ハイスクールD×D ~『神殺し』の新たな軌跡~   作:ZERO(ゼロ)

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今回は物語の流れを考え、ご都合展開在り
その部分を気にしない方のみお読みください―――無理な方は読まない方が宜しいかと
ついでに【全体的にイマイチ】と思う方も読まない方が良いと思われますのでご了承を
此方は文才無いので、楽しめない方には不快感しか与えないでしょうから
……私ってガラス並みの脆さで心折れますから、評価付ける方はそこら辺考えて下さいね

以上、駄文失礼


第八話

アキラとリアス率いるオカルト研究部との邂逅から早二日―――

唯の人間だと思っていた彼に完膚無きまでに敗北させられた事でプライドをズタズタに引き裂かれ、あれからリアス達が関わって来る事は無い。

まあ元々、リアスの様な身勝手そうな悪魔に関われるのはアキラとしても御免被りたい……あの自己中心的で他人の事など露程も考えていない身勝手ぶりはかつての東京の悪魔達を思い出す。

 

神を盲信し、身勝手な秩序を敷き、自分達の決めたルールから外れる者を『ケガレ』と断じて葬っていた存在。

混沌を愛し、弱肉強食を謳い、其の為には弱者の事などどうでも良く虐げていた存在。

人を救うなどと宣い、人の殻から脱却させるなどと言い、勝手な理屈で人を亡ぼそうとした存在。

―――そして自分を敬わぬ存在を悪神として堕とし、己のルールの上で生きる者しか認めなかった存在。

アキラはそんな連中を全員倒し、その上で人が自分達の意志で歩んでいける世界を創った。

 

マダム銀子からは『好きにしろ』と言われている。

元々アキラも自己の勝手な理屈で悪魔を断ずる『悪魔祓い』とは違う……殺さずに済むなら殺さない方が良い。

だからこそ『黒歌』や他にも居る身勝手な理屈で悪魔に変えられ、色々な事情で『はぐれ悪魔』となってしまった話の解る者達を助けては穏やかに生きていける様に裏で取り成しているのだから。

口が悪く、他人からは勘違いされやすいが、彼は彼なりの優しさを持っているのだろう……だからこそ彼を慕う者も多いし、彼に託そうとする力在る存在達も多いのだ。

 

「……さて、そろそろ行くか」

 

相も変わらず夕暮れとなるまで教室で居眠りした後、アキラは立ち上がり鞄を肩に担ぐ。

今日は“別件”でアーシアは先に帰っている、更にアキラの場合は今から『はぐれ悪魔』の討伐の仕事だ。

まあ手配書によれば今回のはぐれ悪魔のランクはB級程度だし、余程の事が無くば傷を負う事すらあるまい。

しかし油断は禁物だ、中には他のはぐれ悪魔や悪霊、怨霊などを喰らう事でランクよりも高い能力を持つ存在になっている事もある―――昔、それで油断して必要以上の消費を被った事があった。

この時程『どんな相手であっても油断するな』と言う恩人であった人物の言葉を忘れていた己が情けない……だが以降、アキラはどんな相手であっても手加減はあれど油断をする事は無くなったのだから良しとしよう。

 

賞金首の名はバイサー、最近主を裏切って野良犬となった存在。

駒王町の町外れにある朽ちた教会の近くの鬱蒼とした森林地帯を根城とし、其処に迷い込んだ人間を喰らっていたらしい。

……そんな輩が居るのに野放しとは、本当に此処を統治する領主は節穴か腐ってるかどっちかだろう。

 

「―――あの、鳴海アキラくんだよね?」

 

ふと其処で誰かがアキラの後ろから声を掛けて来た。

振り向くと其処には黒髪の可愛らしい美少女が立っている、このクラスでは見た事のない生徒だが。

何処か男に媚びるような口調と目付き―――こんな少女に話しかけられれば男は恐らくはイチコロであろう。

しかしアキラは訝しげな目でその美少女を見、肩を竦めてからその横をすり抜けながら呟く。

 

「そうだが、俺はテメェのような女は知らん……それとテメェに関わってられる程、暇じゃない」

 

行き成りそのような言葉をぶつけられて目が点になる少女。

一瞬だけだが睨むような目付きを見せた後、可愛らしく小走りでアキラの目の前に回り込む。

 

「あ、あの、鳴海アキラくん……その、行き成り御免ね。

その、強引なのは謝るよ、でも……私、貴方の事を初めて見た時から、貴方の事が忘れられなくって……。

お願い、話を聞いて欲しいの―――私、貴方に一目惚れしたの、良ければ私と……」

 

一所懸命にアキラに告白をする少女、実に初々しい。

一目惚れらしく今まで話し掛ける事が出来なかったのだろう、顔を赤くして懸命に言葉を紡ぐ少女の健気さには頭が下がる……勿論それが本心からであるならば、だが。

少女は隠してる心算であろうがアキラにはバレバレだ―――少女からある種の臭いと、明らかに人間とは違う禍々しい気配が。

 

「……言った筈だ、暇じゃないとな。

それにそんなに付き合って欲しいなんて言うなら、その身体から漂う“血の臭い”位は隠す事だ」

 

アキラの言葉に表情を一気に変える少女。

少女の一瞬の逡巡の時を利用し、既にアキラの姿は其処には無かった。

獰猛な獣の如き目付きとなった少女―――酷く不快そうな表情となると小さく吐き捨てる。

 

「チッ……人間の癖に勘の鋭い男ね。

あの男を利用してあの回復の神器を持つ小娘を得ようとしたのに―――本当に『ヤタガラス』の息の掛かった人間は面倒だわ。

仕方ないわね、こうなったら強引に行くしかないわ……『あのお方』の命は絶対だし、男の方は必ず殺せと言われてるし」

 

夕焼けが山間に沈み、廊下が夕闇に染まる。

ゆっくりと歩きだした少女―――その背中には、真っ黒に染まった天使の翼が生えていた。

 

 

●●●●●

 

 

時は深夜、人々が眠りの帳へと落ちる時間。

いつもの黒のスーツ姿に着替えたアキラは件のはぐれ悪魔の居る森林の近くの人気の無い公園に来ていた。

普通の人間には普通にしか見えないであろう森林は空間が歪み、かつての東京の悪魔によって生み出されたダンジョンの如き様相に姿を変えていた。

……恐らくこの奥にはぐれ悪魔・バイサーが居るのだろうが、それにしては何か違和感のようなものをアキラは感じる。

 

確か相手はB級のはぐれ悪魔だと言っていた。

しかしこの空間は明らかにはぐれ悪魔の中でも下位のB級が生み出せるような代物ではない。

それどころか下手すればS級のはぐれ悪魔でも個の空間を生み出す事など不可能だろう―――アキラの仲魔でも固有の空間を生み出せる存在など上位級ぐらいだろうに。

 

「……B級はぐれ悪魔が幾ら喰霊や悪魔を捕食した所で其処まで力が上昇する訳がない。

と言う事は恐らく此処にいるのはバイサーではなく別の存在って事か、しかも結界を張って空間を生み出せるって事は相応の力を持ってる存在か……念の為に準備をしておいて正解だったな」

 

スマホのマッピングアプリを起動するアキラ。

歪んだ空間は比較的広くは無いようだ、通路を道伝いに進んで行けば広い空間に辿り着く。

どうやらその空間にはぐれ悪魔は居るようだが、やはりB級にしては明らかに力の大きさが違う。

……と言うかこれは明らかに異常過ぎる数値だ。

 

「何だこの異常な魔力の計測値は、下手すれば魔王級だぞ……」

 

魔王級と言うのははっきり言えばかつての東京に存在していた魔王と同クラスと言う事だ。

勿論、魔王の中でも比較的下位の魔王であろうが、こっちの東京で考えればかなり凶悪な分類に入る。

更に面倒な事にどうもその凶悪な分類の存在と戦ってる者達が居るようなのだが……しかもその気配は、比較的最近に『出会った連中』と同じであった。

 

「……ヤレヤレ、自分達の器ってもんを理解してんのかあの連中は。

仕方ねぇ、このまま死なれるのも目覚めが悪いしな―――助けてやるとするか」

 

言うや否や、地を蹴って駆けだすアキラ。

先程から感じる魔王級の気配、その中には彼にとって『懐かしい気配』も感じる。

幾つもの何かが歪み絡み合って一つを成しているかの如き存在―――出会った事の無い筈なのに懐かしい気配を併せ持つその『悪魔』を見極める為に。

 

※※※※※

 

「な、なんなのよ……本当に、何なのよこれは!?」

 

絶叫の如き声が響く―――その声の主は駒王町の領主であるリアスだ。

彼女は本国(冥界)の依頼により、駒王町に逃げ込んだ野良犬(はぐれ悪魔)を始末する仕事を請け負った。

相手は所詮大した力も持たない野良犬であり、彼女は己と己の眷属が居れば楽勝に勝てると踏んでいたのである。

事実、バイサーと呼ばれた半人半馬のはぐれ悪魔は簡単に消滅させ、さっさと帰る筈だった―――

 

だが、その後に事態は急変する。

消滅させた筈だった……木場による斬撃、小猫による打撃、朱乃による雷、そして己の滅びの魔法により。

それでも完全に消えないバイサーに疑問を抱いたが、完全に生命活動は停止していたのだから問題ないと思う方が普通だろう。

 

しかし、それが彼女達にとっての間違いだ。

まあ仕方あるまい、彼女達は今まで自分達よりも強い存在と戦って来た事など殆どない。

更に死んだ筈の、完全に生命活動を停止した筈のはぐれ悪魔が“姿を変えて復活する”などと言う事態に遭遇した事も無いのだから。

 

彼女達の目の前でバイサーの屍はその姿を変質させる。

まるで粘土細工の如く、肉がグチャグチャと気持ち悪い音を立てて組み変わっていった。

見る者に嫌悪感を与えるその光景にリアスらは何が起こったのか理解出来ずに呆然と立ち尽くす。

―――それは戦場において最も忌避すべき行為だと言うのに。

 

やがてバイサーだった肉の塊は徐々に姿を形作る。

その姿は肉団子に蜘蛛の足を生やし、無秩序に数々の悪魔が融合していると言う不快感満載の姿だ。

恐らく子供が作る粘土細工がこんな姿になるだろう、自我も持たぬその無秩序な怪物は全身中から多量の触手を生やすとリアス達に襲い掛かって来た。

 

「ぶ、ぶぶぶ、部長!!? な、ななな、何なんすかこれ!!?!?」

「わ、解らない……解らないわよ!! と、兎に角全員急いで逃げるのよ、此処から!!!」

 

狼狽したリアスに賛同するように頷く朱乃、小猫、木場、そしてイッセーと呼ばれていた少年。

彼女の狼狽ぶりは当然だ、明らかにこの怪物は桁が違う魔力を内包している―――下手すれば彼女の義理の姉や兄クラスの魔力を、だ。

 

鈍重で巨大過ぎる身体は一か所に止まったまま動く気はないらしい。

しかしそれに反するように全身中から伸びる触手は周囲に爆発的に増殖し、リアス達を取り込もうと迫る。

必死に逃げようとするリアス達、しかし触手の爆発的な増殖により逃げ場を塞がれてしまう。

……まあ元々、この怪物の結界によって生み出されている空間に逃げ場などないのだが。

 

「ぶ、部長……後ろを、塞がれてしまいました……」

「ク、クソッ……斬っても斬っても凄いスピードで再生している、このままじゃ……」

「はあっ……はあっ……はあっ……焼き払っても焼き払っても間に合わない……」

 

リアスを護るように木場、小猫、朱乃が其々の能力で触手を破壊する。

だが所詮それは『焼け石に水』……斬っても、千切っても、雷で焼き払っても触手は再生してしまう。

やがて力を使い続けた朱乃、小猫、木場の三人は肩で息をしながらへたり込んでしまった……連続して使い続けた結果、力を使い果たしたのだ。

 

「ぶ、部長、このままじゃ……」

「大丈夫、死なせない……絶対に死なせないわ!! 吹き飛びなさい!!!」

 

掌に滅びの魔力を込めると一気に開放するリアス。

彼女の力は一度は触手によって隔たれた壁を穿つ、しかし結果は眷属達と同じだ。

急速の再生能力によって触手の壁は再び作られ、更に空間を埋め尽くすようにリアス達に迫る。

 

『……我、ハ、ベルノ王……ベル・ベリト、ゾ……我ヲ、崇メヨ……我コソガ、絶対、ナルゾォォ!!!!』

 

ベル・ベリト―――その名を聞いた瞬間、リアスの顔が青くなる。

その名は冥界において有名過ぎる、かつて三つ巴の戦争の際に滅びた筈の凶悪な存在。

冥界を維持する現四大魔王すら関わる事を拒んだとされる、66の軍団を率いる長たる大悪魔。

敵・味方関係なく全てを取り込み、喰らい尽す、唯一味方である悪魔によって滅ぼされた味方殺しの大罪人―――バールベリト、またの名を“ゴエティアの蟲王”バエル。

 

何故、そんな存在が己の領地に居る?

いや、そんな事はどうでも良い―――勝てる訳がない、相手は現最強と呼ばれる自らの兄さえ一人で勝てなかったとされる化物だ。

 

「皆、聞いて頂戴……アレは私達じゃ絶対に勝てない、逃げるしかないわ。

だけどこの状況じゃ絶望的、逃げる事も叶わない―――だから私に考えが一つある、協力してほしいの」

 

其処からリアスの作戦が語られる。

その内容は作戦などと言うには烏滸がましい、運と強引さのみの拙い作戦だ。

それでもこの状況においてはそれしか手が無い―――そう心に強引に納得させ、リアスはイッセーを見た。

 

「イッセー、貴方に全てかかってるわ。

私達は大丈夫、だから貴方は此処から出て生徒会長の所に向かって頂戴。

そこでこの状況を話せばソーナなら必ず事態の緊急さを理解してくれる筈だから、良いわね?」

 

彼としては納得出来ていなかったのか、最初は拒否を示す。

しかしこの状況で最近悪魔になったばかりの人間に近い転生悪魔に出来る事など何もない。

確かに破格な『神滅具』と呼ばれる神器を持ってはいたが、使う方法も解らない故、唯の篭手と同じだ。

ならば彼に出来る事は唯一つ、主を救う為に助けを呼ぶ事だけだった。

 

「朱乃、裕斗、小猫、無理をさせて御免なさい―――全力であそこの壁に攻撃を叩き込んで!!」

 

リアスの全身から滅びの魔力が立ち上り、掌に集中する。

併せてイッセー以外の三人も全力を込めると、リアスの放った魔法弾に追従するように攻撃を叩き込む。

当たった場所にはポッカリと孔が穿たれ、人一人分ならば通れる道が出来た。

 

「今よイッセー、行きなさい!!!!」

 

イッセーはリアスの言葉に必死で地を蹴ると孔から抜け出す。

リアス達の安心させるような表情に一度は足を止めるも、其処からは涙を振り払って走り出した―――

 

だが彼女達の顔が再生した触手によって見えなくなったを見計らい、不意にイッセーの足が止まった。

再び走り出した彼の表情はまるで初めて出て来た時の如く、哂ったように唇が歪む―――更に追従するように、薄らと彼の背にタトゥーの如き紋章が一瞬だけ光って見える。

 

―――それは、蜷局を巻く巨大な怪物のような姿をしていた。

 

 

●●●●●

 

 

開いた孔が瞬く間に閉じ、じりじりと空間が狭まれ続ける。

イッセーを外に出す事は出来たが、恐らく間に合うまい―――それ程に触手の増殖率は速かった。

 

何故、こんな事になったのか?

リアスは迫る触手の壁を見ながら悲しげに自嘲して思いに耽る。

 

自分は死ぬのだろうか? まあ助かる訳がない。

味方殺しの大罪人が生きていた事すら驚きだが、それを相手に幾ら悪魔の中でも希少な力を持つ血筋だとしても、取り込まれてしまえば全くの無駄な足掻きだ。

 

こんな所で死にたくない、まだ生きていたい。

自分はまだ願いを叶えていない―――愛する人と結ばれ、支え合って生きていきたいという願いを。

それは所詮ちっぽけな願いだろう、だがそれでも幼い頃から願い続けた真摯な願いなのだ。

 

ふと、そこで彼女は気付く―――彼女を護るように囲む眷属達の姿を。

恐らく三人も助からない事を見越し、少しでも主であるリアスの事を護ろうとしているのだ。

眷属が主を護るのは当然の事……だがその姿を見た時、リアスの心に今迄抱き続けたものとは別の感情が芽生える。

 

思えば自分は一体何をしてきたのだろうか?

こんな状況で己の事しか考えていない自分と違い、眷属達は最後まで自分を護ろうとしてくれている。

彼女達を眷属として、自分は一体何をしてやれた?

ただ自分の身勝手な願いを叶える為に利用していただけではないか。

……良いも悪いも選ぶ事の出来ない状況で彼女達を眷属とし、自分の自尊心を満たしていただけではないのか?

『強い眷属を得た』『希少な力を持つ眷属を得た』―――それが一体何だと言うのだ。

ただ自分は、彼女達を眷属として可愛がるなどと言いながら……自分を飾る物扱いしていただけだ。

 

愚かだった、馬鹿だった。

自分の夢ばかり追い続けて、必死になって支えようとしてくれていた存在から目を背けていた。

生まれた時から誰かが何かをやってくれるのが当然などと考え、誰かの気持ちなど考えた事も無かった。

眷属、下僕、仲間……違う、彼女達は大切な『友達』だったと言うのに。

 

差し伸べられた手を振り払っていたのは誰だ―――私だ。

ずっと一緒に居てくれたのに、それすら気付かなかったのは誰だ―――全部私だ。

 

狭まる触手の壁、既に動く事すらままならない。

このまま取り込まれ、喰われ、死んでいくのか―――そんなのは嫌だ。

謝っても居ない、支えてくれていた事に礼も言っていない、このまま後悔して死ぬのは絶対に嫌だ。

リアスは殆ど魔力の切れた身体に鞭打ち、必死で皆を守る為に滅びの魔力をバリアのように周囲に纏った。

迫り来る触手は一時的に消し飛ばされたが、それでも直ぐに再生し始めるだろう。

 

悔しかった、己の無力が。

許せなかった、自分の大切な友達を護れない己が。

全身中に残った全ての力を使い切ると、少女は頬に涙を伝わせながら叫ぶ。

 

「誰か、誰でも良い……神だろうが悪魔だろうが堕天使だろうがそんな事はどうでも良い!!

助けて―――私は良い、私はどうなっても良いから……皆を、私の大切な友達を、助けてあげて!!!」

 

力尽きて倒れるリアス。

見れば朱乃も木場も小猫も力を使い果たし、動けずに倒れている。

そんな彼女達を護るようにリアスは自分が上から覆い被さると、其の身を迫り来る触手に晒す。

獲物の抵抗が終わった事を理解した触手が一気に棘の如く姿を変え、リアスらへと迫る。

 

全身串刺しとなって死ぬだろう。

喰われ、取り込まれ、あのバケモノの一部となって一生を生きねばならないかもしれない。

だがそれでも―――逃げはしない、大切な人達を放って自分だけ助かろうとは思わない。

 

そんな彼女の脳裏に浮かんだのはあの人物……己の眷属をものともせずに倒した青年の顔。

何故思い出すのか? 疑問に答える者など居らず、自らに迫った棘の如き触手が齎す苦しみを想像し、目を閉じた。

 

 

しかし、痛みはいつまで経っても訪れない。

怪訝に思いリアスは静かに目を開く―――其処で彼女の眼に映ったのは、黒いコートを靡かせる人物の背。

更には己達に向かって来ていた筈の触手が一刀の刃にて切り裂かれ、消し飛んでいる姿。

凄まじい速度で黒コートの人物の刃が空を薙ぎ、迫り来る全ての触手を微塵に切り裂いていた。

 

だが超速再生する触手、新しく現れた獲物に標的を定めて襲い来る。

黒コートの人物はガンホルダーから片手で撃つには明らかに巨大な拳銃を抜くと連続して引き金を引く。

銃弾は触手を穿ち、弾の当たった先端から徐々に触手を朽ちさせていく―――リアスには理解出来る、アレは魔力を込めた弾丸だと。

更に黒コートの人物は左手で銃を連射し、迫る触手を撃ち抜きながら右手で左腕に付いた装置のようなものを操作する。

 

『―――Complete Summon Devil』

 

機械音が響くと共に周囲に放たれる圧倒的な魔力。

空間が歪む、その場所に本来あるべきではない存在が姿を現す―――リアスが震える程の魔力を持った存在が。

 

一人は巨躯の仏僧―――

 

『やれやれ……苦行の輪廻より脱したと思えど再び荒事か、新たなる主殿は人使いが荒い』

 

言葉と共に放たれた光の帯の如き閃光の束がリアス達に迫っていた触手を消滅させる。

続いて現れたのは隻眼の武人気質の槍を携えし漢―――

 

『フッ……しかし我らには戦場の方が性に合う、卿もそうは思わぬか?』

 

手から投じられた槍は空間を歪ませ、触手の壁を穿つ。

その槍が纏う強大過ぎる魔力が阻害しているのだろう、触手の再生が始まらない。

更に今度は楽師の如き青年―――笛で音楽を奏でると触手はまるで主を失ったかの如く枯れ果てていく。

 

『否定はしないよ―――僕も闘争は嫌いじゃない、主殿と共に駆けると盟友アルジュナを思い出せるしね』

 

凶悪過ぎる程の魔力、存在するだけで凶暴とも言える其の身。

恐らく敵対したら一瞬で肉塊に変えられるのではないかとも思える存在達を前にリアスの表情は凍る。

だが、そんな彼女に助け舟を出したのは他でもない―――己に完膚なきまでの敗北を教えた人物だった。

 

「どうやら間に合ったようだ―――

まあ、お前がそいつら見捨てて自分だけ助かろうなんてしてたら真っ先に見捨ててただろうがな」

 

黒のコートを纏い、圧倒的な剣技と銃器術で迫り来る触手を破壊し尽した猛者。

圧倒的な力を持つ魔神達に主と称される人物―――リアスの方を向いてサングラスを外したその顔は、彼女が唯の人間だと侮り、屈辱的な敗北を教えられた青年・鳴海アキラであった。

 




皆様の温かいご意見・ご感想を心よりお待ちしております


【今回の改変(HDD)】
件の堕天使……誰かの命令で動いてます
目的はアーシアの神器を得る事と、アキラを殺す事
―――う~ん、身の程を知った方が良いような

リアス……前回に比べて眷属に対しての優しさに目覚めました
恐らく、アキラに完膚なきまでに負けた事と絶体絶命の状況でも最後まで眷属達が護ろうとしてくれた事が『守られて当然』と思っていた彼女を変えたのでしょう
(因みにアキラもそれを知ってテメェ⇒お前に呼び方が変わってます)

イッセー……恐らく気付く方は気付いているでしょうが、此処はオフレコで


【今回の改変(真4F)】
ベル・ベリト(バールベリト)……デビルサバイバーBCのベルの王の一体
無秩序に色々な悪魔が融合したキメラ(合成獣)の如き存在に
(尚、本来のベル・ベリトはバアル、ベルフェゴール、バエルが融合した醜悪な肉団子)

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