デーモン・ゲート 魔物娘、彼の地で斯く蹂躙せり   作:イベンゴ

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キャラかぶり

 

 

 

 

 累々と重なり、散らばる死体の絨毯。

 死肉と糞便の臭いが充満し、吐き気を催す空気が漂っている。

 

 人間はただの肉体の塊だ。

 無数の戦死者たちはそう主張しているようでもあった。

 

「銀座とあわせて12万か……」

 

 アルヌス――そう呼ばれる丘に広がる戦場跡を見て、伊丹はつぶやく。

 

「この死体を片付けるのに、魔法を使ってはダメなの……?」

 

 横に立つ黒いマントを来たリッチ・ゴルトは不服そうに言った。

 

「便利っちゃあ、便利なんだけど……。色々あるからなあ」

 

 特地と呼称されるゲート内の世界に派遣された自衛隊。

 それに特別協力者として、参加した数少ない魔界人たち。 

 翻訳のほか、いくつもの便利な魔法を使えるゴルトはこのメンバーに加わっていた。

 

 『銀座事件』。

 

 ゲートから出現した軍隊による虐殺事件においては、魔界人たちも大いに活躍した。

 軍勢……暴徒の鎮圧に加えて、民間人の救助。

 

 しかし、以前より魔力を持っていたり、人間よりもはるかに強靭な肉体を持つ魔界の住民が

大手を振って日本国内をうろつくことには疑問の声もあった。

 

 銀座事件においては――ドラゴニュートやミノタウロスといった凶暴な種族が、何十人もの

暴徒を殺戮している。

 

 状況が状況なだけに、特別な措置として罪には問われず魔界に帰国されるという『穏当』な

方法が取られはしたが。

 マスコミの中には、ゲートの軍勢よりむしろ魔界人たちを危険視して攻撃するという動きも

少なからず見受けられた。

 

 それはともかくとして、ゲートという未知の状況に関して魔界の協力は是非とも欲しいはず

であるのだが、色んなものが交錯した結果……。

 

 ごくわずかな協力者をのぞき、魔界人のゲート立ち入りは禁止とされた。

 一応彼女らが『外国人』であるという建前で。

 

「でも、こいつをゾンビ化すれば色々とはかどると思うけど……」

 

「死者の尊厳って知ってるか?」

 

 まだ少年ともいえる兵士の死体を見ながらつぶやくゴルト。

 その頭を軽くこづく伊丹。

 

「…………」

 

「お前さんだって、勝手に他人に操られたり、弄られたりしたら嫌だろう」

 

「そういう考えもある……」

 

「ところであんたの仕事は……」

 

「行方不明者の捜索……」

 

 ゴルトは特地の調査協力の他、ここに迷い込んだあるいは拉致された可能性のある日本人や

 

魔界人の捜索も任されていた。

 

「日本人はともかく、魔界の種族はまず大丈夫と思うけど……」

 

「行方不明になったのって、悪魔……だっけ?」

 

「違う……。デーモンの一人。強大な魔力を持つ魔界でも上級クラスの種族……」

 

「でも、そんなすごい人がやってきた様子もないけどなあ」

 

 戦場跡を見回す伊丹と、うなずくゴルト。

 

「確かに……デーモンにとって原始的な人間の軍隊などアリの群れに等しい……」

 

 恐ろしいことをさらりと言うゴルトに、伊丹は顔を引きつらせる。

 それから、しばらくしてから。

 

 ゴルトは伊丹の率いる第三偵察隊に加わって、本格的な調査を行うことなる。

 

 

 

 

 そんな彼女らの同行とは別に、アメリカのホワイトハウスでは。

 

「ゲートはフロンティアだ」

 

 アメリカ大統領ディレルはデスク前の軽い演説のようなことを言っていた。

 

「宝の山があるかもしれないというのに、日本軍は何を手をこまねいているのか……」

 

「開拓に躍起になる必要はないと考えているのかと。魔界との国交が順調なようですし」

 

「あのデーモンども相手にか? あんな連中を本気で信用しているのか、ジャップは!?」

 

 ディレルは興奮して椅子から立ち上がる。

 

「我が国と違って、宗教的な問題はあまり浮上していませんからな」

 

「かといって過剰な圧力は、日本の魔界依存を高める危険性があります」

 

「それにゲートに下手に対応して、魔界の介入されるのを恐れてもいるのでしょう」

 

「忌々しい話じゃないか。ここでもあいつらが邪魔をしているのか……」

 

 ディレルは嘆息する。

 

「ですが魔界は我が国にとっても無視できない巨大な市場となります。敵対するのは……」

 

「しかし、それを納得しない国民も多いのだ!」

 

 部下の意見に、ディレルはデスクを叩いた。

 現在の調査では、デーモン種だけでも魔界人は17億いると言われている。

 他の種族を加えれば、一体どれだけの数になるか見当もつかない。

 その巨大な国土に進出できれば、アメリカの経済はどれほど成長するだろうか。

 財界からの後押しも多い反面、相手が『悪魔』ということから、反発している人間は単純な

計算でも相当なものになると思われた。

 過激なキリスト教原理主義者を票田にしてきたつけが回ってきたとも言える。

 

「とにかく、今は日本の支援をしつつ魔界の協力をえられるよう工作すべきでは?」

 

「うまくすればゲートを我が国に転移できるかもしれません」

 

「何しろ、魔界の連中はアレよりも高性能なものを自由に展開できるのですから……」

 

 魔界と地球をつなぐ魔法陣。

 今現在それは魔界から一方的につなげられるている。

 一応日本をはじめ各国では大使館のような扱いになってはいるが――

 地球側に魔法陣を作る技術はないのだ。

 魔界側がその気になればいつでも切断、または好きな場所に展開できる。

 それが地球側の最大の問題でもあった。

 

 ディレルはいったん呼吸を整えて、席に身をもたげる。

 

「とにかく財界の協力を得て、魔界との交流をイメージアップするんだ」

 

 その指示に部下たちは一斉にうなずく。

 

「すでに我が国の車をはじめとするハリウッド映画などが向こうでも売れています」

 

「財界も喜んで賛同するかと」

 

 会話がいったん区切りのつきそうになった時だった。

 

「大統領……悪い報せです。DCにある魔界の『大使館』に原理主義者たちのデモが計画して

いるとのことです」

 

 絶好のタイミングできた最悪の報告に、ディレルは頭を抱えた。

 

「……何としても鎮圧しろ。放っておけば手遅れになる」

 

「あの大使館にいるのはデビルやデーモンが中心です。民衆のデモ程度でどうにかなるような

相手でしょうか?……」

 

 悪魔種の強大な魔力――

 その引き起こす非現実……現実改変能力としか言いようのない力は、出現以降世界中に知ら

れている。

 特にもっとも交流の盛んな日本では震災を受けた地域を半日で完全に復興させ、使用済みの

核燃料などの廃棄物を一瞬で無害な土塊に変容させた。

 この力が牙をむけばどうなるのか、想像することさえ恐ろしかった。

 

「そういう問題ではない。向こうに隙を与えることになるというのがマズいのだ……!」

 

 ディレルはヒステリックに叫んだ後、

 

「奴らは何故あんな悪魔の姿で現れた!? 天使の姿で出てくれば、話はもっと簡単に運んだ

はずだろうに……! それがわからないはずがない!」

 

「あるいは……」

 

 補佐官がゆっくりと口を開く。

 

「その混沌こそが、彼女らの望みなのかもしれませんね……」

 

 

 

 

「…………燃えてるねえ」

 

「…………燃えてる」

 

「アレ何やってんのかなあ?」

 

「多分人間……もしくはそれに近い生き物を襲ってる」

 

「…………」

 

「今向かうのは自殺行為だと思う……」

 

「わかってますって」

 

 遠くで燃え盛る森を見ながら、伊丹とゴルトは会話を交わす。

 

「魔界にも、あんなのがいたりする?」

 

「いる。棲息圏が人家から離れているから、あまり害もないけど」

 

 やがて、ドラゴンが去った後に自衛隊は森の探索を開始する。

 焼け焦げた家屋や、転がる焼死体を見ながら、まだ熱の残る地を調査するのだ。

 

(まさか…………ここに、探している人間がいただろうか?)

 

 ゴルトは焼死体を見ながら、焼死体を念入りに調べていく。

 

(いや……ここに人間が死んだ気配はない。エルフの村という情報に間違いはなし)

 

 調べていた焼死体から立ち上がり、ゴルトは周辺を見た。

 この分では生存者は見つかりそうにない。

 

(いっそ……死体をアンデット化して情報を…………)

 

 魔法を使いかけるも、途中で手を止めるゴルト。

 伊丹からもその上からも、アンデット化の魔法は禁止されている。

 地球の人間にとって、アンデットには強い忌避感があるようだ

 

「めんどくさい……」

 

 そうつぶやいた時、

 

「生存者だ!!」

 

 伊丹の声で、ゴルトは振り返った。そして、急いでその場へ駆けつけていく。

 

「エルフなんだけど……容態わかります?」

 

「私はネクロマンサー。医者じゃない……」

 

 言いながらも、ゴルトは初級レベルの治癒魔法をかけてやる。

 リッチは高レベルの魔術師がアンデット化したモンスター。

 白魔術は専門ではないが、この程度は軽いものだった。

 目を覚ましたエルフの言うことには、

 

「村が炎龍に襲われた――」

 

 とのことである。

 そこまでは良かったのだが、村が全滅したとゴルトが伝えると――

 

「ひっ……!」

 

 短い悲鳴を上げて若いエルフは失神してしまった。

 

「……無神経すぎます!」

 

 黒川という美人の自衛官にたしなめられ、ゴルトは首を下げる。

 

「反省……。エルフにあまり良い感情がないもので……」

 

「魔界にも、エルフっているんですよね? やっぱり排他的だったり?」

 

 倉田なる自衛官が興味深そうに質問。

 

「ここのエルフがどうかは知らないが、魔界ではそう。人間やほかの種族をバカにしてる」

 

「ふーん……」

 

 ともかく偵察隊はアルヌスに帰還することとなった。

 その途中、コダ村という場所を経由したのであるが、

 

「炎龍が出たじゃと!?」

 

 伊丹から話を聞くなり、村は大騒動となった。

 というか村全体が引越しというか避難をする運びになってしまう。

 

「人の味をおぼえた龍は人を狙い続ける……魔界の龍と違って贅沢……」

 

 ゴルトがそんなことを考えながら、ボーッと様子を見ていた。

 そんな中、馬が興奮して暴れ出し、けが人まで出す騒ぎが起こる。

 

「…………殺さなくても、私なら拘束できたのに」

 

 人を踏みそうになった暴れ馬を射殺した自衛官に、ゴルトは小さく意見する。

 

「馬も貴重な財産かと……」

 

「非常事態でしたからね。人名が第一ですよ」

 

「このままだと気の毒……」

 

 けが人を治療した後、ゴルトは死んだ馬に魔法をかけた。

 紫の燐光に包まれて、死んだはずの馬がいななき、立ち上がる。

 

「う、馬をゾンビ化したんですか!?」

 

「人間じゃないから、かまわないはず……」

 

「そうは言いますけどねえ……」

 

「――見たことのない魔法」

 

 声にゴルトが振り返ると水色に近い銀髪の少女が興味深そうにしている。

 

「なにか?」

 

「わたしはレレイ・ラ・レレーナ。魔導を学ぶ者」

 

「私はゴルト。魔導を研究するネクロマンサー」

 

 ゴルトとレレイは名乗り合った後、しばし見つめ合うのだった。

 

 

 

 

 


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