ミックス・ブラッド   作:夜草

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冥王の花嫁Ⅲ

人工島南地区 マンション 屋上

 

 

 太陽光発電のパネルに覆われたマンションの屋上。

 そこに、銀人狼を待ち構えていたのは、鳥類の獣人種の男。

 

 ゾン!! と。

 辺り一面に、死の前兆の如き不吉さを覚えさせる獣気が充満する。

 

 それは敵を視認した瞬間に銀人狼から放たれたもの。ここ一帯を重圧で押し潰してしまいそうな、ただ確かな敵意の感情。戦士長が処刑を中断し、場所を移す。『第三の帝国の獣王』であっても注意を向けざるを得ないと判断する相手。

 

「……なるほど」

 

 鳥人クアウテモクはわずかに呟き、そして笑った。

 首輪をつけた銀の体毛を持つ人狼。そして、己の処刑を阻むだけの実力がある。すべてが皇女より伝えられた情報と一致する。

 

「そういえば、<蛇遣い>に“代理戦争”を仕組まれたのだったな」

 

 クアウテモクは満足そうに頷く。

 上位獣人種であろうと、その力を完全に己のものとする者は、軍属の戦士団においても珍しい。素質に頼り、潜在能力を引き出そうと鍛えることもしない輩を多く見てきたが、これは違う。

 戦士長は、黒曜色の生体障壁を改めて全身に張る。

 女皇やあの『戦王領域』の戦闘狂(ヴァトラー)の口ぶりから多少の期待はしていたが、確かに“勝負が出来る”ようだ、と言外に語っている。

 

「しかし、<蛇遣い>の誘いをこれまで断り続けている話からして戦闘狂ではないのだろうが、私と戦う度胸があるか」

 

「ああ」

 

 銀人狼は、

 

我慢(まて)ができるようになったと思ってたんだけど、どうやらオレはオレが思ってるよりもずっと抑えが利かないみたいだ」

 

 南宮クロウは、

 

「古城君たちを襲って、アスタルテを殺そうとしたのを見たばっかりだからな。しばらく自制は無理だ。ご主人から口酸っぱく“獣になるな”って躾されてたのに」

 

 <黒妖犬(ヘルハウンド)>と呼ばれる魔女の眷獣(サーヴァント)は、屋上の太陽光パネルを吹き飛ばすように、

 ただ鮮烈に君臨する。

 

「ぐだぐだと考えるのはやめにするぞ。今はオレの後輩の意思を無駄にしない。それだけでいい」

 

 理不尽な暴力の権化が、これ以上、皆を不条理な暴威で蹂躙するのならば。

 止める。

 彼もまた身の内から滾って溢れ出す生体障壁を纏う。

 

 

「どれ、同じ土俵に立ってやろう。そうでなければ、“勝負(かけ)”にならんのでな」

 

 

 二人―――いや、二体の『獣王』の眼光が、正面から激突した。

 それが合図。

 真なる最上位種の怪物と怪物の戦いが、ここに始まる。

 

 

人工島南地区 マンション

 

 

「待て、アスタルテ―――!」

 

 古城の制止を聞かず、後輩に続き飛び出したアスタルテが、非常階段を駆け上っていく。

 行く先は、屋上。

 つい先ほどのぶつかり合いで生じた、世界が破裂したのではと錯覚する衝突音を轟かせているその発生源が古城たちの真上にあることを感じ取っている。

 それは爆音や衝撃波の領域すら超えていた。人間に聴き取れる範囲を遥かに超えた、世界が放つ苦痛の悲鳴。悲鳴の余波の余波、その切れ端になって初めて爆風と化している。悲鳴の木霊は鉄筋コンクリートの階層をビリビリと振動させ、如何に戦場が凄まじいものかを物語る。

 この古城のいるところに届いているのは、あくまでも戦いの切れ端。

 あの後輩と、同格以上の『獣王』。

 人間と魔族の混在する街の中、二体の『獣王』の激突だけが、深夜の南地区にあるすべてだった。

 

 たった今、屋上の危険地帯レベルは跳ね上がっている。

 そこに飛び込むような真似をすれば―――

 

「姫柊、俺が行ってくる!」

 

「待ってください、先輩! 私も―――」

「ダメだ! 姫柊は、セレスタと夏音たちのことを頼む!」

 

 それ以上の問答をせずにこちらの要求だけを押しつけた古城は、人工生命体の後を―――そして、後輩の下へ駆け出す。

 その背中へ、叶瀬夏音に抱かれたニーナ=アデラートが言葉を飛ばす。

 

 

「―――古城、光を奪うのだ! 今は鳥人(ヤツ)の時間ではない!」

 

 

人工島南地区 マンション 屋上

 

 

 王族との誓約との制約により、得られた<疑似聖剣(スヴァリン・システム)>。

 その変形発動の聖拳が、銀人狼の爪拳に黄金の加護を纏わす。

 

 開始の合図もなく始まり、それからの言葉はなかった。

 沈黙は、強大な敵との彼我戦力差をはかるための、極度の集中でもあったろうか。

 

「―――」

 

 刹那。

 地面が、爆ぜた。

 銀人狼の姿が、消失する。

 銀人狼の身体に許された、高速機動であった。

 単に、人狼の四肢のみによるものだけではない。攻魔師(にんげん)身体強化呪術(エンチャント)を発動させるクロウが為し得る、絶対的な速度の結界。北欧の魔導技術で強化との効率性を高めた外套によって、神速はさらに増幅され、魔族の知覚能力すらも完全に凌駕する。

 速く―――!

 速く、速く、速く、なお迅く!

 思考と同じ速度で、銀人狼は鷹の目の死角へと回り込む。

 対して、戦士長はどうしたか。

 

「……、」

 

 『鷲の戦士長』は、その場を動かなかった。

 ただ、下段に構えている、漆黒の硬気功を浸透させた両腕翼が、何度となく霞んだ。

 火花が、散った。

 黒曜の翼刃と、金銀の爪剣が相打つ火花。

 ガガガガザザザザギギギッ!! と。

 瞬く間にその数は膨れ上がり、相打つ剣(拳)撃の音は連続する楽器の音のようだった。漆黒と金銀の光が乱舞し、時折、分身を別けて翻弄しようとするも、それらは即刻、漆黒の軌跡に斬り裂かれる。

 

「魔でありながら、聖気を扱うとは、これが『混血』か。魔族である私からすれば天敵のようなものだが、当てても通らなければそれも意味がない」

 

 銀人狼の攻撃の全て逃さずに斬り払いながら、戦士長は皮肉気に口角を上げた。

 

「地上での速さは、私の負けだ。この状況は私にいささか分が悪い。しかし、これで終わりならば、勝負はすぐにつくぞ」

 

 翼刃の結界から聞こえてくる声には、何の力みも焦りもない。

 その身体のみが戦闘に適応しており、精神状態に左右されることがない。

 『鷲の戦士長』は至っているのだ。この戦闘の最中にも、思考と行動をほぼ完全に切り離せる領域へ。

 

「―――シャアッ!」

 

 銀人狼が、鳥人の脇から地を蹴った。

 白い三日月。

 背を反らし、世にも美しい弧が描くムーンサルト。

 半回転しつつ、銀人狼の爪先より伸びる<疑似聖拳>は、鳥人の頭蓋へ滑り落ちる。殺戮機械として育てられて、染みついていた技巧のひとつであるのに、流れるような跳躍の鮮やかさに、つかの間月明かりさえも凝固したようだった。

 豁然、黒曜の刃が月明かりの色を吸った。

 澄んだ音が、常夏の大気に響いた。

 長く、それは響いた。

 銀人狼が数mも離れて、屋上に着地した後も、しばらく二人は動かなかった。

 動けなかった。

 

「……捨て身、か」

 

 と、こぼした鳥人が、糸が切れたようにだらりと両腕を下げる。

 その首筋近く肩から、しとどに血が垂れた。

 空中からの爪撃は、戦士長の一薙ぎと相打って無益に終わり、しかし相殺の瞬間、銀人狼はもう片手から新たな聖拳を展開したのだ。それも指一本に絞り伸ばす“聖槍”。

 無理矢理に身を捻じって翻した刃は、今度こそ戦士長の虚を突いて一太刀を浴びせた。凄まじい高速戦闘に相手の目を慣らし、突然三次元的な動きへ移ったのも、クロウが組み立てていた戦術だったのだろう。

 そして、対する銀人狼は―――

 

 

 

 ―――先輩っ!

 

 屋上に駆け付けた少女は、それに叫びそうになった。

 銀の人狼が、片膝を付き、蹲っているのである。呻きひとつ零さぬのがこの場合なおさら痛々しい。銀の体毛はあちこち切り刻まれ、とりわけ風穴があけられていた胸元からの鮮血が酷く、赤色に濡れている。

 銀人狼の乱舞を、戦士長は、単に斬り払っているだけではなかったのだ。今の跳躍は、まさしく戦士長の言う通り、捨て身の一撃だったろう。

 

「……、はぁっ……、んぐ」

 

 必死に、息を継ぐ。

 喘ぐ。

 まるで水面を飛び出した魚が、懸命に酸素を取り込もうとするよう。

 

「ダメだ、アスタルテっ!」

 

 何もかも忘れ駆け寄ろうとしたアスタルテが背後から肩を掴まれ、止められた。

 

「今、あそこに行くのは危険だ」

 

 そんなこと、理解している。

 振り返って目を合わせた暁古城は、アスタルテにその危険性を説く。

 あそこに行けば殺されるのは自身だ。止めることなどできるはずがない。

 ここは力ある真祖に任せるのは冷静な対処だ。

 彼を助けるために自分が死ぬのは、あまりにも望まれない行為であると理解している。

 

 ―――だが、そんなのは知らない。

    自分には、彼を無視してはおけない。

 

「だから、ここで―――」

命令拒否(ディナイ)

 

 脳裏を占めたものはそれだけ。

 振り払って、アスタルテは行く。その予想にし得なかった犯行に、古城の反応が遅れる。

 

 ここに来る前から、負傷をしていて万全ではなかった。

 その状態で、自身を庇うためにさらに無理をさせてしまった。

 このままでは、壊れてしまう―――ならば、壊されてしまう前に、対象を破壊する。

 

 躊躇うことも、迷うことも、これ以上考える余裕もなかった。

 死なせたくない。

 奪われたくない。

 立ち向かいたい。

 ただそれだけで動いていた。

 屋上を蹴った眷獣共生型人工生命体は、これまでに持ち得なかった強い破壊意志を抱いて、虹色の巨人を喚び出した。その瞳はこれまでにない粘ついた眼光を宿す。

 

執行せよ(エクスキュート)! <薔薇の指先(ロドダクテユロス)>ゥッ!!」

 

 片腕しか現出できなかったが、その分一点に絞り込んで魔力を回せる。とにかく今、求めているのは一撃で標的を破壊する威力。この身に刻まれた本来の“兵器機構(システム)”へと成り果てるべきは今。

 『神格振動波』を纏う巨大な腕が、大槌(ハンマー)として叩き込む。

 判断は、迅速。

 そして、相手は自分のことなど視界にさえ納めておらず、無防備に背中を晒している―――

 

「っ! ダメだ、アスタルテ!」

 

 動いたのは、銀人狼。

 立ち上がって、すでに振りかざしていて、勢いの止められない人工眷獣の拳に、合わせるように受け止めた。

 

 な、ぜ……!?

 

 先輩が破壊される前に、標的を破壊しようとしたのに、先輩がそれを邪魔をする。

 理解不能に、人工生命体の思考が、止まった。

 ―――そして、その声が、別のところから響いた。

 

「人形風情が! 女皇より任された、我ら『獣王』の戦いに割って入るな!」

 

 前に立つ鳥人、しかし、その憤怒を滲ませた声音は横から、まったく別の方角から聞こえた。

 

 幻術……その答えにアスタルテが気づいたのは、“終わってからだ”。

 

 呪術において、幻術は多岐にわたって利用される汎用術式のひとつである。特定の場所を隠すためや、特定の場で方向感覚を惑わせるためにもの、あるいは攻防の駆け引きに使うフェイント、暗示の強化や修行のために己にかけるタイプのものまで多種多様。

 生半ば幻術はある程度以上の霊視能力や魔力抵抗を持つ相手には無効化される場合が多いために、“汎用の便利な呪術”以上にそれを極めようなどというものはそれほど多く存在しないだろう。

 

 しかし、身近にその“極まった一例”をほぼ毎日かかすことなく目撃している。

 

 <空隙の魔女>――南宮那月教官が、眠り続ける本体の、代理に作り出したその空蝉。

 見て、触れて、存在の気配まで感じ取れ、紅茶の味を嗜む繊細な感性まで持っているそれは、

 色彩や輪郭だけを写し取っているのではなく、材質や質量や構造に至るまでの情報を形作った―――幻影。

 それと同じ。

 五感だけでなく、物理的な光と音と同様に知覚する霊感さえ、この目に映る鳥人の身体は、確かな実体であると認識していた。

 間違いなくそこにいる―――と錯覚していた。

 本体と全く同一の形と音と熱を本体からずらしていた位置に置いていた。

 

 そして、その虚像を超感覚でもって把握するのはこの場でただひとり。

 

 主人の幻影を幻影と正しく感じ取り、“匂い”で現在位置を見破る<黒妖犬>のみ。

 つまり、この鳥人とまともに戦えるのは、霊感さえ惑わす高度な幻術に騙されない彼しかいなかったのだ。

 

「ネコマたん弱―――」

「<投矢羽>!」

 

 見当違いの方へ攻撃し、隙を晒してしまっているアスタルテを人工眷獣ごと受け流して投げ飛ばそうとする銀人狼。

 鳥人がそれを許さず、追って“代理戦争”に割って入ってくれた人形へ羽ばたきを振るい、無数の黒曜の羽矢を放つ。

 羽吹雪の如き無数の霊弓術。

 一枚ずつが複雑性妙なる軌跡を描いて、標的(アスタルテ)を追尾。

 無作為と思える、不規則な弾道。

 しかしそれは詰将棋の如く相手の逃げ場を塞いでいくよう、全方位から迫る羽矢の嵐。

 同じ霊弓術でも牽制程度にしか使えないクロウのとは、操作も威力も段違い。

 

 ―――避けようがないと獣特有の第六感が警鐘を鳴らす、

 ―――このまま投げ飛ばすと仕留められると判断した銀人狼は、動作を中断して、

 

「―――!」

 

 ―――最適解を瞬時に割り出す直感に従い、

 

「ッア! 何で―――」

 

 投げ飛ばしを中途で止め、人工生命体の身体を掴まえると地面に叩きつける。

 

 ……………

 

 一秒を幾度も刻んでいくように思惑が交錯したその一瞬。

 人工生命体の少女はその詳細を見取ることはできず、予想だにしえない方向から攻撃されたことも気づけていなかった。彼女にはこの一瞬は床に叩きつけられたことしかその時は理解できなかった。

 先輩に攻撃を止められたことで、思考は真っ白になり、

 自分を屋上に押し倒した先輩に、視界が真っ黒になった。

 

「危な、かったのだ」

 

 投げ飛ばす動作から瞬時に切り替えて、床に抑えこむ。それを成功させた銀人狼は薄い笑みを浮かべて、アスタルテを見下していた。ゆらゆらと、おぼつかない四肢を懸命に踏ん張っている。その口の端から血液が一筋垂れた。

 視線をずらし―――息を止めた。

 愕然と見開いたその瞳に、映ったのは針鼠。人狼の身体に突き刺さる黒い羽根。

 背中後ろが隈なく矢羽を受けて、もはや奇怪なオブジュにしか取れない形で、血塗れの銀人狼はいるのだ。

 

 

 

「ありがとうな」

 

 

 

 アスタルテを金縛りにさせたのは戦士長の殺意ではなかった。

 それは彼女の頭を撫でるようにそっと置かれた、毛深くも弾力のある肉球のついた手の平だった。

 アスタルテの小さな体が、その一言にビクリと震えた。

 彼女は、もう置物のように、そこを動けない。

 頭を撫でるその手、腕にも矢羽は刺さっている――ボロボロのはずだ。

 だがアスタルテの目前に浮かんでいるのは、ただ優しい顔。

 

「オレの事、守ろうとしてくれたんだろ。嬉しくて、ちょっと元気が出たぞ」

 

 そんなの、違うはずだった。頽れていた彼は、アスタルテの行動の結果で、それ以上の深手を負っているのだ。

 実際、人狼の声は絞り出すように小さなもので、声域も頼りなくふらふらと揺らぎ、今にも消え入りそうに感じられた。

 にも拘らず、その短い言葉には温かさがあった。

 

「じゃあ、先輩もまだまだ頑張るのだ」

 

 立ち上がろうとする人狼。

 アスタルテは依然と戸惑い、思考停止に陥る最中で、しかしこの直後に彼が何を考えているのかを知り背筋に悪寒が走る。

 

 彼が尖って極まったたった一つ、主人よりも得意な魔術――死霊術(ネクロマンシー)

 それを自身に掛けることで、死に体でも無理矢理に蘇生させて死ぬまで100%の力で己を動かそうとする。

 

 そう、まだ、戦うつもりだ。

 いくら頑丈でも、ダメージを負い過ぎている状態で、勝ち目の薄い戦いに挑む。その真意は。

 

「アスタルテ。お前は、間違っちゃいない」

 

 だから、それを正しに行く。

 失態を冒した後輩の、尻拭いをしようとしている。

 今、ここで、この戦士長を倒すことで。

 

「待―――ッ!!」

 

 声を出す暇もなかった。

 手を伸ばすよりも早く、すでに頭上に置かれた手に身体を押さえつけられていたアスタルテは起き上がることもできなくて―――芳香(フェロモン)を嗅がされている。

 おいろけの術などと技名が付けられた、ジャコウネコ科の獣人種の専用スキルを模倣した、『嗅覚過適応』の応用。

 意思は遠く、この一際に思考を放棄させてくれる。

 ボロボロの身体を動かし、鳥人の前に立つ人狼の背中を、アスタルテは止められなかった。中途半端に意思を壊してくれたせいで、体の力が抜けてしまったのだ。

 ただ、彼がその戒めたる『首輪』を外すのを見ることしかできず……

 

 

「―――契約印ヲ解放スル」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「クロウ!」

 

 古城は、ふらつきながらも立ち上がろうとする銀人狼。

 

「人形を庇って終わるとは……甘いが、これではケチがついてしまうではないか。神聖な決闘を穢しおって」

 

「テメェ……!」

 

 もはや死に体な後輩――しかし、それがどれだけに頑固かを悟る――古城は、戦士長へ叫ぶ。

 

「もう止めろ! こんな戦いに意味なんてあるのかよ!」

 

「ある。これは<混沌の皇女(ケイオスブライド)>と貴様の“戦争の続き”。全力を振るうことが許されぬ真祖に代わって、我らが覇を争う。そうお決めになったのだ」

 

「なにっ、あのジャーダが?」

 

 <混沌の皇女>。

 翆玉(エメラルド)色の髪と翡翠色の瞳を持つ美しい吸血鬼は今でも古城の脳裏に浮かぶ。公式に存在を認められた、わずか三人の真祖の一人――ジャーダ=ククルカン。常軌を逸した彼女の戦闘能力と、凄まじいまでのカリスマ性は身に染みてよくわかっている。

 しかし、第三真祖は、暴君でも戦闘狂でもない、真祖を名乗るのに相応しい圧倒的な威厳と力を備えていたが、話の通じない怪物という感じはしなかった。むしろ計算高さと茶目っ気さを感じさせる人間味のある吸血鬼だったという印象だ。

 魅力的な人格と表現しても、そう的外れではないだろう。

 その彼女がこの戦いを仕組んだのか―――?

 

「<蛇遣い>との“賭け”で仕組んだものだそうがな」

 

 あの野郎……!

 脳裏に気障ったらしい青年貴族の顔がこちらに笑いかけてくるのが思い浮かんだ。

 第三真祖は人間臭いが、それでもやはり吸血鬼だ。血腥い戦いもお好みだろう。不死故に尽きぬ生に飽きぬよう、常に彼らは刺激を求めている。誘いをかけ、それが面白そうとわかれば乗ってしまっても不思議ではない。

 

(ヴァトラーのヤツ、本っ当にアイツは余計な事しかしねェな!)

 

 異国人の箱入り娘は文句を言うだろうが、やはり古城はあの男を一生様付けなどと呼べる気がしない。

 

「ふざけるな! 第四真祖(オレ)はそんな“代理戦争(ケンカ)”は認めてねェ!」

 

「取り決めたのは、<蛇遣い>だ。第三真祖(ブライド)もお認めになられた」

 

「聞く耳持たずってことかよ。だったら、その“代理戦争(ケンカ)”、第四真祖(オレ)がぶち壊す!」

 

 古城は腕に魔力を集わせる。

 これ以上、自分の後輩がこんな勝手な死闘遊戯に巻き込んでしまうのならば、実力行使も辞さない。

 

 

「邪魔をしたければ邪魔をするがいい。私は全霊をもって、皇女(ブライド)へ勝利を捧げることに変わりない。若き獣王ともども未熟な真祖、そしてこの階下にいる『花嫁』も葬り去るまでの事よ」

 

 

 空へ、飛ぶ鳥人。

 まるでロケット発射のような飛翔。空中の一点と化した鳥人クアウテモクは、両翼を横に広げ、この魑魅魍魎の跋扈する魔天で支配者であることを疑いもせぬかのように。

 

「ふっ!!」

 

 一瞬、ふわりと言う妙な感覚が古城を包む。

 それは『鷲の戦士長』が空の王者に相応しき姿に変生するための“溜め”を行ったのだと気付いた瞬間、その周りの大気は、みるみる黒く染まり始めた。

 ここまで侵食は届いていないというのに、視界に入るだけで古城を四方から取り囲むように寒気が包む。戦局と言う全体の流れが大きく揺らいだときに垣間見える、物質的には存在しないシーソーの傾くのような何かが。

 そして、その生と死のリズムを傾かせるのは―――<神獣化>。

 

「慈悲だ。一撃で終わらせてやろう」

 

 豹の神獣とは違う、完全に制御された、最上位種の変生。

 

 およそ20mにも達する翼開長、頸の長さは麒麟を超えて体高は6mを上回る。まっすぐに伸びる長くなった嘴は槍のよう。セスナ機と同サイズ大型の翼竜へと変じた鳥類型獣人種。

 その神獣形態は、北米大陸に生息していたとされる魔獣を除けば現代においても“史上最大級の飛翔動物”ケツァルコアトルス。

 まさしく天と地の距離差があっても伝わってくる魔力の波動は、真祖の眷獣にも匹敵するものがあり、この龍族鳳凰も同然の威風こそが、完全に制御した真なる<神獣化>。

 

「ッ!!」

 

 古城は即座に迎撃せんと眷獣を喚び出そうとして―――惑わされる。ほんの瞬き、その一瞬で、戦士長の姿は四つに増え、次の瞬間には、十六に別れた。

 幻術。

 本物かどうか、近くで見ても、霊視であっても判別できぬほど精巧な幻像、それが点としか見えぬ空の果てにあるのを果たして見破れるか。闇雲に攻撃したところで、これだけの距離があれば悠々と避けれるだろう。

 本物を見破り、それを最速で打ち破るしかない―――それができるのはやはり。

 

 

「古城君、一瞬デイイ、隙ヲ作ッテクレ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 翼竜の両翼は、上段から漆黒の流星を迸らせる。

 虚空を断ち切る斬撃は、ありえぬ巨大な剣圧を生じさせる。本来の翼長たる十m弱を無限倍に増大させて、上空より急滑降して降り落ちる翼竜の一撃は、夜よりはるかに暗い漆黒の奔流とせしめることだろう。

 『魔族特区』の建造技術で頑健なビルディングを断てぬと見るのはあまりに楽観。

 あれは、まさしく天より振り下ろされる巨人の剣。

 または、審判を告げるダモクレスの剣。

 欠けた満月さえ斬り捨てんばかりに双巨翼より伸びたる黒曜の氣刃が、一切の遅滞なく、一切の容赦なく、一切の油断なく、あまりにも優美な弧を描いた。野蛮な獣でありながら、その理想的過ぎる軌跡を流れた双巨翼は、逆に緩慢にも見えて、死にゆく人にわずかな悔恨の時間を与えるようでもあった。

 獣王の決着をつけ、真祖を葬り去り、花嫁を処刑する、その断罪刃が、南地区のマンションを鮮やかに両断しようとして―――

 

 

 

 ―――次の刹那

    夜の帳が、視界を閉ざした。

 

 

 

「―――ッ!?」

 

 閃光が瞬いた後に訪れる絶対的暗闇。

 自身の目を閉ざしたのではなく、世界が光を閉ざされた。

 

 そう、南地区が停電したのだ。

 

 <獅子の黄金(レグルス・アウルム)>。その真祖の眷獣の雷電を天にではなく、古城は地に向けて振るった。

 かつて暴走して、港湾地区に多大な損害を与え、一帯から電気を喪失させた雷光の獅子。

 その力でもって、絃神島南地区一帯を停電した。

 

 人間の住まう都市は、電気からの人工の光によって、夜でも暗闇となることはない。

 そう、熱帯雨林にある秘境の昼間よりも明るい事だろう。

 それが今、完全な暗闇になった―――

 

 

『―――古城、光を奪うのだ! 今は鳥人(ヤツ)の時間ではない!』

 

 

 飛行という絶対的なアトバンテージを持つ鳥類型獣人種の、魔族でありながら魔族らしからぬ弱点。

 夜盲症が、『鳥目』などと呼ばれるよう、大体の鳥類は夜の活動を控える。夜になるとまったく見えないわけではない。昼夜休まず飛び続ける渡り鳥、夜中に狩りを行う夜行性のフクロウがいる。ただ、それでも鳥類の眼というのは、仕組みとして暗所より明所の方が能力を発揮する昼行性である。

 それと同じく、鳥類型獣人種もまた、鳥目――夜盲症のような夜間視界不良で見えなくなるというほどではないけれど、ただ、魔族の獣人種でありながら、暗所においての視界は人間とほぼ変わらない。夜の王とも称される吸血鬼や豹や狼のような夜行型の獣人種と比べれば、夜は不自由なのだ。

 

 戦士長の目は暗闇でもある程度は見通すことができるが―――しかし、落陽から闇夜に刹那の内に切り替わるがごときの突然の明暗差には―――さしもの戦士長も視界を喪失して、対応が遅れてしまう。

 

 ほんの一瞬、意識も身体も、止まってしまった。

 ―――その刹那に、不可視の壁と激突。

 

(しまっ……―――)

 

 黄金の神狼。夜行性の獣類であり、幼少から絃神島に来るまでを、昼間でも暗闇にある極夜の森の中で暮らしていた、また、見えなくても“鼻が利く”。

 

 そして、最高速に達した勢いにブレーキを掛けたものと、最高速のまま捨身で当たってきたもの―――どちらが勝つかは明白。

 

 ごっ、とロケットミサイルの如き突貫。

 重力の枷を一気に振り切る零から最高速に至る加速で、自由落下をする翼竜の距離を一瞬でゼロに詰めんとする。天蓋の先、(ソラ)の果てにある“月”を目指さんとする狼に、“天と地程度”の差など届かぬはずがなく。

 ならば、その威力を形容するならば、星をも穿つ隕石か。

 

「オマエヲ、落トス!!」

 

 突如生じた激突は、エネルギーの嵐を巻き起こした。

 断ち切らんとする絶大な力が、匹敵するだけの斥力と衝突してねじくれ、蛇を思わせて蠕動。

 激しく、巨翼の断罪刃は“ぶれた”。

 真なる神獣同士のぶつかり合い。

 互いの中間で留め置けなかった圧が、余波となって四方八方へと散る。

 その余波だけで、マンションとその周囲の建造物はあちこちに亀裂をつくっていった。『魔族特区』にて吸血鬼の眷獣の攻撃にも耐えられるよう、入念に健在を選択され、魔術理論を取り込んで設計されたビルだった。たかが人間如きの智慧は、所詮天と地の最上位者には及ばぬと嘲笑うように、亀裂はいくつもいくつも増えていった。

 それでも。

 跳ね返された斬圧は、その大半をビルではなく天空へと逃がしたのだ。

 

「―――ヨウヤク、捕マエタゾ」

「っ!?」

 

 そして、激突を制止、跳びかかった勢いそのままに怯んだ翼竜に爪を立ててのしかかる金狼が吼えるように、大声で要求した。

 

「今ダ、オレゴト狙イ撃テ! ―――」

 

「っ―――<獅子の黄金(レグルス・アウルム)>!」

 

 この好機。古城の命令よりも疾く、雷の眷獣が動いた。

 金狼は、翼竜が逃げぬように四肢でしがみつき抑えている。

 一度雲を突き抜けて(うえ)に昇って神鳴りとなって飛び掛かる雷光の獅子。

 避ける術などない。

 受ける余裕などない。

 幻術で躱そうとするのも無理。

 目印(クロウ)が付けられた翼竜へと、夜気が奔騰する。

 轟音は、もはやそれ自体が兵器に等しかった。

 

 そして、後輩ごと戦士長に、古城の眷獣が直撃。雷に姿を変えた眷獣の魔力が、中空で激しく弾け散って、神獣の肉体に迸る。

 

「シャアッ―――!」

「ガルウッ―――!」

 

 しかし、二体の神獣は真祖の眷獣の圧倒的な魔力による雷撃を受けながらも麻痺することなく揉みくちゃに暴れ続けていた。嘴で肉を抉り、爪で骨を砕く。そこに技や知性などない、原始的な獣同士の争い。そのまま錐揉み回転しながらマンション近くの公園に墜落した。

 

 

公園

 

 

 濛々と砂塵が立ちこめた後は、クレータのように大地が陥没。辺りに揺れが襲った。

 

 暁古城が、荒れ果てた公園に駆け付けた時は、二体の神獣は、鳥人と人狼に戻っていた。

 辺りの様子を見る限り、撃墜されてからもこの公園で物理的応酬が繰り広げていたのだろうが、古城が来たころにはすでに終わっていたので“血塗れの泥仕合”については想像しかできない。

 古城が見たのは、人狼は地面に両膝をついて脱力していて、鳥人は公園に植えられていた樹を背に座り込んでいた。二人の身体は血で真っ赤に濡れ、お互いに重傷。もはや自力では立ち上がれぬ、酷い有様。客観的に見れば、両者KOの引き分けが妥当。

 それでも戦闘意志だけは衰えを見せることはない。

 この敵を斃すまでは、おさまりがつかぬと猛っていた―――それを古城の登場を視野に入れると冷静に認め、先に終了を宣言したのは、意外にも戦士長の方であった。

 

「……っ、今夜は退くとしよう。これ以上の消耗は、任務に支障が出るのでな」

 

 戦士長には、果たさなければならない任務。それに支障をきたしてまで戦闘続行するのは、もはや私情が入る。特区警備隊に、特殊部隊(ゼンフォース)のことを考えると、ここは余力を残したまま引いて、体を休めるのが最善という判断。

 ここで先に引き下がるなどと言う“忘れ難い屈辱”を味わっても、優先順位は決まっている。

 

「しかし―――!」

 

 起立した鳥人。その羽爪の五指が、前に突き出される。

 

「勘違いをするな。私は、負けを認めぬ―――!」

 

 鳥人の手に当たるよう、地面から火柱が立ち上る。

 

「まだ、全力を出していない―――!」

 

 そして、引き抜かれる。

 まるでそれが合図だったように、灼熱の火柱はあっけなく、常夏の大気に拡散して溶け込む。

 

「この<シウテクトリ>を鞘に抱く―――」

 

 引き抜きざまに横薙ぎに振るった腕に連動するよう、爆炎流の大蛇が―――

 

「―――させるかっ!」

 

 古城が吼えた。

 地面が、弾ける。

 古城に向けられた鷹の目が、すうと細まる。

 これ以上何かをさせられる前に、“処刑人”へ眷獣をぶつけようとした古城―――の上半身が、その半ばで泳いだ。

 もはや物理的に暴風といえる膨大な魔力放出で守られていた暁古城の肩から胸にかけて、ピシリと一筋の紅い線が走り、血が噴き出したのだ。それも吸血鬼には最悪な、太陽の如き熱量を斬り痕に焦げ付かせて。

 

「―――っ!?」

 

「そう、この<シアコアトル>に誓って、敗北は許されぬのだ」

 

 火柱の鞘から抜くと同時にすでに放たれていた、数珠繋ぎに刃が連結した蛇腹剣が大気を裂いて踊る。

 刹那のみ伸張した刀身、爆炎流の熱すべてを刃一筋に集中させたその切先が身体を切り裂いたのだと、頽れてから古城は気づく。

 蹲る古城に、剣を掲げて宣告する。

 

 

 

「女皇より賜りし、<シアコアトル>が、最大の真価を発揮する昼の刻―――『花嫁』、それが貴様の最期だと伝えておけ」

 

 

 

 <火鉢石(シウテクトリ)>の配偶神たる<トルコ石の蛇(シアコアトル)

 火蛇の女神は、日の出の時に東から昇る太陽を、正午に天頂にまで運ぶ役割とその力があるという。

 そうそれは、太陽を纏った剣。太陽光に左右されるその性質故に、この陽が沈んだ真夜中に放った斬撃は、相手を燃やす程度で“温い”。しかし、太陽が真上にあるときの剣は、“『旧き世代』の吸血鬼(トビアス=ジャガン)を跡形もなく消し飛ばして、長時間行動不能にしてしまえるほどのもの”。

 それに比べれば、古城の負傷は軽く、行動不能にされたほどではない。真祖の再生能力であればいかな重傷を負っても無効とする。それでも直感で思う。もう手の中をすり抜けられた。

 

「そして、必ずこの決着はつける」

 

「……、」

 

 『鷲の戦士長』は、この短いタイムラグを利用して的確に距離を離し、この場から確実に逃げ延びるだろう。会話もできぬほど意識がもうろうとする銀人狼は、まだ回復が間に合わない古城をおいて行くことはせず。そうして、幻術がかけられてその姿はこの場から溶け込むように消えていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『―――古城!? 無事なの!?』

 

「何だ、どうした浅葱、そんな慌てて……」

 

『なんだ、じゃないわよ! あんたん家のマンションの近くに隕石直撃したって聞いたわよ! 監視カメラで見たら、なんかバカでっかい穴が空いているし!』

 

「またハッキングしやがったな……まあいいや。とにかく俺は大丈夫だ。でも、クロウがな……」

 

『え!? クロウが? ちょっと、なによそれ? なにがあったのよ?』

 

「俺たちにもよくわかんねーよ。いきなり変な獣人やら怪物じみた鳥人に襲われて、結局そいつらには逃げられちまったし」

 

『……獣人に鳥人ですって……あんたたち、また妙な事件に首を突っ込んでるんじゃないでしょうね?』

 

「好きで巻き込まれてるわけじゃねぇよ……そうだ、浅葱。“ザザマラギラ”って知らないか?」

 

『え? なに? “ザラララギ”? ゲームの呪文?』

 

「悪い、違った。<ザザラマギウ>だ。たぶん『混沌界域』……中南米あたりが関わってるご神体の名前なんだが」

 

『聞いたことないけど、それがどうしたの?』

 

「いや、ちょっと知りたかったんだけどな……ネットで検索しても出てこなくて」

 

『ふーん……あたし、午後から公社のバイトだから、必要なら調べるけど?』

 

「悪い。ああでも、できれば昼前に情報くれると助かる」

 

『早めに出勤したところで問題ないし、いいけど、それなりの見返りは覚悟しといてよね』

 

「へいへい……」

 

 

人工島西地区 高級マンション

 

 

 神獣二体が暴れ、真祖の眷獣がその迎撃に猛威を振るい、トドメに獣王同士の怪獣合戦。

 自身の部屋の方は窓ガラスにヒビが入ってたり、物がしっちゃかめっちゃかに散らかったりしてたりするけれど、まだ寝食できる。むしろお隣で大乱闘が起きていたのに比較的軽微で済んだのは奇跡だ。

 フローリングの床は捲れ上がり、壁はヒビ割れ、窓枠とベランダの手すりは跡形さえも残っていない。数少ない家具はすべて破壊され、残骸となって床に散らばっている。巡航ミサイルを撃ち込まれた廃墟のような有様であるお隣の部屋と比べれば、住めるだけで十分、そんなのは掠り傷だと言える(ちなみに、獅子王機関の手配で、すぐに修理されることになっているらしい。金に糸目をつけない突貫工事によって、凪沙が本土から帰ってくるまでにはマンションは元通りに修復されるそうだ)。

 しかし、“隕石落下事故と処理された一件”で、屋上の太陽光パネルが全滅し、地区全体の大停電。おかげで、ライフラインの復旧は大変であり、今頃、管理公社で缶詰にされている女帝様が悲鳴を上げていることだろう。

 

 そして、押しつけられた(かくまった)異国人の少女が、洒落にならない相手に命を狙われている。

 

 そんなわけで……

 

「見慣れない天井、か……」

 

 冬休み二日目の朝―――

 暁古城は、担任教師の家宅にて、目を覚ました。

 

「最上階ワンフロアを丸ごと自宅って、もう羨ましがる気も起きねーな……」

 

 古城の教師、南宮那月の自宅は、人工島西地区にある八階建ての建物。一目見ただけで庶民が住むと事は違う高級マンション。それは全て、カリスマ教師の所有物であって、その最上階は住まいとして活用されている。エレベーターで八階まで上がるとそこはもう玄関であった。なので、急な来客であっても部屋は余っている。

 

 しかし予想に反して室内の装飾はシンプル。ここが客人用の部屋であるだからではなく、壁や天井にはガラスが多用されているので、明るく未来的なイメージ。置かれている家具もどれも小ぶりで背が低く、内装の感じも玩具屋に売られているお人形の家(ドールハウス)をそのまま人が住める程度に大きくしたような。きっと最上階は特注で、主人の体型に合わせたデザインとつくりなのだろう。

 

 そして魔女の住処とあって、張られている魔術結界は、獅子王機関の剣巫の頬が引き攣るほどである。『昨日、私の部屋をメチャクチャにしてくれたように、先輩が暴れても大丈夫です』と監視役から太鼓判を押され、正しい手順を踏まない限り出入りはできず、罠にかかり下手に迷い込むと永遠に帰ってこられない、と忠告された魔境じみたセキュリティが敷かれている。

 ここならば自宅よりも安心はできるのだが、寝泊りするには危険である。またあの担任教師に借りを作るのは遠慮したいところなので、できる限り早く退散したいところである。

 

「先輩。おはようございます」

 

 時計を確認して肩を落とし、のろのろとベットを降りる古城の耳朶を叩くノックの音。

 ドアを開けて、顔を出したのは、隣の客室でセレスタと就寝した姫柊雪菜だった。珍しい私服姿である。髪型もいつもとは違う。ヘアゴムで束ねただけの無防備な髪形だ。

 

「あの、昨晩は休められましたか」

 

「あ、ああ……少し窮屈な感がするけど、あのままあそこで寝るよりはずっと快適だったな。姫柊の方はどうだ? セレスタの奴もちゃんと寝れたか」

 

「はい、最初はやはり落ち着かないようでしたけど……」

 

 雪菜の口ぶりからして、どうにか彼女は休めることができたらしい。

 古城たちは、セレスタと一緒に那月のマンションへと一時避難をすることにしたのだ。部屋の主人は特区警備隊の仕事で手が離せないらしく帰ってきていないようだが、とりあえず許可は頂いた。古城があまり頼りにしたくないけど、こういう裏の事件で最も頼りにできるのはやはり担任であって、彼女の庇護下に入れたのはとても助かることだ。

 ―――でも、もうこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

 

「……それで、クロウは?」

 

 雪菜は視線を落とす。

 昨晩の一件で、最もダメージを負ったのは、後輩だ。はっきり言って普通の人間なら病院で緊急治療を受けて絶対安静。火傷に銃痕、全身に痛々しい切傷とあれが如何に死闘だったかを物語る。

 それでも、後輩は頑なに病院で治療を受けるのを拒んだ。負傷は全て己の未熟さが招いたものであって、まだ自体は解決していないのに途中退場はできない、と。この高級マンションにつくまで古城たちの警護をして、寝ずの番までしそうだったところをどうにか酔い潰させて眠らせたくらいだ。

 

「本当なら、病院で治療を受けて欲しいんですけど、クロウ君の自己治癒能力は高いです。それに、ユスティナさんの<ニダロス>と、夏音ちゃんが看護しながら、霊力を供給したおかげで怪我ももうほとんど治っています」

 

 破魔の力と癒しの加護を与えるアルディギアの宝剣<ニダロス>。それは退魔だけではなく、治癒にも活用することできる。この絃神島でも最高ランクの霊媒資質である夏音が供給源となって、治癒の術式をかけ続ければ、病院で治療を受けるよりは早期回復が見込めるかもしれない。

 ただし、それでも失った血液や体力までが戻ってくれるわけではない。

 客室から出た古城は、リビングではなく後輩の部屋へと足を向ける。

 

「話ができれば、一言でも謝っておきたいところなんだがな」

 

「今は得策ではありません。せっかく眠らせたところなんですから、今は起きるまで休ませてあげるべきです」

 

 それに何より、と雪菜はそっと音を立てず、わずかに戸を開けて、その隙間から窺うようにと古城を言葉ではなく目で誘導する。

 後輩の部屋は、客室よりも余計にシンプルだった。でも、調度品とかは客室にあるものよりも高めで、主人より後輩に合わせて整えられているものとわかる。その陽が射しこむ窓際に置かれているベットに、銅髪褐色肌の少年が横たわっている。

 古城は雪菜に促されるように部屋の中に目をやり、そこでわずかに表情を曇らせた。

 ベットに寄り添うように、あるいは床に跪くように、ひとりの少女が佇んでいた。後輩の掌を両手で包み込むように握っているのは、メイド服の上に白衣を着込んだ人工生命体(つくりもの)の少女。

 アスタルテだ。

 

「……ああ、そっとしておくのが正解だな」

 

 古城は感情を消したような顔で、先にこの光景を見ていた雪菜に同意するよう頷く。

 後輩の重傷の一因となっている古城に、あの中に割って入るだけの度胸はないし、それは責任感の強い雪菜にも同じことらしい。

 黙って雪菜が扉を閉めると、古城は後輩の部屋から一歩だけ身を退いた。

 本当に悔しいが、後輩に対してできることは何もなかった。古城の眷獣はどれも危険で治療には使えない。『再生』の力を持つ『十一番目』がいるが、あれは制御を間違えれば存在が生まれる前まで回帰させかねないもの。せいぜい全快を祈るぐらいが関の山だが、それにしたって、祈るだけの資格があるかどうか。

 

 第三真祖と第四真祖の“代理戦争”なんて理由で決闘、あの<蛇遣い>に八割方悪いのだとしても、古城にも責任がないとは言えない。“戦闘”ではなく“戦争”に特化している<第四真祖>の力、それも未熟な古城には、追いつけない領域。あの鳥人とまともに相手ができたのは、後輩だけだった。

 

「……、くそったれが」

 

 古城が奥歯を噛む。

 どれだけ打ちひしがれようと、敵は待たない。去り際に、次は不利な夜にではなく、力を最大限に発揮する昼に仕掛けると宣告してきた。まだ戦いは終わっていない。

 そして、事態を解決するための情報が決定的に不足しているという。

 古城たちは、今もセレスタ=シアーテが狙われている理由と言うのがわかっていないのだ。

 

「先輩が、そんなに責任を感じることはクロウ君も……」

 

「わかってる。けどな、ボロボロになった後輩が必死に繋いでくれたんだ……それを無駄にして、犬死なんて結果にはさせねぇ。馬鹿が馬鹿を助けて馬鹿をやったなんて終わりには絶対に認めねぇぞ」

 

「そうですね。でしたら、私たちはいざというときに動けるよう、しっかり食事をとりましょう」

 

 その決意を新たにした古城に、ふっと雪菜は微笑を浮かべた。

 指摘はしないが、雪菜はセレスタのことをずっと気にかけているようだった。昨晩、依代だと獣人たちから呼ばれた時からは特にそう。地味女とか呼ばれても、忍耐強くセレスタに付き合っていた。そして今も、自分のことのように嬉しそう。

 

 それから朝食の席に誘う雪菜の後に続いて入った、広く開放的なダイニングルーム。

 ちょっとしか晩餐会ができそうなやたら長いテーブルの上には、多数の料理の皿が並べられている。魚介類のスープとマリネ、肉や野菜を詰め込んだトルティーヤ、ありあわせの材料で拵えたにしては、手がこんでいた美味そうだ。

 でも、

 

「この料理、誰が作ったんだ?」

 

「セレスタさんです。朝一番に起きて、皆さんの分の朝食を用意したんですよ」

 

 驚く古城に、口元に手を当てて苦笑してる雪菜が答える。

 

「セレスタがか? いや、すごいけど、アイツ記憶は?」

 

「なんとなく、作り方を覚えてらしたようで。一泊の礼にと、せめて食事くらいは作るって。まあ、アルデアル公への練習台とも言ってましたけど」

 

「俺たちはあいつの毒味役かよ」

 

 今イチ釈然としないが、ということはこれがセレスタの出身地の料理なのだろう。

 スイッチひとつで火が点くコンロや、レバーを捻るだけで水が流れる蛇口、それにトイレから水が噴き出してビックリした昨日の様子からして、この最新鋭の台所で調理するのは大変だったろう。

 ガス電気水道もない不便な土地で暮らしていたからか、それとも記憶がないからかは知らないが、それでも慣れない調理器具を使って見事な料理を作るあたり、おそらく雪菜がサポートしたのだとしても、セレスタの調理スキルはかなりのものだと認めざるを得ない。

 そのことに素直に感謝しつつ古城は食卓に着いた。獣人たちの乱入で夕食を中途で切り上げていた古城は、猛烈に腹が減っていた。雪菜も古城の隣に着席して、それからここに居候している夏音が――おそらく那月が見立てたと思しき――控えめなフリル付きのワンピースを着て現れた。少し古風なデザインが、聖女めいた夏音の雰囲気によく似合っている。

 昨晩は状態が安定するまで後輩(クロウ)への治癒に霊力を送り続けていたので、いつもよりお寝坊してきっとまだ眠いことだろう。それでも欠伸をすることもなく、こちらへぺこりと丁寧に頭を下げて、朝の挨拶をする。

 

「お兄さん、雪菜ちゃん、おはようございました」

 

「夏音ちゃんもおはよう」

 

「おう、邪魔してるぞ」

 

「うむ。そう畏まらずとも良いぞ、自分の家のように寛ぐがいい」

 

「何であんた()でもないのに偉そうなんだよ、ニーナ」

 

 腕に抱かれてる居候と言うよりペットサイズな院長様がツッコミを入れられながら、古城の隣、雪菜とは逆側へと夏音も席に着く。すると感激したように用意された料理に目を輝かせて、

 

「まあ、この美味しそうな料理。どなたが作ったのでした?」

 

「セレスタが作ったみたいだぞ」

 

 そうですか、と夏音は感謝を捧げるよう手を組む。

 そんな侵すべからず神聖ささえ漂わせる祈りのポーズを見守っていると、ふとポケットの中の携帯が鳴った。

 

「ったく、誰だ、こんなときに……」

 

 舌打ちしながら、古城は食卓を立って廊下に出る。震える電話機を引っ張り出してみると、画面に表示されていたのは、見慣れたクラスメイトの電話番号。

 

『古城、わかったわよ! <ザザラマギウ>の正体!』

 

「―――本当か浅葱!」

 

 まだ頭の中に残ってた眠気は一気に吹っ飛んだ。古城は慌てて携帯を耳に当て直した。

 

「教えてくれ。なんだったんだ、ザザなんとかの正体は!?」

 

『<ザザラマギウ>は、神様よ』

 

「は? 神……?」

 

 浅葱が口にした突拍子もない単語に、当惑したように眉を寄せる古城。

 しかし学園きっての才媛は至って真面目な口調で続ける。

 

『信仰する人々の絶えた、忘れ去られた神。別名は『(くら)き神王』―――いわゆる邪神ね。殺戮と破滅をもたらす冥府の王よ。今から1200年以上前に、中米の小さな都市で信仰されてたって記録が残ってたわ』

 

 よくわからないが、誰も覚えていないマイナーな神様と言うことだろう。

 <ザザラマギウ>なんて言う噛みそうな名前が本当に神のものだとするのなら、セレスタがその依代―――いわゆる、神降ろしの巫女と呼ばれていた理由として納得がいく。中米の都市国家では、さまざまな神が信仰されていた。『冥き神王』も、それら数多の神々の中の一角だったのだろう。

 

『ただ問題は、そのマイナーな神様のデータが『魔族特区』の凍結書庫(アーカイブ)に厳重に封印されたってことなの。どうやら<ザザラマギウ>は過去に一度、現出したことがあるみたいなのよね』

 

 神の召喚―――

 人間の領分を大きく超えた、にわかに信じられる話ではないが、荒唐無稽と切り捨てることもできない。

 古今東西、世界各地の文献に、人々の祈りに応えて神が降臨した伝承が記されている。そして、何よりも古城はかつて、人工的に生み出された『天使』と戦ったことがあるのだ。

 “模造”とはいえ天使を実体化させられたのだから、『神』の実体化が不可能と断言することはできないはずだ。

 

『正確な情報は残ってないから、詳しいことはわかんないけど、なにしろ<ザザラマギウ>が現出したせいで、彼を信仰していた『シアーテ』って都。現在の地図だと『混沌界域』の辺境あたりね。それで『混沌界域』が成立する前なんだけど、その都市国家を中心に、半径500km以内の街は全て滅びたらしいわ。200万人以上が一夜にして死に絶えたって……』

 

 “シアーテ”の都……!?

 <ザザラマギウ>の依代と呼ばれていたのは、セレスタ=“シアーテ”という名前の少女。

 これは偶然などではない。きっと繋がりがある。

 神殿。依代。巫女。邪神―――バラバラに切り離されていた情報が、ようやくひとつのカタチにまとまり始める。

 

 豹の獣人たちは、セレスタを自分たちが“育てた”と主張した。それはつまり、邪神の巫女として特別な処置を施したという意味なのではないか。

 そう、もしセレスタが『冥き神王』の依代だとするのならば、彼女を狙っていた獣人たちは、<ザザラマギウ>信者の末裔かもしれない。だとしたら、ヤツらの目的は、『冥き神王』の復活。だから、ヤツらはセレスタを欲した。ただの巫女ではなく、邪神の召喚に必要な祭具―――

 そして、鳥人は、その復活の阻止に依代を抹殺しようとしていた。『花嫁』というその取り換えの利かない“生贄”を失くすことで、獣人たちの目的であり、現出すれば『混沌界域』が壊滅しかねない邪神召喚の儀式を阻止しようとしていた。

 

「わかった。浅葱、サンキュ。助かった」

 

『それで、古城はなんでそんな邪神の名前を知ってたの? あんた―――』

 

 セレスタの存在を知らない浅葱はのんびりとした口調で説明を続けてくれていたが、しかしもう十分だ。

 問い質そうとする浅葱を無視して、古城は雪菜たちがいるリビングへ戻る。

 早くこの情報を報せ、セレスタにもそのことを自覚させなければ、身が危うい―――

 

 しかし。

 古城が部屋に入った時、夏音からの第一声で、事態にようやく気付いた。

 

 

「あの、お兄さん。セレスタさんはどこにいるのでした?」

 

 

人工島西地区 高級マンション 前

 

 

 ヴァトラー様は、暁古城や姫柊雪菜が自分を護れるものだと信頼したから預けた。

 しかし、昨夜の襲撃で、彼らは無事だったけれど、彼らの仲間である少年が瀕死の重傷を負った。

 自分を殺そうとした“処刑人”と戦ったばっかりに。

 そして、自分はそれをただ見ているしかできない。見殺しにした。

 そんな人間がなんでのうのうと彼らの中にいられるのか。

 自分さえいなければ、あの姫柊雪菜と言う少女は先輩を独り占めできただろうに、

 自分さえいなければ、あのクロウと言う少年は死にかけることもなかっただろうに。

 

 ―――“処刑人”は、必ず来る。

 

 こうしてグダグダ考えてる間にも、タイムリミットは確実に迫っている。

 一秒の無駄が、ただでさえ低い幸福の確率をより一層に引き下げるのだ。

 だったら、早く逃げる―――彼らの下から離れるべきなのだ、と……

 

 

 

『……さあ、セレスタ。『冥き神王』の『花嫁』となり、その身を捧げるのだ』

 

 呼ばれた、気がした。

 誰か、とても懐かしい声だった気がした。

 夢の中でははっきりとわからないけれど、忘れ難い――記憶の核ともいうべき場所に刻み込まれた――使命感のような何かが胸の中に灯る感覚があった。

 

 

 ―――だから。

 ―――唐突に。

 

 

 セレスタ=シアーテは、目覚めた。

 

「―――魔女の住処に籠られた時は、面倒だったが、念のために<魔眼(ヴァジエト)>をかけておいて良かった」

 

 聞き覚えのないその鋭い声がセレスタの目を覚まさせるよう耳朶を叩いた。

 え? と一瞬呆けてしまったが、すぐ棒立ちだった自分に気づき、即座にセレスタは身構える。この場所が、“絶対に出てはならない建物”から出てしまっていることに気づき、悲鳴を上げそうなくらいに焦った。

 でも、目の前の銀髪の男。冷たい刃物を連想させる美しい少年は言う、

 

「俺は、トビアス=ジャガンだ。ディミトリエ=ヴァトラー閣下の配下だ」

 

 その一睨みと共に発せられた言葉に、焦燥、そして他の感情や思考を、全て奪い去った。

 彼が、本当に頼るべく御方の部下。

 それが自分の目の前に現れたということは―――

 

 

「閣下がもうすぐお帰りになると報せが来た」

 

 

人工島西地区 高級マンション

 

 

「姫柊、セレスタは?」

 

 見つかったか、と聞く古城に、一夜を共にした部屋の中を確かめた。雪菜は表情険しく首を振る。

 

「すみません。どこにも……」

 

 同じくこのワンフロアを捜し回ってくれた夏音もふるふると首を横に振る。

 そして、古城はこのテーブルに並べられた皿の下に隠されていた、メモ用紙を見つけた。そこになんて書かれているかは古城は読めない。しかし、ニーナが読解してくれた。

 

「『ごめんなさい』、じゃな」

 

 それは夢遊病のように自意識を喪失しかけたセレスタ=シアーテが、そうなりながらも古城たちに残した置手紙。

 

「こんなことなら、彼女にも監視用の呪術を掛けておくべきでした」

 

「あいつにも……って、もしかして俺にはかかってんのか、その呪術!?」

 

「先輩、今はそれよりもセレスタさんを―――」

 

 セレスタにはここが安全な避難地であることを教えた。

 ここに留まっている限りは、獣人たちも手出しはできないであろうことも理解してもらえたはずだ。

 なのに、一言も告げず勝手に出ていったセレスタに古城は自分でも意外なくらい虚しさを覚えた。

 落ち込んだ、といってもいい。確かに古城はセレスタの信頼を勝ち得ているわけではない。だが、それなりに打ち解けてきただけに裏切られたというダメージがでかい。

 つまり、彼女の行動は自分たちでは“頼りにならない”と見限られたということなのだから。

 しかし、それでも―――暁古城は決めていた。

 

「ああ、助けるぞ」

 

 圧し殺した声で古城は呟く。

 

「俺はただの高校生(ガキ)だし、<第四真祖>の力なんか知ったことじゃねーし、ヴァトラーのヤツは迷惑だし、古代の邪神にも興味はねーよ」

 

 ギリ、と奥歯を噛み鳴らす。

 今、古城の脳裏に過るは、少女たちの幻影。

 氷の棺の中で眠っていた小柄な吸血鬼、

 液体金属生命体の監視者にされた自称大錬金術師、

 人工の天使にされそうになった聖女な後輩。

 

 ――彼女たちの幸福を願った。

   これは、神頼みなんかではない。

   独善的で、

   矮小で、

   どうしようもなく愚かな自分に向けた、

   ――誓いだ。

     もう二度と、

     彼女たちのような犠牲者は出さない。

     そのためになら暁古城は、

     ――神すら敵に回しても構わない。

 

「だけどなそれよりも何よりもむかつくのは、依代だの生贄だのって、何も知れない小娘(がき)を道具扱いしてる奴らだ。そして、一方通行な謝罪だけして出ていった馬鹿だ! 手を貸せ、姫柊! セレスタの馬鹿を助けるぞ! 絶対にだ!」

 

「はい、もちろん!」

 

 瞳を輝かせて勢い良く頷く雪菜。

 まるで古城のその言葉を望んでいたかのよう。だが流石に立場上その発言はまずいと思ったのか『あ……ち、違……今のは、あくまで監視者として同行する、という意味ですから』と焦って取り繕った顔で、ごびょごにょと口の中で呟く。

 そして、そこで夏音も、古城の前に立ち、抱きあげていたニーナを差し出す。

 

「あの、少しだけお手伝いさせてほしい、でした。院長様がお役にたちますから」

 

「ニーナが……?」

 

 半信半疑の表情でニーナの小さな体を見る古城。身長30cm足らずの液体人形が、この場面で役に立つとは思えないのだが、かくいうニーナ自身も、夏音がどうしてそんなことを言い出したのか、腑に落ちないという表情を浮かべている。

 しかし夏音は、大丈夫でした、と優しげに微笑んで、

 

「セレスタさんは<賢者の霊血(ワインズマンズ・ブラッド)>製のイヤリングをつけてましたから、彼女がどこにいるのか、院長様ならわかるはずだと思いました」

 

「……おお! なるほど、そうじゃな夏音!」

 

 指を鳴らして、夏音を褒めるニーナ。

 そんな言われるまで気づかなかった自称大錬金術師様を見下して、古城は微妙に不安を覚えるも、これで方針は固まった。

 

 

???

 

 

「―――少佐、セレスタ=シアーテがジャガン卿に連れ去られました」

 

「それは本当か、ポーランド」

 

「はっ! その進行先からして、港――<オシアナス・グレイヴⅡ>へと向かっている模様」

 

 <黒妖犬(ヘルハウンド)>に潜伏先を奇襲されたことで、部下二名が負傷。うち一名は、<焔扇>を大破させてしまう始末。しかし、狙撃に成功し、部下たちの回収も成功した。

 それでもまだ動けたことは驚愕したものだが、そのまま<黒妖犬>は我々を追わず、民間人たちに襲撃を仕掛けた『鷲の戦士長』の方へと向かった。

 結果として、『花嫁』の拉致には失敗したが、任務達成を困難にさせる障害のひとつである『鷲の戦士長』はしばらく行動不能にさせる損傷を負わされることとなり、至極厄介な<黒妖犬>もその相打ちとなった。特区警備隊のしつこい追跡の足も遅くなったことだろう。

 ジャガン卿も、『鷲の戦士長』、それから『特殊部隊(ゼンフォース)』が昨夜の激突で損耗が激しいと見たに違いない。急遽、この好機に『花嫁』を回収する。

 

 しかし、それはこちらにも好都合だ。

 わざわざ<空隙の魔女>の拠点から離してくれたのだ。そして、一応は軍属の身として民間人たちの相手は避けたかったところでもあった。

 相手は、吸血鬼の貴族が一体。思う存分にやれる。

 

「アルデアル公の下に行かれる前にセレスタ=シアーテを確保する。

 ブイエ、<病猫鬼(びょうびょうき)>の準備は済ませてあるな?」

 

「はっ、滞りなく、仕込みは終えてあります少佐」

 

 愚かな獣人たち。人類純血政策を掲げる『アメリカ連合国』が、魔族を同士などと高待遇で迎えるはずがない。

 

 

人工島西地区 高級マンション

 

 

 南宮クロウの瞼が動いた。

 それは自分の意思で動かしているとは思えないほどわずかなものだ。ほとんど痙攣に近い感覚で、ゆっくりと、ゆっくりと、瞼は細く開く。それでいて、数秒は視界が確保されなかった。フォーカスの遠近が揺らぎ、ようやくほぼ毎日見上げる自室の天井を脳が認識する。

 

(……オレ、は……)

 

 現在位置をまず把握させたのは視覚情報ではなくて、鼻から嗅いだ“匂い”であった。それから記憶の検索を始め、途中で中断されたところから察するにどうにか自宅へ帰れたところまで思い出した。

 それから現在の状況の認識をして―――ベッドの横にひっそりと座している後輩の人工生命体に気づく。

 

「あう?」

 

 ピクッと反射的に手が動きそうにあったが、寸前で留めた。後輩はクロウの手を両手で包むように握っていて、危うく寝起きで握り加減を間違えたら大変なところになるところであった。だから、クロウは眠っているときは基本、接触はしないよう彼女の教官でもある主人より言いつけられていたはず。

 はて、本当にどうしたのだろうか。後輩はそんな注意を無視してまで両手で自分の手を取ってるのだろうか。それも随分と長い間。

 

「なにをしてるのだ、アスタルテ?」

 

 だから、真っ直ぐにクロウは問いかけをぶつけた。

 クロウが覚醒してからも、しばらく再起動に時間がかかっているかのようにぼうっとしていたアスタルテもそれでかすかに顔を上げる。

 

「……解答。脈拍を計っていました。それ以外の他意はありません。状態は安定。覚醒を確認。以上、身体活動に問題はないと思われます」

 

 言いながら、その両手を離さないアスタルテ。元気というのならとっととクロウは起き上がりたいところなのだが、かといって後輩の手を振り解くわけもいかず、しばらく付き合うことにした。

 

「ただし、頭が無事かどうかは診断できません。元々アレな先輩の思考が、これ以上ズレていないかチェックしますので、質問にお答えください」

 

「なんだ? オレ、寝起き早々後輩にバカにされたのか?」

 

 まあいいや、とクロウは頷き返し、了承した。

 枕に頭をうずめて、気楽な姿勢を取る。

 そのまま、ふたりはしばらくの間、動かなかった。

 特に無理に促そうとはせず、ただゆっくりと時間に身を任せていた。

 

 

 

 勉強のとき、みたいですね……

 

 と、アスタルテは思った。

 ふたりでいるとき、この少年の学習は基本的に無口だ。

 おそらく机に向かっているときは無駄口を叩くなと主人から厳しく躾けられたのだろうが、わからないことがあれば『これってどういう意味なのだ?』と素直にそれを訊いてきて、解説してる間は終わるまで基本的に清聴を心掛けている。

 テスト前とかで大変なとき、以前までは教官が面倒臭げにも面倒見良く付き合ったのだろうが、現在、家庭教師のポジションは基礎学習知識を高校卒業分は修めているアスタルテのものとなりつつある。

 だから、このときだけは先輩後輩の立場は逆転したものとなって、

 そうした時間が、いつからかアスタルテにとってはお気に入りだった。

 そんな、ひどく暖かで―――触れているだけで、微笑してしまいそうな空気。

 ずっとそれに触れていたいようにも思ったが、アスタルテはかぶりを振って、こう切り出した。

 

「……あの、先輩、昨日のことですが……」

 

「ん?」

 

「ですから、その……昨日の……18時47分56秒に、ミス雪菜の自宅にて、先輩を追い出してしまった一連の出来事ですが……」

 

 息の詰まったような声で、アスタルテが言う。

 実際、人工生命体の少女は詰まらせていたのだ。

 息ではなく、思考を。

 

 ……どうして……制御できなくなるのでしょうか……?

 

 思考構造に、雑音(ノイズ)が混じっていた。

 生体部分の神経系を制御しきれず、不必要な電流が何度となく、人工生命体の高速思考を乱す。千々に乱れた電流(パルス)は心臓を主とした血流にも影響を与えていた。

 それでも、何とか口を動かした。

 

「昨日のことは……私の反応が過剰だったかと判断します。申し訳ありません」

 

「ん。そんな謝ることじゃないと思うぞ……」

 

 対して。

 一件を思い出したクロウは、きょとんと首をかしげてしまう。

 どうして、謝ってくるのだろうかと。

 

「だからな、アスタルテは」

「先輩!」

 

 不意に、耳元で怒鳴られて、クロウはベッドから上体を跳ね起こした。

 

「な、なんなのだ?」

 

「先輩は、どうして……」

 

 人工生命体の少女は、数秒可憐な唇を震わせたが、かぶりを振ってうつむいた。

 

「いいえ、なんでもありません。反応が過剰であったのは昨日の私であると判断しました。故に、同じ過失を繰り返さないよう努めます」

 

「う、ん、ああ」

 

「………」

 

 けしてこちらからは離さない、と。

 小さな手でこちらの手を握りしめて、うつむいたまま、じいっとアスタルテが沈黙する。

 その沈黙がやたらと重くて、クロウもまた口を閉ざした。

 ただ、自分の不用意な言葉がこの後輩を傷つけたのかと思うと、それが棘みたいに裡に刺さっていた。

 

(昨日……って?)

 

 アスタルテに叱られて、マンションから投げ飛ばされたのは覚えている。

 そのときは、この後輩が怒鳴ることもあるのかと単純に至極驚いたが、もっと別の要因もあったろうか。何かを見落としていたのか。

 やがて、躊躇いがちに口を開いた。

 

「質問……してもよろしいですか?」

 

「何だ?」

 

 質問というより、こちらからこの後輩の変調は訊ねたいところであり、自分に問題点があるのならそこをついてくれるのはありがたいことだ、とクロウは思う。

 少しの間口籠ってから、アスタルテはおずおずと言葉を紡いだのだ。

 

「確認……あ、あの……先輩は……ミス凪沙のことを……」

 

 続きは、言葉にならなかった。

 脳の記憶野より再生されたのは、昨日の夕食時で咎められた注意だった。

 叶瀬夏音が発した言葉。

 

 

 ―――『アスタルテさんは、クロウ君のことが大好きなんですから』

 

 

「凪沙ちゃんのことを?」

 

「い、いいいいえそのあのこの―――っ」

 

 アスタルテがぶんぶんとかぶりを振り、藍色の髪が激しく揺れた。

 かああっ、と顔の表面が異様なぐらいの熱をもっていた。自分の顔にそんな機能があったのかと、一瞬考えてしまったぐらいであった。ろれつも回らず、思考も暴走寸前の空回り、こうなったらベランダからこの先輩を投げてしまおうかという衝動に襲われるもしかしそこは宣誓通りに堪えた。宣誓してなかったら真剣に危なかったかもしれない。

 そんな人工生命体の少女の額に、すうと手が伸びたのだ。

 こちらが両手で握っているのとは逆のもう片方の手だった。

 

「熱でも出たのか? それとも、やっぱ無理してるのか?」

 

「……あ、わ、あ、うあ。ひ、否定! 問題ありません!」

 

 石像並の硬直。

 かろうじて、ふるふると子犬みたいに身をよじり、少年の手から逃れる。手袋越しでない実感に触れるのは珍しく、ひどくもったいないような気もしたが、あのまま触れられていると、本当に脳神経が熱暴走してしまったんじゃないかと思う。

 クールダウンと、深呼吸。

 自分の中の、優先順位を確認。

 小さく、頷く。

 結局、口をついた問いは、微妙に変更されてはいたが。

 

「……先輩は……何か、ミス凪沙のことで気にしてられることがありますか?」

 

「………」

 

 今度はクロウが口を噤んだ。

 本当に、驚かされるばかりである。

 暁凪沙が本土への同行を誘った時から、不意に予感したことがあるのだ。そう、クロウが契約を結んでいる<守護獣>から、何か、訴えられているようで。

 ただそれは誰にも――主人にも相談はしておらず、まだ自分の中でもぼんやりとしか形になっていないものだったが、それを指摘されるとは思っていなかったのだ。

 そこまで周囲に悟られるような真似はしてなかったはずなのだが。

 もしやこの後輩はそれで自分が悩んでいるのを見透かして、もどかしく思ってたりしたのだろうか。さっさと答えを出せと急かしたかったとか。

 何を言うべきか迷っていると、アスタルテは淡く微笑した。

 

「言えないようでしたら、そのまま、抱えていてくださってかまいません」

 

「う?」

 

 きょとんとクロウが瞬きすると、アスタルテはこう続けた。

 

 

「私は先輩のサポートをするのが教官より任された仕事です。ご自身の答えを出されるのに時間が必要であれば納得いくまで取るべきです。存分にお悩みください。そして、出した答えに、私は従います」

 

 

 そんなことを、大真面目に、いつもの調子で淡々と言ってきた。

 しばらく唖然として、クロウは後輩を見つめていた。

 

「……ん。わかったけど……それだけ、か?」

 

「……他にもありましたが、優先順位的に、最も確認をしておかなければならないことと判断しました。私の独断偏見にて、先輩の判断を変えてしまったということは、それは先輩をサポートする目的から違えてしまっています」

 

 この後輩は、暁凪沙の同行の件を無理やりに断らせたことを引き摺っていたのだろうか?

 なんだか、肩の力が抜けてしまうというか、そんなことを気にしていたのかと思ってしまうのは変だろうか。

 胸に溜まっていたものが吐き出せて、すっきりしたのか少しだけ背筋が持ち上がった後輩は、そのままじっとこちらを見つめていて。

 

「……、アスタルテ?」

 

「先輩」

 

 しばらくして、後輩は唇をへの字にして呟いた。

 

「……ダメです。いろいろと想定してみましたが、やはりこの権利を手放すことはできません」

 

「?」

 

 眉をひそめたクロウへ、人工生命体の少女は彼にしか聞こえないよう慎重に声を潜め、しかしはっきりと告げたのだ。

 

「先輩は―――ご自身を優先順位の下に置く傾向があります。昨夜もそうでした。私を庇うために、先輩の身を盾とするような真似。私はその判断だけは認めることはできません」

 

 依然と手を繋ぎ止めたまま、人工生命体の少女は少年を見据える。

 青水晶のはかない色の瞳は、少年の素顔をすがるように映していた。

 

「ですから、以前、先輩からいただいた、『先輩が間違えていると判断したときその行動を引っ張らせてもらう』、その権利を放棄しないことを許していただけますか?」

 

「………」

 

 虚を突かれた風に、クロウが言葉に詰まる。

 少しして、なんとなく合わせてこちらも声をひそめて言う。

 

「その権利はアスタルテにあげたんだから、アスタルテの好きにしていいと思うぞ」

 

「了解」

 

 と、アスタルテが頷いた。

 その了承が何よりも嬉しかったというように。

 

「……私の好きに、します」

 

 と、もう一度、今度はとても小さく頷いたのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 少年は、考えた。

 考えて、やはりこの結論に達した。

 

 彼は生まれて初めて、己以外の『獣王』と呼べるような存在に遭遇した。

 しかし、あれは絶対の敵。

 あの圧倒的な暴力に頼る在り方は間違っているのだと、あれはあまりに傲慢だと、だから、認められず、怒りを覚えた。

 それを正すために相応しい選択、己の正義を主張できる在り方は何か。

 ひとつ解ければ、あとは全てが連鎖的に紐解かれていく。

 しかし、きっとこれは矛盾していることだろう。

 大切と思うものを守るために、その大切なものを壊してしまいかねない方法。一度は取ったその手段にまた一度―――いや、これから何度も手に染めることとなるのに、不思議と躊躇いはなかった。そうであることが彼女への礼儀だと。

 

 休息の時間。そして思索にこれ以上耽っていられる余裕もない。

 起き上がった少年は、ささっと手伝ってもらいながらいつもの戦装束に着替えると、己で出した答えを後輩に言う。

 

 

「じゃあ、アスタルテ、行くぞ」

 

 

 その言葉を。

 最初、アスタルテは、何を言われているのかわからなかった。言葉の意味を脳が処理しても、それが自分に向けられているものとは思えなかった。

 だが、少年は自分の名前を告げ、確かに自分へ言葉を放っている。

 呼びかけている。

 協力を求めている。

 自分が必要であると訴えている。

 しかし、そこで冷静に淡々と反論してしまう自分は、偏屈であるか。

 

「質問。先輩は、ハンデを課す趣味でもあるのですか?」

 

 力があってもそれ以外の全てが足りていない。戦場に出るべきものではない。そして、戦争を穢してくれた。

 そうあの『獣王』に悉く否定された。一緒にいるべきでない、それが正しいと思った。

 

「一緒についてこないで、どうやってオレの間違いを正すつもりなのだアスタルテ」

 

 ――――――――――――

 

「背中を任せるんだから、来い」

 

 ――――――――――――――――――――――あ。

 

 いつの間にか、自身の身体が震えてることに気づく。

 さらに遅れて、涙を流していたことにようやく気づく。

 体も、心も、魂も足りてないと言われた自身を、この『獣王(センパイ)』は認めてくれた。

 単なる重荷としてではなく、背中を預けられるものと。

 

「……ぁ……。……、命令受託(アクセプト)

 

 胸が詰まって吐き出すのに時間はかかってしまったけれど、しかりと応じられた。

 拒む理由などなかった。

 怯えることもなかった。

 それ以上に裡を占めるのは、喜びだ。力になることができると、ただそれだけの事実が生み出す純粋な喜びだ。

 

 ぴん、と人差し指を立てて、

 

「う。それに、ハンデじゃないぞ。アスタルテは……ハーネスなのだ?」

 

「こちらに疑問で返されましても……提案、ハーネスでしたら、こうしたほうがよろしいですね」

 

 うまいことをいったのだ、とドヤ顔する少年に、アスタルテは冷静に返しつつ回り込んで背中に寄り添う。

 そして、跳び付くよう、首に腕を回し、肩に顎を乗せ、胴に脚を挟み、密着。

 胴輪というのなら胴輪らしく、背中に抱きついたのである。

 

「ん。そうなるのか?」

 

「……肯定」

 

 小さく、切なげな息をアスタルテは飲み込んで、ぎゅっと抱きしめる力を強くする。

 

「それじゃあ、しっかりと掴まっているのだ」

 

 そう告げたとき、すでに戦士の目をしていた。

 

 

 その日、西地区で最も高い建物から港へ一直線に向かう、虹色の天翼を持った飛空物体が確認された。

 

 

 

つづく


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