔族、すなわち悪魔。

 

 

 科学者は、

 

「あくまで空想上の悪魔に酷似した姿」

 

 という意見を出しているが、彼女ら自身が魔族だと言っている。

 

 アメリカではキリスト教原理主義者が反魔族を叫んで、デモを起こした。

 銃弾が飛び交い、死傷者すら出した物騒なデモである。

 

 これに対して魔界側はすぐに会見を開き、

 

「アメリカとは付き合わない。それでいいでしょ」

 

 というような意味のことを言った。

 魔界としては下手に刺激するのではなく、様子見の意味でそう言ったらしい。

 

 しかし、困ったのはアメリカ政府。

 ある意味宇宙人とも言える存在から拒否されたのだ。

 魔法と言う未知のテクノロジー? を持つ魔界との付き合いができない。

 それは交流を持つ他国に遅れを取るということである。

 現に、この時中国やロシアが競って魔界と交渉を開始していた。

 魔界側もそれは望むところだったらしく、それに応じている。

 アメリカ政府は大統領が長時間の情熱的演説をぶつことで、どうにか反魔族の声を抑えて、

魔界との交渉を開始した。

 しかし、日本のような堂々したものではなく、あくまで水面下でのものだった。

 

 さて、何故魔族が最初に日本を訪れたのか。

 

 それは彼女らの言葉通り、魔界と地球をつなぐゲートが日本にしかつながらなかったから。

 これは魔界にとっても早急に解決すべき問題であり、すぐに魔王軍・魔術部隊たるサバトや

魔法に長けたリッチ、ダークメイジを招集して研究に着手した。

 魔術師たちはこぞって、

 

「魔界からの研究では限界があります。ともかく現地で研究しないと」

 

 という意見を出し、魔王もそれにうなずいた。

 

 

 だが……ここで大きな問題が発生。

 

 魔術にもっとも長けたサバトの構成員。

 バフォメット、魔女。

 彼女らはみんな少女の姿をしている。

 しかも、日本行きに志願をするのは、夫を求める者ばかり。

 これはまずかった。

 バフォメットはまだいい、

 山羊の角、獣毛を持つその姿は少女とはいえ、人間ではないことをアピールできる。

 それでも彼女が成体であることを人間側に納得させるには骨が折れたらしい。

 というより、現状では納得させられていない。

 だが、それ以上に問題なのは見た目は完全に人間の少女としか見えない魔女たちだ。

 彼女たちをホイホイ入国させれば、たちまち男性とそういう関係になる。

 それは最初にやって来た魔族――サキュバスたちで十分に証明されていた。

 悪魔娘という外見のサキュバスは成人女性然とした姿の者も多い。

 その角、翼、尻尾でバフォメット同様人間ではないと主張できる。

 しかし、魔女はそうはいかないのだ。

 いくら本人が望もうが、未成年……のようにしか見えない彼女らと恋人関係になることは、

法律上許されない。

 これには日本政府だけではなく、他の国々も大いに困った。

 秘密裏に入国させて秘密裏に研究という意見もあったが、もしもバレた時にどういう炎上が

起こるか分かったものではなかった。

 

 大体バフォメットやロリタイプのサキュバスもまずいといえばまずいのだ。

 散々議論はされたが、余計な問題の発生を恐れた日本政府の意見もあって、サバトの入国は

無しとされた。

 その代わり、リッチやダークメイジに頑張ってもらうということになったのだ。

 

 だが、引きこもり体質の多いリッチや自分本位の多いダークメイジでは圧倒的に研究機関の

統制が取れない。

 おかげで遅々として研究は進まないのだった。

 

 しかし。それが次なる問題を起こした。

 アメリカや日本が手をこまねいている間、中露など他の国が魔界との交渉を進め、自国内に

魔界とのゲートをつなげる研究を開始したのである。

 

 ここで大きな結果を出したのだが、中国だった。

 魔界と巨大なゲートを地上に開くことに成功したのである。

 場所は魔界の中では、『霧の大陸』と呼ばれる地域だった。

 そこは中華文明とよく似た文化のある場所で、何をとち狂った中国は、

 

「うちに似ているということは、昔うちの領土だったに違いないアル」

 

 という主張をして、ゲートから軍を侵攻させたのだった。

 だが、この無茶苦茶な行動の結果はというと――

 

 まず結論として侵攻した軍は誰一人国に帰れなかった。

 

 近代火器で武装した軍は、何の役にも立たなかったのである。

 正確には、その武器が。

 

 まず戦闘機や戦車の電子機器は魔界に入ってすぐに全滅した。

 続いて火器も使用不能になり、あわてて戻ろうとしたもののゲートは閉じられてしまう。

 そして、二度と開くことはなかった。

 

 中国はあわてて、

 

「我が国から拉致した人間を返すアル。謝罪と賠償を要求するアル」

 

 と魔界に要求するが、その後交渉の窓口が開くことはなかった。

 中国内のダークメイジや魔女たちも全員魔界に帰ってしまう。

 

 その後、中国の暗部情報が世界中に拡散し、世の中を震撼させる。

 この騒ぎの背景には、情報操作を得意とするラタトスクたちの暗躍があったらしい。

 

 大小の差はあるもののあちこちで似たような問題が起こり出した。

 

 ロシアでは地理的に相性が良いのか、氷の女王率いる氷の精霊グラキエスたちと交渉を重ね

ついには彼女らの住まう雪山の採掘権を得る。

 そこには数々の地下資源が眠っていることがわかったのだ。

 

 が、採掘作業に訪れた者たちはみんなグラキエスたちにさらわれ、採掘は全く進まない。

 それは別に妨害をしようというより、人間を求める精霊たちの本能が働いたに過ぎない。

 人員を送り込んでも送り込んでもみんな帰ってこない。

 ロシアはこのことを大々的に魔界側へ抗議したものの、

 

「別に悪いことしてないでしょ」

 

 という返事。

 

 結局氷の精霊たちの交渉を打ち切り、他の勢力との交渉に切り替えるしかなかった。

 だが、問題は終わらない。

 『研究』のために魔界から連れ帰った大量のグラキエスたちが逃げ出したのだ。

 というよりも、元々人間に拘束できる存在ではなかった。

 逃げ出したグラキエスたちは人間を捕まえて夫とし、雪山や森林に隠れ潜む。

 やがて小型のグラキエスたちが大量にロシア国内に目撃されるようになるのだった。

 

 これがロシアを悩ませる問題となっていく。

 

 

 また中東のある国では、戦争によって難民となった者たちが大勢魔界に流れ込んだ。

 そこで彼らを待っていたのは大いなるカルチャーショック。

 まず若い男性は、気の荒いオーガやアマゾネスなどに連れ去られ、強引に夫にされる。

 それは少年と言える年齢の子供も同じだった。

 

 次に少女や若い女性は、サバトの勧誘を受けてイスラムの教えを捨てていく。

 さらに残った者たちにもダークプリーストによる堕落神の勧誘が襲い掛かった。

 結局難民たちは一か月もしないうちにほとんどバラバラになってしまう。

 

 このため魔界に行くと無理やり改宗させられるというデマが中東で広がってしまった。

 

 

 そして、話は戻って日本である。

 

 この来訪者をどのように付き合っていくかで国会は揉めた。

 ちなみに使者の来訪当初の政府は、

 

「国際的なつながりを強める」

 

 という声のもと、魔界の情報を中国など引き渡していたことが明らかになり、解散した。

 この時の総理は、ネットでは、

 

「ポン引き総理」

 

 と揶揄され、ひどく面目・立場を失うことになる。

 それでもその後度々特定アジアに出向いて、

 

「日本は謝罪するべき」

 

 というような講演をして、現地で好評を得たとか。

 

 とはいえ、及び腰な外交がかえって功を奏したというべきか。

 

 何とかお互いに納得のいく形で交流が進んでいったのだった。

 だが、傍目から見れば魔界の魔法と言うオーバーテクノロジーにより、ほぼ一方的に日本が

助けられることになってしまう。

 震災などの復興にはドワーフなどをはじめとする魔界のボランティアが集い、瞬く間に被害

地域を以前の姿にしてしまった。

 放射能も、あっさりと除染され、さらには魔法を応用した安全かつ、高効率の原子力発電が

開発されてしまう。

 これには実用化に相応の年月と費用が掛かると予想された。

 

 が、これも魔界のチートにより解決。

 しかも新型原発の建設費用は全て魔界によって出された。

 どっからそんな金が出るのや、という疑問も出よう。

 しかし、いったん人間世界に進出し、その構造やルールを知った魔族にとって金儲けなどは

ソシャゲのログインボーナスを得るようなものだった。

 

 あらゆるとろこに触手を伸ばし、金を吸い上げる。

 しかして、それを様々な場所に放出するのだ。

 魔族に自分たちがため込むという発想はない。

 そもそも、そういう行為を行う魔族は――サキュバスをはじめとする高魔力を持つ上級悪魔。

 彼女らにとっては日本円だろうがアメリカドルだろうが、所詮使い捨ての道具にすぎない。

 だから気前よくいくらでも金を出すのだ。

 

 他にもドワーフのようにその技術で金を儲ける者。

 コボルトのように魔界に所有する鉱床の開発によって儲ける者。

 刑部狸のように純粋に商売で儲ける者と、色々いたりした。

 だが基本的に人間世界の金は、あくまで便利な道具。

 それは人間たちとの交流をスムーズにするのに使われる。

 魔族たちの好意も手伝い、人間社会との関係はけっこう良いものになっていった。

 

 やがては、魔界から人間世界にホームステイにやってくる魔族が増え始める。

 また人間の学校に留学してくる者も。

 最初は大学ばかりだったが、だんだん高校や中学、小学校にも留学生を送る計画が出る。

 このへんについては、基本美女しかいない魔族との交流を風紀の乱れ、不純異性交遊などの

危険性を叫ぶ団体もあったが。

 

 基本魔族の観光や留学は歓迎された。

 魔族の中核をなす悪魔属たちは、人間世界で言えばエリートのご令嬢。

 観光地で暴れるようなことはしなかったし、金払いも良い。

 また留学生たちは日本での一人住まいのため、冷蔵庫やテレビなど家電を購入する。

 商売人たちにとっては美味しいお客様なのだった。

 かくして。ほんの数年間で、魔族こと魔物娘たちは人間世界――

 いや、日本において日常の一部となってしまったのである。

 

 そんなある年、東京・銀座周辺で奇妙な失踪事件が多発するのだった。

 

 

 

 

 


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