この爆裂娘に親友を!   作:刃こぼれした日本刀

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 あけましておめでとうございます。投稿が少し遅れました。すいません。
 ルミカとめぐみん視点でお送りする、予告通りの紅魔の里編です。

 いつも誤字報告してくれる方に、感謝の花鳥風月を!


このせつないぼっちに逆襲を!

「……ねえルミカ? あの、さっきの話なんだけど」

 

 もぐもぐと食べ物をほっぺに詰め込んでいるめぐみんは、小動物みたいでとても可愛い。

 

「相変わらずゆんゆんのお弁当は美味しいですね。けっこう私好みの味付けです……むぐ」

 

「もう、ダメでしょめぐみん。よく咬んで食べないと、はい、お茶」

 

 お弁当を喉に詰らせためぐみんにお茶を手渡し、優しく背中をたたく。

 

「……ありがとうございますルーちゃん」

 

「慌てなくても大丈夫。明日も明後日も、きっとゆんゆんがお弁当をごちそうしてくれるはず。……ごはんはにげない」

 

「それもそうですね。よく噛んだ方がお腹がすきませんし」

 

「ね、ねぇ、ルミカ? いつも私があんたたちに負けちゃうのは事実かもしれないけど。さっきの勝負の、その……ご褒美が……」

 

「まったく……今度はごはんつぶがついてる。うん、これで平気」

 

 いそいそとおしぼりを取り出し、めぐみんの口元を拭う。ちなみにめぐみんについていたごはんつぶは、もったいないので私が食べた。

 

「ルーちゃんは気が利きますね。私の名において、『紅魔族随一の女子力』の通り名を授けてあげましょう。どうです? 将来私の家に嫁に来ませんか?」

 

「……照れる、でも私がここまでするのはめぐみんだけだから、その通り名はいらない」

 

「そうですか」

 

「うん」

 

 私たちは顔を見合わせ、どちらともなく笑い合う。

 

「なんでよっ! どうしてさっきから私を無視するの? 朝から2人で、こ、恋人同士みたいな雰囲気出さないで! 風紀が乱れるじゃない」

 

 ゆんゆんの発育具合が許せなかったので、仲の良い友達同士の雰囲気を全力で出していたら、半泣きで委員長がすがり付いてくる。

 

 少しいじわるだったかもしれない、……ちょっぴり反省。

 

「何を言ってるの、ゆんゆん。私もめぐみんも、あなたのことを無視なんてしてない」

 

「えっ、そ、そうなの? よ、よかった」

 

 ちょっとだけやりすぎたかなと思い、一言否定しただけで、笑顔になるゆんゆん。

 

 ちょろすぎる……この娘、いつか悪いやつに騙されないか心配なんだけど。

 

「そう、無視なんてしていない。私たちはただ、ゆんゆんをいじって楽しんでいるだけなのだから」

 

 私の悪魔のささやきを聞いて、呆然とした表情になるゆんゆん。

 

 ふふん、勝負ありって感じかな。

 

「……ま、まあいいわ。本当はよくないけど、大人な私は赦してあげる」

 

 あれ? おかしいな、いつものゆんゆんなら大抵涙目で突っかかってくるはずなんだけど……。

 

「そう、戦いの勝者である私は、負け犬の遠吠えなんて軽く聞き流せる。発育的にあんたよりも大人な私は、心も成熟してるんだから」

 

 そう言ってゆんゆんは胸を張り、こちらに向け勝ち誇った表情を浮かべていた。

 

 今すぐ「やーいぼっち!」とか「そんなに体に自信があるなら、今日からたゆんたゆんゆんって名乗れば?」とかからかってあげようかな。本当に彼女が大人なら、この程度の悪口は笑って赦してくれるはず。

 

「さあルミカ。約束はちゃんと守ってよね、私に禁書を渡してちょうだい」

 

 ああ、なるほど。ゆんゆんはさっきの勝負で勝ったご褒美がほしかったのね。

 

「……ゆんゆんは愚か。無知とは罪なものね、檻の中のドラゴンは世界の広さを知らずというやつかしら」

 

 今度は私が、ゆんゆんに向けて勝ち誇った笑みを浮かべて見せる。

 

「……え? ちょ、ちょっとルミカ! お互い契約書にサインまでしたのに、約束を守らない気なの?」

 

 ごめんねゆんゆん。運命とは本当に残酷なのよ。

 

 批難の眼差しを浴びせてくるゆんゆんに、心の中で軽く謝罪した。身体測定前の私は、ゆんゆんの心無い一言に怒り狂っていたのだ。

 

「……ゆんゆん、いいことを教えてあげる。契約を結ぶ時は、内容をよく確認しなきゃ大変なことになるよ?」

 

 なので10分前の切れていたルミカちゃんは、契約書にちょっとした小細工(魔法)をかけたのです。

 

「え? ど、どういうこと?」

 

 未だ状況が飲み込めていない様子のゆんゆん。

 

「……あるえちゃん、例のものを!」

 

 ビキンと。そんな彼女を眺めつつ、私は物語の黒幕のように指を鳴らした。

 

「……ゆんゆん、多分ルミカにはめられてるよ。この契約書の内容をよく確認してみな……それにしても、相変わらず姑息な勝ち方を」

 

 私のアイズに合わせて秘書のように横に控えていたあるえちゃんが、恭しくゆんゆんに契約書を差し出す。

 

 確かに私が呼んだんだけど、……さっきまで離れた位置でめぐみんと何か話していたはずなのに、いつの間にあるえちゃんはそばに立ってたの? かなりびっくりした。

 

 黒幕の右腕のようにナイスタイミングで登場したあるえちゃんだったが、何故か私の顔を微妙そうに見つめてくる。……きっと彼女はこう叫びたいのだろう。

 

 普通ならパチンと指を鳴らせばクールに決まるのに、こいつときたらビキンだぞ。ルミカってばダサっと。

 

「ごめんねあるえちゃん、……私、反省してる」

 

「分かってくれれば、それでかまわない。頑張れ」

 

 頭を下げる私に軽く手を振り、さらっと赦してくれるあるえちゃんは相変わらずクールでカッコイイ。

 

 彼女の気持ちに応えるためにも、今回の反省を……必ず次に活かさねば。

 

「……嘘でしょ? こ、こんなのってないよ、あんまりじゃないっ! ね、ねえルミカ……この勝負はちょっとなかったことに……」

 

 しばらく契約内容を再確認していたゆんゆんは、皺になるくらい強く契約書を握り締め、悔しそうにわなわなと震えている。

 

 そんな呆然と立ち尽くすクラスメイトに向けて。

 

「……ゆんゆん、そういうのを人は負け犬の遠吠えって言うの。精神も成熟した大人なあなたは、約束を破ったりしないはず。別にいいよ、私は別に勝敗とか気にしてないし。どうしてもゆんゆんが賭けをなかったことにしたいのなら、それでも。「発育的にも精神的にも、ルミカ様より私の方が愚かで未熟な子供でした、本当にごめんなさい」と謝るなら、なかったことにしてあげるけど」

 

 私は悪女のように嗤って見せる。

 

「う、うぐぐぐ、……わ、私は、発育的にも、せ、精神的にも、……ル、ルミカ様より…………!」

 

 怒りと羞恥心で声を震わせながら、指示通りの科白を言おうとするゆんゆん。これで準備は整った。

 

 見ててね あるえちゃん、さっきの失敗を帳消しにする、私の悪役っぽい名科白を!

 

「でもそんな科白を言うようなら、ゆんゆんはその時点で勝負から逃げた立派な負け犬だけどね」

 

 私の言葉を聞いたあるえちゃんは、目頭を押さえて天井を眺めている。

 

 名監督ルミカさん演出のドラマティックな掛け合いに、感動の涙を流しているのかもしれない。

 

「……ル、ルミカのバカアアアアアアアッ!」

 

 最後まで私の手の平で踊ってくれたゆんゆんは、それっぽい棄て台詞を叫びながら教室を飛び出して行った。

 

ふっ、ルミカ様の完全勝利である。

 

 それにしても、我ながら今のはとてもいい決め台詞だった。忘れないうちに日記帳にメモっておこうっと。

 

 ルンルン気分で日記に科白を書き写す私に向けて、めぐみんは苦笑を浮かべながら告げる。

 

「ルーちゃん、後でいろいろ言いたいことがあるので、放課後は家に来て下さい」

 

 さすがは我が盟友めぐみん、私のことをよく観察している。どうやら指パッチンをしようとして、指を痛めたのがバレてしまったらしい。

 

 まずい。このままでは女の子なんだから体は大切にしなさいって、マジトーンなめぐみんから正座で説教コース?

 

 ぜ、全力で誤魔化さなきゃ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ゆんゆんのぼっち(純情)を弄ぶルーちゃん。相変わらず私以外に素直じゃない子ですね。ルーちゃんがゆんゆんをからかって楽しんでいるのは、半分くらいは趣味だけど、残り半分は彼女の優しさなのである。

 

「やれやれ、ルミカってば本当に不器用な子だね」

 

 いつの間にか隣に近づいて来ていたあるえが、ぽつりと溜息を吐き出した。

 

 ルーちゃんがゆんゆんをからかうのは、ぼっちをこじらせてしまった彼女が少しでもクラスに馴染めるように。そして、ちょろいゆんゆんが将来悪党に騙されないように。

 

 ゆんゆんのためを思って、とても遠回りで伝わりにくいおせっかいを焼いているのだ。

 

 …まあ、時々無自覚でゆんゆんのことを泣かせるのがたまに瑕だけど。

 

「あなたの言う通りですね。ところであるえ、発育の具合といい、ルーちゃんを見守る慈愛の眼差しといい、……時々あるえがあの娘の姉か母親に見えるんですが」

 

「めぐみん、知ってるかい? 私もたまには本気で怒るんだからね。いろんな意味でやめて」

 

 おかしい、あるえの反応が芳しくない。年上扱いしたのが気分を害したのだろうか?

 

 私がルーちゃんの家族扱いされたなら、けっこううれしいのだけど。

 

「めぐみんは、ずっとルミカの味方でいてあげて……本当に苦労してるんだ、あの子」

 

 この時、何故あるえがどこか遠い目をしていたのか。その理由を、私が知ったのはずっと後のことだった。

 

「あそこを見て下さいあるえ。決闘に勝った族長の娘が、発育の件でルーちゃんを挑発してますよ。最近のあの子、お姉さんが家出してから感情が不安定みたいで。泣いたりしないでしょうか?」

 

 話題を変えるため、ルーちゃんたちの方を指差す。

 

 これ以上遠い目をするクラスメイトの話を聞いてはならないと、私の直感が叫んでいるのだ。

 

 本人もあまり人に語りたい内容ではなかったのか、あるえも話題変更に応じてくれた。

 

「本当だ……適当なところで止めないと、大いなる災いが……」

 

 なんやかんや言ってもあるえもルーちゃんを心配しているらしく、ゆんゆんとのやり取りを真剣に見つめていた。

 

「どうしたのですかあるえ? 急にそわそわと体を動かし始めたりして。心配しなくても、あるえが止めないといけないような喧嘩にはならないでしょう。それともその体操は……私に対するいやがらせですか」

 

 ルーちゃんとゆんゆんの言い争いが殴り合いになることを心配したのか、背伸びをしたり手足を軽く曲げるなど、突然準備運動を開始するあるえ。

 

 目の前でそういう動作をされると、どうしても身体の動きに合わせて震える胸や同年代とは思えない体つきに目が行ってしまう。

 

 自分よりも成績が上の私に対する、新手のいやがらせかもしれない。

 

「違うから落ちついてよ。めぐみんは疑問に思わなかったかい? いくら怒り狂っていたとはいえ、あの負けず嫌いのルミカが勝てない勝負をするなんて、どうも私には信じられなくてさ。おそらく私が預かった契約書が、勝敗の鍵を握っているはず……つまり、私が決め顔で登場するチャンスが迫っている」

 

 どうやらこのクラスメイトは、自分の登場シーンを心配していただけのようだ。

 

 でも確かに……あるえの言う通り、ルーちゃんなら契約書に焙り出しを仕込むくらいやりかねない。

 

「じゃあめぐみん。私は先に行くね。そろそろルミカに呼ばれそうな気がするから」

 

 そう言うと、あるえは机の下や椅子の間を暗殺者のごとき身のこなしで駆け抜けると。

 

「……あるえちゃん、例のものを」

 

 決め顔で指を鳴らすルーちゃんの背後へと忍び寄り、あるえはできる秘書みたいにゆんゆんへ契約書を手渡したのだった。

 

……私よりルーちゃんと仲良しみたいで、ちょっと悔しい。

 

 確かにあの登場シーンはかなりカッコイイと思う。準備体操をしただけのことはあった。

 

 ルーちゃんの思考を先読みして行動したのも、お姉ちゃん的にポイントが高い。

 

 だけど……。

 

「さすがはあるえ、やりますね。だけど私は絶対に負けませんから」

 

 私はゆんゆんとルーちゃんの近くまで辿り着くと。

 

「……いや、いきなり何の話なのめぐみん?」

 

 あるえにルーちゃんの幼馴染として宣戦布告した。

 

「確かにあなたはルシフェリオン・ミッドナイト・カタストロフィの良き理解者なのでしょう。しかし詰めが甘い」

 

「よく分からないけど、褒めるか貶すかどちらかにしてくれないかい?」

 

 困惑するあるえに私は畳み掛ける。

 

「自分の登場シーンばかり気にして、ルーちゃんを驚かせたのはお姉ちゃんポイント減点ですよ」

 

「え、あの子ビックリしてたの? 私にはルミカが微動だにしていなかったようにしか見えなかったけど。後そのポイントは何の意味があるの?」

 

 私は小首を傾げるあるえに、後頭部の微妙な傾きや首筋の筋肉の痙攣具合などを観察すれば、ルーちゃんの感情は8割程度分かることを懇切丁寧に説明した。

 

「なるほど、理解できない……めぐみん、もうルミカと結婚したら?」

 

 おかしい、あるえに軽く引かれてしまった。幼馴染ならこのくらい普通だと思うのだが。

 

「確かに驚いてびくっとなってるルーちゃんは可愛らしいですが、こういうドラマティックな場面でそれが出ると空気が台無しになってしまいます。ほら、よく見て下さいあるえ。さっきまで冷酷な悪女を演じていたのに、あわあわと微妙に目が泳いでいるでしょう?」

 

「やめてあげなよ、今めぐみんが一番空気壊してるから!! あんたが説明すればするほど、ルミカが恥ずかしい思いをするんだからね、……あっ、本当だ。すごい集中しないと気づけないレベルで、微妙に眼球が動いてる……」

 

「ちなみにルーちゃんがあわあわしている時は、大抵パニクって人の話が耳に届いていないので、空気がぶち壊しになっても全く問題はありません」

 

 うん、これであるえもまた一歩ルーちゃんの保護者へと近づけたことだろう。

 

 最近私1人で幼馴染の暴走を食い止めるのに限界を感じているので……あるえも苦労人(こちら)に来て欲しい。

 

「……嘘でしょ? こ、こんなのってないよ、あんまりじゃないっ! ね、ねえルミカ……この勝負はちょっとなかったことに……」

 

 どうやらゆんゆんも契約書の内容が衝撃的だったせいか、私とあるえとのやり取りは聞こえていないみたい。だらだらと顔に冷や汗を浮かべるゆんゆんに対し、自ら負けを認めるよう要求するルーちゃん。

 

 恥ずかしい科白要求にゆんゆんはしばし葛藤していたが、さすがに一週間負け犬を名乗るのは耐えられないようで、涙目でルーちゃん考案の謝罪文を声に出す。

 

 私とあるえは確信していた。

 

 小悪魔だけど友達思いのルーちゃんは、きっとゆんゆんに最後まで言葉を言わせずに。勝負をなかったことにして、ゆんゆんのことを赦してあげるのだろうと。

 

 そして、彼女は私たちの期待通りにゆんゆんの科白を遮り。

 

「でもそんな科白を言うようなら、ゆんゆんはその時点で勝負から逃げた立派な負け犬だけどね」

 

 赦すどころか、完全に止めを刺していた。

 

「……ルミカ、そうじゃない……私が言いたかったのはそういうことじゃなくて。ゆんゆんに手加減してって伝えたつもりだったのに。分かってもらえなかったみたいだね」

 

 目じりを押さえながら「反省してるって言ったじゃない」と天を仰ぐあるえ。

 

 そうだ、ルーちゃんはこういう子だった。私とあるえは忘れてしまっていたのだ。

 

 ルシフェリオン・ミッドナイト・カタストロフィという少女が、紅魔の里で無自覚デストロイヤー、無差別級フラグクラッシャーの異名で呼ばれていることを。

 

「……ル、ルミカのバカアアアアアアアッ!」

 

 半泣きで教室から駆け出して行ったゆんゆんが落としていった例の契約書を拾い上げる。

 

 さてさて、いったいどんな細工が仕組まれていたのやら。

 

「あの子がなくさないように預かってただけで、実は私もまだ内容はよく見てないんだ」

 

 そう言ってあるえは後ろから私の持つ紙を覗き込む。

 

 契約書には今回の2人の賭けの内容がきちんと記述されており、そして契約書の後半にはとても小さな字で……。

 

「なお、この契約書にサインした者は、ルミカの代理人としてあるえを立てることを承諾したと見なす」と書かれていた。

 

「……ルーちゃんのやり口が完全に詐欺師のそれなんですが……クラスメイトとの賭けにここまでするなんて、悪魔ですかあの子は! 同級生との勝負に、こんな卑怯な手を使うなんて、私がそのねじ曲がった根性を叩き潰してあげます」

 

 幼馴染が人の道を踏み外す前に、私が彼女を止めなければ。

 

「おそらくゆんゆんが禁書に目が眩んで、細かい部分を確認しないことを見抜いていたんだ。確かにひどい手だけど、盛大なブーメランだよね。私はありとあらゆる手段を使って、毎日クラスメイトから弁当巻上げてるめぐみんの方が悪魔な気がするんだけど……似たもの同士?」

 

 じと目を向けてくるあるえから、プイッと顔を反らす。

 

「後、叩き潰したらルミカは泣いちゃうかも。嫌われてもしらないよ?」

 

 ……!

 

「ルーちゃん、後でいろいろ言いたいことがあるので、放課後は家に来て下さい」

 

 鼻歌を歌いながらうれしそうに日記帳に筆を走らせるルーちゃんに、無駄とは思いつつも私は一応注意を試みるのだった。

 

 それから心配性なあるえがどうしてもと言うので、今日はルーちゃんを怒らないであげよう。うん、そうしよう。

 

 ……別に彼女に嫌われるのが怖いとかじゃない、ないったらない。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「めぐみん。ここに、デザートに最適な天然ネロイド配合のプリンがあるわ! これを賭けて私と勝負よ!」

 

「ありがとうございます。あっ、スプーンがないですよ。まったく、ゆんゆんはおっちょこちょいですね」

 

「ご、ごめんね。すぐ用意するから」

 

 またゆんゆんがめぐみんに遊ばれてるなと、のほほんと横目で眺めていたら……。

 

「違うでしょ! どこからどう見てもプリンを賭けて、これから勝負をする流れでしょ! どうして私が甲斐甲斐しくめぐみんに尽くさなきゃならないのよ!」

 

 自分がやろうとしていたことに気づいたゆんゆんが、プリンとスプーンを勢いよく机にたたきつけた。

 

 ……プリンを、たたきつけた?

 

 ゆんゆんとめぐみんがわちゃわちゃしていたけど、今の私にはそんなの関係なかった。今この場で最も重要なことはただ1つ、2人が見ていない隙に横取りしたプリンを食べることである。

 

 プリンをたたきつけるなんて、なんたる蛮行! 食べ物を粗末にするなんて、それもよりによってプリンを粗末にするなんて、そんなの絶対あり得ない!

 

 ……私にはプリン好きとして、ゆんゆんにたたきつけられた可愛そうなプリンの(無事)を確認する義務がある。

 

 よし、自己弁護完了。……おいしい。

 

「よしお前たち、席に座れ。授業を始め……こらルミカ、学校にプリンなんて持ってくるな。そんなものは没収だ……うおっ、殺気が」

 

 教室に入ってきた担任に、意味の分からない理不尽な要求をされたので、つい本気で睨みつけてしまった。

 

「先生、人のものを取るやつを泥棒って呼ぶんですよ。それに魔法使いは頭を使うジョブなので、私の脳には糖分が必要なんです」

 

 私が自分の正当性を担任に主張すると、クラス中から「お前が言うな」という雰囲気の呆れた視線が向けられる。げせない。

 

「……そもそもプリンは私のだし、テスト前でもろくに勉強しないルミカに糖分なんていらないんじゃ……」

 

「はぁ、何をバカなことを言っているのゆんゆん? 優等生が聞いて呆れるし。牛乳や卵は発育にもいいので、このクラスで最も成長していない私だからこそ、誰よりもプリンを必要としてるんだよ。たゆんたゆんゆんとは違って、私みたいな子は1分1秒たりとも成長期を無駄にできないの。もぐもぐ。ふう、ご馳走様でした。……それと、ゆんゆんには昼休み説教するから」

 

 私はゆんゆんの戯言をばっさりと斬り捨てる。

 

 まったく、プリンを食べる時は急がず焦らず、なんというか優雅であるべきなのに。これだから素人は。

 

 プリンを乱暴に扱ったことは、ちゃんとこの子のためにも注意しないと。おやつを横取りしたのを謝罪するのはその後である。

 

 そこは絶対に譲れない。

 

「……た、たゆんたゆんゆん? この娘、どれだけ暴君なのよ! 不条理すぎるでしょ! ねえめぐみん、あんたルミカをどういう育て方してきたの? 今私、人生最大レベルの圧倒的な理不尽を強いられてるんだけど!」

 

「たゆんたゆんゆん、ルーちゃんの前でプリンを出したのが運の尽きです。デストロイヤーに襲撃されたと思って諦めて下さい」

 

「めぐみん、次その名で私を呼んだ時、それがあんたの最後よ」

 

 ゆんゆんが理不尽な言いがかりでめぐみんを困らせる中、担任が黒板に魔法系統を書き出して授業が始まる。

 

 生徒たちが無言で黒板の文字をノートに書き写す中。

 

「……はあ、バカみたい」

 

 そんな真面目な彼女たちを眺め、私は溜息をこぼす。

 

 ……どうしよう、先生に投げたり、怒りに任せてへし折ったりしたせいで、現在使用可能な鉛筆がない。

 

「よし。今日は初級、中級、上級魔法以外の特殊な魔法について説明する。お前たちは上級魔法こそが、究極で完全無欠のカッコイイ魔法だと思っているはずだ。しかし、この世には習得が難しく燃費は悪いが、非常に高い破壊力を持つ特殊な系統の魔法が存在する。それがこれより説明する3つの魔法。炸裂魔法、爆発魔法、爆裂魔法だ」

 

 むぅ、せっかく担任が爆裂魔法の話をしてくれるのに、これじゃ記録が残せない。何かいい方法は……人差し指を歯で噛み切って、血でノートを書くとか?

 

「まずは岩盤すら壊す炸裂魔法。これは上級魔法に匹敵するスキルポイントが必要だが、使えると国の公共事業に呼ばれることがある。土木関係の公務員にでもなりたいやつ以外には、覚えなくてもいいだろう」

 

 我が思い付きながら怖いよ!

 

 ダイイングメッセージで書かれたノートとか、絶対後で読み返せないし。うん、怖いのも痛いのもいやだ。

 

「続いて、伝説の魔女が得意としていたとされる爆発魔法。その爆炎の連発を受け、彼女の前に立ち塞がりし敵は、無慈悲なまでに跡形もなく葬り去られた。だが、爆発魔法は1発撃つための魔力消費が尋常ではない。並の魔法使いでは数発撃ったら動けなくなる。例え魔力に自信があっても、こいつを習得するのはあまり現実的とは言えないな」

 

 そうだ、後でめぐみんかあるえちゃんにノートを見せてもらえば良いじゃん。ルミカってばおバカさん。

 

 パニクってあんまり聞いてなかったけど、先生の話によれば、……炸裂魔法は公務員向けの岩盤破壊魔法、爆発魔法は伝説の皆殺し魔法……みたいな感じだったはず。

 

 ふむふむ、つまり! 次に解説される憧れの爆裂魔法は、選ばれし者だけに使用を許された、禁断の神話級超破壊魔法なのでは!

 

「………………」

 

 私がわくわくした気持ちで解説を待ち望んでいるのに、担任は中々爆裂魔法について説明してくれない。

 

「先生! 残り1つの魔法、爆裂魔法についてですが……」

 

 我慢できなかったらしくめぐみんが挙手をして立ち上がると、担任は笑い出した。

 

「興味があったとしても、爆裂魔法だけはやめておけ。膨大なスキルポイントをなんとか貯めて、実際に習得できたとしても、その消費魔力の凄まじさに、強大な魔力を持つ一流の魔法使いですら、1発も撃てないことがほとんどだ」

 

 …………魔力かぁ。

 

「例え撃てたとしても、その絶大すぎる破壊力はモンスターだけを攻撃するに止まらず、周囲の地形をも変えてしまう。ダンジョンで唱えればダンジョンそのものを倒壊させ、魔法を放つ時のあまりの轟音に、周囲のモンスターをも呼び寄せるはめになるだろう。そう、爆裂魔法はただのネタ魔法なんだよ!」

 

 ガーンッ! 私の憧れって、ネタ魔法なの!?

 

 

 




 檻の中のドラゴンは世界の広さを知らずは、異世界版井の中の蛙です。なんたってこの世界のカエルは、大きすぎて井戸に入らないからね、仕方ない。
 ルミカとめぐみんは幼馴染なら普通だと思っていますが、あるえやゆんゆんは……。
 次回の投稿は2月ごろ、みんな大好きソードマスターキョウヤさんが登場するところまでを投稿します。

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