黄金の日々0
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『お聴きの放送局はJOMW―――FM絃神。時刻は午後3時30になりました。
これからの時間は、島内の出来事に関する最新のニュースをご紹介する『インサイド・イトガミ』のコーナー、本日もこちらキーストーンゲート最上階、人工島第三スタジオからお送りしています。
さて。まずは『タルタロスの薔薇事件』――『魔族特区』破壊集団<タルタロス・ラプス>による魔族登録証の大規模ハッキング攻撃からちょうど二週間が経ちましたね。
事件による破壊の爪痕は、絃神市内のあちこちに残されてますが、市街地の復旧作業は現在も急ピッチで進められています。
開通の遅れていたモノレール環状線ですが、本日始発から平常通りの運行。湾岸道路は、一部区間を残して、この週末には通行規制が解除されるということです。
ですが、未だ<タルタロス・ラプス>の残党――上級理事を殺害した<
しかし! そのテロリストの脅威に晒されている絃神島で、立ち上がった
藍羽浅葱さんは現在16歳。絃神市内の高校に通う現役女子高生なのですが、実は彼女、知る人ぞ知る天才プログラマーとして、ハッカーの世界では有名人だったんですね。
これまでにも予測警報システムだけでなく、数々の革新的なプログラムを発表して、付いたあだ名が<電子の女帝>―――
そんな才能と実績を評価されて人工島管理公社でアルバイトしていた浅葱さんは、憎き<
それだけでも凄いことなのですが、彼女を一躍有名にしたのは、芸能人顔負けのこのルックス―――特にテロリストに怯える島民を奮起させるように呼び掛けた彼女のインタビュー動画は、『奇跡の七秒間』と呼ばれてネットではすでに600万回以上も再生されているそうです。本当に可愛らしい方で、学校の制服もよく似合っていますね。しかもこれで皆様を勇気づける絃神島復興支援チャリティソングまで手掛けてくれているそうですから、いったい天は彼女にいくつ物を与えたのでしょうか。多芸多才がこれほど似合う娘は彼女以外いないのではないでしょうか。
浅葱さんのお父様は現職の絃神島評議員、藍羽仙斎氏。浅葱さんご自身も、幼いころから絃神島にお住まいということで、以前から地元では美少女として有名だったとか。まさしく『魔族特区』が誇るアイドルだったわけですね。
そんな浅葱さんですが、現在は慈善活動と並行して人工島管理公社の依頼で、絃神島復旧のための大規模プロジェクトに参加中とのこと。残念ながらこの放送を聴いてくださるファンの方たちと直接顔を合わせる機会を設けることができませんが、今この絃神島で最も<心ない怪物>に狙われている彼女を保護する名目でもあります。ですが、ご安心ください。この人工島管理公社で我らの聖処女は『特区警備隊』の特別チームが万全に守っております。
そして、番組では藍羽浅葱さんに対する応援メッセージ、そして彼女に関する情報をお待ちしてます。浅葱さんの今後の活動へのリクエストにあなただけが知っている彼女のプライベートな情報などなど、番組ホームページよりお寄せください。
それでは、ここで一曲聴いていただきましょう。先ほどちらと話題にも上がりました絃神島復興支援チャリティーソング『Save Our Sanctuary』のカップリング曲、藍羽浅葱さんのデビューソングでもある『片恋Parameter』です―――
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
このヘルメス=トリスメギストスの末裔にして、
材料は、年頃の女子の体重と同じだけの黄金と銀と希少金属各種、それに水銀が900l。あとは、供物となる霊能力者が、14、5人を見繕ってくればいい。
それから制御するための<
と、まあ、これはあくまで永遠の生を想定したもの。
『心臓が破壊されるような致命傷も一瞬で治癒する』ための呪術触媒には、贄もそういらん。だが、やはりそれなりの量は要する。妾でも等価交換を原則とする錬金術を
……二週間前に間に合わなかったのは悪かった。
だが、計算が甘いのは主もであろう。
付き合いの短い妾でも、あれがわりと
もっとも、破るには破るに足る理由があったがな。
そんなことは主も百も承知していよう。理解できんとは言わせんぞ。
結局、妾も主も展開がここまで急に進むとは思わなんだ。見通しが甘かった。
で、反省はひとまずこれで済ますとして、話を続けよう。
二週間前の一報より、妾は伝手を頼り、足りてなかった素材と高純度の霊力を工面してもらい……
腹黒王女に借りができた? ―――そのくらいいいだろう。懐の小さいヤツめ。妾はあの浮気前王に頭を下げたんだぞ。
少しくらい主は年長者である妾を敬ったらどうだ?
何? なら校長の長話並にちっともためにならん講釈をやめろ? ―――まったく主は……まあいい、結論を言うなら、完成した。
ただし、これが効力を発揮するのは、およそ1分間。つまり、致命傷を負ったその時のタイミングに使わなければ、九死に一生は得ることはできず、無駄に終わる。
そして、造れたのもこれひとつ。一発勝負の保険だ。
だが、出来は保証する。使いどころは難しいがな……
ではな。
妾ができることはここまで。あとは託したぞ―――
ストリクス
極東の『魔族特区』へ向かい、ゆっくりと落着する一機の航空機。
四基のターボエンジンを積んだ水陸両用の飛空艇は、全長・翼幅ともに40mを超える、民間所有では規格外のサイズの機体だった。そして、深紅に縁取りされた尾翼に描かれているのは、『飛龍に牽引された戦車の紋章』。
すなわちこれは、欧州に君臨する第一の『
カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって造られた人工島の港へ入った『戦王領域』の飛空艇を、歓迎するかのように真正面に位置取りしていたのは、一隻の外洋船。荘厳な城砦を思わせるクルーズ船。悪趣味なほど巨大な豪華な船のマストに掲げられた船籍旗にもまた『戦王領域』の紋章が印されている。その船名は<オシアナス・グレイブⅡ>――『戦王領域』の大貴族にして、アルデアル公国領主ディミトリエ=ヴァトラーの私有船だ。
して、両船舶の主人であるふたりの『旧き世代』の吸血鬼が互いに剣と蛇を交えた、彼らなりの“挨拶”を終わらせると、早速、第一真祖の懐刀は、この問題児を飛空艇の甲板まで呼びつけた。
「―――ヴェレシュ=アラダール『戦王領域』帝国会議長殿、はるか遠方よりのご光臨を賜り、このヴァトラー、恐悦至極に存じます」
「嫌味のつもりか、ヴァトラー」
夜目にも鮮やかな純白のコートを着た、金髪碧眼の美青年が恭しく首を垂れるのを見て、浅黒い肌を持つ長身の男は頬を歪める。見た目若い顔立ちだが、歴戦の戦士や政治家の雰囲気を纏っている。古風なコートを身につけ、長い黒髪が見るからに実直で聡明な彼の風貌とよく似あう。
ヴェレシュ=アラダールは、この絃神島における外交の全権大使を第一真祖から任されているこの
「俺がこの辺境の島国まで来たのは、貴様が仕組んだせいだろうが。<第四真祖>に『カインの巫女』、おまけに<
本来であれば、そうならないようにするのが、外交の第一線で立たせているこの金髪の青年貴族の役割なのだが、これが元老院からの任よりも己の趣味嗜好を優先する性質だというのはわかっていた。
そう、その炎に似た獰猛な光を宿す瞳を見れば、
強敵との死闘。そして、戦争。
ある意味、最も吸血鬼らしく狂っているのが、ディミトリエ=ヴァトラーという吸血鬼だ。
「それは失敬した、アラダール。だけどキミがこの島に来たということは、議会の元老たちも、ようやく乗り気になってくれたと思っていいのかな」
「彼らとて見過ごすわけにはいかないのだろうさ。『
それに、とアラダールは、ヴァトラーからその隣に侍ている小柄な少女へ視線をやる。逆巻く焔のように刻々と色を変えていく虹色の髪。唇の隙間には、吸血鬼の証たる鋭い白い牙がみえる。
『六番目』の<
<
現在、当代の不完全な<第四真祖>は、すでに11体まで解放されてしまっている。ここで12体最後のひとりを手に入れて、『世界最強の吸血鬼』として完成されたとき、いったい何が起こるのか。それは数百年を生きたヴァトラーとアラダールにも予想できない。
ただひとつわかるのは、存在しないはずの第四の真祖の出現が、この世界の秩序と安定を掻き乱すということ。おそらくは、取り返すがつかないほど決定的に。
だが、その確実に起きるであろう混乱を看過してでも、今起きている事態は元老院で問題視されている。
「我らが王より、完全な<第四真祖>を復活させる赦しは得た。そして、ヴァトラー、貴様にひとつ、任務を与える」
「なんなりと」
表情を消すアラダールに、喜色満面に応えるヴァトラー。
きっとこの男は、わかっているのだろう。そうなるよう望んで、そうなるように元老院へ報告したのだから。
「<黒死皇>と同じだ。『棺桶』の『墓守』を暗殺しろ。『聖殲』が完全に起動する前に、障害は取り除いておけ」
芝居がかった仕草で胸に手を当てて、旧友はアラダールでなくともわかるくらいに白々しく嘆いてみせる。
「彼には先約があるのだけど、爺さんからの任務じゃあしょうがないネ」
残念残念、と口では言いながら、その口元は馳走を前にしたようにとても嬉しそうに緩んでいた。まるでクリスマスプレゼントをもらった子供のような笑みだ。
まだ時間を与えれば、成長してくれるかもしれない。でも、もう我慢できないくらいに“うまそう”なのだ。
「あの子のこと、
きっとこの上なく、ボクを“愛して”くれるに違いない。
それを思うだけで青年貴族は身震いが止まらない。
獅子王機関絃神島出張拠点
人工島ではあまりお目にかかれないレンガ造りの古ビルに店を構えるそこは、表向きは骨董屋であるが、上層部の通達に謀略工作のための支援物資の供給を行う特務機関の拠点。
獅子王機関が、日本国唯一の『魔導特区』絃神島に敷いた出張所だ。
そのとっくに店仕舞いした骨董屋の奥に、3人の少女とひとりの女性がいる。
「これは、上で決定したことだ。心して聴きな」
特に気を篭めてるわけでもなく、言葉だけで3人の少女たちの背筋をピンと伸ばすその女性は、透き通るような白い肌、淡い萌葱色の髪と瞳。鼻筋の通った彫りの深い顔立ちをしており、耳は長く尖っていた。
彼女は、『魔族特区』ですら遭遇できないであろう、極めて稀少な魔族、『
そして、白いマントを上に羽織り、下に着ているのはノースリーブにアレンジされた巫女装束風の白い衣装である。
「<
腕の中に寝ている、金緑石の飾りをつけた首輪をしている黒毛金瞳の愛猫を撫でながら、『長生族』の女が述べたものは、少女たちを瞠目させるに十分すぎた。そんな自分らの反応に目を細める『長生族』の女へ、恐る恐る唾を吞み、言葉を発するは、長髪を頭頂近くで結った少女――獅子王機関の舞威姫、煌坂紗矢華。
「師家様、上級理事五名の殺害は、南宮クロウには不可能です。『特区警備隊』で行われた検察結果から推定された殺害時刻には、『食糧備蓄倉庫』にいます。このアリバイは、同行していた警備隊からの証言もあります」
紗矢華はこの2週間で、獅子王機関の舞威姫としての権限を使って独自に調査した。彼女がよく知るあの少年の性格もそうだが、理事殺害は不審な点が多過ぎる。これは明らかに何かの謀略に巻き込まれているとみるべきだ。
「それに、<タルタロス・ラプス>の残党なんて間違ってもありえません」
「煌坂紗矢華に同意するのは癪ですが、同意です。南宮クロウは、『四凶』退治に大きく貢献し、敵の首魁のひとりを撃退しています」
紗矢華の言に頷くのは、同じ獅子王機関の舞威姫の斐川志緒。彼女は彼女で、紗矢華とは別角度からの調査を試みていた。
舞威姫は、呪術と暗殺の
現在、彼が主犯というものが一辺倒で流布された情報に惑わされず、真偽を見分ける。弓で矢を射抜く際、一工程ごとに心内で確認する射法八節の如く則った、丁寧かつ精密な作業は、百発百中で真実を射抜く。
しかし。
「紗矢華、志緒、よーく調べてくれたみたいだけど、そんなことを論議する段階はもう過ぎてる」
それは見当違いもいいところだ。すでに機関は“真犯人かどうか?”を着眼点とはしていないのだ。
「だいたい、潔白の身ならどうしてこそこそ隠れてたりしてるんだい? 堂々としてりゃいい。そうすれば、濡れ衣もすぐに晴れるだろうさ。だが、それをしない」
「師家様……ですから、それは……」
「2週間。この島であちこちと暴れてるみたいだけど、なんだい? それもニセモノかい?」
<タルタロス・ラプス>の事件が終えてからも、依然と外交を妨げ、鎖国状態を強いている空港・船港の襲撃。それを実行したのは、間違いなく、南宮クロウだ。
「どうやら、2週間前に消息不明となったきりの南宮那月の制御から離れてるらしい。面倒な輩とつるんでいるだろうねぇ。それでそいつらにいいように使われてるんじゃあ、本人の意思に関係なく、害悪認定されても仕方がない。『壊し屋』の坊やの監視役は太史局の方に譲ったけど、一国家の魔導対策委機関としてそれを退治するのは当然の判断だよ」
「で、ですが、クロウ君はこれまで多くの魔導犯罪を解決してきました。『神縄湖』のときだって、彼がいなかったら……!」
獅子王機関の剣巫の羽波唯里が最近の実績をあげて弁護しようとするが、鋭く細められた眼差しを返される。
「犯罪者をひっ捕らえてきたから、犯罪者となってもいい理屈は筋が通ってないよ。それに、あの坊やは、残念ながら
攻魔師資格を持ってなくても日本攻魔師界隈に大きな影響力を有する暁緋沙乃がいるが、あれは例外中の例外。
「さて、話を戻すが、弟子共の任を言うよ」
討伐命令の撤回はできなかった。
弁護できず、逆に論破される。けれど、紗矢華らは悔しそうに歯嚙みながらも、目に宿る意思の光は強い。こうなれば、あの少年を操る黒幕を捕まえる―――
「斐川志緒、羽波唯里、あんたら二人は、変更なし。<
えっ……? と三人の巫女は異口同音と声を洩らす。
別の任務が与えられる。それはつまり、<
言い換えれば……
「なんだい? “戦力外通告”されて不服かい弟子共」
「師家様、一対一では難しいかもしれませんが、南宮クロウには『
異を唱えるは、志緒。
それで何もせず下がっていろと言われるのは、いくら師家様でも簡単に頷けるものではない。
「まったく……そういや、志緒はあの坊やが戦ってるところを直接視たことはなかったか」
「はい。確かにそうですけど……」
やれやれと額に手を当てた『長生族』の女性に、弟子の志緒はやや不満げに眉根を寄せる
志緒は、戦闘中の<黒妖犬>を伝聞でしか知らない。
『神縄湖事件』でも顔合わせしたのは『聖殲派』が捕まった後であったし、『タルタロスの薔薇事件』では、戦闘した局面が中央区と旧南東区と離れていた。
<第四真祖>暁古城のように、圧倒的な魔力を直に浴びせられた経験はないのだ。
だから、『黒死皇派残党事件』で制止を求めた紗矢華に一太刀を浴びせながらも逃げ延びたことや、『神縄湖事件』で誤解から始まった戦闘で唯里に片腕を斬り飛ばされたことくらいしか身近で分かりやすい判断材料がなかったりする。
して、それから察する実力は、自分たち三人でも十分抑えられるものだ。
「仕方がない。三つ、理由を説明してあげる」
『長生族』の女性は、弟子らの前に三本指を立てて見せ、まず、ひとつ目を折る。
「あの坊やは
『神縄湖事件』の前日、『第四真祖逃亡事件』にて、獅子王機関の剣巫の姫柊雪菜と交戦したが、終始翻弄されていた。
後輩だが、雪菜の腕前は志緒のそれを上回るものであり、霊視の冴えも『高神の社』では一番だったろう。だから、『世界最強の吸血鬼』の監視役を任せることができるのだ。
その彼女がまるで相手にならないと師家の口から語られる。
つまり、ハンデなどで侮れるような相手ではないということ。
次に、と二つ目の指が折られる。
「『世界最古の獣王』<
息を呑む。
圧倒される災厄の如き眷獣を使役するその姿には、『世界最強の吸血鬼』という称号も納得するものだと志緒は畏怖と共に深く心に刻み込まれた。
だが、あの『四凶』二体を撃破した<第四真祖>であっても敵わないと告げられたのだ。
それほどの脅威なのか。
空の王者を、最古の獣王を下した、名実ともに『世界最強』の称号を冠するようになった獣王は、洒落にならない戦闘能力を有していると。
いや。
戦闘には、相性があるはずで―――
最後に、とすべての指が握り込まれる。
「これがお前たちを外すもっともな理由。坊やを殺す気がまったくないだろう?」
ぅ、と窮する紗矢華、唯里も視線をそらしてしまう。
だが、とっくに弟子の思考など師はお見通しだ。いや、師でなくとも読み取れてしまうほど、最初の討伐命令を口にした時の反応でありありと顔に出てしまっている。
初対面での戦闘で、本気こそ出していないが互角の勝負を演じた。
その当時から南宮クロウは相当な成長速度で強くなっていっているのだろうが、こちらも攻魔師としての腕を磨き、実戦の中でさらに鍛えられて行っているという自覚がある。
だが、それと同時に知ってしまっているのだ。
南宮クロウの性格と性質を。
それは男性恐怖症のこちらに触れても嫌悪感を覚えさせないほど無垢さであり、社会的な規範に縛られることなく当たり前の道理を通していく純粋さであり、とかく嫌えるものではなく、とても殺意の矛先を向けるにはあまりに無理がある。
如何に心を殺そうとしても、彼の日常の姿が記憶の片隅にでも過ってしまえば、必ず破綻するだろう。
「ただでさえ実力不足なのに、情に鈍らされるんじゃあ、足手纏いにしかならないよ」
と、弟子の参加を否認する理由を並べたが、ならば、いったい誰が相手をするのか?
ひょっとして『三聖』が出るのだろうか?
日本最強の攻魔師にして、吸血鬼の真祖たちも一目を置く獅子王機関の長。
でも。
<
<
ならば、三人目の『三聖』―――
いや、すでに答えはもう目の前に出ている。
「それは……師家様が、南宮クロウを……」
「そうだよ、あたしが坊やをヤる。元々獅子王機関から坊やを見定める任を受けたのはあたしで、一時とはいえ弟子にしたんだ。なら、始末をつけるのは師の役目にも入ってるし、引導を渡してやるのにこの上ない適役だろう」
死の宣告も常と変わらない洒脱の口調で語る『長生族』の女性。
いつもこの出張拠点に置いていた黒猫の式神を腕の中に抱いている彼女は、契約した術者であり――暁古城曰く――ニャンコ先生当人なのだ。
縁堂縁。
煌坂紗矢華、斐川志緒、羽波唯里、そして、ここにはいない姫柊雪菜らを舞威姫や剣巫として鍛え上げた師匠にあたる人物。
今でこそ第一線を退いて、養成機関で後進の指導に力を注いでいるが、その実力は『三聖』と同等以上。<静寂破り>や<神権政治>など一族で一子相伝される特異な技能こそ持たなくとも、剣巫や舞威姫が扱う基本的な技術力だけでその評価だ。
これと近しいと言えば、薙刀一本で魔獣の群れを相手に一騎当千の無双をしてみせた暁緋沙乃が挙げられるだろうが、そのとうの昔に全盛期を過ぎた暁緋沙乃以上に生きており、『長生族』の特性上、彼女の肉体は依然と若々しくある。
そして。
縁堂縁が座す脇、畳の上に置かれている薙刀と太刀。
楽器ケースに収容できるような
『七式突撃降魔機槍』や『六式重装降魔弓』が稀代の武神具開発者によって設計される前のはるか昔、<雪霞狼>、<煌華鱗>、とかつて初めにその名を冠した薙刀と太刀を、千年を超えた今も愛用する得物を持って任務に挑むことから、師家様の意気込みは、本気であることなど、弟子であれば誰だってわかるだろう。
そう。
獅子王機関の師家・縁堂縁が表舞台に出てくる理由は限られている。
彼女自身の口から告げられた通り、攻魔師として認められなくなった弟子に引導を渡す。養成機関の師範役で、出張拠点に式神を置く橋渡し役で、そして、罪を犯した魔族を裁く人間の組織が腐敗せぬよう“人間の攻魔師を粛正する魔族の監視者”。それは『三聖』であっても断罪は免れぬとまで言われている生きた伝説なのだ。
「……まあ、アヴローラと似ている坊やに思うところがないわけでもないけどね」
だが、今この身は、国防組織に属している。
あの力が破滅に転用されれば――そう、あの<黒死皇>の災厄を知るものとして、兵器として利用される現状を看過できない。
キーストーンゲート付近
全長はせいぜい軽自動車程度。
リクガメに似たずんぐりとした形の、
夕陽の斜光に溶けるように真紅の戦車は、街を疾走する。道路を直進するかと思えば、高層ビルの壁を垂直に昇って、向かいのビルへ飛び移る。自動車の車輪では不可能な、有脚仕様だからこそ実現できる高機動性。市街地戦における対魔族戦闘を想定して設計された有脚戦車の最高速は、時速120km。建物が密集した都市圏で巧みな操縦で速度を落とすことなく走り抜ける、この機体に追いつけるものは早々いるはずがないだろう。
『警告―――九時方向に敵影。距離30。総数3』
それでも追手はやってくる。
まともな集団とは思えなかった。
高速で走る有脚戦車の真横に、並走する黒い影があった。いつの間に飛び移ったのか、垂直疾走するビルの屋上からも複数の影がこちらを見下ろしている。単に『特殊な訓練を積んだ』程度でどうにかなるとは思えなかった。その犬類の獣人種のようなシルエットは、もうほとんど都市伝説のような連中だ。魔族を相手に肉弾戦を挑んで撲殺しそうな相手で、実際、強化プラスチック製の深紅の装甲に無数の傷を刻み付けられているのだ。
心当たりがあるとすれば。
(……『聖域条約』の協定に反して開発された、冷凍保存された<黒死皇>の細胞を移植させた
救世主を支え、激流を渡った―――すなわち、一時だが『原罪』の重さを支えた偉業より、『
(ええい! これ以上は付き合っていられぬ!)
絶え間なくコクピット内に鳴り響く警告音。
バイクのような姿勢でそれに耳朶を騒がれる12歳前後の小柄な操縦者は、燃えるような赤髪を振り乱して、攻撃を決意する。
体にぴったりフィットするパイロットスーツを着る外国人の少女は、その胸元のゼッケンにひらがなで名前が書かれているが、リディアーヌ=ディディエ。
管理公社に雇われていた<戦車乗り>の少女だ。
それが今、この管理公社からの追手へ向けて、安全装置を外した武装を向ける。
「機銃全門斉射!」
『了解。自動照準、銃撃開始』
脚部の側面に内蔵された四門の機銃が、凄まじい勢いで銃弾を吐き出す。
対魔族用の強装弾を浴びせられ、垂直走行する<膝丸>と並走していた追手が吹き飛んだ。地上へと落ちたが、難なくと着地を成功させる。銃撃を受けたダメージもさほどないようであった。
そして、屋上からこちらに向かって、その弾幕の中へ飛び込む追手たちに、有脚戦車の機体に取りつかれてしまう。
瞬間、叩き込まれた拳打の衝撃は、徹甲弾が炸裂したような音響を轟かせた。
「肉薄攻撃!? しかもこれほど―――!?」
有脚戦車の装甲材は、特殊な呪術強化が施されたプラスチック。連続した攻撃を一点に集中されると脆いが、優れた耐衝撃性能を有している。20mm砲弾や対戦車ロケット弾の直撃にも耐える―――それが一撃で砕かれたというのは、敵の殴打は現代兵器以上の威力であったという証明に他ならない。
想定外の荷重をかけられた有脚戦車の球体ホイールが、壁面のグリップを失ってスピンし、墜落。緊急落着プログラムが無事作動するも、殺しきれなかった勢いに腹部装甲は接地し、アスファルトを削って火花を散らす。
そこへまた先ほど銃撃を浴びせて落とした追手たちもまた背面に跳び乗ろうと迫る。
『機銃弾、残弾数0。弾幕、展開できません』
「旋回! 振り落とせ!」
リディアーヌは有脚戦車を強引に回転させて、追撃者の迎撃を振り落とそうとする。常人には耐えられぬ急激な加速。しかし、追跡者は平然と有脚戦車の背中に張り付いたまま、小脇に抱えた武装を向け、放つ、
「<膝丸>!」
六本の銃身を持つ機関銃。それより放たれた銃撃は、有脚戦車の装甲を突き抉り、左の前脚を完全に破壊する。旋回中だった有脚戦車は、バランスを崩して道路側壁に激突。高機動性能を可能とするバランスを崩され、停止してしまう。
操縦者のリディアーヌはすぐ修正対応する。
『左前脚部、大破しました』
「第四関節の連結を解除! そして、ワイヤーアンカー射出! 目標は―――」
走行に不備ができたのならば、牽引してこの場から離れる。
判断は迅速。神童の思考速度の切り替えは、常人には追い付けぬ。―――それを1、2手上回る追手たち。
照準を合わせようとするところで、先手を入れるようにワイヤーアンカーの射出口が撃ち抜かれた。
機甲服は、『人間の機能』を外から補強するための道具だ。単に機械を使って手足の力を増幅させるためだけのものではない。
これが、『魔族特区』の禁忌とされる研究成果の一端。
強化外骨格のモーターに化学性スプリングに、凍結保存していた『獣王』の生体組織による『外側』からの補助もそうだが、それだけではない。
普通だったら、これほどの人外の怪力を持てばそれに比例して制御は至難となるはずだ。戦車装甲を凹ませる馬鹿力では、引き金に指をかけるだけで銃が壊れかねない。
その事故がない。装備自体が『装着者の求めているのは何か、この場合の最適とは何か』を算出するための『計算のきっかけとなる柱』が、<魔導打撃群>の追手たちに与え続けられている。
そう、『内側』からの補助もある。
電気的な刺激や脳の温度分布などを利用して、人間と機械を繋げる『仕組み』が備わっているのだろう。
<タルタロス・ラプス>のひとり、<戦車乗り>でもハッキング勝負では負けを認めるラーンは、『魔族特区』の実験で、脳を機械と直結できるように改造されたせいで死んでしまっている
機械補助を受けて高速で働く思考活動は、1cm以下の誤差で自滅しかねない作業も淡々とこなして見せるだけでなく、判断速度は神童を超える。
そして、<魔導打撃群>は、狩った獲物にすぐ止めを刺さず、昆虫類の翅や肢をひとつひとつもいでいくように、この逃亡者の手段を封じていく。
『ワイヤーアンカー使用不能。射出装置、破壊されました。後脚部及び主電源ユニット大破。生命維持装置を予備電源に切り替えます』
ここまででござるか……
補助
それらに呆然となりながらも、頭の冷たい部分で終わりを悟る。
この対魔族戦車は大手の兵器産業で最新鋭のもの。だが、相手の技術力はさらにその先へ進んでいる。勝ち目はない。このまま敵に嬲り殺しにされるのであれば、潔く自害した方がマシ……
“幽閉されている友”を救い出すことができないのが後悔であるが―――とそのときだった。
「そこを、離れろオマエら」
攻魔師たちの動きが止まった。
明瞭で、<魔導打撃群>の戦闘力にもたじろぐことのない、強靭な何かを秘めた声音だった。<戦車乗り>への攻撃を止め、ぐるりと犬頭の機甲服たちが振り返った。リディアーヌもまた久しぶりのその声に反応し、まだ生きている車外カメラを合わせた。
鳴り響いた緊急警報ですでに一帯が無人となった街中、そのビルの陰から踏み出したのは、少年だった。
その目元は、見ることができない。<魔導打撃群>の<犬頭式機鎧>と同じ、しかし特注の機甲服を纏っており、その頭部に被せられている兜じみたヘルメットのバイザーシールドで隠されていた。
手首足首、それに胸部といった要所が罪人の枷のように分厚くいかめしい装甲やチューブに覆われているなどと攻魔師たちに支給されるものとは別の仕様があるのだと推察できる。
(クロウ殿……クロウ殿でござるか!)
だが、それでも、先ほどの声は彼のものだとリディアーヌは根拠なくとも信じられた。
『―――邪魔ヲスルナ、<
だからこそ、すぐ彼の現状を理解してしまえた。信じたくはなかったその情報が正しいものであると。
『コノ<戦車乗り>ハ我々ノ計画ノ要デアル『カインの巫女』ヲ探ッテイル鼠ダ。処分シナクテハナラナイ』
<魔導打撃群>は、この『世界最強の獣王』の畏怖を間近にして、ひとりとして怯える者はいない。
当然だ。
が。
機鎧に覆われる怪物兵器は、攻魔師たちの反応に嘆息して、もう一度忠告を口にする。
「オマエら、死にたいのか」
再度の警告に、ようやく攻魔師たちも息を呑む。
冗談ではない気配。兵器が反抗するのか―――いや、違う。
彼は、忠告しているだけだ。すぐそこに攻魔師たちへ迫っている脅威に対して。
「そこの王の気配にも気づかぬ、愚鈍な“鼠ども”まで慮ってやるとは、相変わらず優しいな、お前は」
即座に警戒態勢を取る攻魔師たちの前に、威風堂々と現れる。
今、声を発した主は、美しい黒髪に褐色の肌をした小柄な少年だった。
幼さを残した顔つきに似合わず、少年の姿には不思議な威厳が感じられた。気性の激しい若獅子を見ているようだ。その威圧感に打たれ、動けぬ攻魔師たちを一瞥して、少年は侮蔑の色をその黄金の目に滲ませる。
「『聖域条約』から違反した軍事兵装とはな。小賢しい人間どもの思いつきそうなことだ。付き合う人間は考えた方が良いのではないか、雑種よ」
「………」
無造作に歩みを進めながら冷ややかに語りかけてくる少年に、機鎧の怪物兵器は沈黙して答えず、不動のまま。
なんと……
傷ついた有脚戦車の中で、リディアーヌは言葉を失くしている。
少年の名をリディアーヌは知っている。イブリスベール=アズィーズ。第二真祖<
なぜかれがこんなところに、と訝るリディアーヌ。だがすぐその目的も悟ろう。彼がいま、その金色の視線を注いでいるのはただ一人。
『吸血鬼……『旧き世代』ダ。眷獣ニ警戒シロ』
小隊長らしき男が仲間に指示を出す。正体に未だ気づけずとも、その身から放たれてる膨大な魔力と壮絶な殺気から脅威は自ずとわかるだろう。
一切の乱れのない統率で包囲を迅速に完了すると、凶王子へ銃口を向ける。
―――それでもイブリスベールがそちらへ目をやることはない。もう初見で眼中にないと評定が降されているのだ。
『第二小隊、各自の判断で狙撃を許可する。撃て―――』
<魔導打撃群>の小隊長の指揮で一斉掃射された弾丸が、透明な壁に阻まれたように失速する。眷獣を召喚するまでもなく、ただ魔力を放出しただけで物理的な重圧となり、弾丸を押し戻したのだ。
な……!?
驚愕に声が震える小隊長。動揺は隊員たちにも伝播する。なまじ腕の立つ攻魔師だからこそ、この『旧き世代』が、どうあっても乗り越えられない壁を越えた絶望なのだと気付いたのだ。
まさか<滅びの瞳>直系の……
して。
この結果を予見できた者は、また一度、繰り返す。
「だから、下がってろ、オマエら邪魔だ」
静かな、しかしけして無視できぬ声音。
怪物兵器からの再三の忠告に、今度こそ攻魔師たちは従う。
そう。
相手は超越した存在なのだろうが、ここで自分たちが使役する道具も超越した怪物なのだと彼らは知っているのだ。
『<
これから始まる闘争に巻き込まれぬよう、<戦車乗り>をその場に残したまま後退した<魔導打撃群>らは、怪物兵器に戦闘許可を与える。
「やれやれ小蝿が鬱陶しい。そこに雑種がいなければ、切り刻めてやれたものを」
「………」
静かに、イブリスベールは言う。
凶王子と怪物兵器との間に、ひどく殺伐としたものが満ちていった。それは吹雪の如く凄絶に、業火の如く容赦なく、世界を変質させていった。
強さこそがすべての無法地帯を、さらに地獄へと変えるかのように。
「にしても、今日の雑種はやけに無口だな。小蝿の翅音には付き合ってやるのに、俺の言葉を聞いていながら答えぬとは、不快だ。その
「………」
それでも、口を開き、応じることはない。
応答にさえも制限が課せられているのか、それとも、合わせる顔がない、というのだろうか。
しかし、口は閉ざしたままだが、覆うバイザーシールド越しからも感じるほどの強い眼差しがイブリスベールの金瞳に合わさる。
口ほどにものを語る目線に、ふん、と凶王子は鼻を鳴らし、
「……まあいい。今日は語り合いをしに来たのではないのだからな」
金色の瞳が、血の色に変わる。
緩やかに殺気に糸が両雄を繋ぐ。
その直後、取り残された有脚戦車のメインモニタが、閃光で白く染まった。
「……っ!?」
先ほどまで、あの少年がいた場所を映していた映像。
そこを瞬きの前に蹂躙したのは、肌を焼き焦がすような濃密な魔力だ。
それは巨大な刃と化して、容赦なく地上を薙ぎ払う。
突然の衝撃に巻き込まれて、リディアーヌを乗せた有脚戦車は為す術もなく転がり吹き飛ばされた。周囲の建物が崩壊し、道路が抉れる。それはまさに天災そのものの光景だ。普通の人間なら、その一瞬で落命していなければおかしいほどの破壊力。
だが、怪物兵器はそれを受けても原型を崩すことなく依然、そこに仁王立ちしている。
「今宵は、貴様と殺し合いに来たのだ、我が
魔力放出をぶつけたがそれでも歯牙にかけない有様に、我が目に狂いはなかった、とますます高揚とした笑みを浮かべ、イブリスベールはその魔力を解放させる。
裏切った姉に報復し『同族喰らい』をした『滅びの王朝』の凶王子。その力は『最も真祖に近い』とされる<蛇遣い>と同等以上。
この絶対王者に君臨する吸血鬼の王子が驕りの衣を引き剥がしており、純然たる『力』の奔流をみせている。
「切り刻め、<ケベフセヌエフ>―――!」
その『力』の奔流が猛禽の姿を形作る。実体化するのは、翼長14、5mにも達する金色のハヤブサ。その巨大な翼の羽ばたきに生じるのは、無数の刃と化して渦を巻く死の風だ。
災厄の如き眷獣の力。
それが今、たった一人に対し、何の躊躇いもなく振るわれようとしている。
「お、お待ちくだされ!? クロウ殿にそのような眷獣をぶつけるのはあまりにもやり過ぎるでござる!?」
思わず、リディアーヌは叫ぶ。
先の魔力放出でうまい具合に戦線から離れられたが、これから始まるあまりに苛烈な衝突にどうか制止をと凶王子へ乞い求める。
「何かと縁があるな戦車乗りの小娘よ。寄ってたかって随分と嬲られていたようだが、もういいのか。ならば、疾く失せろ。今の進言は、一度目だ。許してやる。だが、俺たちの戦争を邪魔するのであれば、誰であろうと許さん」
少女の嘆願を一蹴する凶王子。
遊びや手抜きなどない。
強者ゆえの慢心を消し去っているイブリスベール=アズィーズは、“まだ”、荒ぶる魔力の放出を留めはしない。
「それにこの程度で驚いては、彼奴に無礼だぞ」
魔力の霧が、さらに二体の眷獣を実体化させ、
「俺は、それほど雑種を“過小評価していない”」
こう告げたのだ。
ジャッカルの姿をした<ドゥアムトエフ>。
ヒヒの姿をした<ハピ>。
そして、人間の姿をした<イムセティ>。
先のハヤブサの眷獣を合わせ、
すべての眷獣を視界に収めるだけで、人間を狂わせてしまうような鬼気がそこにある。
「<
四体の眷獣を意のままに御して巻き起こすのは、強烈な黄金の嵐。
荒ぶる嵐の中でさらに支配権を強固とし、圧縮されていく竜巻はやがて骸を封じ込める壺と化す。
ただ力のままに破壊を撒き散らすのではなく、その一極に集中させる。
物理的な限界を超えて尚も密度を高める嵐の層は、万物を切り裂く凶器であり、空間そのものを呑み込む虚無の領域。
音や光すら歪みの中へと収束していき、静寂と闇に怪物兵器は覆い隠される。すでに有脚戦車の電子機器においても計測不能。言えるのは、あそこは完全な無だ。あの渦中にあったものは微塵もなくなっている―――そのはずだった。
『壺』に、亀裂が走る。
現在の、そして、最後の殺神兵器。それは正しく扱える正式な所有者の手に渡り、存分に使い潰されて、その真価を発揮させる。
そう、正しく兵器として。
「■■■■■■―――ッッッ!!!!!!」
理性を蒸発させるほど獣の姿に回帰した怪物兵器は、殺戮の咆哮をあげた。四体の眷獣をその壺の嵐ごと一喝で吹き飛ばす。
露わとなる神獣と化した<
装着された機鎧からは赤光が点灯している。それは、登録証を用いた<タルタロス・ラプス>の魔力暴走現象と相似していた。
「ちぃ、余計な真似を……」
凶王子の目は険しい。
狂暴極まりないが、求めているものと違う。感情を喪失させるほどの狂化させてくれるとは、この闘争に水を差されたも同然。
だが、それを対価にして発現する力はけして侮れるものではない。
『
そして。
翌日、<タルタロス・ラプス>の残党が絃神島中央区で
つづく
お久しぶりです<(_ _)>
インフルエンザに罹り、しばらく投稿できませんでした。これから休んだ分の遅れを取り戻すまで、投稿が遅れることになると思いますが、頑張ってなるべく早めに投稿できるようにします。